必聴!~児玉 宏/大阪シンフォニカー交響楽団のブルックナー
ブルックナー/交響曲 第1番の演奏が終わった瞬間、僕は想わず「すげぇ~」と感嘆の声を漏らした。満席の聴衆は熱狂し、ブラボーのシャワーがザ・シンフォニーホールに降り注ぐ。9/12(金)、児玉 宏/大阪シンフォニカー交響楽団の定期演奏会はそんな夜となった。
僕がクラシック音楽に親しむようになったのは小学校高学年の頃からである。カール・ベームが指揮するベートーヴェンの「田園」やモーツァルトの交響曲が大好きで、「レコード芸術」を定期購読するというクソ生意気なガキだった。
そんな頃、一枚の新譜が発売された。スビャトスラフ・リヒテル(Pf)、カルロス・クライバー指揮、バイエルン国立管弦楽団によるドヴォルザーク/ピアノ協奏曲のLPレコードである。当然「レコード芸術」推薦盤となったが、その時の批評の見出しが今でも忘れられない。
演奏によって曲が輝く
児玉/大阪シンフォニカーによるブルックナーを聴きながら、僕の脳裏に浮かんできたのはその言葉である。彼らの演奏する第1番は、後のブルックナーの傑作、第3・4・5・7・8・9番に些かも劣らない崇高な音楽に変貌して聴こえてくるのだから驚かされた。特に第1番 第3楽章のスケルツォは、既に第9番 第2楽章の萌芽が見て取れる。
児玉さんのブルックナーの特徴は速めのテンポで、活きのいい音楽が片時も緊張感を失うことなくグイグイと押し進められる。その響きは余分な贅肉が削ぎ落とされ、引き締まっている。かといって決して音楽はやせ細ったりはしない。各声部の見通しが良くオーケストレーションの骨格が鮮明に目の前に立ち上がってくる。
朝比奈 隆、ギュンター・ヴァント亡き後、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキと児玉 宏こそが、現在最高峰のブルックナー指揮者であるということは疑う余地のない真実である。
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ふーじーの見た空(この定期に出演された、ファゴット奏者が児玉さんについて書かれている)
ブルックナーの前に、モーツァルト/協奏交響曲も演奏された。独奏は山田晃子(ヴァイオリン)、今井信子(ヴィオラ)である。こちらも自発性に富み、弾力のある素晴らしい演奏だった。
「弦の国」と呼ばれる日本は多くの優れた弦楽奏者たちを輩出してきた。今井信子さんは、僕が言うまでもなくユーリ・ヴァシュメット(ロシア)と並び、世界のトップ奏者として名を馳せていらっしゃる。
ヴァイオリンの若手では五嶋みどり、諏訪内晶子、庄司紗矢香、神尾真由子らが有名だが、今年22歳になる山田晃子の名は全く知らなかった。なんでもロン・ティボー国際コンクールにおいて、史上最年少の16歳で優勝したそうである。2歳の時からヨーロッパに渡った彼女は現在パリ中心に活躍しているとのことで、だから日本では余り知られていないのだろう。
僕は神尾さんの燃え上がる火の玉のような情熱的演奏も大好きなのだが、如何せんその資質はモーツァルトに相応しくない。一方、山田さんの音色は実に繊細でエレガント。その女性的でたおやかな美しさに息を呑んだ。驚くべき才能である。
文句なし、今年のベスト・コンサートは早々にこれで決まり!天晴れ、児玉 宏/大阪シンフォニカー交響楽団。
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天井桟敷のクラシック(同じコンサートを聴かれた感想)
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コメント
雅哉さま
本当に誰が聞いても感動するような素晴らしい演奏でしたね。
一般的にはとっつきにくいブルックナーの音楽ですが、
今までは苦手としていた友人達も児玉さんの演奏を聞いて
開眼し、児玉さんのブルックナーは全て聞きたいと
言っています。
今後も児玉さんと大阪シンフォニカーの演奏会は
楽しみですね。
投稿: ぐーたら | 2008年9月18日 (木) 20時05分
雅哉さんこんばんは。
コメントはご無沙汰ですが、いつも拝見させて頂いてます。
私も大阪クラシックから抜けて、このシンフォニカーの定期に行きました。児玉さんの音作りに完全に圧倒され、第1楽章が終わった時点で既に心の中で喝采を叫んでいました。
これほどダイナミズムに溢れたブルックナー1番は聴いた事がありません。
個人的には前半のモーツァルトもなかなか聴ける物ではない素晴らしい演奏だったと思います。
投稿: ヒロノミンV | 2008年9月18日 (木) 22時42分
ぐーたらさん、ヒロノミンVさん、コメントありがとうございます。
児玉さんのブルックナーが聴けるのが一年に一度というペースは実にもどかしいですね!是非、まとめてチクルスをやって欲しいものです。
それから大阪シンフォニカー交響楽団は、児玉さんとのブルックナーをレコーディングして世界にその真価を問うべきです。もっと多くの人が児玉さんの凄さを知る日が来ますように。
投稿: 雅哉 | 2008年9月18日 (木) 23時55分
初めまして。
私もこの演奏会に行きました。児玉さんの演奏を実演で聴くのは初めてでしたが、たいへんな感銘を受けました。
たしかにこのコンビでブルックナーの全集CDを製作してもらいたいと思います。多くの音楽ファンに聴いてもらいたいですね。
ところで、ブルックナーの終楽章、最後の和音がジャン!と鳴り終わった後、児玉さんはオケを立たせることも客席の方を向くこともせず、そのままスタスタと舞台袖に下がってしまわれました。
もちろん、大喝采の中、再びステージに現れて、満面の笑みをたたえつつ聴衆とオケに謝意を表しておられましたが、演奏直後の挙動は印象的でした。
あまりに作品の中に没入しておられたので、すぐには日常的な精神状態に戻ることができなかったと――いうようなことでしょうか?
袖に下がられるとき、なんだか怒り顔のように見えなくもありませんでしたが、まさかご自分の演奏に不満だったということはないですよね。演奏中の気合いが抜けていなかった顔だったのかもしれません。
投稿: グレン | 2008年9月19日 (金) 11時57分
グレンさん、コメントありがとうございます。グールドのファンですか?
ブルックナーが終わった直後の児玉さんの行動についてですが、僕は《称賛されるべきはオケであって、指揮者ではない》という意思を示されたものだと想っています。タクトを下ろしたとき児玉さんは「よし!」という感じで楽員に頷いておられましたから、演奏自体は満足のいくものだったのではないでしょうか?
投稿: 雅哉 | 2008年9月19日 (金) 16時40分
グールドもわりと好きなんですが、むかし草野球をやっていたときのニックネームが「グレン」だったんです。バッティングフォームが似てたとかで。
> 僕は《称賛されるべきはオケであって、指揮者ではない》
> という意思を示されたものだと想っています。
なるほど。そう言われてみるとそんな気がしますね。
それだけオケのがんばりに納得しておられたと。オケへの信頼感の表れでもあるかもしれません。
演奏への不満というのはおそらくないでしょうね。プロですから、われわれ素人にはうかがい知ることのできない改善点というのは感じておられるでしょうけれど。
仮に不満だったとしても、舞台でそれを顔に出すようなではプロ失格ですし。
投稿: グレン | 2008年9月20日 (土) 17時12分