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崖の上のポニョ

評価:A+

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恐ろしい映画だ。

可愛らしいポニョ、海の中の極彩色の描写、そして一見、ディズニー「リトル・マーメイド」風のハッピー・エンドに騙されてはいけない。以下、ネタバレ全開で語り尽くそう。

今から10年くらい前だろうか?宮崎 駿さん(以下、"宮さん"と呼ぶ)が雑誌のインタビューに答え、「僕は人間が存在していること自体が地球の生態系にとって"悪"なのではないかと考えているのです。疲弊した地球を救うには人類そのものが滅びるしかないのではないかと……」といった旨の発言をされているのを読んだ記憶がある(なにしろ昔のことなので、細かいところが曖昧なのはご了承頂きたい)。

宮崎アニメは繰り返し人類の終末を描いてきた。宮さんの初演出作品「未来少年コナン」の設定はこうだ。

西暦2008年、超磁力兵器による戦争で人類の大半が滅び、地形は大きく変化し多くの都市は海中に没した。それから20年後の"残され島"で……

「風の谷のナウシカ」も《火の七日間》と呼ばれる最終戦争により高度の文明は滅び、瘴気の充満する《腐海》が広がっているという設定である。「ルパン三世 カリオストロの城」では湖の底に沈んでいた古代ローマ遺跡が現れ、「天空の城ラピュタ」では人間のいなくなった楽園=ラピュタが最後に天高く上っていく。宮崎アニメを貫くのはこうしたペシミズムである。

「崖の上のポニョ」の舞台となる離島は、まるで「未来少年コナン」の"残され島"みたいだ。そして《腐海》のように汚れきった近郊の海底、老人ホームの人々、大洪水、地球に接近してくる月、流れ星のように落ちてくる人工衛星、宗介の父・耕一が見る難破船の墓場、耕一の横で念仏を唱える船員。この映画は夥しい死と終末のイメージで溢れている。

表面通り受け取ると、物語の後半は一見破綻している。嵐の後、ポニョと宗介が出会う人々は家が水没しているにもかかわらず、どうしてあんなに落ち着いていて、明るいのか?ポニョに課せられた"試練"とは何か?老人たちはどうして歩けるようになるのか?洪水の後に古代魚が泳いでいるのは何故か?

しかし、こう仮定すればどうだろう。嵐の翌日、ポニョと宗介が目を覚ますと、ふたり以外の地球上の人々は全員死に絶えているとしたら?彼らがその後見る風景は(映画「シックス・センス」のように)生者(ふたり)と死者(それ以外)が共存する世界だとしたら?こう解釈すれば全ての疑問は氷解する。人類が滅び、地球が一旦リセットされたからこそ海は澄み渡り、古代魚の登場となるのだろう。

ポニョと宗介は小船の上で日傘を差し、赤ん坊を抱いた古風な婦人と出会う(→公式サイト)。宗介は彼女の夫から蝋燭を受け取るのだが、結局その蝋燭に火が灯されることはない。蝋燭の炎は生命を象徴する。つまりこのエピソードは、その小船の家族が既に死んでいることを暗示しているのではないだろうか?

ポニョが恐がるトンネルは「千と千尋の神隠し」同様、異界への入り口である。今回のそれは死者の国へ通ず黄泉比良坂(よもつひらさか)の役割を果たしていると考えられる。

とすればポニョに課せられた"試練"とは何かが、自ずと分かってくるであろう。人類が滅亡し、ポニョと宗介はこの地球でふたりきりで生きていかなければならない。そのこれからの人生そのものが"試練"なのである。彼らは21世紀のアダムとイヴとなったのだ。老婆たちが宗介の母を遠くに見つめながら言う台詞「リサさん、辛いでしょうね」も、こう解釈して初めて意味を成す。

この僕の説を裏付ける根拠として、ポニョの父・フジモトが彼女のことを最初"ブリュンヒルデ"と呼ぶことを挙げておこう。

ブリュンヒルデとはワーグナーの楽劇にもなった神話「ニーベルングの指輪」の登場人物。神々の長、ヴォータンの娘たち=ワルキューレの一人である。彼女は人間の英雄ジークフリートを愛し、彼の妻となる。「ニーベルングの指輪」は神々の黄昏と人間の台頭を描く、壮大な叙事詩である。

つまりこの映画では明らかにポニョ=ブリュンヒルデ、ポニョの妹たち=ワルキューレ、宗介=ジークフリートとして描かれている。宗介の手の怪我が、ポニョに舐められて治癒するエピソードはジークフリートが竜を退治した際、浴びた血で不死身の体になることを彷彿とさせる。ポニョが嵐の晩、波の上を駆けながら宗介の家へ向かう場面で、久石譲さんの音楽がワーグナーの「ワルキューレの騎行」そっくりなのも、決して偶然ではない。

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CGを一切使わず、全てを手描きで一枚一枚丁寧に仕上げていった手法はウォルト・ディズニー全盛期のフル・アニメーションへの回帰と言うべきだろう。宗介の母、リサが運転する車の疾走感が凄い。それは「ルパン三世 カリオストロの城」のカーチェイスを彷彿とさせる。嵐の場面の絵の力強さも圧倒的である。在りし日の宮さんが帰ってきた!と往年のファンは目頭が熱くなるのを抑えることが出来ないであろう。掛け値なしの傑作である。

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