延原武春/テレマン室内管弦楽団 クラシカル楽器によるベートーヴェン・チクルス第2弾
いずみホールで日本テレマン協会によるベートーヴェン・チクルス第2夜を聴いた。演奏されたのは交響曲第二番&五番。チクルス第1回目の記事はこちら。
この日、テレマン室内管弦楽団のコンサートマスターを務めたのはイギリスからやって来たヒュー・ダニエル。前回コンマスだったバロック・ヴァイオリンの名手、サイモン・スタンデイジの弟子である。
他にトラ(客演)として大阪フィルハーモニー交響楽団からヴィオラの上野博孝さんに加え、首席フルート奏者の榎田雅祥さんも参加された(ピッコロフルートを担当)。榎田さんはバロック・フルート=フラウト・トラヴェルソも演奏される方で、古楽専門のベテル室内アンサンブルのメンバーでもある。以前僕がベテルを聴いた感想はこちら。さらに榎田さんは来る5月4日に開催される吹奏楽の祭典なにわ<<オーケストラル>>ウィンズ2008(←当日券あり!!)に出演される予定である。
それから驚いたのが、サックバット(トロンボーンの古楽器)奏者として参加されていた伊勢敏之さん。創価学会関西吹奏楽団の指揮者として毎年のように全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞されている。特に2006年の自由曲「科戸の鵲巣(しなとのじゃくそう)-吹奏楽のための祝典序曲」を僕は大阪府吹奏楽コンクールに於いて生で聴かせて貰ったのだが、その鉄壁のアンサンブルには腰を抜かした。
さて、プログラムには作曲家自身による次のような言葉が掲載されていた。
本当は陽気にという意味のアレグロなる記号を、しばしば早さの観念から遠く離れてしまって使うほど馬鹿げたことがあるでしょうか。そうなると作品自身と記号とは正反対のものになってしまいます。
(ベートーヴェン書簡集より)
指揮をされた延原武春さんの姿勢は、前回のチクルスから一貫していた。ベートーヴェンの指定したメトロノーム速度を遵守すること。作曲された当時の演奏スタイルを可能な限り研究し、生き生きとした音として現代に蘇らせること。そしてその意図は概ね成功したと言えるだろう。
今回は特にアタック、アクセントの強調が際立っていて、活力に満ちた斬新なベートーヴェンであった。特に交響曲第二番第4楽章は畳み掛けるような勢いがあり、これほど熱気溢れる演奏は聴いたことがないくらいだった。交響曲第五番第1楽章冒頭は、やや大人しめに始まったが、次第に激しさを増し、”疾風怒濤”の展開となった。そして苦悩の第1楽章から運命を克服し、勝利を高々と謳い上げる輝かしい第4楽章へ!作曲家の仕組んだ音楽プログラムが鮮明に浮き上がってくる、目の覚めるような演奏であった。
ただ前回同様、管楽器のアンサンブルが乱れて危なっかしい箇所が散見されたのも事実である。特に交響曲第二番冒頭はヒヤリとさせられたが、序奏から主題提示部に移るあたりから次第に安定してきた。
それにしてもバルブのない(自然倍音のみ発音できる)ナチュラル管の難しさはよく分かるが、ホルンのミスはもう少し何とかならないものか?延原さん、地元の音楽家たちでどうにかやりくりしようという意思は理解できますが、僕は管楽器の客演をもっと強化した方が良いように想えます。このままでは、延原さんの意図が十分音に「翻訳」されていないというもどかしさがどうしても付き纏うので。折角素晴らしい解釈のベートーヴェンなのに勿体ないです。
休憩後、後半の演奏に移る前に延原さんから古楽器の解説があった。前回はナチュラル・ホルンが取り上げられ、ゲシュトップ(フト)奏法も実演してくれたのだが、今回はナチュラル・トランペットや第五交響曲で初めて登場するコントラファゴット、ピッコロフルート、サックバットなどが紹介された。
会場の入りは8割強。次回の演奏会は5月16日(金)に同じいずみホールにて行われる。曲目は交響曲第四番&六番「田園」。僕も勿論また来る予定。これを聴き逃すわけにはいかない。
関連ブログ記事:
虫籠日記
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コメント
こんにちは。
再び、わたしのつたない感想文(笑)にトラックバックとリンクをありがとうございます。
今回は、熱演!って感じでしたね。
ホルンの頼りないのには慣れましたが(そういう問題ではない(笑))、
やっぱり音が外れると一気に間の抜けた感じになってしまうし残念ですよね。
あの長いトロンボーンはやっぱりサックバットって言うんですね。
パンフレットのメンバーリスト見て、そうなのかなと思ってたんですが、
延原さんの説明が聞こえにくかった...。
たくさん説明されると覚えておくのも大変です(笑)。
来月もすごく楽しみです!
投稿: みなみ虫 | 2008年4月30日 (水) 23時40分
みなみ虫さん、コメントありがとうございます。
奏者の不備はありましたが、聴き応えのある演奏でしたね。そうでなくても関西のオケは金管が弱いのですが、古楽器(ナチュラル管)はさらに演奏が困難で、卓越した演奏家は日本では皆無に等しいのではないかと想われます。桐朋や藝大に古楽科が出来てまだ間がないので、これから若い音楽家が育ってくるのを気長に待つしかないかも知れませんね。
投稿: 雅哉 | 2008年5月 1日 (木) 10時26分