佐渡裕プロデュース 喜歌劇「メリー・ウィドウ」
兵庫県立芸術文化センターに佐渡 裕さん指揮による喜歌劇「メリー・ウィドウ」を観に往った。
かつて、オペラ・ブッファ(Opera buffa)と呼ばれた軽やかな歌劇があった。ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」やモーツァルト「フィガロの結婚」がその代表選手である。
そこから派生して台詞と踊りのあるオペレッタ(喜歌劇)が誕生した。オッフェンバック「天国と地獄」(1858初演)、J.シュトラウス「こうもり」(1874)、レハール「メリー・ウィドウ」(1905)などである。
このオペレッタがアメリカに渡り、独自の発展をしたのがミュージカル。現代的ミュージカルとしてほぼ完成の域に達したのが1927年に初演された「ショウボート」である。これの脚本・作詞を担当したのがオスカー・ハマースタイン2世で、彼は後にリチャード・ロジャースとコンビを組み「王様と私」「南太平洋」「サウンド・オブ・ミュージック」などの名作を生むことになる。ハマースタン2世の隣に住んでいてミュージカル創作のノウハウを教えてもらったのが若き日のスティーブン・ソンドハイム。彼は「ウエストサイド物語」や「キャンディード」の作詞を手掛け、また作曲家としても「太平洋序曲」「スウィーニー・トッド」「イントゥ・ザ・ウッズ」などの名作を世に送り出す。
さらに付け加えるならば、モーツァルトの「魔笛」や「こうもり」、「メリー・ウィドウ」が初演されたのはアン・デア・ウィーン劇場。ここでは後に「キャッツ」「エリザベート」「モーツァルト!」などミュージカルがロングラン上演されることになる。このように現在に至るまで脈々と歴史は繋がっているのである。
佐渡さんは昔から上方の落語家・桂 枝雀さん(故人)の大ファンで、CD「枝雀落語大全 第五集」のライナーノーツを執筆されている。それによると以前はぬるめのお湯につかりながら、あるいはウォークマンで車や飛行機の移動中にも、枝雀さんのテープを繰り返し聴かれていたそうである。ものすごいプレッシャーを克服しフランスの指揮者コンクールで優勝を勝ち取れたのも、枝雀落語の支えがあったからだと書かれている。
だから今回、「メリー・ウィドウ」に枝雀さんの弟弟子(おとうとでし)にあたる桂ざこばさんを起用されたのも、そんな想いがあってのことなのだろう。もうざこばさんが登場しただけで大ホールは笑いに溢れ、とても温かい気持ちに包まれた。この起用は大成功だったと言えるだろう。
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また西宮市出身の元宝塚トップスター、平みちさんは男装で格好よくキメて華を添えた。「ベルサイユのばら」の有名な歌「愛あればこそ」もチラッと披露してくれて、場内は大いに盛り上がった。
舞台も宝塚歌劇を意識しており、銀橋(ぎんきょう)が設置されていた。銀橋とはオーケストラピット(オケピ!)と客席との間にある幅1メートルほどのエプロンステージ。まあ花道のようなものである。また、出演者全員によるロケット(ラインダンス)もあった。フレンチカンカンも実に愉しかった(この時は「天国と地獄」の楽曲が使用された)。
セシル・ビートンによる「マイ・フェア・レディ」のドレスを彷彿とさせる衣装デザイン(スティーヴ・アルメリーギ)や白いピアノを模した舞台装置(サイモン・ホルズワース)もとってもお洒落で、目を奪われた(具体的にどんなのかは→こちらを見てね)。
1993年からパリにあるコンセール・ラムルー管弦楽団の首席指揮者として活躍されている佐渡さんの指揮はさすがに洗練されたものだった。物語の舞台となるフランスの香りに溢れ、優雅なワルツの響きにウットリと聴き惚れた。
気品ある物腰で未亡人ハンナを凛として演じた佐藤しのぶ、その美声で観客を魅了したジョン・健・ヌッツォなど歌手陣の充実振りも光る。これは必見。
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コメント
はじめまして。Odetteと申します。以前から読ませていただいておりましたが、同じ公演を見られたようなのでTBさせていただきました。吹奏楽の関西大会、チケット販売が改善されるといいですね…。それでは。
投稿: Odette | 2008年6月29日 (日) 22時25分
Odetteさん、コメントありがとうございます。
貴ハンドル名はバレエ「白鳥の湖」から採られたのですね?僕は幼い頃からクラシック・バレエを観ても退屈だとしか想わなかったのですが、つい先日マリインスキー・バレエの「白鳥の湖」をBSで観て目が覚めました!ようやくその美しさを理解出来たのです。
アメリカン・バレエ・シアターも観に行きたいのですが、関西で「ABTオールスター・ガラ」があるのはびわ湖ホールだけで、大阪では「海賊」。しかもあのフェスティバルホール!ということで、がっかりしました。
投稿: 雅哉 | 2008年6月30日 (月) 09時23分
こんにちは。確かにHNは『白鳥の湖』のヒロインからいただきました。マリインスキーということは、ロパートキナ&コルスンツェフの白鳥ですね?ロパートキナはボリショイのザハロワとともに今世紀を代表する「白鳥」ダンサーだと思います。
ABTのマッケンジー版『白鳥の湖』はロットバルトを二人のダンサーが踊り分けるという独自の演出で人気ですが、関西では公演がないのが残念ですね。『海賊』は男性ダンサーの魅力が存分に味わえる楽しい作品なのですが・・・ロパートキナの白鳥で目覚められた方にはちょっととっつきにくいかも?しれませんね。シュツットガルト『眠り』やハンブルク『人魚姫』なんかは気に入られると思いますよ!
投稿: Odette | 2008年7月 2日 (水) 19時08分
Odetteさん、再びコメントありがとうございます。
暴言を承知の上で敢えて言わせて頂きますと、クラシック・バレエにおいて、男性ダンサーは所詮《添えもの》に過ぎないというのが僕の見解です。
モーリス・ベジャールの振り付けなどモダン・バレエになると男性ダンサーが活躍しますね。在りし日のジョルジュ・ドンの踊りを一度だけ観る機会があったのですが(勿論「ボレロ」も)、それはそれは圧巻でした。
投稿: 雅哉 | 2008年7月 3日 (木) 01時03分