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2008年8月 4日 (月)

ダークナイト

評価:A+

映画公式サイトはこちら

圧倒された。

本作の魅力は正義の境界が曖昧で、バットマンが両者を揺れ動くその振幅の狭間に、ドラマが紡ぎ出さていく事であろう。そういう意味で手塚治虫の「アドルフに告ぐ」との共通点を感じる。「アドルフに告ぐ」は第2次世界大戦中の日本とドイツを舞台に、ヒトラーによるユダヤ人迫害をモチーフにした漫画だが、そのエピローグでは中東戦争中のイスラエルに話が飛び、パレスチナ人を虐殺するユダヤ人の姿で締めくくられる。そう。「ダークナイト」は「アドルフに告ぐ」に匹敵する傑作である。

The_dark_knight

映画撮影終了後、摂取過剰による急性薬物中毒で亡くなったヒース・レジャー(享年28歳)演じるジョーカーが凄い。咽ぶような悪徳の魅惑に満ち溢れ、強烈な印象を観る者の心に刻み込む。アカデミー助演男優賞受賞も決して夢ではないだろう。過去の例を見てもジェームズ・ディーンは事故死後に「ジャイアンツ」でオスカー・ノミネートされたし、ピーター・フィンチは彼の死後「ネットワーク」(1976)で主演男優賞を受賞している。

クリストファー・ノーラン監督は、その出世作「メメント」(2000)から観ているが、ここまで偉大なフィルム・メーカーに化けようとは想像だにしなかった。ただただ脱帽である。兎に角、脚色(クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ノーラン)が素晴らしい。特にジョーカーのキャラクター設定が秀逸。ジョーカーが望んでいるのは決して金やバットマンの死ではなく、世の中のカオス化(混沌)だけなのだ。僕は貴志祐介のホラー小説「黒い家」に登場する次の言葉をふと、想い出した。

「この人間には、心がない!」

ミニチュア撮影を主体として、CGの存在を感じさせないVFXの完成度の高さも特筆に価する。

タイトルの"ナイト"は「夜」(night)ではなく「騎士」(knight)のこと。

ニューヨーク・タイムズをはじめとするアメリカ各紙、評論家の評価はこちら。軒並み絶賛と言っていい。また、インターネット・ムービー・データベース(IMDb)のユーザー評価では8月4日現在、「ダークナイト」は平均9.2点(10点満点)で、これは映画史上第1位となっている。参考までに現時点でのトップ20のタイトルと点数を書き出しておく。

  1. ダークナイト(2008) 9.2
  2. ショーシャンクの空に(1994) 9.1
  3. ゴッドファーザー(1972) 9.1
  4. ゴッドファーザー Part 2(1974) 9.0
  5. 続・夕陽のガンマン(1966) 8.9
  6. パルプ・フィクション(1994) 8.9
  7. シンドラーのリスト(1993) 8.8
  8. カッコーの巣の上で(1975) 8.8
  9. スター・ウォーズ/帝国の逆襲(1980) 8.8
  10. カサブランカ(1942) 8.8
  11. 12人の怒れる男(1957) 8.8
  12. 七人の侍(1954) 8.8
  13. スター・ウォーズ(1977) 8.8
  14. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還(2003) 8.8
  15. グッドフェローズ(1990) 8.7
  16. 裏窓(1954) 8.7
  17. レイダーズ/失われた聖櫃(1981) 8.7
  18. シティ・オブ・ゴッド(2002) 8.7
  19. ウエスタン(1968) 8.7
  20. ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間(2001) 8.7

余談だが、ピクサーの最新作「WALL・E/ウォーリー」が25位(8.6点)、「千と千尋の神隠し」が58位(8.4点)にランク・インしているのにも注目したい。

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