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幻の楽器ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ登場!~ラ・プティット・バンド

いずみホールでラ・プティット・バンド(ベルギーの古楽アンサンブル)を聴いた。

Band

今回のコンサートの目玉はなんと言ってもいわゆる肩掛けチェロ=ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラが登場するということだろう。

昨年12月にノワ・アコルデ音楽アートサロンでバロック・ヴァイオリニストの寺神戸亮さんがスパッラを弾かれたようだが、コンサート・ホールでは実質的にこれが関西初披露と言ってもいいだろう。なお、寺神戸さんはラ・プティット・バンドのメンバーであり、リーダーのシギスヴァルト・クイケンからスパッラ奏法を伝授されたらしい(今回のコンサートには参加されていない)。現在スパッラを弾きこなせる奏者は世界で5人だけだそうで、日本人は恐らく寺神戸さんただひとりだろう。

スパッラという楽器の詳しい説明はこちらをどうぞ。寺神戸さんによる解説映像バッハ/無伴奏チェロ組曲第1番の演奏も視聴出来る。寺神戸さんの話でも分かるとおり、スパッラという楽器が昔あったことは確かだがその奏法は不明であり、バッハが弾いたかもしれない無伴奏チェロ組曲がスパッラを想定して作曲された可能性もあるが、確たる証拠は何もない。しかしそれでもなお、幻の楽器を蘇らそうとする古楽奏者たちの執念たるや凄まじいものがあるし、そういう何の役にも立たない行為に情熱を注げる人間の姿は美しいと僕は想う。恐らく、生きるということの本質はそんなところにあるのだろう。

なおラ・プティット・バンドと日本の古楽器演奏家との縁は深く、バッハ・コレギウム・ジャパンやオーケストラ・リベラ・クラシカでコンサート・ミストレスを務めていらっしゃる若松夏美さんも、バロック・チェリストの鈴木秀美さんもかつてはこのグループのメンバーだった。現在は赤津真言さん(Vn)が参加されている。

さて、コンサート一曲目はシギスヴァルト・クイケンがスパッラを肩にかけて独りで登場。バッハ/無伴奏チェロ組曲第1番を演奏した。スパッラの音域はチェロと同じだが、より木訥としていて、いぶし銀の鄙びた音色がした。

ただ、低音はチェロほど豊かな響きがしないのでヴィヴァルディ/「四季」などの通奏低音楽器としては物足りなかった。今回はスパッラのみでチェロもコントラバスもなかったから、アンサンブルに深みというか奥行きが感じられなかった。各パートひとりずつという編成も些か寂しい。

ヴィヴァルディ/フルート協奏曲「ごしきひわ」フラウティーノ協奏曲はリコーダーで演奏された。あの時代のトラヴェルソ(バロック・フルート)やリコーダーは鳥の鳴き声に近く、とても爽やかで耳に心地よい。特にフラウティーノ協奏曲で使用されたソプラニーノ・リコーダーはとても小さくて音色も可愛らしく、魅了された。

J.S.バッハ/「音楽の捧げもの」より3声のリチェルカーレはチェンバロ独奏(ベンジャミン・アラード)。これは関西が誇るチェンバロの貴公子・中野振一郎 先生の演奏と比べたら遙かに聴き劣りがする。ラ・プティット・バンドには嘗て、ピエール・アンタイという名手がいたのだが……。

J.S.バッハ/管弦楽組曲第3番は弦楽合奏版。う~ん、この編成には違和感がある。だって看板に偽りあり、これじゃあ「弦楽組曲」だ。

休憩を挟んでヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」。古楽器演奏が盛んになる前の時代、1970年代まで「四季」と言えばイ・ムジチの演奏だった。そのLPレコードはカラヤンの「運命」「未完成」と並び、常にベストセラーのトップを走っていた。僕が小学生の頃、我が家にもアーヨ(Vn)が独奏を務めたイ・ムジチ第1回ステレオ録音のレコードがあった。

そこへ、「四季」革命をもたらしたのがニコラウス・アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの演奏(1977年録音)である。僕が古楽器演奏というものを初めて聴いたのもこれである。あざといまでのテンポの変化、激烈なアクセント、極端なクレシェンド、意味不明なオルガンの使用といった具合に、とにかく衝撃的体験だった。当時のクラシック・ファンたちは戸惑い、賛否両論に分けれての喧々囂々たる議論が果てしなく続いた。しかしこの演奏が、古楽というものの自由さを世間に知らしめ、新しい時代を切り開いたことは誰も否定できないだろう。

その後ファビオ・ビオンディ(Vn)率いるエウローパ・ガランテ(91年録音)やジュリアーノ・カルミニョーラなどバロック・ヴァイオリンの名手による素晴らしいCDが登場し、今やイ・ムジチの演奏スタイルは過去の遺物になった。この30年間で聴衆の意識も完全に変わってしまったのである。

Biondi

ラ・プティット・バンドの「四季」は古色蒼然としたスタイルで、まるでイ・ムジチの演奏を古楽器で聴いているかのような印象だった。それからヴァイオリン・ソロを担当したサラ・クイケンがおとなし過ぎて、どうしようもなく物足りなかった。ヴァイオリン協奏曲なのだから、もっと優れた技巧の奏者にして貰わないと困る。シギスヴァルトか寺神戸さんのソロで聴きたかった。

サラはシギスヴァルトの娘。僕は映画「ゴッドファーザーPart III」の撮影時、マイケル・コルレオーネの娘役を降板したウィノナ・ライダーの代わりに娘のソフィア・コッポラを起用し、作品を駄目にして世間の顰蹙を買ったフランシス・フォード・コッポラ監督のことを想い出した(後にソフィアは女優を廃業、「ロスト・イン・トランスレーション」を脚本・監督し、アカデミー脚本賞を受賞した)。

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# Credo
ぶらぶら、巡り歩き
やーぼーの聴楽雑誌

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