小松 一彦/大阪市音楽団 定期
プロの吹奏楽団である大阪市音楽団(市音)の定期演奏会を聴きにザ・シンフォニーホールに足を運んだ。指揮は主席客演指揮者の小松 一彦さん。
《物語と吹奏楽》というテーマで構成されたプログラムは以下の通り。
・樽屋 雅徳/ヘスペリデスの黄金の林檎
・ジュリー・ジロー/寓話の交響曲 日本初演!
・ピーター・グレイアム/ユーフォニアム協奏曲 世界初演!
・ピーター・グレイアム/交響的情景「地底旅行」
さて、樽屋さんの「マゼランの未知なる大陸への挑戦」や「民衆を導く自由の女神」は格好良くて結構好きなのだが、今回の新曲は盛り上がりに欠ける駄作。樽屋さんの傾向として、タイトルばかりやたら凝っていて、名前負けというか中身が薄っぺらのことがしばしば見受けられる。「マリアの七つの悲しみ」とか「ラザロの復活」とか。
「寓話の交響曲」は5楽章あり、それぞれライオンとネズミ、ハーメルンの笛吹き、ウサギとカメ、みにくいアヒルの子、三匹のヤギのがらがらどんと副題がついている。サン=サーンスの「動物の謝肉祭」を彷彿とさせる多彩な音楽で、とても愉しかった。特にフルート・ソロが活躍するハーメルンの笛吹きが秀逸。
グレイアムのユーフォニアム協奏曲「称うべき紳士たちの列伝に」は19世紀の大衆小説をモチーフにしている。第1楽章「タイム・マシーン」(カデンツァを含むソナタ形式。再現部で第1,2主題の順序が逆に回想され、鏡面構造となっている。これにより主人公が時間を遡り現代に帰還することが示される)、第2楽章「シャーロック・ホームズの回想」~最後の事件、そして第3楽章は「80日間世界一周」。ソリストであるスティーブン・ミードの超絶技巧が堪能出来て聴き応えがあった。特に急速なテンポの第3楽章はソリストが絶えずピストンを動かし続け、常動曲(あるいは無窮動)とも言える凄まじい曲。これは圧巻。アンコールのモンティ/チャールダッシュでもミードは強烈なアッチェレランド(加速)で詰めかけた聴衆を魅了した。途轍もないテクニシャンなのだけれど、その響きはあくまで柔らかく会場の空気に溶け込んでゆく。
最後の「地底旅行」は火山の噴火口から地球の中心部に向かい、そこで古代の生物と遭遇し脱出するまでの冒険物語。まるでその情景が目の前に広がるようなワクワクする体験であった。
そしてなんと!ピーター・グレイアム本人も招待されており、曲が終わると客席からステージに上がった。彼が書いた「ハリソンの夢」が全日本吹奏楽コンクールで初演されたのは2003年。この年、宮本輝紀/洛南高等学校(京都)と福本信太郎/川口市・アンサンブルリベルテは共に「ハリソンの夢」で金賞に輝き、一大センセーションを巻き起こした。恐るべき難曲だが、翌2004年には 原口正一/横浜市立万騎が原中学校吹奏楽部が挑戦し、これも見事全国大会金賞を受賞している。ちなみに、「ハリソンの夢」日本初演をしたのも市音である。
コンサート終了後は中高生が憧れのグレイアムにサインを貰おうと殺到し、黒山の人だかりとなった。
市音のアンコールはヤン・ヴァンデルロースト/行進曲「ジュピター」。これは珍しい。「スパルタカス」や「アルセナール」で有名なヴァンデルローストは過去2回、市音の定期で指揮台に立ち自作自演しているが、この曲は聴いたことがない。調べてみると中部日本吹奏楽連盟50周年記念曲で、今年の中部日本吹奏楽コンクール(略称・中日コンクール)課題曲だそうである。
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