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2008年4月 4日 (金)

魔法にかけられて

Enchanted

評価:A+

映画公式サイトはこちら

観て腰を抜かした。なんて素敵な映画なんだろう!これは、往年のディズニー・アニメーションへの愛のこもった讃歌であり、ディズニー・スタジオの高らかな復活宣言でもある。

冒頭部、ディズニーのロゴマークとしてお馴染みのシンデレラ城が登場する。すると、あれよあれよという間にカメラが城の窓の中に飛び込むという意表を突く展開。この瞬間、僕はこの映画に恋をした。

プロローグはセル画によるフル・アニメーションで話が進む(日本のテレビ・アニメの大半はセル画の枚数を減らしたリミテッド・アニメーション)。そして森の場面ではカメラが画面奥の方向にずんずん分け入ってゆく。なんと、“マルチプレーン・カメラ(Multi Plane Camera)”を使用しているではないか!!

ウォルト・ディズニー・スタジオが開発したマルチプレーン・カメラが最初に用いられたのはアカデミー賞に輝いた短編「風車小屋のシンフォニー」(The Old Mill,1937年)である。その成功に手ごたえを感じたディズニーは長編映画第1作の「白雪姫」(1937)や「バンビ」(1942)などでもこの装置を効果的に使用した。平面的なセル画をいかに奥行きがあるように見せるのか?その具体的な撮影方法についてはここが分かり易く解説してくれている。

「魔法にかけられて」のアニメーション・シーンでは「白雪姫」「バンビ」などで活躍した動物キャラクターが多数登場し、またジゼル姫の勇敢なキャラクターは明らかに「美女と野獣」(1991)のベル、「アラジン」(1992)のジャスミン姫など、破竹の勢いだった90年代・新生ディズニー映画のヒロイン像を踏襲している。

"魔女"ナリッサの策略でジゼル姫は現代のニューヨークに追放されるのだが、そのふたつの世界を結ぶ井戸を通過する場面でセル画の2DアニメーションがCGによる3Dアニメ+実写の融合に変化する。その転換が実に鮮やかであった。

舞台をニューヨークに移してからも、例えばジゼルが弁護士事務所の水槽の魚を覗き込む場面で、「リトル・マーメイド」のナンバー"Part of your world"のメロディが流れてきたり、セントラル・パークで歌って踊る場面では「美女と野獣」のルミエールみたいな蜀台のキャラクターが登場。クライマックスの舞踏会は当然「シンデレラ」の要素が盛り込まれているのだが、それだけではなく「美女と野獣」でベルと野獣が踊る場面とカメラワークがそっくりだったりといった具合に、映画全編が往年のディズニー作品のパスティーシュ、オマージュとなっている。

「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ポカホンタス」の4作品で、作曲賞と歌曲賞を2部門ずつ受賞し、合計8個のオスカー保持者アラン・メンケン(作曲家として最多)は本作で久しぶりにその本領を発揮した。いやもう兎に角、音楽が素晴らしい。セントラルパークの場面で歌われるナンバーは、カリビアンな雰囲気に満ち、「リトル・マーメイド」の名曲"Under the Sea"を彷彿とさせた。目新しいところは何もないが、ディズニー映画はそれでいいのだ!偉大なるマンネリズムのどこが悪い?

最後に、ディズニー・スタジオの歴史を踏まえていると、より一層本作を愉しめると想うので、掻い摘んでご紹介しておく。

1966年ウォルト・ディズニーが亡くなり、スタジオは長期低迷期に入る。そして「リトル・マーメイド」以降、1990年代に再び黄金期を迎えるのだが、その立役者は映画部門の最高責任者だったジェフリー・カッツェンバーグおよび、作詞・作曲を担当したハワード・アシュマンとアラン・メンケンだった。

しかし、アシュマンは「アラジン」製作途中にAIDSで亡くなり、カッツェンバーグは当時ディズニーの会長兼最高経営責任者(CEO)だったマイケル・アイズナーと仲が悪く、追い出されるような形でディズニーを退職し、スピルバーグらと共にドリームワークスSKGを設立する。そして取り残されたメンケンに仕事のお鉢は回ってこなくなった。

優秀な才能を失ったディズニー・スタジオは顕著に作品の質を落とし、業績も悪化。この凋落ぶりに焦りを感じたアイズナーは「これからは全てCGアニメに移行し、もう二度とセル・アニメーションは手掛けない」と宣言し、大量にアニメーターを解雇するなど混乱を極める。差し詰め、アイズナーは「魔法にかけられて」における"魔女"の役割を果たしたと言えるだろう。

2004年の株主総会でアイズナーに対する不信任投票が43%で可決、進退窮まったアイズナーは2005年9月末、遂にCEOを退任した。2006年5月5日ディズニーはCGアニメーションの雄・ピクサー社(「トイ・ストーリー」「ファインディング・ニモ」「レミーのおいしいレストラン」)を買収するのだが、この結果ピクサーのCEOであるスティーブ・ジョブズがディズニーの筆頭株主および役員に就任し、ピクサーの全作品を総括指揮してきたジョン・ラセター(「トイ・ストーリー」「カーズ」の監督でもある)がディズニーの最高製作責任者に収まった。つまりこの買収劇は実質上、ピクサーが弱体化したディズニーを制圧したのである。そしてラセターはディズニーの伝統であるセル・アニメーションの復活を即座に決断した(ラセターはピクサーに就職する前、ディズニーのアニメーターだった)。

今まさに、ディズニー・スタジオに3度目の春が訪れようとしている。And they lived happily ever after.(そして彼らはいつまでも、幸せに暮らしましたとさ)

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