至福の時~大植英次/大フィルのエルガー
今回の記事は僕が以前に書いた「大植英次のエニグマ”謎”」と是非併せてお読み下さい。
大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に往った。コンサートマスターは長原幸太さん。
会場のザ・シンフォニーホールには遅れて到着したので、ヴォーン=ウィリアムズ/タリスの主題による幻想曲 は残念ながら聴けなかった。
続く、ブリテン/ヴァイオリン協奏曲 の独奏はダニエル・ホープ。実はチャイコフスキー国際コンクールで優勝した神尾真由子さんのリサイタルを二日前に聴いたばかりだったので、「神尾さんの方が断然上手いや」というのが第一印象。ホープも決して悪くはないのだが、如何せん分が悪い。大フィル定期は4月が長原さんのヴァイオリン独奏で、5月がヴィオラ協奏曲。ゲストが弦楽器に偏りすぎではなかろうか?正直飽いた。
ただ、ホープがアンコールで弾いたラヴィ・シャンカール/メニューインの思い出 は面白かった。シャンカールはインド生まれの作曲家でシタール(インド発祥の弦楽器)奏者でもある。だからヴァイオリンのための作品でも曲調がシタール風で非常にユニークなのだ。僕は彼が音楽を担当した映画「ガンジー」(82)のことを想い出しながら、悠久のガンジス川の流れに身を委ねるような心地で聴いた。ちなみに「ガンジー」でシャンカールはアカデミー賞にノミネートされたのだが、この年作曲賞を受賞したのは「E.T.」のジョン・ウイリアムズ。これはいくらなんでも相手が手強すぎた。
休憩を挟んでいよいよ待望のエルガー/エニグマ変奏曲 である。冒頭、弦楽器群によるアンダンテの主題はじっくり、ゆったりと歌われる。大植さんの解釈はむしろアダージョと言っていい位。息の長い旋律が続く。史上最長のエニグマ演奏といわれたバーンスタイン/BBC交響楽団のCDのことが一瞬、脳裏に浮かんだ。
しかし変奏に入ると様相は一変し、各々の変奏の性格に合わせ、ある時は風に舞う鳥の羽のように軽やかに、ある時は躍動感に満ち生き生きと、あるいは激しく畳み込むような勢いで、変化に富む目の醒めるような演奏であった。
大植さんは手をひらひらさせたかと想うと、メロディーに乗って唸り声を上げ、またチェロ独奏が活躍する第12変奏では間合いで「ハアーッ」と大きな吐息をついたりと、いつになく気合の入った指揮ぶりだった(最後は珍しくもガッツポーズが飛び出した)。
そしてやはりこの演奏の白眉といえば、なんと言っても第9変奏ニムロッド!ピアニッシモで囁くように始まる弦の崇高なまでの美しさときたら、もう筆舌に尽くしがたい。それはまるで教会に響く賛美歌のように聴こえた。これぞ大フィルの底力。そして次第にクレッシェンドする音楽にシンクロナイズするように、ある夏の夜、友人とベートーヴェンについて語らいながら散歩するエルガーの姿が僕の目の前に幻視された。
それは正に奇蹟の夜だった。
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