淀工サマーコンサート 2008
大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部(淀工)のサマーコンサートを聴きに、守口市市民会館(モリカン)へ往った。昨年の感想はこちら。
まずオープニングは華々しくアルフレッド・ニューマン/20世紀FOXファンファーレ(1935)。そして、そのままカーペンターズ・フォーエバー(真島俊夫 編)になだれ込む。これは全曲版ではなく"トップ・オブ・ザ・ワールド"や"遥かなる影"の入らないカット版。淀工がマーチングコンテスト等で演るバージョンだ。ただ、昨年11月の全日本マーチングコンテストや、今年1月のアマチュアトップコンサートでの演奏と比較すると、まだまだ金管が荒っぽいなという印象を受けた。つまりこの3月で3年生が卒業し世代交代したために、今のバンドは発展途上の段階にあるということだ。しかし彼らも、これから半年でぐんぐん伸びていくことだろう。その成長を見守るとことも、高校生バンドを聴く愉しみの一つである。
続いて2008年全日本吹奏楽コンクール課題曲4曲。まずは丸谷明夫 先生(丸ちゃん)の指揮でマーチ「晴天の風」。丸ちゃんらしい、きびきびと軽快な演奏。作曲したのは香川県高松市在住の高校生である。「課題曲なので色々と言われていますが、高校生にしてはよく書けていると想います」と丸ちゃん。
「セリオーソ」について丸ちゃんは「"セリオーソ"というのは"厳かに"とかいう意味ですが、羞恥心のないうちの生徒には縁のない言葉です」と聴衆の笑いを誘い「こういう暗い、辛気臭い曲は苦手なので…」と、これをコンクールで演奏する予定の高知県・土佐女子高等学校吹奏楽部の先生と指揮をバトンタッチ。
「天馬の道~吹奏楽のために」は大阪朝鮮高級学校吹奏楽部の先生が指揮をされた。ふたりともコンサート前に15分ほどリハーサルをされたとのこと。
「ブライアンの休日」については事前に指揮者を決めておらず、客席から立候補してもらおうという趣向。「できれば、学校の先生がいいですねぇ……」と会場を見渡した丸ちゃん、ふと客席中央に坐っている初老の男性に目を留めた。「おやっ、もしかしたら京都・洛南高校の顧問をされていた宮本先生ではないですか!?是非こちらにお越し下さい」と手招きをする。
ステージに上がった宮本先生に丸ちゃんは「今日先生がいらっしゃっているなんて全然知りませんでした。招待状も差し上げなくて申し訳ありません。お金を払って入場されたのですか?大変失礼なことをしました」と一連のお詫びを述べた後、聴衆に向かい宮本先生の紹介をした。「先生は私にとって良きライバルでした。関西吹奏楽コンクールではいつも洛南高校という強敵がいて、うちも散々苦労させられました。でも先生が辞められて、ちょっと寂しいです」恐縮する宮本先生。
洛南高等学校は1981年以降、計14回吹奏楽コンクール全国大会に出場している(うち金賞受賞は4回)。その全てを指揮されたのが宮本輝紀 先生だった。我が家には洛南が1992年に自由曲で披露した「華麗なる舞曲」を収録したCDがあるが、その演奏のあまりの凄さに腰を抜かした。百聞は一見にしかず、是非一度聴いてみて下さい。これには淀工が「大阪俗謡による幻想曲」で史上最高のパフォーマンスを披露した89年の伝説的名演も入っている。
↑「全日本吹奏楽コンクール自由曲名演奏シリーズ Vol.4 オリジナル曲集/THE ORIGINAL」 CD
2006年3月、宮本輝紀 先生と丸ちゃんは共に定年を迎えた。宮本先生は洛南高校を去り、丸ちゃんは淀工に留まった。そして昨年、淀工は吹奏楽コンクール全国大会で見事21回目の金賞を受賞し、洛南高校は関西大会銀賞で敗退した。「吹奏楽に名門校などない。優れた指導者がいるだけだ」これが僕の持論である。
宮本先生は現在、摂南大学で客員教授をされている(吹奏楽部指揮・指導)。摂南大学吹奏楽部の現部長は淀工出身だそうで、宮本先生が丸ちゃんに「素晴らしい生徒さんです」と褒めていらっしゃった。 ちなみに丸ちゃんは、2006年4月より大阪音楽大学特任教授として「吹奏楽を素材とした音楽指導法」を担任している。その授業内容はこちらに詳しい。
サマコンに話を戻そう。固辞する宮本先生に丸ちゃんが是非にと指揮棒を託し、遂に宮本先生が頭上高く指揮棒を振りかざした。速いテンポで躍動感に満ちた「ブライアンの休日」が場内に響き渡る。スカッ!と空が晴れ渡るような演奏だった。丸ちゃんが指揮する淀工は引き締まったリズムと緻密なアンサンブルが最大の魅力なのだが、むしろ宮本流は生徒の自主性を尊重しながら生き生きとした表情にその真髄があると見た。それから突然の依頼にもかかわらず、宮本先生が目の前に置かれたスコアをめくることなく暗譜で指揮されたのにも仰天した。
宮本先生が淀工を振るのは今回が初めてだそうである。貴重な体験をさせてもらった。大体、丸ちゃんと宮本先生という吹奏楽界の巨星が並び立つ光景だけでも壮観だった。
第1部最後は出向井先生の指揮で「大阪俗謡による幻想曲」。コンクール用にカットされた淀工バージョンではなく、吹奏楽全曲版が演奏された。昨年のサマコンで聴いた「ダフニスとクロエ」と比べると、この時期としては既にかなり仕上がっているという印象を受けた。淀工といえば俗謡。これはもう大阪人に刻み込まれたDNAの成せる業と言えるのかも知れない。しかし、やっぱりこの曲は丸ちゃんの指揮で聴かないと!今年はあと何度聴けるのだろう……。取り敢えず、関西吹奏楽コンクールの会場にはなんとしても乗り込まなくては。
関連記事:
・大阪俗謡をめぐる冒険
・続・大阪俗謡をめぐる冒険
第2部はOBの演奏。「フィンガー5コレクション」は丸ちゃんが指揮したなにわ《オーケストラル》ウィンズ2008で東京公演のみアンコールで演奏されたらしい。ところがその時、とんでもないハプニングがあったとか。その顛末は大阪シンフォニカー交響楽団ファゴット奏者のふーじーさんがご自身のブログに書かれている。今回はそのリベンジの意味合いがあったのかも知れない。丸ちゃんがOBを指揮するときは手加減して現役生よりテンポを落とすことが多いのだが、今回は快速球で気持ち良かった。一人一人のパフォーマンスの上手さも光る。
「アフリカン・シンフォニー」を淀工が演奏するのは珍しいのではないだろうか?過去のグリコン(グリーンコンサート)CDの収録曲でも見た覚えがない。甲子園出場校の応援団がしばしば演奏するこの曲、やっぱり燃えるねぇ。丸ちゃんの指揮で聴けて幸せ♪
そして「おたのしみコーナー」はOBのメンバー紹介および曲当てクイズ。卒業生の進路を聞いてみると、学校の先生が多いのに驚かされる。考えてみれば現在淀工の顧問をしておられる出向井先生も葦刈先生も丸ちゃんの教え子だ。丸ちゃんは「教職のどこが良いのかよく分かりませんが」と謙遜するが、その理由は火を見るよりも明らかだろう。みんな「丸谷先生みたいになりたい」と憧れるのだ。
淀工はまもなく創部50周年を迎える。OBは現在1,700名に上るとか。それだけの生徒たちに音楽を教えてきた丸ちゃん(あ、本業は電気科の先生です)。凄いことだ。誰にも真似できることではない。
第3部はまず楽器紹介の"Introduction to Soul Symphony"、そして「アルメニアン・ダンス」「ザ・ヒットパレード 手拍子ボコボコ篇!」(パラダイス銀河→ヤングマン→世界に一つだけの花→羞恥心→幸せなら手をたたこう→六甲おろし→明日があるさ→We Are The World)がそれに続いた。ヒッパレで歌と踊りを担当するのは新一年生である。そしてアンコールは「ジャパニーズグラフティIV」(お嫁においで~サライ)、「星条旗よ永遠なれ」「ウエリントン将軍」。
またフェスティバルホールが改修工事のため使用できないので、来年のグリコンは1月18日(日)に大阪城ホールで開催されることが発表された。ついては千人規模の合奏をやりたいから各自楽器を持ってきて欲しいと丸ちゃん。恐らくこれは佐渡 裕/シエナ ウインド オーケストラのアンコールで恒例となっている会場も一体となった「星条旗よ永遠なれ」演奏企画に刺激を受けたものではないかと想像する。ちなみに佐渡&シエナの「ブラスの祭典ライヴ2004」DVDでは横浜みなとみらいホールに招待された丸ちゃんが佐渡さんの呼びかけでステージに上がる模様が収録されている。
来年、千人の合同演奏で候補になっている曲は「アルメニアン・ダンス」「カーペンターズ・フォーエバー」「世界に一つだけの花」「六甲おろし」「ふるさと」「翼をください(宮川彬良 編)」等だそうである。会場からリクエストを募ると、「宝島」という意見も挙がった。さて、最終的にどの曲に決まるのだろう?実に愉しみである。
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コメント
宮本先生は、大学卒業後のしばらくの間だけ京都市交響楽団でFg奏者として在籍し、その後、洛南高校の先生になられたそうです。
京響時代に某指揮者(現在では大御所)に対して本番でやったリハの仕返し伝説は、京芸Fgの後輩達の中では「かっこええ〜〜」と有名な話です。w
投稿: ふーじー | 2008年6月13日 (金) 01時07分
ふーじーさん、コメントありがとうございます。
リハの仕返しとは何なのか?とても気になりますねぇ。
さて、来週の大阪シンフォニカー「名曲コンサート」&定期演奏会。勿論、馳せ参じますよ。なんてったって巨匠・児玉宏さんが登場されるのですからこれは絶対聴き逃すわけにはいきません。期待してます!
投稿: 雅哉 | 2008年6月13日 (金) 01時26分