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朝ドラ「ちりとてちん」のすゝめ (外伝「まいご3兄弟」含む)

NHK連続テレビ小説を一度も通して観たことがない。《落語家を目指す女の子の物語》と宣伝されていた「ちりとてちん」にも全く興味がなくて、放送中は完全無視だった。

ところが今年の2月頃からだろうか?落語会に往くと、必ず「ちりとてちん」の話題が出る。何時しかインターネット上でもすこぶる面白いとの評判が飛び交うようになっていた。

それならば一度、味見してみるかと重い腰を上げたのがこの5月。総集編を観て目を瞠った。「こ、こ、……これは、凄い!」

そこで丁度発売が開始された完全版DVD-BOX全3巻を購入。毎日毎日、夢中になって観た。腰を抜かした。総集編はこのドラマの面白さを半分も伝えてはいなかった。

ちりとてちん

僕が今まで観たテレビドラマ(シリーズ)で真の傑作だと想ったのは以下の作品である。

  • 向田邦子「あ・うん」「阿修羅のごとく」
  • 倉本 聰「北の国から」「昨日、悲別で」
  • 市川森一「黄金の日々」
  • 山田太一「ふぞろいの林檎たち」(代表作「岸辺のアルバム」は未見)
  • 三谷幸喜「王様のレストラン」
  • 宮藤官九郎「タイガー&ドラゴン」

そして「ちりとてちん」は間違いなく、これらと肩を並べる作品であると太鼓判を押す。

まず藤本有紀の脚本の素晴らしさ、これに尽きるだろう。ドジな主人公・和田代美=B子と、優等生で同姓同名の友人・和田海=A子の葛藤を軸に物語りは展開していく。このふたりはカードの表と裏。後に彼女たちの名前は上方落語に登場するコンビ、六(きろく)と八(せいはち)に由来することが明らかとなる。そして、何故ふたりが同名なのかという秘密も最終週で解き明かされる仕組みになっている。

この伏線の張り方が尋常ではない。蜘蛛の巣のように張りめぐらされたその数は正にギネス級である。何気なく観ていたエピソードが後に伏線だったことに気付き、一体何度驚かされたことだろう!

作者の上方落語に対する畏敬の念が物語の行間から滲み出してくるのも感動的である。「愛宕山」「宿替え」「辻占茶屋」「崇徳院」「算段の平兵衛」「天災」「鴻池の犬」「たちぎれ線香」「地獄八景亡者戯」「鉄砲勇助」「はてなの茶碗」など、劇中に登場する落語(出演者によって再現シーンが演じられ、視聴者に分かりやすく解説される)だけではなく、居酒屋「寝床」や中華料理店「延陽伯」という名称も落語の演題だし、喧嘩の仲裁が趣味の魚屋食堂の主人が「胴乱の幸助」そっくりだったり、喜代美の叔父が買う宝くじの当選番号が「高津の富」と同一だったりするなど非常に芸が細かい。

登場人物のモデルを推定してみるのも一興であろう。ヒロインにまつわるエピソードの幾つかは最終話のエンディング「ただいま修行中!」に写真で登場した露の団姫(まるこ)さんを取材したと想われる節があり、また師匠・徒然亭草若から「お前は創作落語をやれ」と言われる下りは、桂あやめさんが文枝師匠から助言された内容そのものである。

草若の息子、小草若は桂米朝さんのご子息・小米朝さんと故・笑福亭松鶴の長男・枝鶴(廃業し、現在消息不明)を合わせたようなキャラクターで、徒然亭草々桂ざこばさんを彷彿とさせる。草若の命を奪う病因は、草原役で出演した桂吉弥さんの師匠・吉朝と同じ胃癌と考えられる。

さらに、「天狗芸能」のモデルは吉本興業+松竹芸能であり、上方落語初の常打ち小屋「ひぐらし亭」は天満天神繁昌亭+帝塚山・無学といった具合。

このように「ちりとてちん」を観れば、上方落語が歩んできた過去と現在が鮮やかに俯瞰できる構成となっているのである。

さらに小編成のオーケストラを起用し、丁寧に作曲された音楽(佐橋俊彦)や、建物の歴史を感じさせる重厚な美術デザイン(山内浩幹、深尾高行、小澤直行)も素晴らしい。テレビ日本美術家協会が主催する第35回伊藤熹朔賞に「ちりとてちん」のスタジオセットが選ばれたのも当然であろう。

また、上方落語への愛を感じさせる美しいオープニングCGも特筆に価する。途中、11個の定紋がパッと花が咲いたように登場する場面があるが、これらは全て実際に上方の噺家が用いている紋である。

演技陣も充実している。特に草若を演じる渡瀬恒彦は改めて「こんなに味のある、いい役者だったのか!」と見惚れた。落語も上手だし、師匠としての風格と気品があった。

和久井映見は映画「息子」(1991)の頃から好きな女優だったが、今回はヒロインの母親役を見事に演じ切った。70年生まれの彼女に対して貫地谷 しほりは85年生まれなので、実際にふたりは15歳しか違わない。それでも、ちゃんと母子に見えるのだから大したものである。役者って本当に凄いなとつくづく想った。

ただ、ドラマの最後に主人公が出した結論については賛否両論があり、ネット上でも激論が交わされた。朝ドラの主な視聴者である家庭の主婦に媚びたようなこの結末には、僕も首を傾げざるを得ない。皆を納得させるためにも藤本さん、是非この物語の続きを書いて下さい。「ちりとてちん」を愛する人々の多くが、それを待ち望んでいるのですから。

さてスピンオフドラマ、ちりとてちん外伝「まいご3兄弟」がいよいよ8月10日(日)に全国放送される。僕は関西での先行放送を一足お先に観たのだが、さすが文句なしの完成度の高さで藤本有紀の天才ぶりをいかんなく発揮している。

誰が真実を語っているのか最後まで明らかにしないという構成は、黒澤明監督の「羅生門」を彷彿とさせる。本当はどうだったのかを考えるヒントとして、今回の噺が上方落語「宿屋仇」を下敷きにしているということだけ、ここでは書いておこう。

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コメント

私はNHKの朝ドラは子供の頃から、両親が見ていたので、習慣的に見ています。

一般的に出来はBK>AKでしょうか。前年の、田辺聖子さんの半生を描いた「芋たこなんきん」も佳作でした。BK朝ドラで傑作だったなと思うのは他に「てるてる家族」があります。ミュージカル仕立てで、外国曲も使われたので、著作権料が高くて、再放送の要望はかなりあるものの、出来ないそうです。完全版のDVDになると、交渉はしたものの、値段がとてつもなく高くなるということで断念したとか。

さて、私が朝ドラをずっと見続けるか、時計代わりに流すだけになってしまうか、最初の一週間で決まります。

「ちりとてちん」は初回のつかみからうまかったですね。ちびB子が糸子さんに「おばあちゃんに挨拶しなさい」→スカートビリッ!「信じられへん~」。

一週間目から内容が非常に濃く、ちびB子とおじいちゃんとが心を通わせるようになって永遠の別れまで、たった一週間でしっかり見せてしまうという・・・。そして土曜日の梅丈岳からの「カワラケ投げ」の名場面では目から汗、いや熱い涙がポトポトと。そのあとに見事に糸子さんが笑わせてくれまして、笑いあり涙ありの、本当に傑作でした。

ラストは私も少々納得しかねるのですが、ぜひとも続編を製作してもらいたいものですね。

投稿: ぽんぽこやま | 2009年1月17日 (土) 10時45分

書き忘れました。

複線の複雑さもものすごいんですけど、このドラマのすごいところは、「捨てキャラ」がいないところですよね。

どの登場人物にもそれぞれドラマがあるのがすごいです。

川平慈英みたいなバタ臭い顔の俳優をなぜ起用したのかと思っていたら、きちんとそれも話に絡んでくるという。川平にもしっかり泣かせ場面が用意されていました。

何回泣かされたことか。

投稿: ぽんぽこやま | 2009年1月17日 (土) 11時22分

仰る通り、「ちりとてちん」はそれぞれのキャラが立ってますね。

是非続編の製作を望みたいところです。大阪では嘆願署名活動の輪も広がっています。

投稿: 雅哉 | 2009年1月17日 (土) 20時33分

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