熱狂の日、三度(みたび)!~大阪クラシック2008開幕
9月7日(日)に大植英次プロデュース「大阪クラシック」が開幕した。今年で3年目である。
大植さんをはじめ、大阪フィルハーモニー交響楽団のメンバーは全員ノーギャラで参加している。殆どの公演は無料。一部有料公演も500円程度と格安である。
大植さんがこのイヴェントを発案した当初は一部の楽員の中から「どうしてボランティアで演奏しなければいけないのか?」という反発の声も挙がったそうだ。しかしその意図も次第に浸透し、第1回目は7日間で全50公演だったのが第2回は60公演、そして今回は65公演と年々増殖している。第1回目は1日8公演全てを聴くなんて芸当も出来たのだが、公演数が増えたため現在では物理的に不可能である。嗚呼、「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」でハーマイオニーが使っていた逆転時計(The Time-Turner)が欲しい!
昨年初日の模様はこちらの記事にレポートした。
会場で配られている団扇に使用された写真は昨年の最終公演、大阪市役所シティーホールで演奏された「新世界より」の演奏の後、アンコールで「八木節」が演奏された時のもの(大植さんが半被を来ていることから分かる)。その現場に居合わせた僕のレポートはこちら。
今年の第1公演の会場は三菱UFJ銀行 大阪東銀ビルで、大植英次/相愛オーケストラ+大フィルのメンバー(コンサートマスター:長原幸太)による演奏で華々しく始まった。
お調子者の大植さんは、会場を提供した三菱UFJ銀行に感謝の言葉を述べられた後、「僕もここに口座を開設します!」でも、去年も同じことを仰っていたので、僕は内心「まだ開いとらんかったんかい!」と突っ込みを入れた。ちなみにカフェ・ド・ラ・ペでは「毎週ここにコーヒーを飲みに来ます!」と。本当に愛すべき人である。
平松・大阪市長も駆けつけ挨拶された。「星空コンサート」の時も想ったのだが、平松さんは元アナウンサーということもあり口がまことに達者である。開口一番、「私が大阪市長になって9ヶ月、色々なことがありました。しかし、今日ほど市長になってよかったと思った日はありません!」会場からはやんややんやの大拍手。
恒例となった大植さんから市長へのネクタイのプレゼントもあった。昨年大植さんが關市長(当時)に送ったのは真っ赤なネクタイだったが、今年は緑の縞柄だった。「賄賂じゃありませんよ!ちゃんと自腹で買いました」と言う大植さんに対し、平松市長は「なんだか、これで大植さんに首を絞められたような心境です」と返し、爆笑の渦となった(大阪市は来年度、大フィルに対し今年と同額の補助金を出すことを既に決定している)。
演奏されたのは以下の通り。
- ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第一幕への前奏曲
- ビゼー/「アルルの女」第2組曲より、メヌエット
- シベリウス/交響詩「フィンランディア」
ワーグナーはまるでライン川のように、雄大で滔々として流れ、シベリウスは冒頭の重苦しい響きで帝政ロシアの圧政に喘ぐフィンランド国民の閉塞感を、そして清らかな「フィンランディア賛歌」(これは讃美歌にもなった)を経て、輝かしいフィナーレへ!素晴らしい演奏であった。
「アルルの女」でフルート・ソロをしたのは学生の中塚景子さん。見事な腕前でした。
さて、第2公演は相愛学園本町講堂。
- モーツァルト/弦楽四重奏 第22番「プロシア王第2番」
第3公演は大阪市役所シティホール。
- バンハル/ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスのためのトリオ
そして、
- M . ハイドン/オーボエ、ヴィオラ、コントラバスのためのディベルティメント
ミヒャエル・ハイドンは「交響曲の父」ヨーゼフ・ハイドンの5歳下の弟だそうである。モーツァルトと親しく、ザルツブルクで没している。大変珍しい曲を聴かせて貰った。これも「大阪クラシック」の愉しみの一つである。
第6公演はふたたび三菱UFJ銀行に戻り、
まず榎田雅祥さんのフルート、大植さんのチェンバロで、
- マレー/ラ・フォリア
上の写真、チェンバロ横に腰掛けているのは大植さんの甥っ子。譜めくりを担当された。
続いてヴァイオリンの長原幸太さん登場。彼の愛器はアマティなのだが、古里・広島で開催されるソロ・リサイタルのために手続きを取り、日本音楽財団からストラディヴァリウス「ドラゴネッティ」を2009年2月まで貸与されたそうである。大植さんのチェンバロ伴奏で、
- タルティーニ/悪魔のトリル
長原さんのVnは、尖っていて攻撃的なスタイルが特徴だと今まで想っていたのだが、今回は寧ろ、ふくよかで落ち着いた響きがした。楽器によって印象がここまで変わるのかと驚いた。
そして榎田、長原、大植の3氏による、
- C.P.E.バッハ/トリオ・ソナタ
C.P.E.は大バッハの次男である。マレーで銀製のフルートを使用された榎田さんだが、こちらは木製のフルート。フラウト・トラヴェルソ(バロック・フルート)も吹きこなす榎田さんだから文句なしに美しい演奏であった。
「アンコールは用意していないので代わりに……」と長原さんは、次の公演のために舞台袖に待機していた大フィル・第2Vn.トップ奏者の佐久間聡一さんを招き寄せた。佐久間さんが入団オーディションで演奏した大バッハの無伴奏を是非また聴きたいとリクエスト。ストラディヴァリを彼に手渡した。
写真左はちょこんと腰掛け、既に聴く体勢に入った長原さん。突然のことではあったが、佐久間さんは暗譜で弾きこなされ、大喝采を浴びた。
さらに移動し、なんばパークスでファゴット四重奏(+パーカッション二名)。
大植さんも姿を見せられた(写真左)。演奏されたのは編曲もので、
- ポルカ・イン・スイング
- マリオネットの葬送行進曲(「ヒッチコック劇場」のテーマ)
- タンギング(?)ポルカ(原曲「ピチカート・ポルカ」)
- ファゴット吹きの休日(原曲「トランペット吹きの休日」)
- ワルツィング・キャット
- ブラジル
- ヘイ・ジュード(ボサノバ風)
アンコールの「星条旗世永遠なれ」では聴衆が手拍子で参加したが、その時に大植さんが合図を送られ、手の叩き方に強弱をつけたり中間部ではピタッと止まったり、完璧に合った。
この日の最終公演はカフェ・ド・ラ・ペで秋月孝之さんのトランペット・ソロ(ピアノ:浅川晶子)。開場を待って列に並んだら、近くのご婦人の声が耳に入ってきた。
「さっき、ファゴットを聴いてきました。初めて見ましたがあんな形をしてるんですね!《ヘイ・ジュード》を聴きたくて行ったんですけれど、他の曲もとっても良かった。大植監督もこられたんですよ!愉しかった」
こうして大阪クラシックは音楽の裾野を広げているんだなと、僕もしみじみ嬉しかった。
さて、ここで携帯電話のバッテリーが切れてしまい写真は撮れなかった(ちゃんと前日に充電しておいたのだが……)。無念。
- クラーク/トランペット・ヴォランタリー
- パーセル/トランペット・チューンとエアー
- アーバン/カバティーナと変奏曲
- ゴーベール/カンタービレとスケルツェット
- イベール/即興曲(アンコール)
秋月さんはピッコロ・トランペット、B管、C管と曲によって持ち替えられながら、超絶技巧の曲を鮮やかに吹き切られた。アンコールではその日、びわ湖ホールで仕事があったという大阪シンフォニカー交響楽団の首席トランペット奏者・徳田知希さんが飛び入り参加され、トランペット二重奏によるヘンデル/水上の音楽で締めくくられた。
《素晴らしき日曜日》をありがとう!大植さん、そして大フィルの仲間たち。
記事関連blog紹介:
不惑ワクワク日記(僕が聴けなかった、第10公演の感想あり)
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