一つのメルヘン~児玉 宏/大阪シンフォニカー交響楽団 音楽監督就任!
児玉 宏/大阪シンフォニカー交響楽団 音楽監督・首席指揮者就任記念演奏会をザ・シンフォニーホールで聴いた。NHKがテレビ収録しており、そのうちBS-2で放送されるようだ。
まずはウォルトン/戴冠式行進曲「王冠」。僕がこれを最初に聴いたのが高校生の時。ジョン・ウィリアムズ/ボストン・ポップスによるLPレコードの演奏だった。しかし生で聴くのは今回初めて。それだけ日本ではウォルトンが滅多に演奏されないということだろう。パイプオルガンを伴った華やかなファンファーレが就任記念に相応しい。児玉さんらしく溌刺として小気味いい快演。
次にR.シュトラウス/交響詩「マクベス」。これも珍しい。22歳の時に書き始められた、シュトラウス最初の交響詩だそうだ。しかしライトモティーフ(示導動機)を駆使した技法は既に完成の域に達しており、聴き応えのある名曲だった。これはもっと演奏されても良い作品だと想う。
ただ、シュトラウスの父親はホルン奏者だったので、彼の音楽はホルンを中心に金管セクションが大活躍をする。その点、奏者の技量に些か苦しいところが散見されたのも事実である。しかし金管が弱いというのは関西のオケ全体の問題であり、シンフォニカーだけを責めるわけにはいかないだろう(関西でこのセクションが一番上手いのは大阪市音楽団である)。児玉さんは就任されたばかりだし、今後の充足に期待したい。
休憩を挟んでプロコフィエフ/交響曲第7番「青春」。これは世紀の名演であった。
1917年に勃発したロシア革命はロシアの作曲家たちの運命を様々に翻弄した。革命政府に故郷の土地を没収されたストラヴィンスキーはハリウッドに住み、最終的にニューヨークで没した。同様に革命を逃れたラフマニノフはカリフォルニア州ビバリーヒルズで没している。
ショスタコーヴィチは母国に留まり、共産党政権から絶えず批判に曝されながら、生涯闘い抜いた。
一方、プロコフィエフは革命後シベリア・日本経由でアメリカへ渡り、さらにパリに住んだ。しかし、1930年代に帰国、晩年にはソヴィエト共産党中央委員会から、その作風が社会主義リアリズム路線に反すると批判を浴びながら61歳で生涯を閉じた。
交響曲第7番は死の前年に完成された、プロコフィエフ最後の交響曲である。晩年の作曲家に去来した想いはどのようなものだったのか?その答えがこの曲の中にある。
以下は児玉さんの指揮するシンフォニカーの演奏を聴きながら、僕が感じたことである。音楽というのは抽象的な芸術であり、僕の解読が唯一正しいと主張するつもりなど毛頭ない。百人百様の感想があるだろうし、それで良いのだろう。
第1楽章。まず弦が儚げな、些か哀しみのこもった第1主題を奏でる。苦い後悔、そして諦めの気持ちが滲む。第2主題は明朗な気分へと一転し、作曲家が自らの青春時代を懐かしんでいるかのよう。
第2楽章は時に拍子が外れたワルツ。児玉/シンフォニカーは爽快なドライブ感でこれを奏で、まるで生き生きと魚が飛び跳ねているような新鮮さ、勢いがあった。
第3楽章、アンダンテ・エスプレシーヴォ。優しく、夢へといざなう子守歌。それは一つのメルヘン、言い換えるなら現実逃避の世界とも言えるだろう。
第4楽章は序奏に続いてまたまた活きの良い楽想がピチピチ跳躍する。おもちゃ箱をひっくり返した様な賑やかなお祭騒ぎとなり、最後は第1楽章の主題が回顧され、弱奏のピチカートで消え入るように終わる。それはまるで、人生の終末を暗示しているかのようだ。
文句の付け入る余地のないパーフェクトな演奏だった。
方やチャイコフスキー、マーラー、ショスタコーヴィチを得意とする大植英次さんがいて、方やベートーヴェン、ブルックナー、プロコフィエフを得意とする児玉 宏さんがいる。遂に大阪に完璧な布陣が敷かれた。この二大巨匠時代に居合わせ、時代の証人となれる自分はつくづく幸せ者だと想う。
関連記事:
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* 同じ演奏会を聴かれた方の感想→ほどほどEssay
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コメント
こんにちは。
児玉さんとシンフォニカーは9月の定期演奏会に聴きに行く予定です。出来れば休みを取って大阪クラシックも楽しみながら聴こうと思っています。
この記事を見て今から本当に楽しみです。
投稿: ヒロノミンV | 2008年6月28日 (土) 11時34分
ヒロノミンVさん、コメントありがとうございます。
9月の定期は若い頃の作品ですが、児玉さんのブルックナーですから演奏の方の充実度は間違いありませんね。
6月の定期は7月20日にNHK-FMで放送されます。また、日程は決まっていませんがBS-2でも放送予定なので是非ご覧下さいね。
投稿: 雅哉 | 2008年6月28日 (土) 12時30分