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大植英次/情熱のスペインと華麗なる舞曲

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に往った。テーマは"スペイン"そして"踊り"である。

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首席コンサートマスターの長原幸太さんが今回はソリストだったので、オケのコンマスは客演の辻井 淳さんが務められた。辻井さんは宮川彬良&アンサンブル・ベガの第1ヴァイオリン奏者。ちなみに大フィル首席チェロ奏者の近藤浩志さん、コントラバス首席の新 真二さん、ホルン首席の池田重一さんもアン・ベガのメンバーである。辻井さんをコンマスに迎え、近藤さんが何だか嬉しそうな表情をされていた。僕がアン・ベガの演奏会を聴いた時の感想はこちら

大植さんは2006年9月より、バルセロナ交響楽団の音楽監督に就任されている。そういった事情で、本場スペインからの風を大阪に届けようとされたのではないかと推察する。

スペイン音楽で僕がまず思い浮かべるのはグラナドスのピアノ曲、アンダルーサ(「スペイン舞曲集」より)。これはスペイン映画の傑作「エル・スール」(スペイン語で"南"という意味)で印象的に使われていた。

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また、キネマ旬報ベストテンで1位になった映画「桜の園」(原作は吉田秋生の人気コミック、現在リメイクが進行中)で流れるモンポウ/ショパンの主題による変奏曲も忘れられない。いずれもピアノ曲である。

今回の定期でまず演奏されたのはアルベニス/カタルーニャ狂詩曲。アルベニスも「イベリア」などピアノ独奏曲が知られているが、管弦楽作品というのは珍しい。録音は少ないし演奏会で取り上げられることも滅多になく、プログラムにも「希少、貴重な機会」と書かれていた。

スペインの陽光が燦燦と降り注ぐような明るい曲でとても良かった。演奏も弾むような躍動感があり、聴き応えがあった。このような珍しい曲を紹介してくれた大植さんに感謝!

続いて長原幸太さんのヴァイオリン・ソロが加わりラロ/スペイン交響曲。この第1楽章はむしろドイツ風の重厚な音楽である。長原さんは野太い音で、力強く弾きこなしていく。そして第2楽章は一転、スペインの風が薫る。オーケストラによる弦のピチカート伴奏の上をヴァイオリンが縦横無尽に駆け巡ってゆく。

僕は、はたと膝を打った。オーケストラでスペインを表現するエッセンスはピチカートなのだ!それは前回、大植さんの定期で演奏されたラヴェル/道化師の朝の歌の冒頭部もそうだったし、シャブリエ/狂詩曲「スペイン」もピチカートで始まるではないか。ラロラヴェルシャブリエもフランスの作曲家。これが彼らの秘術だったのだ。

休憩を挟んでラフマニノフ/交響的舞曲。これはハリウッドに自宅を構えた時期に作曲された、ラフマニノフ最後のオーケストラ作品である。サキソフォンが加わるあたり、アメリカ音楽を意識しているのだろう。ラヴェルもサックスを取り入れているが、これはガーシュウィンとの交流やジャズからの影響が色濃い。トラでサックスを吹かれたのは西本 淳さん。昨年の大阪クラシックにも参加されている。西本さんのブログはこちら

20世紀後半のクラシック音楽界において、ラフマニノフは「映画音楽みたいだ」と揶揄され、正当な評価を得られなかった。例えば、未だにラフマニノフの交響曲や交響的舞曲をウィーン・フィルが演奏することは殆どない。いわば黙殺である。このあたりの事情はエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの置かれた立場とよく似ている。しかし本当は逆なのであって、ハリウッドの作曲家たちが影響を受け、ラフマニノフ風のロマンティックな映画音楽を書いたのである。ラフマニノフがアメリカに移住したのは1918年。映画は未だサイレント時代である。

大植さんは95年にミネソタ管弦楽団を振って交響的舞曲をレコーディングしている。最も得意とする曲だ。しかし、僕には若干の不安があった。それは昨年12月の定期で聴いた交響曲第2番が今にも止まってしまいそうな息も絶え絶えの演奏で、余りの死に体ぶりに唖然としたからである。そのことは記事「満身創痍のラフマニノフ~大植英次/大フィル 定期」に書いた。今にして想えば、あの頃の大植さんの体調は最悪だったのだろう。今回はもう、まるで別人のようで水を得た魚だった。

全体を通じて覇気に満ち、推進力のある音楽だった。ブルドーザーのように前へ前へと突き進む。緩徐部における息の長いフレーズも、片時も気持ちが途切れることなく歌われ、そこには常に温かい血潮と脈々とした鼓動が感じられる。

プログラム・ノートには第3楽章が伊福部 昭に与えた影響について言及されており、「ホンマかいな?」と半信半疑で聴いていたら、いやはや本当だった!正にそっくりの音形が出てくるのである。僕は伊福部が「ゴジラ」「宇宙大戦争」「怪獣総進撃」などを纏めたSF交響ファンタジーを想い出しながらワクワク興奮して聴いた。

そして曲はさらにグレゴリオ聖歌「怒りの日」のモチーフを交えて、熱狂的に盛り上がっていく。最後は大植さんが指揮棒を頭上に高く振りかざし仁王立ち。聴衆は一瞬息を凝らし場内は静寂に包まれ、やがてそれは割れんばかりの拍手へと変わった。その間も良かった。

「怒りの日」は2月の定期に取り上げられたベルリオーズ/幻想交響曲にも出てくる。これはもしかしたら、意識的にプログラムされたものなのかも知れない。

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前回に続き、大植/大フィルのコンビは素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれた。しかし彼らも大阪府から補助金と貸付金を廃止する方針を示され、苦境に立たされている。

そのオーケストラを聴いたこともない人々が、頼まれたからといって楽団存続を求める署名をすることに、一体何の意味があるのだろう?オケを支えるのは我々聴衆である。彼らを聴きに往き続けること。これこそがお上に物申す、最大の武器なのではないだろうか。

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