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たっぷり!なにわ 《オーケストラル》ウィンズ 2008

年一回、吹奏楽をこよなく愛するオケ奏者たちが集う祭典、なにわ 《オーケストラル》ウィンズ(NOW)を聴きにザ・シンフォニーホールへと足を運んだ。《なにわ》と銘打たれているが、54人のメンバーのうち18人が関東のオーケストラに所属する音楽家である。その響きはあくまで柔らかく、よく溶け合う。

プロの指揮者ではなく、中学・高校の吹奏楽部を指導する先生が指揮台に立つというのもNOWの特徴である。2003年からレギュラーとして大阪府立淀川工科高等学校(淀工)の丸谷明夫先生(丸ちゃん)および、ゲスト・コンダクターが登場する。今年は東海大学付属高輪台高等学校の畠田貴生先生であった。高輪台は昨年まで3年連続コンクール全国大会に出場したので(すべて金賞)、今年は大会規定によりお休みである。NOWのゲストはこの様に、三出一休ルールでコンクールに出場出来ない学校顧問の先生が毎回選ばれている。既に夏のコンクールに向け各々の学校では猛練習が始まっているので、それに差し障りがないようにとの配慮なのであろう。

ちなみにやはり今年、三出休みに該当する吹奏楽名門校に大滝 実先生率いる埼玉栄高等学校があるが、埼玉栄はNOWのコンサートと同じ日5月4日にラ・フォル・ジュルネ金沢(「熱狂の日」音楽祭)に出演していた。詳細はこちら

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さて、NOWの話に戻ろう。開演5分前のアナウンスが流れ、ステージにメンバーが登場。思い思いに音出しをしているかと思いきや、その混沌とした音の中から、次第に明確なモチーフ(音型、動機)が浮かび上がってくる。「えっ!これってもしかして既に曲が始まっているの?」と気づいた時には丸ちゃんがにこやかに登場、そのままタクトを振り始めた。正にサプライズのオープニングであった。その曲は清水大輔/夢のような庭NOWの委嘱作品で当然世界初演。タイトルは「夢のよう、なにわ」という洒落にもなっている。輝かしいファンファーレで、初期のジョン・ウイリアムズの映画音楽(「11人のカウボーイ」「華麗なる週末」)を彷彿とさせる、いかした曲だった。

ヴォーン・ウイリアムズ/トッカータ・マルツィアーレについてはNOW代表世話人の金井信之さん(大阪フィルハーモニー交響楽団・主席クラリネット奏者)から「マルツィアーレとはマルス=火星のことで、これはホルスト/惑星にも出てくるように《戦いの神》です」という解説があった。3拍子なのにマーチという不思議な曲を丸ちゃんはゆったりとしたテンポで進め、勇壮で格調高いトッカータが展開された。

続いて畠田先生が登場。以前から想っていたのだが、畠田先生のワイルドな風貌は熊を連想させる。丸ちゃんから「見るからに胡散臭そうでしょう?(会場がから笑い)…でも本当はいい人なんですよ。雰囲気で損しているんです」との紹介があった。

畠田先生の指揮の特徴は豪放磊落なところにある。ダイナミックな音作りで、細かいところは気にしない。だからそれは悪くいえば"大雑把"ということにも通じる。全日本吹奏楽コンクールにおける高輪台の演奏は荒々しいハチャトゥリアン/バレエ音楽「ガイーヌ」などは先生の資質にピッタリだと想ったが、昨年のラヴェル/ダフニスとクロエみたいな繊細な曲は似合わないなぁと感じられた。

今回畠田先生がまず振ったのはフラク/ロシア舞踏組曲。第1曲「序曲」と第2曲「哀しい舞曲」は平板な演奏であったが、第3曲「ペトルーシュカ」、終曲「トレパーク」など民族的でリズミカルな舞曲になると先生の本領発揮、勢いがあってスカッとする名演となった。

リード/エル・カミーノ・レアルも引き続き畠田先生。砂塵が舞い、熱きラテンの血潮が滾るこの曲は畠田先生の独擅場だった。

NOWではその年のコンクール課題曲全曲も演奏されるのだが、5曲各々の感想は記事「大阪市音楽団/青少年コンサート」で既に書いたので、そちらをご覧あれ。丸ちゃんが指揮したのはブライアンの休日晴天の風のマーチ2曲、畠田先生天馬の道セリオーソだった。セリオーソについては丸ちゃん曰く「長い、暗い」「私の性に合わない曲」と散々だった。遅いテンポの火の断章は指揮者なし。

高校生が作曲した課題曲、晴天の風についてはティンパニ奏者が「転調が多くてその都度ペダルで音を変えないといけないので、意味ないよなぁとムカッとします」とコメント。丸ちゃんが庇うように「いやぁ、高校生にしては良く書けてますよ。(客席の高校生に向かって)こんなん、書けます?」などといった軽妙なトークと共に進行した。

NOWで毎回行われる実験であるが、天馬の道は通常の指揮者を取り囲む形ではなく縦配置で演奏され、晴天の風はクイズ形式の間違い探し(初級編:バスドラムとシンバルの譜面が入れ替わり、クラリネット・パートをトランペットが吹いている。上級編:シロフォンとグロッケンの楽譜が入れ替わり、さらにバリトン・サックスとアルト・サックス、および、ピッコロと2ndフルートも入れ替わっていた)。

間違い探しで正解を答えた女子高生は丸ちゃんからインタビューを受け、岡山学芸館高等学校の生徒であると明らかにした。丸ちゃんが「わざわざ岡山から!?何人くらいで?」との質問に「今日はうちの学校から115人が一緒に来ています」と答え、場内がどよめいた。

ブライアンの休日ではトランペットTp、トロンボーンTb、ユーフォニアムの奏者がコンクール直前に造反して部活に来なくなったという設定で、オーボエがTpをファゴットがTbを代用して吹くという面白い企画だった。ご丁寧にオーボエが楽譜の指定通りミュート(弱音器)を付けて吹くというパフォーマンスまであり、聴衆に受けていた。

また今回、金井さんに誘われPiano&Celestaとしてメンバーに加わった下野竜也さん(読売交響楽団・正指揮者)について、丸ちゃんが「オケの楽員というのは指揮者について8割が悪口ばかり言っていて、2割くらいしか褒めないんです。でも下野さんについては悪い評判を聞いたことがありません」と紹介、それに対して下野さんは「尊敬する丸谷先生の指揮で演奏できて光栄です」と返して、丸ちゃんが照れてるという微笑ましい一幕もあった。

休憩を挟みクリフトン・ウィリアムズ/ファンファーレとアレグロ丸ちゃんの指揮により引き締まったリズムで演奏され、懐かしのコーディル/吹奏楽のための民話へと続いた。丸ちゃんが「これを演奏したことがある方は挙手して下さい」と呼びかけると、会場からもちらほらと挙がった。NOWのメンバーも半数くらい演奏経験があるようだ。フルートの中村めぐみさんはこの曲を小学校5年生の時演奏し、全国大会まで勝ち進んだとお話しされた。僕も中学生の時、部活でこれを演ったことがある。中1の時はホルン、中2からチューバ担当だったのだけれど、はて、どっちで吹いたっけ?……丸ちゃん曰く、「色褪せぬ名曲」。けだし至言である。

グレンジャー/岸辺のモリーは軽快なテンポ。アイルランド民謡に基づく素朴な、じんわりと心に沁みる珠玉の作品。金井さんも「もっと演奏されても良い曲」と仰っていた。

ヴァンデルロースト/モンタニャールの詩畠田先生の指揮。ヨーロッパの屋根とも呼ばれるモンブランに接するヴァッレ・ダオスタ州(イタリア西北部)の自然や人々の歴史を描く壮大な交響詩である。またリコーダー4本+タンバリンの5重奏で演奏する場面もあったりして飽きさせない。こういう賑やかな舞曲が登場したり、豪快に鳴らす派手な曲は畠田先生には自家薬籠中のものである。以上でプログラムの曲目は全て終了。しかし当然、これでは終わらない。

鳴りやまぬ拍手に応え丸ちゃんが登場、昨年12月19日に関西吹奏楽連盟理事長の松平正守 先生が亡くなったことにふれ、アンコール1曲目のチェリーヌ/行進曲「スペアミント」を演奏。何故この曲なのかは丸ちゃんの松平先生への弔辞にも登場するのでこちらをご覧あれ。中々楽譜が見つからず、自衛隊の音楽隊まで問い合わせて取り寄せたとか。

続いて畠田先生が高校時代にスネア・ドラムを演奏したという想い出の曲ジョン・ウイリアムズ/映画「インディー・ジョーンズ」からレイダーズ・マーチ。ただ残念なことに中間部でしっとりと流れるマリオンのテーマ(シリーズ1作目で登場したヒロインの名前。最新作「クリスタル・スカルの王国」で実に27年ぶりに再登場する)は省略された。

〆は丸ちゃんの指揮で千の風になって。客席も一緒に歌った。

16時開演で終わってみれば19時20分。盛り沢山で中身の濃い演奏会だった。ありがとう、なにわ 《オーケストラル》ウインズ!来年も愉しみにしています。そうそう、それから4年後三出休み)のゲスト・コンダクターは是非、埼玉栄の大滝 実先生で宜しくお願いしますネッ♪

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コメント

お疲れ様でした!
長かったですけど、いつもながら時間を忘れさせる楽しいひとときでした♪
そしてそして、客席中央をガン見しながら結局見つけられませんでした・・・当たり前ですよね(^_^;)

ではまたサマコンで(^0^)/

投稿: トマメマト | 2008年5月 7日 (水) 06時20分

トマメマトさん、コメントありがとうございます。

NOWが終了し、ザ・シンフォニーホールを出たのが19時20分。それから徒歩で梅田に移動し、インデアン・カレーで夕食をかき込みました。そして20時からTOHOシネマズでアカデミー主演男優賞を受賞した映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を鑑賞。5/4は僕にとって、そんなタイトな一日でした。

さて淀工のサマコン、今年も勿論往きます。アルト楽器社で既にチケットは購入済みです。またしっかりレポートしなければなりませんね。

投稿: 雅哉 | 2008年5月 7日 (水) 10時20分

はじめまして!今年から娘が淀工生になりました。もちろん吹奏楽をやりたくて淀工を目指し、ようやく吹奏楽部での活動をはじめました。何もわからずではいけないと思い探しているとき、こちらにたどり着きました(^^;丸谷先生の人柄、淀工吹奏楽部のこと、とてもよくわかり、今では娘より詳しくなりました(^^)v娘もNOWに初めて行かせていただきほんとに感動して興奮して帰ってきました!これからたっぷり娘と淀工吹奏楽部を楽しみたいと思っています!!

投稿: らいまま | 2008年5月 8日 (木) 09時20分

らいままさん、はじめまして。

淀工生の保護者の方からこの様なお言葉を頂くと、嬉しいと共に身の引き締まる想いがします。

お嬢さんの担当パートは分かりませんが、一年生なら恐らくサマコンは「ザ・ヒットパレード」の歌と踊り(「幸せなら手をたたこう」?)をされると推測します。また、じっくりと拝見させて頂きますね。

投稿: 雅哉 | 2008年5月 8日 (木) 22時38分

こんばんは。
丁寧でかつ楽しいレポートありがとうございました。
一番気になっていたアンコールの曲目もわかってうれしかったです。松平先生の追悼だったのですね。
今年は東京公演も完売の席が出たようでよかったです。
4年後の指揮に大滝先生!是非聴きたいですね。

投稿: ごいんきょ | 2008年5月 8日 (木) 22時58分

まるでラジオで実況中継を聴いているような詳細な電子レポートですね。今回も一文字一文字噛み締めるように拝読いたしました。オープニングの描写はCDの発売が待ちきれず早く聴きたいと思わせてくれます。「華麗なる週末」を観に映画館に足を運びましたよ。

この前日NOWのメンバーは淀工の合奏場でプログラム通りに演奏しました。それに立ち会うことができた息子は「こんな近くで演奏が聞けた」と両手で距離を示して喜んでおりました。こんな経験をさせていただけるなんて淀工生冥利に尽きるというもんです。橋爪先生に付いてお世話させていただいたようです。「なにわ《オーケストラル》ウィンズ始動!」の終わりのほうに「NOWのリハーサルも淀工の合奏場で行われるようである。」とありますが、本当に本番間際のリハーサルでした。

ホームでは好きなように書いている私ですが、アウェイでは緊張します。非公開のほうが書き易いですが、ちょっと表に出てみようと思いました。

投稿: たくみん | 2008年5月 9日 (金) 03時55分

ごいんきょ様のサイトに紹介して頂きましたので、今回は相当力を入れて記事を書きました。

昨年の全日本吹奏楽コンクールで究極の名演を挙げろと言われたら、僕は迷うことなく大滝 実/埼玉栄の「カヴァレリア・ルスティカーナ」と答えます。あれは凄かった。審査員の採点表でも埼玉栄が最高得点でしたが、当然だと想います。埼玉栄はラ・フォル・ジュルネにおいて、吹奏楽でベートーヴェンを演ったみたいなので、それも聴いてみたかったです。

NOWの東京での知名度も次第に上がってきましたね。来年こそは全席完売になればいなぁ。

投稿: 雅哉 | 2008年5月 9日 (金) 10時15分

たくみんさん、再びのコメントありがとうございます。

「華麗なる週末」(The Reivers,1969)の作曲はジョン・ウイリアムズなのですが、「華麗なる賭け」(The Thomas Crown Affair,1968)という映画もあって、こちらの作曲はミッシェル・ルグラン。どちらも主演がスティーブ・マックイーンなのでややこしいですね。でも音楽はいずれも大傑作です。

NOWのことですが、プロのお世話をしてその代わりに可愛がられ色々と教えてもらえる。淀工生は本当に恵まれた環境でとても羨ましいです。他では絶対に体験できない貴重な三年間。悔いの残らないよう過ごして欲しいですね。

投稿: 雅哉 | 2008年5月 9日 (金) 10時49分

こんにちは!ちなみに娘は「テューバ」を吹いています。日曜日には「ブラスエキスポ」に出かけてきました。朝はお天気がいまひとつでしたが、午後はいいお天気で痛いくらいの日差しで・・・(家族揃って真っ赤に日焼けしました。そうそう丸谷先生も真っ赤でした)吹奏楽&マーチング三昧の一日でした(^^)次はサマーコンサート!!いよいよ追っかけ開始です(^^:

投稿: らいまま | 2008年5月13日 (火) 08時10分

らいままささん、こんにちは。

お嬢さんはチューバですか!重い楽器なので移動とか大変ですね。僕は中一の時にホルンを吹いていました。しかし、チューバを吹いていた先輩が引退したため中二でチューバを吹くことになりました。高校からはフルートに転身し今に至ります。

ブラスエキスポは直前まで往くかどうか迷っていたのです。しかし前日の予想が雨だったので今年は見送らせて頂きました。昨年は往ったんですよ。快晴だったので暑くて死ぬかと想いました。

投稿: 雅哉 | 2008年5月13日 (火) 09時02分

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