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激動のオーケストラ~ドリアン・ウィルソン/大フィル定期

雑誌「音楽の友」4月号《いま、ウィーン・フィルで何が起きているのか?》という特集に衝撃的なことが書かれていた。《変貌する“楽都”の名門オーケストラ/ウィーン・フィルの現在》という記事の中で、古楽器オーケストラが時代を席巻している今、ハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンといった古典派の音楽は、既に彼ら(ウィーン・フィル)のテリトリーではなくなったと断言されているのである。プログラムに取り上げられることが激減した古典派を演奏する場合でも、彼らでさえピリオド・アプローチ(ピリオド奏法)を意識せずに曲と向き合うことが許されない状況になってきたことが赤裸々に綴られている。

先日、ウィーン・フィルを指揮してマーラー/交響曲第十番のCDをドイツ・グラモフォンからリリースした俊英ダニエル・ハーディング(32歳)は「近いうちにワーグナーのピリオド・アプローチに挑む」と息巻いている。最早ヨーロッパではそんなところまで来ているのである。これが大阪シンフォニカー交響楽団の新・音楽監督:児玉 宏さんの仰るところの「時代認識」である。

関連記事:
21世紀に蘇るハイドン(あるいは「ピリオド奏法とは何ぞや?」

なお、ニコラウス・アーノンクールによるウィーン・コンツェントゥス・ムジクス結成(1953)に端を発する古楽器復興運動の歴史については、現在発売中の「レコード芸術」6月号に年表を交えて分かりやすく紹介されている。

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さて今回、大阪フィルハーモニー交響楽団が定期演奏会で取り上げたメンデルスゾーン/交響曲第一番は1824年に作曲された。メンデルスゾーンが15歳のときである。これはベートーヴェン/交響曲第九番が初演された年でもある。ということは即ち、この曲も21世紀の現在ではピリオド・アプローチの射程内に入っているという事だ。実際、バロック・チェリストの鈴木秀美さんは最近メンデルスゾーン/チェロソナタ集をフォルテピアノ伴奏でレコーディングされたし、鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンによるピリオド楽器でのメンデルスゾーン・プロジェクトも始動した(来週、兵庫県立芸術文化センターで行われるコンサートの詳細はこちら)。

だからこの度、お初にお目にかかる指揮者ドリアン・ウィルソンがどのような新しいメンデルスゾーン像を提示してくれるのか愉しみにしていたのだが、蓋を開けてみると20世紀的オーソドックスな解釈でがっかりした。彼には2008年という今日にメンデルスゾーンを演奏する意義についての時代認識が欠けている。バルトークレスピーギの前にメンデルスゾーンを持ってくるというプログラム構成の意味も不明だ。

一方20世紀に生まれた曲目、プログラム後半のバルトーク/ヴィオラ協奏曲レスピーギ/バレエ組曲「シバの女王ベルキス」は文句なしに良かった。

バルトークで登場したアントワン・タメスティのヴィオラはいぶし銀というか、非常に深みのある音色に聴き惚れた。

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またアンコールのバッハではバルトークとは一転してノン・ビブラートによるピリオド奏法で、そのアプローチの違いが鮮やかだった。

「シバの女王ベルキス」は今年1月に淀工「グリーンコンサート」で聴いたばかりだが、吹奏楽の世界では極めてポピュラーなこの曲もオーケストラによる原曲が演奏される機会は稀で、僕も今回初めて実演を聴いた。さすが「ローマ三部作」のレスピーギ!その色彩感豊で華麗なオーケストレーションは"魔術師"の名に相応しい。考えてみればレスピーギはやはり管弦楽の"魔術師"と呼ばれたリムスキー=コルサコフに師事しているが、《ソロモンの夢》のチェロ独奏や《夜明けのベルキスの踊り》のフルートの旋律は、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」にどこかしら似ている。

終曲《狂宴の踊り》は淀工の演奏ではアイーダ・トランペットが登場したのだが、大フィルのバンダ(金管別働隊、2階上手側面席)が普通のトランペットだったのは些か残念だった。しかしこのレスピーギでは大フィルがその機動力を最大限に発揮。特に鉄壁の金管アンサンブルはさすが長年ブルックナーで鍛え上げられただけのことはあると甚く感心した。なお、トロンボーン奏者の磯貝富治男さんは1993年に創価学会関西吹奏楽団を指揮し、この「ベルキス」で全日本吹奏楽コンクール金賞を受賞されている。

コンサートマスターは長原幸太さん。また、この3月まで大阪シンフォニカー交響楽団の特別主席チェロ奏者を務めてこられた金子鈴太郎さんが客演トップとして素晴らしいソロも披露された。金子さんは11月に大植さんが振る定期でも登場される予定で、ひょっとして…そういうこと?

4月の定期同様、今回もパンフレットに一枚の紙が挟まれており、そこには大阪府が補助金および貸付金を廃止する方針で大フィルは苦境に立たされており、このままいくと60年間培われたオーケストラの灯が消えかねないという旨が書かれていた。

大阪府は知事・副知事も出席する部長会議の概要を公開している。こちらをご覧あれ。5月20日の議事録ではオーケストラ問題が真剣に話し合われている。

橋下知事の「ルーブル美術館を移転するとか、ベルリンフィルやウィーンフィルを廃止するとなると大変なことになるはず。大阪にあてはめて考えるとどうだろうか」という発言には頷けるものがある。これは僕が昨年7月31日の記事「在阪オケ問題を考える」の中で、《オーケストラは西洋の文化であり、大阪の文化ではない》《大阪に4つもオケはいらない》と書いた認識に近い。

今後の大阪府の日程は、6月上旬に知事の方針が決定され、7月の臨時会議で審議されるそうである。さてこの騒動、最終的にはどういう形に落ち着くのだろうか?

関連ブログ記事:
不惑ワクワク日記(僕は定期1日目、こちらは2日目の感想)

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コメント

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ベルキス、こういう曲こそライブ、かなあと。CDでは音が飽和してしまって、ここまでの音が鳴りませんものね。

ブラス版も聴いてみたいと思いました。

投稿: ぐすたふ | 2008年5月24日 (土) 02時14分

ぐすたふさん、早速のコメントありがとうございます。

吹奏楽版「ベルキス」のプロの演奏でまずお勧めなのは大阪市音楽団によるCD「ニュー・ウィンド・レパートリー1998」でしょう。

アマチュアなら本文でも紹介した大フィルの磯貝さん指揮による創価学会関西吹奏楽団の演奏はプロ顔負けの圧倒的名演です。そして今年の淀工「グリーンコンサート」の演奏も見事なのですが、CDが2枚組なので若干値段が高いのが難点でしょうか。

投稿: 雅哉 | 2008年5月24日 (土) 02時43分

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