歌劇「ランスへの旅」
いずみホールでロッシーニ/歌劇「ランスへの旅」を聴いた。
このオペラはフランス国王シャルル10世の戴冠式を記念して1825年に初演されたものだが、その後楽譜が散逸し、いつしか忘れ去られていた。
20世紀後半ロッシーニ再評価の機運に乗り、ロッシーニ財団がヨーロッパ中から直筆楽譜を集めて復元、1984年に作曲家の故郷イタリア、ペーザロの「ロッシーニ・フェスティバル」でクラウディオ・アバド/ヨーロッパ室内管弦楽団により実に150年ぶりに蘇演された。これは同時にドイツ・グラモフォンによって世界初録音された。ロッシーニの素晴らしさを世界に伝道する使命に燃えるアバドは後にミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場(来日公演を含む)、そしてベルリン・フィルの定期演奏会でもこのオペラを取り上げている。
物語は実に他愛もないドタバタ喜劇である。まあ言ってみればヨーロッパ各国の歌合戦に終始する能天気なオペラであるが、これが実に愉快である。スタンダールが嘗て「ロッシーニの最も優れた音楽」と賞賛したのが頷ける。ヴェルディやプッチーニの陰に隠れ過小評価されて来たロッシーニは、モーツァルトやベートーヴェンの楽曲と比べて演奏される機会が極めて少ないハイドンの立ち位置と共通するものがある。その音楽の底抜けの明るさもなんだか似ていると言えるだろう。僕はこのオペラを観ながら、イタリア映画の名作「8 1/2」(フェデリコ・フェリーニ監督)の台詞「人生はお祭りだ、一緒に過ごそう」をふと、想い出した。
今回の演出・プロデュースは岩田達宗。そして佐藤正浩/ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団による演奏であった。いちいち列記しないが佐藤美枝子さんをはじめとする東西を代表する実力のある歌手たちが一堂に会し、この顔見世興行を華やかに彩った。ロッシーニ・クレッシェンドのワクワクするような愉しさときたら!特に驚異の17重唱は圧巻。もう、ただただブラボーあるのみ。
ステージ前面にオーケストラが陣取り、その後方の一段高い場所で物語が展開された。登場人物が1階客席を縫うように現れたりパイプオルガンの配置された中2階、客席2階も舞台として活用されたりと、ホールの空間が縦横無尽に駆使される演出も見事であった。2006年度音楽クリティック・クラブ賞を受賞した岩田さんの実力は伊達じゃない。何だか今回の公演は並々ならぬ気合いが感じられた。
最後、パイプオルガンに白い幕が下ろされると、そこにはタコ焼きを食べているロッシーニのイラストに「大阪にようこそのお運びで」の文字が!これは上方落語の決まり文句である。いやはやなんとも粋な関西初演でありました。
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