ウィーン・ミュージカル・コンサート
舞台ミュージカルの最高傑作はと問われたら、僕は躊躇することなくロイド=ウェバーの「オペラ座の怪人」とクンツェ&リーヴァイの「エリザベート」を挙げる。これらはさしずめ、オペラにおけるヴェルディ/「椿姫」「オテロ」、プッチーニ/「トスカ」のような位置にあると言えるだろう。
「エリザベート」はアン・デア・ウィーン劇場で幕を開けた。この劇場を建てたのはモーツァルト/オペラ「魔笛」の台本を書いたシカネーダー(映画「アマデウス」やミュージカル「モーツァルト!」にも登場)であり、その後ベートーヴェンが音楽監督となりオペラ「フィデリオ」を上演したり、交響曲第五番「運命」、第六番「田園」もここで初演されている。
「エリザベート」ウィーン版の演出を手掛けたのは「ニーベルングの指輪」などオペラ界で名高いハリー・クプファー。非常に前衛的アプローチで、ハプスブルク家崩壊の物語が遊園地(映画「第三の男」で有名になったプラター公園の観覧車など)を模した舞台装置で展開される。
その後、ドイツ、オランダ、ハンガリーなどで上演され空前の大ヒットとなった。しかし、上演国によって演出が全く異なるというのもこのミュージカルの特徴である(「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」などはオリジナル演出の変更が許されていない。どこで観ても同じである)。
宝塚歌劇版「エリザベート」を担当したのは日本を代表する演出家、小池修一郎さん。小池さんはその後、東宝版も新演出され、どちらも遜色のない見事なものだった。僕は前衛的でシンプルなウィーン版よりも、分かりやすくて華やかな小池版のほうが好きである。
ウィーン版は昨年、大阪の梅田芸術劇場に装置・オーケストラなど丸ごとの引っ越し公演を行った。そして今回、その1周年を記念してご当地の出演者らによるコンサートが開催された。
歌われたのは、ミュージカル「ダンス・オブ・ヴァンパイア」「ロミオ&ジュリエット」「レベッカ」「モーツァルト!」「エリザベート」から珠玉のナンバー。ちなみに「ロミオ&ジュリエット」のみウィーン産ではなくフランス発のミュージカル。フランス産といえば「レ・ミゼラブル」もそうだ。なお、「ロミオ&ジュリエット」は日本未上演で、「ダンス・オブ・ヴァンパイア」は東京では上演されたが大阪には来ず、「レベッカ」は現在、東京シアタークリエで上演中。詳細はこちら。
出演者は以下の通り。
- 94年以降、ウィーンでエリザベートを演じ続けるるマヤ・ハクフォート
- ブタペスト版「エリザベート」でトートを演じ、ウィーンの「ダンス・オブ・バンパイア」にも出演したマテ・カマラス
- ウィーンの「エリザベート」で皇太子ルドルフを演じ、「ロミオ&ジュリエット」ウィーン版のオリジナル・キャストであるルカス・ぺルマン
- 同じく「ロミオ&ジュリエット」でヒロインを演じたマジャーン・シャキ
- ウィーン版「エリザベート」のフランツ・ヨーゼフや「モーツァルト!」のレオポルド役アンドレ・バウアー
まず兎に角、今回の出演者たちの圧倒的歌唱力に打ちのめされた。長いオペラの歴史がある彼らの実力には日本人はまだまだ到底敵わない。と言うよりもむしろ、オーケストラが西洋の文化であるのと同様にミュージカルも彼らのものであり、希っても永遠の手が届かぬ高嶺の花なのではないかという気さえした。それは日本人がサッカーでいくら頑張ってもFIFAワールドカップの決勝に進出できなかったり、短距離走やバスケット・ボールの世界で白人や黄色人種が黒人に全く歯が立たないのと同じである。これは生まれもった資質、身体能力の差なのだろう。ちなみに日本ミュージカル界で、この人なら世界に通用する歌唱力を持っていると僕が想っているのは山口祐一郎(東宝エリザベート、レベッカ)、姿月あさと(宝塚エリザベート)、島田歌穂(レ・ミゼラブル)、笹本玲奈(レ・ミゼラブル、ミス・サイゴン、ルドルフ~ザ・ラストキス~)くらいかなぁ。
マテ・カマラスはサービス精神旺盛で、日本語で「エリザベート」より"愛と死のロンド"を歌ってくれた。この曲はウィーン版にはなく、宝塚のために新しく書かれた曲。これが好評でブタペスト版でも使用された。マテが途中、歌詞が分からなくなってうやむやになる場面もあったけれど、それはご愛嬌。関西のファンは大喜びでした。
マジャーン・シャキは歌が上手いだけではなく、容姿が可憐なのにも吃驚した。映画「オペラ座の怪人」でクリスティーヌを演じたエミー・ロッサム(2009年公開予定のハリウッド映画「ドラゴンボール」ではブルマ役を演じる)にどこかしら似ている。そしてエミーよりマジャーンの方が可愛い。
ルカス・ぺルマンはイケメンなので日本にもファンは多い。ただ、彼が大沢たかおと共演したミュージカル「ファントム」は、馴れない日本語に悪戦苦闘したためか精彩を欠いていた。でもさすがに皇太子ルドルフやロミオを演じると、格好良くて立ち姿が絵になるし、よく通るその歌声は文句なしだった。
マジャーンとルカスが共演した「ロミオ&ジュリエット」は是非全編観てみたい。舞踏会シーンは意表を突くロック調。かと想えば、ポップな曲あり、美しいバラードありと変幻自在の音楽も素晴らしい。日本でやるとしたらやっぱり井上芳雄くんと笹本玲奈ちゃんあたりが妥当なのかな。
初めて聴いた「レベッカ」や「ダンス・オブ・ヴァンパイア」も凄く良かった。今ヨーロッパ産ミュージカルは飛ぶ鳥を落とす勢いだということが肌で感じられた。ブロードウェイの大作が軒並み失敗し、トニー賞でも小粒なインディーズ系(「アベニューQ」「春のめざめ」"In the Heights")が席巻。ロイド=ウェバーの才能は枯渇してロンドン・ミュージカルも衰退。そこへ第三の勢力としてウィーン・ミュージカルが台頭してきているという紛れもない事実。今、彼らの動向から目が離せない。
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