大植英次/青少年のためのコンサート 2008
大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団による「青少年のためのコンサート」を聴きに、ザ・シンフォニーホールに往った。
JR福島駅からザ・シンフォニーホールまでの道中は中高校生の集団で大混雑。途中にある幾つかのコンビニのレジも、パンを手に持った少年少女で長い列が出来ていた。普段の定期演奏会では見かけぬ光景で、何だか新鮮だった。
このコンサートは毎年NHKがテレビ収録し、関西ローカルで放送される。今年もテレビカメラが入り、NHKのアナウンサーが司会進行をされた。
昨年、NHKホールで聴いた感想はこちら。この時の副題は「地球讃歌」だったが、今年は「ファンタジック・オーケストラ」。神話、お伽噺などをモティーフにした音楽が演奏された。
コンサートマスターは長原幸太さん、そしてチェロのトップを弾いたのは、今年3月まで大阪シンフォニカー交響楽団の特別首席チェロ奏者を務めていた金子鈴太郎さん。金子さんは現在フリーだが、どうやら今年の「大阪クラシック」でも4回舞台に立たれるそうなので、ひょっとしてひょっとするかも??
まず大植さんが登場し一番驚いたのは、すごく痩せていたこと!タキシードがぶかぶかで、沢山皺が寄っていたのが可笑しかった。相当頑張ってダイエットされたのだろう。
冒頭はバーンスタイン/ミュージカル「キャンディード」序曲。大植/大フィルのコンビで聴くのはこれが4回目である(星空2回、青少年2回)。過去最速、とても勢いのある演奏で圧倒された。大植さんも指揮台の上で飛び跳ねたり元気一杯で、まるでアメリカCBSのテレビ番組"Young People's Concert"の司会をしていた頃のレニー(レナード・バーンスタイン)そっくりだった。
昨年の「キャンディード」はトランペットが2度音を外し、実にお粗末だった(さすがにNHKはこの曲をカットして放送した)。僕の隣に坐っていた小さな男の子が「あ、また間違えた!」と言って笑っていた。情けない……。しかし今年は気合を入れて練習したのだろう、金管に目立ったミスもなく大フィルの演奏はお見事の一言であった。
ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲は野津臣貴博さんのフルート・ソロが素晴らしかった。
デュカス/交響詩「魔法使いの弟子」とムソルグスキー/交響詩「はげ山の一夜」はいずれもディズニー映画「ファンタジア」(1940)で使用された楽曲。「ファンタジア」は我が家にLDとDVDがあって、繰り返し観ているのだが、考えてみればどちらの曲も生演奏で聴いたことがなかった。クラシック・コンサートには足繁く通っているが、かえってこういうポピュラーな小品は盲点なのかも知れない。「魔法使いの弟子」は低音のコントラファゴットが大活躍し、とても印象的だった。
余談だが現在演奏される「はげ山の一夜」はリムスキー=コルサコフによる改訂版である。これは単にオーケストレーションし直したといった生易しいものではなく、曲の構成そのものも大胆に改変した"reconstruction"と呼ぶべきものである。アバド/ベルリン・フィルがムソルグスキー自身の手による原典版をレコーディングしているが、これを聴いたら余りの違いに唖然とすること請け合い。そしてムソルグスキーのオーケストレーションが如何に稚拙かよく分かる筈だ(「ダッタン人の踊り」で有名な歌劇「イーゴリ公」もリムスキー=コフサコフとグラズノフの手が入っているし、「展覧会の絵」はラヴェル編曲)。もしもリムスキー=コルサコフが改訂しなかったら、この曲が現在まで生き延びることは決してなかったであろう。
ラヴェル/ツィガーヌは1990年生まれの黒川 侑くんのヴァイオリン独奏。大植さんはすべての曲を暗譜で振られたが、伴奏指揮も相変わらずあ・うんの呼吸でぴったり寄り添われ、さすがだった。ただ黒川くんの演奏は小綺麗にまとまっていたが、欲を言えばこれはロマ(ジプシー)の音楽なのだからもっと情熱的な力強さが欲しかった。
プログラム最後はストラヴィンスキー/バレエ音楽「火の鳥」。僕は大植さんの十八番(おはこ)といえばマーラー、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチだと確信しているのだが、昨年の「春の祭典」と今回の「火の鳥」を聴いて、ストラヴィンスキーもそのリストに加えても良いのではないかと思い至った。兎に角、堅固なリズム感と確信に満ちた推進力が素晴らしい。しかし一方で「王女たちのロンド」や「子守歌」ではしっとりと叙情的に歌う。組曲それぞれの特徴が鮮明に浮かび上がる文句なしの名演であった。
そしてファンタジーが今回のテーマということで、もしアンコールがあるとすればあれしかないと予想していたのだが、大植さんが「1982年の映画…」と仰った瞬間、快哉を叫んだ!そう、勿論ジョン・ウィリアムズ/映画「E.T.」〜フライング・テーマである。
大植/大フルは昨年、この曲を「星空コンサート」で演奏している。しかしこれには大いに不満が残った。観客サービスに徹する大植さんは曲の途中で指揮を放棄し、一端舞台袖に引っ込み自転車の籠にE.T.人形をのせ、会場に手を振りながら再登場されたのである。周囲は大喜びだったが、僕としては大植英次の「E.T.」を聴いたという気がしなかった。だから今回はその《完全版》が聴けたことが本当に嬉しかった。そしてジョンの音楽が今までに聴いたことがないくらい気宇壮大で、あたかもブルックナーのように崇高に響き渡る情景は感動的ですらあった。
NHKは2年前の「青少年コンサート」の放送で、ジョン・ウィリアムズ/映画「スーパーマン」テーマの演奏に重ね、子供たちへのインタビューを流すという暴挙に出たが(映画音楽を馬鹿にしているのか!?)、今回のアンコールは是非ノーカットで放送して下さいね。
記事関連ブログ紹介:
不惑ワクワク日記(同じ演奏会を聴かれた感想)
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コメント
トラックバックありがとうございました。楽しいコンサートでしたね。
今日聴きに来てくれた高校生が、たくさん将来の聴衆に育ってくれて、大阪のオーケストラを支えてくれること、切に願います。
投稿: ぐすたふ | 2008年9月 9日 (火) 23時04分
ぐすたふさん、コメントありがとうございます。仰る通りですね。
ただ残念なのは、例えばプロの吹奏楽団である大阪市音楽団の定期演奏会にも多数の高校生が詰めかけますが、大学生〜20代の聴衆が少ないのです。つまり高校を卒業し、楽器を吹かなくなると途端に音楽に対する興味を失ってしまう子供たちが多いということなんですね。
投稿: 雅哉 | 2008年9月10日 (水) 07時37分