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2008年6月16日 (月)

インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国

評価:C+

映画公式サイトはこちら

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シリーズ三作目「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89)が製作されてから実に19年ぶりの新作である。第一作「レイダース/失われた聖櫃」が公開された当時、僕は高校生だった。映画館で観た直後に買ったサントラは未だCDではなくて、LPレコードだった。だから今回のC+というのはノスタルジーが加味された甘い評価である。

全く自慢にはならないが、僕はスピルバーグの劇場映画デビュー作「続・激突!カージャック」(The Sugarland Express, 74年)以降、彼の映画24本+1/4(オムニバス映画「トワイライト・ゾーン/異次元の体験」)全てを観ている。その系譜の中で冷静に考えれば、「クリスタル・スカルの王国」の出来は「オールウェイズ」ほど悲惨ではないけれど、「フック」「ロスト・ワールド」「A.I.」レベルかな?というのが率直な感想である。

「クリスタル・スカルの王国」の時代設定は1957年である。《1947年にロズウェルで墜落したUFOを運び込み、宇宙人と共同研究をしている》という伝説で有名なネバダ州アメリカ軍基地エリア51から物語は始まる。そしてエルヴィス・プレスリー登場によるロックンロール・ブーム、チキンレース(映画「理由なき反抗」'55)、赤狩り、地上核実験場といった時代のアイテムを散りばめながらテンポよく進んでいく。

ただ本作に「ダイ・ハード4.0」、「ボーン・アルティメイタム」のような手に汗握る迫力あるアクション・シーンを期待すると肩透かしを食らうことになる。むしろディズニー・ランドでジェットコースターや急流下りのアトラクションに乗り込んだ時のようなゆるい感覚で、時折盛り込まれたユーモアを愉しみながら観るべき映画なのだろうと途中で悟った。

前三作と今回の大きな違いはCGがフルに活用されていること。スピルバーグ映画に大々的にCGが導入されたのは「ジュラシック・パーク」('93)以降の話である。ただ、映画特撮におけるCGの技術は「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズと「スター・ウォーズ」エピソード1-3で頂点を極めた感が強く、ヨーダのデジタル化やゴラムを体験してしまった今、最早どんな映像を観ても不感症になってしまった自分に気づく。「クリスタル・スカルの王国」に新鮮な驚きは皆無だった。

撮影監督は前三作のダグラス・スローカムから「シンドラーのリスト」以降、スピルバーグの全作品を担当しているヤヌス・カミンスキーに交代した。カミンスキーの映像は冒頭の砂漠の場面では黄色く乾いた色調で、イェール大学でインディが教鞭を執る場面では50年代イーストマン・カラー調となり、さらに南米に飛び冒険が始まるとまた画質が変化していく。その色彩設計は相変わらずパーフェクトだ。

そしてやはり、このシリーズを語る上で巨匠ジョン・ウイリアムズの音楽について触れないわけにはいかないだろう。

ドイツの作曲家ワーグナーが発明し、オペラの中で用いたライトモティーフ(示導動機)という手法は、R.シュトラウス(オペラ「サロメ」「ばらの騎士」)、そしてE.W.コルンゴルト(オペラ「死の都」「ヘリアーネの奇蹟」)へと受け継がれた。しかし、ナチスの台頭と共にユダヤ人であったコルンゴルトはウィーンからアメリカに亡命、映画音楽にその手法を持ち込んだ。そして「風雲児アドヴァース」('36)「ロビン・フッドの冒険」('38)で2度アカデミー作曲賞を受賞することになる。ライトモティーフはハリウッドではシンプルにテーマと呼ばれるようになり、コルンゴルトの手法はジョン・ウィリアムズに引き継がれた。ウィリアムズの「スター・ウォーズ」サーガはワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」に匹敵するスペース・オペラの大傑作であることは今更、僕が強調するまでもないだろう。

「クリスタル・スカルの王国」で懐かしかったのは第一作目以来となるマリオンのテーマが復活したこと。そして映画冒頭、エリア51の場面で聖櫃(アーク)のテーマが鳴り響く。つまり第一作ラストシーンで聖櫃が運び込まれた場所が、ここであったことを音楽が示しているのである。

今回はクリスタル・スカルのテーママットの冒険、そしてケイト・ブランシェット演じるイリーナのテーマなど新たな魅力的ライトモティーフが加わり、豊穣な音楽を紡ぎ出してゆく。文句なく素晴らしい。また、(第三作を彷彿とさせる)車とバイクのチェイス・シーンではイェール大学構内を突っ走るバイクの情景に重ねてブラームス/大学祝典序曲に登場する、陽気なドイツの学生歌が引用されたりしてユーモアのセンスも抜群である。必聴。

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最後に、これは日本人特有の感性なのかも知れないが、本作に限らず「ブロークン・アロー」('95)や「トータル・フィアーズ」('02)などハリウッド映画で核爆発を扱った場合、放射能被爆の後遺症についての無知・無理解がいつも気になることを付け加えておく。恐らく一年以内にインディ・ジョーンズは白血病を発病して死ぬだろう。

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