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2008年4月

昭和の日に昭和町で落語三昧

4月29日は昭和の日。そこで昭和町の田辺寄席に足を向けた。 

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大阪市にある昭和町は本当に昭和の匂いがした。公園で紙芝居をしていたり、子供たちが割り箸でゴム鉄砲を作っていたり。まるで映画「三丁目の夕日」か「異人たちとの夏」か、はたまたアニメ「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」(←大傑作!!)の世界に迷い込んだかのような錯覚に捕らわれた。ここは正に現代の異界である。ちんどん行列ならぬ、ジャズ・バンドの行列にも出くわした。

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さて、下の写真はまるで本物みたいだが、実は道端に陳列されていた田辺寄席のミニチュアである。

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今回の出前寄席は朝10時から苗代小学校で始まり、途中から昭和建築の家屋・寺西家に場所を移して夜20時半まで計五回公演が行われた。全部聴くと高座の数なんと18。どっぷり落語に漬かった。

田辺寄席は文枝一門の桂 文太さんが中心に開催されている。今回の五公演全てに文太さんも出演され、各々異なった噺をされた。

文太さん曰く、「朝から晩まで落語をしようという企画もどうかしてますけど、それを全部聴くお客さんもどうかしてまっせ」 ハイ、仰る通りです。そしてそのどうかしている客の一人がここにもいる。

落語だけではなくお囃子解説もあって、面白かった。

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解説をされた桂 米左さんが、珍しい出囃子としてまず桂 小枝さんの「ミッキー・マウス・マーチ」を紹介された。そして客席に演奏して欲しいリクエストを尋ねる。真っ先に声が上がったのが故・桂 枝雀さんの「昼まま」だった。爆笑王と呼ばれた天才・枝雀さんが亡くなったのが99年。未だに絶大な人気なのだなぁと感慨深かった。

18の高座を立て続けに聴いて改めて感じたのは上方落語の層の厚さである。特に度肝を抜かれたのがりんりん亭りん吉さん。登場したのは、な、なんと、9歳の少女だった!その亭号を贈ったのは上方落語協会会長・桂 三枝さん。りん吉さんが二年前、初めて生で落語を聴いたのが「田辺寄席」だったそうである。その出会いからして超マニアック。今回の噺は「鯛」(桂 三枝 作)。よどみなく見事に演じきった彼女は相当な稽古を積んだに違いない。天晴れでした。りん吉さんの公式ブログはこちら

また桂あやめさんが枕(導入部)で現在、関西にはざっと200人の落語家がいるが、そのうち女性はたった5人しかいないとお話しされたのが印象的だった。やっぱり落語って男社会なんだなぁ。

ところで朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」でお茶の間の人気者になった"徒然亭草原"こと桂 吉弥さんは神戸大学教育学部卒で、米朝一門の吉朝さんの所に弟子入りする際(94年)、さこばさんから入門を反対されたというのは有名な逸話である。その理由は「国立大学を卒業してまで噺家になるな」というものだった。

ところが、今回「田辺寄席」に出演された林家染左さんは大阪大学文学部卒(96年入門)で、笑福亭たまさんは京都大学経済学部卒(98年入門)だった。上方落語の世界もダイナミックに変化を遂げているのである。

  • 笑福亭呂竹/動物園
  • りんりん亭りん吉/鯛
  • お囃子解説
  • 桂文太/延陽伯
  • 笑福亭たま/いらち俥
  • 桂米左/桃太郎
  • 桂文太/厩火事
  • 桂春駒/親子酒
  • 桂佐ん吉/手水廻し
  • 笑福亭生喬/豊竹屋
  • 桂文太/幾代餅
  • 桂あやめ/義理ギリコミュニケーション
  • 林家染太/時うどん
  • 笑福亭仁昇/寝床
  • 桂文太/明烏
  • 桂雀松/桜の宮
  • 桂ちょうば/狸賽
  • 林家染左/隣の桜
  • 桂文太/親子茶屋
  • 菊池まどか/嫁ぐ日(浪曲)

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延原武春/テレマン室内管弦楽団 クラシカル楽器によるベートーヴェン・チクルス第2弾

いずみホールで日本テレマン協会によるベートーヴェン・チクルス第2夜を聴いた。演奏されたのは交響曲第二番&五番。チクルス第1回目の記事はこちら

この日、テレマン室内管弦楽団のコンサートマスターを務めたのはイギリスからやって来たヒュー・ダニエル。前回コンマスだったバロック・ヴァイオリンの名手、サイモン・スタンデイジの弟子である。

他にトラ(客演)として大阪フィルハーモニー交響楽団からヴィオラの上野博孝さんに加え、首席フルート奏者の榎田雅祥さんも参加された(ピッコロフルートを担当)。榎田さんはバロック・フルート=フラウト・トラヴェルソも演奏される方で、古楽専門のベテル室内アンサンブルのメンバーでもある。以前僕がベテルを聴いた感想はこちら。さらに榎田さんは来る5月4日に開催される吹奏楽の祭典なにわ<<オーケストラル>>ウィンズ2008(←当日券あり!!)に出演される予定である。

それから驚いたのが、サックバット(トロンボーンの古楽器)奏者として参加されていた伊勢敏之さん。創価学会関西吹奏楽団の指揮者として毎年のように全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞されている。特に2006年の自由曲「科戸の鵲巣(しなとのじゃくそう)-吹奏楽のための祝典序曲」を僕は大阪府吹奏楽コンクールに於いて生で聴かせて貰ったのだが、その鉄壁のアンサンブルには腰を抜かした。

さて、プログラムには作曲家自身による次のような言葉が掲載されていた。

本当は陽気にという意味のアレグロなる記号を、しばしば早さの観念から遠く離れてしまって使うほど馬鹿げたことがあるでしょうか。そうなると作品自身と記号とは正反対のものになってしまいます。
(ベートーヴェン書簡集より)

指揮をされた延原武春さんの姿勢は、前回のチクルスから一貫していた。ベートーヴェンの指定したメトロノーム速度を遵守すること。作曲された当時の演奏スタイルを可能な限り研究し、生き生きとした音として現代に蘇らせること。そしてその意図は概ね成功したと言えるだろう。

今回は特にアタック、アクセントの強調が際立っていて、活力に満ちた斬新なベートーヴェンであった。特に交響曲第二番第4楽章は畳み掛けるような勢いがあり、これほど熱気溢れる演奏は聴いたことがないくらいだった。交響曲第五番第1楽章冒頭は、やや大人しめに始まったが、次第に激しさを増し、”疾風怒濤”の展開となった。そして苦悩の第1楽章から運命を克服し、勝利を高々と謳い上げる輝かしい第4楽章へ!作曲家の仕組んだ音楽プログラムが鮮明に浮き上がってくる、目の覚めるような演奏であった。

ただ前回同様、管楽器のアンサンブルが乱れて危なっかしい箇所が散見されたのも事実である。特に交響曲第二番冒頭はヒヤリとさせられたが、序奏から主題提示部に移るあたりから次第に安定してきた。

それにしてもバルブのない(自然倍音のみ発音できる)ナチュラル管の難しさはよく分かるが、ホルンのミスはもう少し何とかならないものか?延原さん、地元の音楽家たちでどうにかやりくりしようという意思は理解できますが、僕は管楽器の客演をもっと強化した方が良いように想えます。このままでは、延原さんの意図が十分音に「翻訳」されていないというもどかしさがどうしても付き纏うので。折角素晴らしい解釈のベートーヴェンなのに勿体ないです。

休憩後、後半の演奏に移る前に延原さんから古楽器の解説があった。前回はナチュラル・ホルンが取り上げられ、ゲシュトップ(フト)奏法も実演してくれたのだが、今回はナチュラル・トランペットや第五交響曲で初めて登場するコントラファゴット、ピッコロフルート、サックバットなどが紹介された。

会場の入りは8割強。次回の演奏会は5月16日(金)に同じいずみホールにて行われる。曲目は交響曲第四番&六番「田園」。僕も勿論また来る予定。これを聴き逃すわけにはいかない。

関連ブログ記事:
虫籠日記

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大植英次/大フィルの星空コンサート 2008!

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の星空コンサートを聴きに大阪城・西の丸庭園に足を運んだ。

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星空コンサートは今年で3回目。第1回は9,300人の聴衆が集まり、2回目は1万4千人に膨れあがった。今回は入場料が500円→1,000円と倍増した影響か8千人だったそうである。やっぱり関西人はお金のことになるとセコいねぇ。まあそれでも売り上げ総額からいえば過去最高なのだから大成功だろう。平松邦夫・大阪市長がコンサート最初から来られていて、大植/大フィルに対して非常に温かいスピーチをされた。その際に大植さんがこのコンサートをノーギャラでされていることも明かとなった。

大植さんは気管支炎を患っていらっしゃるそうで、声が掠れていた。それでも元気いっぱい、会場を所狭しと駆け回り、「くいだおれ太郎」やインディー・ジョーンズの扮装をされたり、阪神タイガースの法被を着たりサービス精神を存分に発揮されていた。

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18時30分、まずR.シュトラウス/「ツァラトゥストラはかく語りき」冒頭部から幕を開けた。映画「2001年宇宙の旅」で使用され有名になった曲。星空コンサートのオープニングに相応しい。昨年まで最初はバーンスタイン/ミュージカル「キャンディード」序曲であったので(夏に開催される青少年のためのコンサートも同様)、今年は変化球を投げてこられたわけだ。

そして日没(18時39分)に合わせてドボルザーク/交響曲第9番「新世界より」第2楽章。堀内敬三による日本語詞「遠き山に日は落ちて」や「家路」(作詞:野上 彰)としてもよく知られている。音楽とともにあたりが次第に夕闇に包まれていく光景がとても印象的だった。

ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」~ワルキューレの騎行では大植さんはブリュンヒルデの扮装をされた。手には剣(ノートゥング)の代わりに何故かライトセーバー!?恐らく、第1回目の星空コンサート「スターウォーズ」を演奏した際に使った小道具を再使用したものと見た。

ワルキューレの騎行で僕たちの世代がまず想い出すのは映画「地獄の黙示録」であろう。ベトナム戦争を舞台にアメリカ軍の戦闘ヘリがこの曲をガンガン鳴らしながらベトコンの拠点となっている村を焼き尽くす。サーフィンをするためにこの命令を下した指揮官の台詞「朝のナパーム弾の匂いは格別だ」( I love the smell of napalm in the morning.)はアメリカ映画協会が選定した映画史上燦然と輝く名台詞・第12位に選ばれている。ワーグナーの音楽はアドルフ・ヒトラーが愛したことでも知られ、未だにイスラエルでワーグナーを演奏するのはタブーとされている。恐らく「地獄の黙示録」を監督したフランシス・フォード・コッポラはナチス・ドイツのイメージを重ねてこの名シーンを撮ったものと想われる。

浪漫的叙情に満ちたリムスキー=コフサコフ/交響組曲「シェエラザード」~若い王子と王女をたっぷり溜めて歌った後は、現在12歳の登坂理理子さんがソリストとして登場。パガニーニ/ヴァイオリン協奏曲第1番第1楽章を見事に弾きこなし、やんややんやの喝采を浴びた。彼女のお母さんが舞台近くに座っておられて、指揮台から降りた大植さんからインタビューされる一幕もあった。

そして勇壮なジョン・ウィリアムズ/映画「インディ・ジョーンズ」~レイダーズ・マーチ。過去の星空コンサートではジョンが作曲した「スター・ウォーズ」「E.T.」が演奏された。「E.T.」では大植さんが前の籠にE.T.人形を乗せて自転車で登場するというサービスもあった。また青少年のためのコンサートでは「スーパーマン」「ハリー・ポッター」も取り上げられている。今回インディが選ばれたのは、間もなくシリーズ4作目「クリスタル・スカルの王国」が公開されるからである。大植さんが巨大な岩に追いかけられるという愉しいパフォーマンスもあり、観客は大いに沸いた。

ポンキエルリ/歌劇「ジョコンダ」~時の踊りについては大植さんから「花王/エッセンシャルダメージケア」のCMで使用されている曲との紹介があった。しかし、これを聴くと即座に僕の脳裏に蘇る映像はディズニー・アニメ「ファンタジア」(1940)である。カバ、象、ダチョウ、ワニが繰り広げる愉しい踊りは忘れがたい。

そして今年の目玉はなんと言ってもチャイコフスキー/序曲「1812年」である。驚くべきことにバンダ(金管別働隊)として大阪府立淀川工科高等学校(淀工)、明浄学院高等学校箕面自由学園近畿大学から総勢100人が集結したのである。しかも淀工はこの日、15時から大阪府狭山市にあるSAYAKAホールで特別演奏会(指揮/丸谷明夫)を行い、その足で駆けつけたという。恐るべし。

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星空コンサートでは当日16時くらいから会場でリハーサルがあった。当然その時は淀工はコンサート中なので参加できず、ぶっつけ本番となった。それでもさすが天下の淀工である。綻びのない見事な演奏であった。事前に大植さんが学校を訪問し、綿密な指導をされていたそうである。

100人のバンダはド迫力で圧巻だった。「1812年」は毎年演奏されているが、大フィルも今までで最も熱のこもった演奏であった。生徒の後ろには淀工の丸谷先生(丸ちゃん)のニコニコした笑顔も見えた。ご苦労様です。

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アンコールは学生がそのまま演奏に参加してスーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」、そして日本のうた「夕焼けこやけ」「七つの子」「ふるさと」は観客も一緒に歌った。〆は星空コンサート大阪クラシックの定番、外山雄三/管弦楽のためのラプソディー~八木節。会場に集った人々は思い思いに素敵な春の宵を満喫した。ありがとう、大植さん&大フィル!そして高校生や大学生の吹奏楽部員たち!

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**♪*今日もいい日*♪**
やくぺん先生うわの空
りんどうのつぶやき

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下野竜也と吹奏楽

5月4日、ザ・シンフォニーホールで行われる吹奏楽の祭典、なにわ《オーケストラル》ウィンズ2008のメンバー表を見て驚いた!Piano&Celesta 下野竜也読売交響楽団)と書かれていたからである。

下野さんは大阪に縁のある指揮者である。1997年から99年まで大阪フィルハーモニー交響楽団指揮研究員として故・朝比奈 隆の薫陶を受け、朝比奈の推薦で99年4月の大阪フィルハーモニー交響楽団定期演奏会で楽壇デビューを果たされた。07年には齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞(06年の受賞者は大植英次さん)。現在は読売日本交響楽団の正指揮者に就任されている。下野さんの詳細なプロフィールはこちら

しかし関西では案外、下野さんと吹奏楽の関係については知られていないようだ。だから今回はそのことを書きたいと想う。

下野さんはプロの吹奏楽団、東京佼成ウインドオーケストラにしばしば客演され、2005年の定期演奏会では大栗 裕/大阪俗謡による幻想曲(吹奏楽全曲版)を振っている。その時の詳細なレポートはBAND POWERのこちらの記事に書かれている。今年2月の下野/東京佼成の演奏会はつい先日、NHK-BSで放送されたばかり。さらに下野さんが2005年にシエナ ウインド オーケストラの指揮台に立った時は大栗 裕/吹奏楽のための「神話」~天の岩屋戸の物語によるが取り上げられた。

また下野さんは大阪フィルハーモニー交響楽団を指揮し、香港のナクソス・レーベルから大栗 裕作品集を出されている。録音は2000年。これがは現在、大阪俗謡による幻想曲の管弦楽版で入手可能な唯一のCDである。

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ところで皆さんは、チェコスロバキア出身の作曲家、カレル・フサの「プラハ1968年のための音楽」をご存知だろうか?母国の自由化運動「プラハの春」をソ連軍が蹂躙した1968年の事件に触発されて書かれたこの作品は、ストラヴィンスキー/春の祭典バルトーク/管弦楽のための協奏曲メシアン/トゥーランガリラ交響曲コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲などに匹敵する、20世紀に生まれた名曲中の名曲だ。

プラハ1968年のための音楽」は元々、吹奏楽の為に書かれた作品だが(69年初演)、これを聴いて感動した大指揮者ジョージ・セルがフサに管弦楽版への編曲を依頼し、こちらは70年に初演されている。そしてこのオーケストラ・バージョンを本邦初演したのが下野竜也/札幌交響楽団なのである。2004年のことだった(曲の詳細な解説はこちらをご覧下さい)。

下野さんは2006年に新日本フィルハーモニー交響楽団との演奏会で再びこの「プラハ1968年のための音楽」を取り上げている。さらに、今月28日に九州交響楽団と組む演奏会でもこの曲が登場!詳細はこちら。プログラムには吹奏楽オリジナル曲のオーケストラ編曲版がずらりと並ぶ。下野さん、こういう意欲的な企画を是非大阪でもしてくださいよ!!

さて、このように吹奏楽に情熱を注ぐ下野さんが、淀工の丸谷明夫 先生(丸ちゃん)の指揮の下、なにわ《オーケストラル》ウィンズに参加される。これはちょっとした事件と言えるだろう。

余談:「プラハ1968年のための音楽」は昨年、全日本吹奏楽コンクールで近畿大学吹奏楽部が自由曲として取り上げ、見事金賞に輝いている。

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続・大阪俗謡をめぐる冒険~究極の名盤はこれだ!!

これは記事「大阪俗謡をめぐる冒険(大栗 裕、大フィル、そして淀工)」と併せてお読み下さい。

大栗 裕/「大阪俗謡による幻想曲」という名曲は、初演者の朝比奈 隆を抜きには語れないだろう。朝比奈/大阪フィルハーモニー交響楽団による1975年の演奏は大フィルの創立50周年記念CDで一度発売されたことがある。しかしこれは現在絶版であり、残念ながら僕は聴く機会に恵まれていない。

  • 下野竜也/大阪フィルハーモニー交響楽団(70年改訂 管弦楽版)
    現在入手できるCDの内、オーケストラが演奏しているのはNAXOSから販売されているこの大栗 裕 作品集のみである(実売価格1000円程度)。演奏自体は客観的というか冷静で、曲の持つ「祭の熱狂」という雰囲気が乏しい。資料的価値以上のものはない。ただこの演奏は下野さんがデビューされて間もない2000年の録音であり、現在の下野さんならばもっと違った解釈をされるのではいかと期待される。
  • 小野田宏之/東京佼成ウインドオーケストラ(吹奏楽全曲版)
    当たり障りのない演奏。破綻がない反面、面白みに欠ける。
  • 朝比奈 隆/大阪市音楽団(吹奏楽全曲版、92年録音)
    これはマエストロ83歳の録音なので主部のアレグロに入ってからもテンポは遅めである。朝比奈がもっと若い頃の演奏を聴きたかったと想うのだが、仕方ない。しかしこの演奏はひとつひとつのフレーズが丁寧に歌われニュアンスに富み、大阪人でしか醸し出せない味わい深い表現となっている。風味絶佳、滋養豊富。但し、残念ながら現在廃盤
  • 丸谷明夫/なにわ《オーケストラル》ウインズ2003(淀工カット版)
    丸ちゃんの指揮の特徴はまず鮮烈な打楽器の強打にある。そのド迫力には聴いていて興奮せずにはいられない。祭だ、祭だ!と想わず叫びだしたくなる衝動に駆られる壮絶な名演。また冒頭のアンダンテは朝比奈よりゆったりとしたテンポで始まるのだが、主部のアレグロに入るとアクセル全開。そのコントラストが実に見事である。細部も明瞭に響き、切れ味鋭く一言で言えば最もメリハリある演奏。
  • 丸谷明夫/淀川工業高等学校吹奏楽部(1980年録音)
    全日本吹奏楽コンクールにこの曲が初めて登場した時のもの(金賞)。殆どの生徒が楽器を持って3年足らずの素人集団の演奏だから技術的にはプロに敵う筈もない。現在の淀工の水準と比較しても荒さが目立つ。しかし、それだけで切り捨てることは出来ない不思議な魅力のある演奏だと想う。若さゆえの疾走する躍動感というか、粗野で原始的なパワーと言うべきか。考えてみれば恐らくそれこそが祭りの本質なのだろう。なお、この時の演奏だけ序奏部のピッコロ&フルートの旋律がクラリネットで代用されている。
  • 丸谷明夫/淀川工業・工科高等学校吹奏楽部(2005年録音)
    この曲で全日本吹奏楽コンクール5回目の金賞を受賞した時の演奏。DVD「淀工 青春の軌跡」に収録されている。80年の演奏と比較するとバンドのカラーが完全に変化していることに驚かされる。以前の荒っぽさ、勢いで押し切る部分がすっかり影を潜め、一糸乱れぬ繊細緻密なアンサンブルは圧倒的ですらある。しかし、冷徹なまでのこの完璧さは確かにラヴェルなどフランス印象派の音楽には相応しいのだが、「大阪俗謡」という曲の本質にはそぐわない気もするのである。淀工は確かにこの四半世紀に驚異的進化を遂げた。しかしその半面、"浪速のバルトーク"こと、大栗 裕の世界からはむしろ遠ざかってしまったのではないだろうか?
  • 丸谷明夫/淀川工業高等学校吹奏楽部(1989年録音)
    淀工が5年連続金賞に輝いた年の録音。淀工の中ではこれが最強の演奏と自信を持って推す。80年録音版の熱気と05年のアンサンブルの完成度ー両者の長所が程よくブレンドされ、発展途上のこの時期でしか起こり得なかった奇蹟の記録である。「大阪俗謡」に必要不可欠な程よい荒っぽさがある。昨年、「一音入魂! 全日本吹奏楽コンクール名曲・名演50」という本が発売されたのだが、この中で「大阪俗謡」極めつけの名演としてやはりこの89年版が選ばれていた。

特にコメントはしないが、さらに辻井清幸/尼崎市吹奏楽団(84年全日本吹奏楽コンクール金賞)、および森島洋一/大津シンフォニックバンド(2000年全日本吹奏楽コンクール金賞)の演奏も聴いた上で、僕の独断による「大阪俗謡による幻想曲」の名盤、ベスト3を発表する。

第1位 丸ちゃん/なにわ 2003
第2位 丸ちゃん/淀工(89年版)
第3位 朝比奈/市音

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ただし前置きでも述べたとおり、僕は未だ若き日の朝比奈が大フィルを振った演奏は聴いていないので、もし将来その機会があればこの順位は変動するかも知れない。

さて、なにわ《オーケストラル》ウインズ2008演奏会もいよいよ近付いてきた。5/4に行われる大阪公演は、なんとチケットが即日完売!恐るべし、なにわ。僕はちゃんと確保したので、しっかりレポート致します。しかし、そろそろなにわの原点である「大阪俗謡」を再演して欲しい気もするのだが、如何なものでしょう?

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大植英次/情熱のスペインと華麗なる舞曲

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に往った。テーマは"スペイン"そして"踊り"である。

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首席コンサートマスターの長原幸太さんが今回はソリストだったので、オケのコンマスは客演の辻井 淳さんが務められた。辻井さんは宮川彬良&アンサンブル・ベガの第1ヴァイオリン奏者。ちなみに大フィル首席チェロ奏者の近藤浩志さん、コントラバス首席の新 真二さん、ホルン首席の池田重一さんもアン・ベガのメンバーである。辻井さんをコンマスに迎え、近藤さんが何だか嬉しそうな表情をされていた。僕がアン・ベガの演奏会を聴いた時の感想はこちら

大植さんは2006年9月より、バルセロナ交響楽団の音楽監督に就任されている。そういった事情で、本場スペインからの風を大阪に届けようとされたのではないかと推察する。

スペイン音楽で僕がまず思い浮かべるのはグラナドスのピアノ曲、アンダルーサ(「スペイン舞曲集」より)。これはスペイン映画の傑作「エル・スール」(スペイン語で"南"という意味)で印象的に使われていた。

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また、キネマ旬報ベストテンで1位になった映画「桜の園」(原作は吉田秋生の人気コミック、現在リメイクが進行中)で流れるモンポウ/ショパンの主題による変奏曲も忘れられない。いずれもピアノ曲である。

今回の定期でまず演奏されたのはアルベニス/カタルーニャ狂詩曲。アルベニスも「イベリア」などピアノ独奏曲が知られているが、管弦楽作品というのは珍しい。録音は少ないし演奏会で取り上げられることも滅多になく、プログラムにも「希少、貴重な機会」と書かれていた。

スペインの陽光が燦燦と降り注ぐような明るい曲でとても良かった。演奏も弾むような躍動感があり、聴き応えがあった。このような珍しい曲を紹介してくれた大植さんに感謝!

続いて長原幸太さんのヴァイオリン・ソロが加わりラロ/スペイン交響曲。この第1楽章はむしろドイツ風の重厚な音楽である。長原さんは野太い音で、力強く弾きこなしていく。そして第2楽章は一転、スペインの風が薫る。オーケストラによる弦のピチカート伴奏の上をヴァイオリンが縦横無尽に駆け巡ってゆく。

僕は、はたと膝を打った。オーケストラでスペインを表現するエッセンスはピチカートなのだ!それは前回、大植さんの定期で演奏されたラヴェル/道化師の朝の歌の冒頭部もそうだったし、シャブリエ/狂詩曲「スペイン」もピチカートで始まるではないか。ラロラヴェルシャブリエもフランスの作曲家。これが彼らの秘術だったのだ。

休憩を挟んでラフマニノフ/交響的舞曲。これはハリウッドに自宅を構えた時期に作曲された、ラフマニノフ最後のオーケストラ作品である。サキソフォンが加わるあたり、アメリカ音楽を意識しているのだろう。ラヴェルもサックスを取り入れているが、これはガーシュウィンとの交流やジャズからの影響が色濃い。トラでサックスを吹かれたのは西本 淳さん。昨年の大阪クラシックにも参加されている。西本さんのブログはこちら

20世紀後半のクラシック音楽界において、ラフマニノフは「映画音楽みたいだ」と揶揄され、正当な評価を得られなかった。例えば、未だにラフマニノフの交響曲や交響的舞曲をウィーン・フィルが演奏することは殆どない。いわば黙殺である。このあたりの事情はエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの置かれた立場とよく似ている。しかし本当は逆なのであって、ハリウッドの作曲家たちが影響を受け、ラフマニノフ風のロマンティックな映画音楽を書いたのである。ラフマニノフがアメリカに移住したのは1918年。映画は未だサイレント時代である。

大植さんは95年にミネソタ管弦楽団を振って交響的舞曲をレコーディングしている。最も得意とする曲だ。しかし、僕には若干の不安があった。それは昨年12月の定期で聴いた交響曲第2番が今にも止まってしまいそうな息も絶え絶えの演奏で、余りの死に体ぶりに唖然としたからである。そのことは記事「満身創痍のラフマニノフ~大植英次/大フィル 定期」に書いた。今にして想えば、あの頃の大植さんの体調は最悪だったのだろう。今回はもう、まるで別人のようで水を得た魚だった。

全体を通じて覇気に満ち、推進力のある音楽だった。ブルドーザーのように前へ前へと突き進む。緩徐部における息の長いフレーズも、片時も気持ちが途切れることなく歌われ、そこには常に温かい血潮と脈々とした鼓動が感じられる。

プログラム・ノートには第3楽章が伊福部 昭に与えた影響について言及されており、「ホンマかいな?」と半信半疑で聴いていたら、いやはや本当だった!正にそっくりの音形が出てくるのである。僕は伊福部が「ゴジラ」「宇宙大戦争」「怪獣総進撃」などを纏めたSF交響ファンタジーを想い出しながらワクワク興奮して聴いた。

そして曲はさらにグレゴリオ聖歌「怒りの日」のモチーフを交えて、熱狂的に盛り上がっていく。最後は大植さんが指揮棒を頭上に高く振りかざし仁王立ち。聴衆は一瞬息を凝らし場内は静寂に包まれ、やがてそれは割れんばかりの拍手へと変わった。その間も良かった。

「怒りの日」は2月の定期に取り上げられたベルリオーズ/幻想交響曲にも出てくる。これはもしかしたら、意識的にプログラムされたものなのかも知れない。

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前回に続き、大植/大フィルのコンビは素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれた。しかし彼らも大阪府から補助金と貸付金を廃止する方針を示され、苦境に立たされている。

そのオーケストラを聴いたこともない人々が、頼まれたからといって楽団存続を求める署名をすることに、一体何の意味があるのだろう?オケを支えるのは我々聴衆である。彼らを聴きに往き続けること。これこそがお上に物申す、最大の武器なのではないだろうか。

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再び宝塚 "ME AND MY GIRL" へ!

これは前回の記事「宝塚月組 "ME AND MY GIRL"」と併せてお読み下さい。

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ミーマイという作品は一言で言えば「お馬鹿ミュージカル」である。弁護士パーチェスターの助言は全く役に立たないし、2幕冒頭のナンバー「♪太陽が帽子を被っている」は群舞全員がクロッケー・ゲームの服装で華麗なるタップを披露するのだが、なんで室内でそんなことをしてるのか皆目見当がつかない。しかし分けわかんないけれど、何だか無性に愉しい!ハッピーになれる!そういう作品なのだ。そういう意味では劇団四季の人気演目「クレイジー・フォー・ユー」に近い。ちなみに「クレイジー・フォー・ユー」の演出はマイク・オクレント(スーザン・ストローマン@「プロデューサーズ」 の夫)で、彼はミーマイのブロードウェイ版(1986初演)で脚色・演出を担当しトニー賞にノミネートされている。宝塚版はこのオクレント版を下敷にして製作されているのだ。

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宝塚月組のミーマイはジャクリーンが役代わりで、前回僕が観たのは娘役の城咲あいさん。そして今回は男役・明日海りおさんだった。ジャッキーはずばり、美脚で魅せる役である。宝塚版初演キャストの涼風真世さんは、本当にすらりと細い脚の持ち主だった。その点、城咲あいさんも明日海りおさんも申し分なかった。

城咲あいさんは、極めてバランスの取れた完全無欠のジャッキーだった。ダンス力、歌唱力、容姿、どれひとつとっても文句なし。彼女はきっと将来、素晴らしいトップ娘役となるだろう。

明日海りおさんのジャッキーには正直観る前に若干の不安があった。宝塚のジャッキーは伝統的に男役が演じるのだが、95年再演時の真琴つばささんは、まるでニューハーフのようにしか見えなかったのだ。男役としての真琴さんを僕は決して嫌いではないのだが、普段男としての所作になれていると、なかなか女性らしい演技に切り替えるのは難しい。

明日海さんを観て驚いた。なんて色っぽいジャッキーだろう!男役とは俄かに信じられない完璧な美貌。そして彼女のダンス力にも圧倒された。兎に角その回転が見事である。ふわりと滑らかに回り、最後にピタリと止まる。軸は決してずれない。そしてその決めポーズの立ち姿が極めて美しい。

僕は宝塚史上、最高のダンサーは風花 舞さんだと確信している。特に彼女の"CAN-CAN"は凄かった。明日海さんは風花さんに匹敵する、類稀な資質を備えていると見た。ただ歌唱に関しては、彼女の声はアルトなので役柄の要求する高い音域はちとキツイかな?という印象も受けた。しかし、その弱点を補って余りある魅力が彼女の演じるジャッキーにはあった。

今回の月組カンパニーは総体として、95年のカンパニーを上回っているのではないかという気がする。是非これから往かれる方は、ふたりのジャッキー何れもご覧になることをお勧めしたい。

次から次へと綺羅星の如く新しいスターが生まれてくる。これぞ宝塚観劇の醍醐味である。

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春の名残のラプソディ

4月20日現在、吉野山の桜は既に(標高の低い方から)下千本~中千本~上千本は散っている。そこで奥千本まで足を伸ばした。

途中、水分(みくまり)神社の枝垂桜を愛でた。

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そして水分神社を後にして一路、西行庵のある奥千本へ。

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奥千本は「千本」と言うほど桜は沢山ないが、それでも上の写真、とても綺麗でしょう?

こうやって時期をずらしながら長期間、桜を楽しめるところも吉野の魅力である。

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うた魂(たま)♪

評価:B-

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「がんばっていきまっしょい」(1998)、「ウォーターボーイズ」(2001)、「スウィングガールズ」('04)、「リンダ リンダ リンダ」('05)、「フラガール」('06)、「天然コケッコー」('07)などに引けをとらない、爽やかな青春映画の登場である。高校の合唱部を舞台にするというアイディアも良い。

美少女ものというジャンルは以前から日本映画に確固たる地位を得ている。多分その草分け的存在は高峰秀子が主演した「馬」「秀子の車掌さん」(いずれも1941年公開)あたりだろう。「馬」で助監督を務めた黒澤明と、当時16歳だったデコちゃん(高峰秀子の愛称)との実らなかった恋の物語は日本映画史上、余りにも有名である。

60年代の日本映画を席巻した美少女はなんと言っても吉永小百合だろう。彼女が「キューポラのある街」('62)のヒロインに抜擢されたのは高校在学中のことであった。「サユリスト」という言葉も生まれた(タモリ、野坂昭如らが該当する)。

僕がビデオで観てその可愛さにメロメロになったのが「あこがれ」('66)の内藤洋子。喜多嶋舞のお母さんである。

Naito

そして70年代の山口百恵を経て、角川映画台頭とともに薬師丸ひろ子(「うた魂♪」にも出演)、原田知世、渡辺典子らの時代となる。

Utatama

「天然コケッコー」で好演し、「うた魂♪」のヒロインも射止めた夏帆(かほ)は確かに可愛いのだが、歴代の美少女にはない彼女特有の持ち味は、その天然ボケキャラにあると言えるだろう。なんだか可笑し味があって、ほのぼのした気分になるのである。特に今回、彼女の「シャケの産卵顔」には爆笑した。

「フラガール」組から参加した徳永えり(大阪府出身)も、いい味出している。彼女は今年、大沢たかお主演のミュージカル「ファントム」でヒロインのクリスティーヌを演じ、その美声を披露した。だから本作での合唱部員という役柄は正にピッタリ。また映画の中でちゃんとピアノを弾いていたのにも感心させられた。きっと猛練習したことだろう。

脚本には未熟なところもあり、テーマを台詞で語り過ぎて中盤だれたりもするのだが、出演者たちの好演でそんな疵は余り気にならなかった。

「待ちぼうけ」(北原白秋 作詞、山田耕筰 作曲)、ゴスペラーズの書き下ろし「青い鳥」など挿入歌も良いし、最高に可笑しかったのがヤンキー合唱団がダイナミックに歌う尾崎 豊(「15の夜」「oh my little girl」「僕が僕であるために」)。

僕が高校生だったのは80年代。その頃十代の若者たちの、学校や大人社会に対する反抗のシンボルが尾崎だった。テレビ「北の国から'87初恋」で、思春期を迎えた純くん(吉岡秀隆)がカセットテープで何度も聴くのも尾崎の「I LOVE YOU」である(脚本を書いた倉本聰は吉岡からこの曲を薦められたそうだ)。あれから20年以上経た今でも、尾崎は荒ぶる魂たちの偶像なんだなぁ。時代は流転しても人間の本質、感性というものはそう容易には変わらないということなのだろう。

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大栗 裕の世界

いずみホールで円光寺雅彦/大阪フィルハーモニー交響楽団による「大栗 裕の世界」を聴いた。コンサートマスターは長原幸太さん。

昨年大フィルによる「いずみホール特別演奏会」は2度あったのだが、そのいずれも客席が半分くらいしか埋まらないという閑散とした状況だった。しかし今回は8割くらいの入りで、大阪が生んだ作曲家・大栗に対する関心の高さが窺われた。

淀川工科高等学校吹奏楽部(淀工)を指導されている丸谷明夫 先生(丸ちゃん)を会場でお見かけした。

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Oguri

大栗はしばしばその音楽の土俗性から"浪速のバルトーク"と喩えられるが、今回演奏された「弦楽のための二章」を聴くと、むしろその作風は「ゴジラ」の作曲家として有名な伊福部昭に近いのではないかと感じられた。伊福部の管弦楽曲には、タイトルがそのものずばりの「土俗的三連画」(1937)という作品があるくらいである。

北海道釧路市に生まれた伊福部はアイヌの民俗音楽に興味を持ち、また日本の伝統音楽の節回しを自作に持ち込んだ。わらべ歌や天神祭の祭囃子を引用した大栗に共通する方向性を感じる。ちなみに「ゴジラ」が作曲されたのが1954年、大栗の「大阪俗謡による幻想曲」や歌劇赤い陣羽織」は翌55年の作である。

大栗が朝比奈隆からの招聘で関西交響楽団(大フィルの前身)のホルン奏者として入団したのが1950年。この年から66年まで関響は映画音楽のレコーディングに携わっている。状況証拠から言っても大栗が伊福部の音楽から影響を受けた可能性は高い。

大栗は「古事記」「日本書紀」に登場する天照大神(あまてらすおおみかみ)の伝説に基づき、「吹奏楽のための神話ー天の岩屋戸の物語による」('73)を作曲している。これは丸ちゃん/淀工が全日本吹奏楽コンクールで2度演奏し、いずれも金賞を受賞した曲。一方、伊福部は映画「日本誕生」('59)の音楽を担当しており、これにも天照大神が登場する(映画では原 節子が演じた)。

弦楽のための二章」に続いて演奏されたのは「オーボエとオーケストラのためのバラード」。演奏時間7分程度の小品で、大栗らしく素朴で庶民的な旋律が印象的。ベルリン・フィル首席奏者ローター・コッホの依頼で書かれ朝比奈が渡欧時に本人に楽譜を手渡したらしいのだが、その後演奏されたかどうかは全く不明で、今回が本邦初演だそうだ。良い曲なのに勿体ない。日本のオーケストラはベートーヴェンなど西洋音楽ばかり重宝するのではなく、もっと自国の音楽を大切にしなければならない。ただ、同じことは日本の聴衆にも当てはまるのだが。そういう意味で、今回のコンサートを企画した大フィルの姿勢は高く評価したい。「サントリー音楽財団 推薦コンサート」に選定されたのも至極当然のことであろう。

休憩を挟んで演奏されたのは歌劇赤い陣羽織」全3場。55年に朝比奈/関西歌劇団が初演した作品である。ファリャのバレエ音楽にもなったアラルコンの小説「三角帽子」を自由に翻案したもので、台本は團伊玖摩の歌劇「夕鶴」も書いた木下順二。「夕鶴」と言えば山田耕筰の「黒船」と並び、日本のオペラを代表する作品だが、どうしてどうして、「赤い陣羽織」も両者に勝るとも劣らない作品で、物語りも音楽も大変親しみ易く面白く観た。所要時間が1時間足らずという短さもありがたい。もっと上演されて良い作品だと想う。

オーケストラが前面に陣取り、後方の一段高い舞台で歌手たちが演じた。ちゃんとメイクや衣装が施された本格的な歌劇だった。

大変充実したコンサートであった。ただ少しだけ苦言を呈するなら、オペラ歌手のビブラートをかけた発声は歌詞が聞き取れないことが多く、電光掲示による字幕スーパーがあればより分かりやすかったであろう。兵庫県立芸術文化センターでオペラが上演される時は、例えば「ヘンゼルとグレーテル」など日本語で上演される場合も字幕付きである。そういう点は大阪の音楽業界の方たちも見習って頂きたい。

それから、大栗には歌劇夫婦善哉」という作品もあるそうで、これは是非観てみたい!恐らく大阪情緒たっぷりな作品であろう。なんとか再演出来ないものだろうか?

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佐渡 裕/兵庫芸術文化センター管弦楽団のフランス尽くし!

今月からテレビ「題名のない音楽会」の司会者に抜擢され、八面六臂の活躍をされている佐渡 裕さん指揮/兵庫芸術文化センター管弦楽団PACオケ)定期演奏会に往った。

佐渡さんは現在、兵庫県立芸術文化センターの芸術監督。さらにパリ・ラムルー管弦楽団の首席指揮者と、シエナ・ウインド・オーケストラ(プロの吹奏楽団)の首席指揮者でもある。吹奏楽界でシエナの人気は絶大で、大阪ザ・シンフォニーホールでの今年の演奏会もあっという間に完売。その牽引力となっているのは勿論、佐渡さんである。

芸術文化センターは優秀な企画力があり、古楽シリーズ、「世界音楽図鑑」、「ワンコイン(500円)コンサート」など非常に魅力的なプログラムを組んでいる。僕はここを訪れる度に、兵庫県民を羨ましく想う。大阪府も兵庫県の文化事業を見習うべきであろう。

今回聴いたのはプログラム全てがフランス音楽で構成された定期3日目。勿論、満席である(大ホールの座席数は2,001席)。

Photo

開演前に佐渡さんによるプレ・トークがあった。一曲目、フォーレ/レクイエムでソプラノ独唱を歌った西尾知里さんはなんと13歳!彼女は10歳の時に佐渡さんにビデオテープを送ってきたそうで、添えられた手紙には「私は歌を歌うのが大好きで、そのために生まれてきたのだと想っています。どうか佐渡さん、私を起用してください!!」と書かれていたとか。今回フォーレをすることが決まってから佐渡さんはその面白い少女のことを想い出し、ビデオを見た上で彼女のオーディションをしたそうだ。

西尾さんはまだ中学生なので声量は大人の歌手よりは乏しいし、表現力もまだまだこれからという気がした。しかし彼女の最大の武器はその「若さ」である。正にpure voiceの持ち主であり、瑞々しいその歌声は鎮魂歌という曲の性質に相応しかった。佐渡さんの狙いは的中したと言えるだろう。演奏が終わって佐渡さんが西尾さんをしっかりとハグする情景は見ていて麗しかった。バリトンのキュウ・ウォン・ハンさんは深みがある声で、ホールに響き渡るその美声に心地よく聴き入った。

この曲は昨年、大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期で聴く予定だった。ところが、演奏会当日に大植さんにまさかのハプニング!新聞でも報道されたその大事件の顛末は「誰もいない指揮台」という記事に書いた。あの時は(楽員も観客も)騒然としていて心穏やかにフォーレを味わうような心理状態ではなかったが、今回の佐渡/PACオケの演奏はしみじみと心に染み渡っていくような、滋味に富む名演だった。

休憩を挟んでフランセ/木管楽器のための四重協奏曲。プレ・トークで佐渡さんが仰っていたが、レコーディングも日本での演奏も殆どされたことのない大変珍しい曲である。僕は以前から何度か書いているが、フランセやプーランクという作曲家は機知に富んだお洒落な作風である。まさにこれぞフランスの粋、エスプリと言えるだろう。今回演奏された曲もとても軽妙洒脱な曲だった。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの独奏はPACのメンバーであり、その卓越した技量で聴衆を魅了した。

恐らく現在、関西のオケで管楽器に関する限り、外国人奏者の多いPACが実力ナンバーワンであろう(京都市交響楽団は聴いたことがないのでここでは除く)。弦楽セクションは大フィルが一枚抜けている。しかし、大フィルのアキレス腱はトランペットで、ラッパはシンフォニカーの方が上手い。一方シンフォニカーはホルンが……。閑話休題。

プログラム最後はラヴェル/「ダフニスとクロエ」第2組曲。佐渡さんはプレ・トークで「フランス人らしい"スケベー"な所…僕が言うとちょっと品がないか…"官能的"、うん、こっちのほうが上品だな…を是非味わってください」と仰っていた。

通常はオーケストラだけで演奏されることの多い組曲だが今回は合唱も加わりスケールが大きく、聴き応えがあった。佐渡さんは汗が滴り落ちる"熱血指揮者"というイメージが強く、どちらかと言えばそれは"大味"というマイナス評価にも繋がりやすいのだが、どうしてどうして、このような繊細なフランス音楽にも十二分な才覚を発揮された。勢いがあり起伏にも富んだ鮮やかな解釈。PACもそれによく応えた。

通常、定期演奏会ではされないアンコールもあった。ベルリオーズ/「ファウストの劫罰」よりラコッツイ行進曲。まさにフランス尽くし!サービス精神旺盛な、大満足の演奏会であった。

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サクラサク/彦根篇

13日(日曜日)、滋賀県にある国宝・彦根城に往った。ここは平成四年、日本の世界遺産暫定リストにも記載されている。

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彦根は今、春爛漫である。

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山田洋次 監督が藤沢周平の時代小説を映画化した三部作、「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」そして「武士の一分」は、その佇まいの美しさゆえ、彦根城でロケされている(小説で実際のモデルとなったのは、藤沢の古里・山形県にあった庄内藩である)。

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玄宮園から彦根城を望む(上写真)。

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彦根城から徒歩で移動、「あゆの店 きむら」でお昼を頂く。あゆの塩焼きも美味しかったし、初めて食べたあゆ雑炊は絶品だった。お勧め!

彦根を後にして、直行で兵庫県立芸術文化センターへと向かった。佐渡 裕/PACオケの定期演奏会を聴くためである。しかし、それはまた別の話。

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大阪シンフォニカー交響楽団の「革命」

つい先日、橋下 徹 大阪府知事による改革プロジェクトチームの素案が明らかとなり、府が大阪センチュリー交響楽団への補助金を廃止する意向であることが新聞で報じられた。現在、同楽団の運営費に占める補助金の割合は52%である。万事休す。

センチュリー存続のために署名運動がネット上で始まっているが、遅きに失した感は否めない。関西経済連合会の秋山喜久会長(当時)が在阪オケ統合論をぶち上げたのはもう2年前の話である。

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そんな中、4/11(金)に大阪シンフォニカー交響楽団の定期演奏会を聴きに往った。指揮は尾高忠明さんである。

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シンフォニーカーは大和ハウスなど大手スポンサーのバックアップ体制も万全だから、当面心配はなさそうである。プログラムを見ると特別顧問の中に橋下知事の名前もあった。

最初に演奏されたリャードフ/魔法にかけられた湖は今回初めて聴いた。モーリス・ラヴェルを彷彿とさせる印象的な曲。冒頭、弱音器をつけた弦の水面がたゆたい、光を反射してきらきら煌めく。喩えようもなく美しい。やがて、もやもやとした霧の中から浮かび上がる木管の囁きはあたかも「ラ・ヴァルス」のようだった。

ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番では堀米ゆず子さんが登場。尾高さんとの呼吸もぴったりで、目の覚めるような快刀乱麻の演奏だった。先日、尾高/大フィルでシベリウス/ヴァイオリン協奏曲を聴いた時は、ソリスト(サラ・チャン)がどうしようもなく低調で、折角の尾高さんの好サポートが台無しだったが、今回は役者が違った。弦の国ニッポンの凄さを改めて思い知らされた次第である。

休憩を挟んでいよいよショスタコーヴィチ/交響曲第5番である。第1楽章提示部は遅めのテンポで始まり作曲家の絶望、虚無感をえぐり出す。展開部に入ると一転して嵐のような激情の音楽になる。途中登場する行進曲は暴力的でスターリンの恐怖政治を象徴しているかのようだ。

第3楽章ラルゴは祈りと慟哭の音楽。粛正の犠牲者への追悼であり、途中聖歌の和音が登場することに今回初めて気づかされた。

そして終楽章。尾高さんの解釈は暴力的、破壊的パワーに満ちていて圧倒された。この曲は表向きソビエト政府の革命記念日のために書かれているが、今回の演奏ではその裏に隠されていたショスタコーヴィチの真の意図が白日の下に曝され、実にスリリングな体験だった。

昨年の4月に聴いた大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団による同曲の演奏も名演であったが、今回の尾高/シンフォニカーもそれに負けず劣らず素晴らしいものだった。ブラボー!

シンフォニカーの快進撃は続く。

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宝塚月組 " ME AND MY GIRL "

宝塚歌劇を初めて観ようと考えている方に真っ先にお勧めしたいのは、海外ミュージカルである。なぜなら作品の質の高さが予め保障されているから。宝塚オリジナル作品は出来不出来の落差が激しく、勝率の極めて低い博打みたいなものである。

海外物の中でも究極の名作は「エリザベート」だろう。まず楽曲が素晴らしいし、コスチューム・プレイという点でも宝塚に相応しい。

次にミュージカル・コメディ。" ME AND MY GIRL "  "CAN-CAN"  「ガイズ&ドールズ」「ハウ・トゥ・サクシード」などがそれに相当する(僕は「ファントム」も大好きなのだが、物語自体に華やかさがないので宝塚初心者向きとは言い難い)。

" ME AND MY GIRL "(愛称:ミーマイ)の内容を一言で表すなら男性版「マイ・フェア・レディ」といったところか。ミーマイがロンドンで初演されたのは1937年であり、56年の「マイ・フェア・レディ」より先である。ただし、「マイ・フェア・レディ」の原作はジョージ・バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」で、初演が1913年だからミーマイがこれを参考にして創られた可能性は大いにある。宝塚版は86年ブロードウェイ上演版をベースにしているので、劇中で「マイ・フェア・レディ」の登場人物、ヒギンズ教授とピッカリング大佐のことが言及される。

ミーマイが宝塚月組で初演されたのが1987年。95年に月組(主演:天海祐希麻乃佳世)で再演され、今回3回目の上演となる。95年版はDVDで観た。

なお、東宝もミーマイを2度上演しており、僕は2003年の初演版(唐沢寿明木村佳乃)、および2006年再演版(井上芳雄笹本玲奈)を東京・帝国劇場で観ている。87年に宝塚でジャクリーン(ジャッキー)を演じた涼風真世さんは東宝初演でも同役を演じたが、06年再演時には純名りささんにバトンタッチし、涼風さんは公爵夫人・マリアを演じた。

東宝版は山田和也さんの洗練された演出が見事だったし、舞台装置も大仕掛けで豪華だった。唐沢さんは身のこなしが軽やかで素晴らしいビルだったのだが、この役を演じるには少々年をとり過ぎているかなという気がした。それから木村さんの歌は下手くそで聴くに堪えなかった。

再演時には主役のふたりが若返り、とても良くなった。特に玲奈ちゃんのパワフルな歌唱力には圧倒された。井上くんは最初から気品があって、「無教養でがさつな下町青年」という感じが出ていなかったのが少々残念だった。

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この度初めて生で観た宝塚版のミーマイは、やっぱり最高だった。僕は東宝版より好き。セットはシンプルだけれど、ミュージカル・コメディの真髄ってそんなところにはないんだな。練られた台本と素敵な歌、そして踊りさえあればそれだけで十分魅力的なのだ。特に一幕のフィナーレ、"ランベス・ウォーク"を全員で歌って踊る場面の愉しさと来たら!この高揚感こそミュージカルの醍醐味である。ここは出演者たちが客席に降りてくるので、是非一階席で観て戴きたい。

ビルを演じる瀬名じゅんさんについては、僕は前から「そつがない男役」だと想っていた。強烈な存在感とか魅力には欠けるが、かといって演技力・歌唱力・ダンス力にこれといった欠点も見当たらない。 そういう無個性なところが、かえってこのビルという役柄にはまっている気がした。文句なし。

サリーを演じる彩乃かなみさんは本公演で退団が決まっている。花組時代から彼女の可憐さ、歌の巧さは際立っており、僕は以前から注目していた。しかし彼女にとって不幸だったのは、宙組に組替えになったことだろう。"宝塚の女帝"と言われた大物娘役・花總まりさんさんの下で、明らかに精彩を欠いた。もっと早い時期にトップにしてあげるべきだったのにという忸怩たる想いもあるが、最後に月組に移り大輪の花を咲かせることが出来たので、これで良しとしよう。本公演で彼女が酒場で歌うバラードは、しみじみ心に沁みた。本当はサリーという下町娘役は彩乃さんに似合ってはいないのだが、フィナーレで上流階級の令嬢に華麗なる変身を遂げる場面はとても綺麗で息を呑んだ。逆に95年公演でサリーを演じた麻乃佳世さんは下町娘はピッタリだったのに、変身後は些か違和感があった。

公爵夫人を演じる出雲 綾さん(月組組長)も本公演で退団である。僕が初めて宝塚を生で観たのが宙組「エリザベート」。その時出雲さんは皇太后ゾフィー役としてその美しいソプラノを存分に披露し、観客を魅了した。あの頃宙組で男役を張っていた生徒たちも4番手まで全員トップになり、今はもう宝塚にはいない。ミーマイでエトワールを歌う出雲さんを聴きながらそんな感慨に耽った。

ジョン卿を演じる霧矢大夢きりやん)は元々芸達者な人なので、悪かろう筈がない。ただ、ジョン卿は歌が少なくソロさえないのできりやんが一寸気の毒。

ジャクリーンは役代わりで、今回僕が観たのは娘役の城咲あいさん。男役・明日海りおさんのジャッキーは来週観劇予定。このあたりの比較は後日、改めて書こう。

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吉野の桜と日本人の死生観

奈良県の吉野はやはり、日本一の桜の名所である。

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吉野の桜はソメイヨシノ(染井吉野)のような大粒ではなく、山桜である。ちなみにソメイヨシノには「吉野」という言葉が使われているが、原産地は江戸の染井村(現在の東京都豊島区駒込)。幕末の頃、そこに集落を作っていた造園師や植木職人によって育成されたものである。

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僕は吉野に毎年桜を見に往っているが、その度に周りの人々が口々に次のような会話を交わしているのが聴こえて来る。

 「いい冥途の土産になった」(おばちゃん)
 「めっちゃ綺麗!もう死んでもいい!!」(女子高生)

一方、京都などへ紅葉狩りに往ったときは「死んでもいい」とか「冥途の土産」などという言葉は一切聴いたことがない。どうも日本人は桜を見ると、それを死のイメージと結び付ける傾向があるようだ。

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「花のいのちはみじかくて、苦しきことのみ多かりき」と言ったのは林芙美子(「放浪記」)であるが、吉野の桜の花吹雪を眺めていると、散りゆく潔さやこの世の無常を感じずにはいられない。

「檸檬」で有名な梶井基次郎(大阪生まれ)は、小説「桜の樹の下には」の中で

桜の樹の下には屍体が埋まっている!

これは信じていいことなんだよ。何故(なぜ)って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。

と書いた。多分、同じ風景を見ても西洋人はそんなことは考えないだろう。こんな所にも民族の独自性、歩んできた歴史の重みというものが感じられるのである。

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4ヶ月、3週と2日

評価:D

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第60回カンヌ国際映画祭はルーマニア映画「4ヶ月、3週と2日」が最高賞であるパルム・ドールに輝き、グランプリは河瀬直美監督の「殯の森」が受賞した。

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「4ヶ月、3週と2日」は、バカ女の身勝手な行動に翻弄される気の毒なルームメートの悪夢のような一日を描く映画。一言で言うと退屈極まりない。観るだけ時間の無駄。

長廻しを多用した演出は意味のない会話・間が多すぎる。編集して現在の上映時間の半分位にまとめればもう少しマシな作品になるだろう。それから主人公が夜の街を疾走する場面は照明は暗いし画面は揺れるし、まるで「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」みたいでゲンナリした。

僕はこの映画を褒める輩の感性を全く信用できない。「4ヶ月、3週と2日」や「殯の森」みたいな映画に賞を与えたカンヌの審査員達の審美眼はどうかしている。カンヌの審査員は毎年変わるが、人選にはもっと熟慮が必要だろう。

今年のアカデミー外国語映画賞は最終候補5作品にルーマニア代表「4ヶ月、3週と2日」や、日本代表「それでもボクはやってない」を選ばなかった。その見識の高さに快哉を叫びたい。

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スプリングコンサート(淀工・近大・阪急・市音)

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大阪市音楽団(市音)が主催するスプリングコンサート(吹奏楽トップ・コンサート・イン・オオサカ2008)を聴きに大阪城音楽堂へ往った。

昨年の全日本吹奏楽コンクール高校の部で金賞を受賞した大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部(淀工)、大学の部金賞近畿大学吹奏楽部、そして職場の部で金賞を獲った阪急百貨店吹奏楽部が出演、最後はプロの市音が〆るというなんとも贅沢なコンサートで、これが入場無料というのだからたまらない!ひとつ残念だったのは昨年出場していた、明浄学院高等学校吹奏楽部の名前が今回なかったことである。

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まず大谷中・高等学校吹奏楽部&バトントワリング部によるオープニング・パレード。演奏されたのは「76本のトロンボーン」ほか。「76本のトロンボーン」はブロードウェイ・ミュージカル「ザ・ミュージック・マン」(1957年初演)のナンバーである。

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「ザ・ミュージック・マン」の舞台となるのはアメリカの田舎町。セールスマンを装い、子供たちによるマーチング・バンドを作ろうと持ちかけては親から楽器の代金をせしめて逃げ去る詐欺師、ハロルド・ヒルの物語。しかし、ひょんなことから図書館員マリアンと恋に落ちたヒルは、本当に子供たちのバンドを結成し指導するはめになる……という心温まるコメディである。「76本のトロンボーン」は子供たちによるマーチング・バンドが初めて演奏する曲で、1幕のフィナーレを飾る華やかな名曲。このミュージカルはトニー賞に輝いたオリジナル・キャストのロバート・プレストン主演で1962年に映画化もされており、舞台同様に素晴らしい作品だった。特に「76本のトロンボーン」を演奏しながら子供たちが町を堂々と行進する場面は圧巻である。但しこの映画、残念なことに日本未公開、DVD未発売である(僕は北米版DVDで観た)。

さて、淀工が演奏したのは

アルメニアン・ダンス Part 1
カーペンターズ・フォーエヴァー
ジャパニーズ・グラフティIV ~弾厚作
作品集~
星条旗よ永遠なれ

であった。

吹奏楽の名曲中の名曲「アルメニアン・ダンス」を淀工が普門館で演奏したのは86年。金賞に輝いたこの時の「アルメニアン・ダンス」の演奏は、83年神奈川県代表の野庭高等学校吹奏楽部、そして87年創価学会関西吹奏楽団と並び全日本吹奏楽コンクールにおける極め付けの名演として今でも語り草となっている。ちなみに学校の統廃合で今は消滅した野庭(のば)の生徒たちと、彼らを指導した故・中澤忠雄氏の奇蹟については「ブラバンキッズ・オデッセイ」という本にもなっているので、吹奏楽に興味のある方には是非お勧めしたい。

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丸谷明夫 先生(丸ちゃん)は、開口一番「昨年コンクールで金賞を受賞した時の3年生はこの3月に全員卒業しましたので、今は残りカスです」と言って聴衆の笑いを誘った。ちなみに去年は「今がドン底です」だった。「カーペンターズ・フォーエバー」の時は「ソロが沢山ありますので、演奏の途中でも構いませんから拍手してやってください。生徒も調子に乗ると思います」と言って、またまた会場が沸いた。

今回は新2,3年生の部員全員がステージに上っていたようで、兎に角その音圧が凄かった。丸ちゃんは謙遜するが、なんたって天下の淀工である。もう現時点で全国大会出場レベルは軽くクリアしている。全員暗譜で演奏したのもさすがであった。また、パーカッションの生徒たちが旋律を口ずさみながら叩いている光景は実に清々しかった。ちなみに去る3月23日に浜松で行われた全日本高等学校選抜吹奏楽大会で淀工は「アルメニアン・ダンス」を演奏し、ゴールデン賞と中日賞を受賞している。

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実は淀工の「アルメニアン・ダンス」を生で聴くのは今回初めてである。DVD「淀工 青春の軌跡」に収録されている22年前のコンクールでの演奏と比べると幾分テンポがゆったりとしており、メドレーで登場するアルメニア民謡のひとつひとつを丁寧に歌った心に沁みる演奏だった。特に5曲目Gna, Gna(行け、行け)では指揮する丸ちゃんが満面の笑みで、この曲が本当に好きなんだなぁということを窺わせた。

丸ちゃんといえば「行進曲を振らせたら世界一」ということは衆目の一致するところだろう。もうひとつ僕が指摘しておきたいことがある。それは丸ちゃんの選曲の特徴として、民謡を取り入れた吹奏楽曲を好む傾向があるということだ。「アルメニアン・ダンス」もそうだし、今年淀工が各地で演奏しているホルストの「吹奏楽のための組曲」もイギリス民謡に基づいている。また2006年のグリーンコンサート(グリコン)で演奏された「リンカンシャーの花束」はグレインジャーがイングランド東部のリンカンシャー地方で採集した民謡から紡ぎ出された吹奏楽の名曲である。さらに淀工の十八番である「大阪俗謡による幻想曲」も天神祭や生国魂神社の祭囃子が引用されており、同趣向の曲と言えるだろう。

次に、近畿大学吹奏楽部のタクトを振ったのは学生指揮者の玉井 伸さんだった。

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実は昨年スプリングコンサートで聴いた時は、正直「近大も下手くそになったなぁ」という印象であったのだが、今年はピッチも合っていて見違えるように緻密なアンサンブルを聴かせてくれた。近大は平成19年全国大会金賞だったが、平成18年は関西大会銀賞に止まっている。この一年間で飛躍的に上手くなったという事だろう。ちなみに昨年のコンクールで指揮されたのは森下治郎さん。昭和63年以来、実に18年ぶりの登板だった。やはりアマチュア・バンドは指導者によってその実力が左右されるということがよく分かる。

最初に演奏されたウォルトン/戴冠式行進曲「王冠」は学生指揮者のためか些かテンポが重い印象だった。それからウォルトンにせよエルガー/「威風堂々」にせよ、イギリス音楽固有の気高さ(nobility)は吹奏楽用アレンジでは醸し出せない気がした。やはり彼らの楽曲には弦楽器が必要不可欠なのだろう。ちなみに6/20に行われる巨匠・児玉宏さんの大阪シンフォニカー交響楽団 音楽監督・首席指揮者就任記念コンサートでもウォルトン/戴冠式行進曲「王冠」が演奏されるので、大いに期待したい。

続いて登場したのは阪急百貨店吹奏楽団である。

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阪神百貨店と言えば何と言ってもまずは阪神タイガース。そしてイカ焼きも有名。阪神は非常に庶民的だ。阪神に吹奏楽団はない。

それに対して阪急と言えば宝塚歌劇。そしてこの吹奏楽団。さらに佐渡 裕さんが芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターも阪急沿線にある。う〜ん、文化の香りがする。阪神と阪急は全くカラーが違うのである。

阪急が演奏した日本の情景「春」山下国俊 編)はアレンジが凡庸で詰まらなかった。日本の情景の筈なのにシューベルトの「野ばら」が挿入されているのも納得いかない。同趣向の曲なら「あの日聞いた歌」(真島俊夫 編)の方が断然良い。

しかし、その後に演奏された「テレビCMオンパレード」(小島里美 編)は最高に面白かった!挿入されたCMソングはなんと25曲もあったそうである。市音がしばしば演奏する映画「ハウルの動く城」〜人生のメリーゴーランドの編曲も良かったし、小島さんは大変才能のあるアレンジャーだなと改めて感心した次第である。

そして最後はその市音が登場。

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<時代を彩ったアメリカの作曲家たち>というテーマでバーンスタイン、ガーシュウィン、マンシーニ、スーザの曲が演奏された。

市音を聴く度に想うのは「在阪オーケストラの金管セクションもこれくらい上手かったらなぁ」ということである。まあそんな仮定をしても詮ないことくらい、十分承知はしているのだが……。

兎に角、素敵なコンサートでした!

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日本テレマン協会/第400回記念マンスリーコンサート

大阪倶楽部で日本テレマン協会のマンスリーコンサートを聴いた。今回は400回記念で、イギリスから大物ゲストが登場。先日のベートーヴェン・チクルスでコンサートマスターを務めたサイモン・スタンデイジである。

スタンデイジはかつてトレヴァー・ピノック率いるイングリッシュ・コンサート創立時のコンサート・マスター。また、ホグウッド/エインシェント管弦楽団と共演するなど古楽の世界で活躍するヴァイオリニストである。1990年よりコレギウム・ムジクム・テレマン(日本テレマン協会所属)のミュージック・アドヴァイザーに就任している。

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今回のプログラムは、

J.S.バッハ/ヴァイオリンとチェンバロの為のソナタ 
ヘンデル/ヴァイオリンと通奏低音の為のソナタ 
ルクレール/ヴァイオリンと通奏低音の為のソナタ 

ー休憩ー

テレマン/3つのヴァイオリンの為の協奏曲
テレマン/12のファンタジーより 第12番&第4番
J.S.バッハ/3つのヴァイオリンの為の協奏曲

共演は関西が誇るチェンバロの鬼才・中野振一郎 先生、そして後半はコレギウム・ムジクム・テレマンの面々も参加した。ヴァイオリンの中山裕一さんはスタンデイジの弟子であり、師弟共演でも全く遜色のない演奏で聴き応えがあった。

ルクレールはスタンデイジが最も得意とする作曲家で、中野先生のお話ではコンサートで毎回取り上げているらしい。ルクレールはヴァイオリンの名手であると共にレース編みとダンスの達人でもあったとか。そして最後は自宅で惨殺死体となって発見され、その犯人は未だに謎なのだそうだ。なかなか興味深い人生だ。

スチール弦のモダン楽器と違い、バロック・ヴァイオリンは羊の腸を縒り合わせたガット弦を張っている。スチール弦が伸びのある輝かしい音がするのに対して、ガット弦は雑味を含み、くすんだ響きがする。音のざらつきは音色の豊かさに結びつき、その色合いは暖色系である。一方、スチール弦は喩えるなら取り澄ました令嬢のようで、些か冷たく響く。

スタンデイジの弾くバロック・ヴァイオリンを聴いていると、いつしか自分が深い森の中を彷徨っているかのような気分になった。これに比べると、モダン・ヴァイオリンの響きは人気のない高層ビルの谷間で聴いているような印象と言えるかも知れない。

楽器が進化していく過程で、得たものもあれば、その代償として失ったものも少なくはなかったということなのだろう。そんなことどもを考えさせられた一夜であった。

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魔法にかけられて

Enchanted

評価:A+

映画公式サイトはこちら

観て腰を抜かした。なんて素敵な映画なんだろう!これは、往年のディズニー・アニメーションへの愛のこもった讃歌であり、ディズニー・スタジオの高らかな復活宣言でもある。

冒頭部、ディズニーのロゴマークとしてお馴染みのシンデレラ城が登場する。すると、あれよあれよという間にカメラが城の窓の中に飛び込むという意表を突く展開。この瞬間、僕はこの映画に恋をした。

プロローグはセル画によるフル・アニメーションで話が進む(日本のテレビ・アニメの大半はセル画の枚数を減らしたリミテッド・アニメーション)。そして森の場面ではカメラが画面奥の方向にずんずん分け入ってゆく。なんと、“マルチプレーン・カメラ(Multi Plane Camera)”を使用しているではないか!!

ウォルト・ディズニー・スタジオが開発したマルチプレーン・カメラが最初に用いられたのはアカデミー賞に輝いた短編「風車小屋のシンフォニー」(The Old Mill,1937年)である。その成功に手ごたえを感じたディズニーは長編映画第1作の「白雪姫」(1937)や「バンビ」(1942)などでもこの装置を効果的に使用した。平面的なセル画をいかに奥行きがあるように見せるのか?その具体的な撮影方法についてはここが分かり易く解説してくれている。

「魔法にかけられて」のアニメーション・シーンでは「白雪姫」「バンビ」などで活躍した動物キャラクターが多数登場し、またジゼル姫の勇敢なキャラクターは明らかに「美女と野獣」(1991)のベル、「アラジン」(1992)のジャスミン姫など、破竹の勢いだった90年代・新生ディズニー映画のヒロイン像を踏襲している。

"魔女"ナリッサの策略でジゼル姫は現代のニューヨークに追放されるのだが、そのふたつの世界を結ぶ井戸を通過する場面でセル画の2DアニメーションがCGによる3Dアニメ+実写の融合に変化する。その転換が実に鮮やかであった。

舞台をニューヨークに移してからも、例えばジゼルが弁護士事務所の水槽の魚を覗き込む場面で、「リトル・マーメイド」のナンバー"Part of your world"のメロディが流れてきたり、セントラル・パークで歌って踊る場面では「美女と野獣」のルミエールみたいな蜀台のキャラクターが登場。クライマックスの舞踏会は当然「シンデレラ」の要素が盛り込まれているのだが、それだけではなく「美女と野獣」でベルと野獣が踊る場面とカメラワークがそっくりだったりといった具合に、映画全編が往年のディズニー作品のパスティーシュ、オマージュとなっている。

「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ポカホンタス」の4作品で、作曲賞と歌曲賞を2部門ずつ受賞し、合計8個のオスカー保持者アラン・メンケン(作曲家として最多)は本作で久しぶりにその本領を発揮した。いやもう兎に角、音楽が素晴らしい。セントラルパークの場面で歌われるナンバーは、カリビアンな雰囲気に満ち、「リトル・マーメイド」の名曲"Under the Sea"を彷彿とさせた。目新しいところは何もないが、ディズニー映画はそれでいいのだ!偉大なるマンネリズムのどこが悪い?

最後に、ディズニー・スタジオの歴史を踏まえていると、より一層本作を愉しめると想うので、掻い摘んでご紹介しておく。

1966年ウォルト・ディズニーが亡くなり、スタジオは長期低迷期に入る。そして「リトル・マーメイド」以降、1990年代に再び黄金期を迎えるのだが、その立役者は映画部門の最高責任者だったジェフリー・カッツェンバーグおよび、作詞・作曲を担当したハワード・アシュマンとアラン・メンケンだった。

しかし、アシュマンは「アラジン」製作途中にAIDSで亡くなり、カッツェンバーグは当時ディズニーの会長兼最高経営責任者(CEO)だったマイケル・アイズナーと仲が悪く、追い出されるような形でディズニーを退職し、スピルバーグらと共にドリームワークスSKGを設立する。そして取り残されたメンケンに仕事のお鉢は回ってこなくなった。

優秀な才能を失ったディズニー・スタジオは顕著に作品の質を落とし、業績も悪化。この凋落ぶりに焦りを感じたアイズナーは「これからは全てCGアニメに移行し、もう二度とセル・アニメーションは手掛けない」と宣言し、大量にアニメーターを解雇するなど混乱を極める。差し詰め、アイズナーは「魔法にかけられて」における"魔女"の役割を果たしたと言えるだろう。

2004年の株主総会でアイズナーに対する不信任投票が43%で可決、進退窮まったアイズナーは2005年9月末、遂にCEOを退任した。2006年5月5日ディズニーはCGアニメーションの雄・ピクサー社(「トイ・ストーリー」「ファインディング・ニモ」「レミーのおいしいレストラン」)を買収するのだが、この結果ピクサーのCEOであるスティーブ・ジョブズがディズニーの筆頭株主および役員に就任し、ピクサーの全作品を総括指揮してきたジョン・ラセター(「トイ・ストーリー」「カーズ」の監督でもある)がディズニーの最高製作責任者に収まった。つまりこの買収劇は実質上、ピクサーが弱体化したディズニーを制圧したのである。そしてラセターはディズニーの伝統であるセル・アニメーションの復活を即座に決断した(ラセターはピクサーに就職する前、ディズニーのアニメーターだった)。

今まさに、ディズニー・スタジオに3度目の春が訪れようとしている。And they lived happily ever after.(そして彼らはいつまでも、幸せに暮らしましたとさ)

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大阪俗謡をめぐる冒険(大栗 裕、大フィル、そして淀工)

”浪速のバルトーク”こと、大阪生まれの作曲家・大栗 裕(1918-1982)を知っていますか?

大栗 裕大阪フィルハーモニー交響楽団の関係、そして吹奏楽の世界では有名な「大阪俗謡による幻想曲」が生まれた経緯については関西シティーフィルハーモニー交響楽団のこちらのページが詳しいのでご覧あれ。

朝比奈 隆ベルリン・フィルの指揮台に立ち、「大阪俗謡による幻想曲(原題:大阪の祭囃子による幻想曲)」を演奏したのが1956年。その1年前に当時関西交響楽団大阪フィルハーモニー交響楽団の前身)のホルン奏者だった大栗 裕はこの曲を作曲し、朝比奈/関西交響楽団が神戸で初演している。1955年5月28日のことであった。

しかし、朝比奈が持参した手書きのスコアはベルリン・フィルの資料室に保管され大栗の手元に残らなかったので、1970年に大栗は自らの記憶を頼りに70年改訂管弦楽版を創った。

1974年にはプロの吹奏楽団である大阪市音楽団(市音)からの依頼で大栗は「大阪俗謡」の吹奏楽版を書き上げ、同年市音の定期演奏会で初演された。この吹奏楽全曲版は演奏時間が約12分である。1992年に朝比奈 隆市音を指揮してこの吹奏楽版をレコーディングしているが、このCDは残念なことに現在廃盤である(2011年7月追記:その後CDは再発された)。

大栗と親交のあった淀川工業(現在は工科高等学校吹奏楽部の丸谷明夫 先生(丸ちゃん)大栗と相談しながらこれをカットし、約8分に仕上げた。これがいわゆる淀工バージョンである。何故8分か?吹奏楽コンクールで各校に与えられた制限時間は12分。その時間内で課題曲と自由曲を演奏しなければ失格となる。課題曲は3分くらいの曲が多いので曲の間にパーカッションなど生徒が移動する時間も考慮すると8分がぎりぎりの線なのである。

そして1980年に淀工は全日本吹奏楽コンクールで「大阪俗謡」を初めて演奏し、見事金賞を受賞。現在まで淀工は5回この曲を全国大会で演奏し、さらに同じ大栗の「吹奏楽のための神話(天岩屋戸の物語による)」も2回取り上げているが、その全てで金賞に輝いている(2011年2月追記:その後、淀工は2008年に「大阪俗謡」で6度目となる金賞を受賞した)。

また一般の部では、尼崎市吹奏楽団が1984年に全日本吹奏楽コンクールで「大阪俗謡」を取り上げ、金賞を受賞した。この時演奏されたのは指揮した辻井清幸 氏(現在、大阪音楽大学名誉教授)による校訂版で、このコンクール用カット・バージョンの楽譜が1989年にアメリカから出版された。だから辻井バージョン淀工バージョンはカットが異なり、コンクールで淀工以外のバンドが「大阪俗謡」を取り上げるときに使用される楽譜は辻井バージョンである(現在までに淀工以外、13団体が全国大会で演奏している)。また、丸ちゃんが指揮したなにわオーケストラルウインズ2003年の公演では淀工バージョンが演奏され、それはCDで聴くことが出来る。

70年改訂管弦楽版吹奏楽全曲版は未出版であるが、大阪音楽大学附属図書館大栗文庫で閲覧することが可能である(要電話予約)。

「大阪俗謡」には曲中、大阪夏の風物詩である天神祭の地車囃子(だんじりばやし)や、ピッコロで吹かれる生国魂(いくたま)神社の獅子舞に使われる旋律が登場する。昨年、僕が天神祭を体験した時のレポート「大阪名物夏祭り!!」はこちらからどうぞ。

大栗は吹奏楽コンクールの課題曲も二度作曲している。「吹奏楽のための小狂詩曲」(1966)と「吹奏楽のためのバーレスク」(1977)である。また1962年に「2000人の吹奏楽の歌」を作曲、それは規模が大きくなりながら現在も京セラドーム大阪で開催されている「3000人の吹奏楽」で、毎年演奏されている。

また大栗は生前、関西大学マンドリンクラブの技術顧問および京都女子大学マンドリンオーケストラで音楽指導に当たり、マンドリンのための作品も多数作曲している。そして、な、なんと!「大阪俗謡による幻想曲」のマンドリンオーケストラ版もあるそうなのだが、これはどうやら大栗自身の編曲ではないらしい。

大阪フィルハーモニー交響楽団は4月15日(火)にいずみホールで「大栗 裕の世界」というコンサートを開催する。詳細はこちら。僕も勿論、聴きに往く予定。特に37年ぶりに上演されるという歌劇「赤い陣羽織」が非常に愉しみである。ただ残念なのは、「大阪俗謡」がプログラムに入っていないこと。僕が大阪に棲むようになって3年。その間に市音による「大阪俗謡」吹奏楽全曲版は生で2度聴く機会があったが、大フィルは一度も演奏していない。今度は是非、大植英次さん(現・大フィル音楽監督)が指揮する「大阪俗謡」も聴いてみたいと夢想する今日この頃である。

「大阪俗謡」究極の名盤はこれだ!! ……という記事も書きたいのだが、長くなったので今回はここまでにしよう。近いうちに続きをアップする予定なので乞ご期待。ただこれだけは今、強調しておきたい。「大阪俗謡」を初演した朝比奈 隆が指揮するCDは、大阪フィルハーモニー交響楽団による管弦楽版市音による吹奏楽全曲版もいずれも長い間、絶盤状態が続いている。この名曲は大阪という土壌が生んだ、世界に誇れる遺産である。朝比奈の演奏が聴けないということは、多大なる文化的損失と言わざるを得ないだろう。関係者は是非、現状の改善に努めていただきたい(2011年2月追記:その後、朝比奈/市音のCDは再発売された)。

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刮目せよ!延原武春/テレマン室内管弦楽団 クラシカル楽器によるベートーヴェン

日本テレマン協会のベートーベン・チクルス初日を聴きに往った。クラシカル楽器(古楽器)による交響曲全曲連続演奏会は日本初の試みである。

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今回の曲目は交響曲第一番、そして第三番「英雄」。これは奇しくも昨年、鈴木秀美/オーケストラ・リベラ・クラシカ(OLC)で聴いたのと全く一緒。場所も同じいずみホールであった。

演奏されたピッチ(音の高さ)はA=430Hz。バロック・ピッチは415Hzで、現在の弦楽器はA線を440~444Hzに調弦するので、ちょうどその中間。ベートーヴェンの生きた時代(1770-1827)がバロックからモダンへの過渡期だったことがよく分かる。

今回のプログラムの表紙にはアントン・シントラー(ベートーヴェンの弟子で伝記の著者)による、次のようの言葉が掲載されていた。

「ベートーヴェンは自分の曲が演奏されたとき、最初の質問はいつも"テンポはどうだったか?"であった。彼にとっては他の何事も二次的な事項に思われた」

そして各楽章ごとに、1817年にベートーヴェン自ら記入したメトロノーム速度が記載されていた。これは交響曲第八番と九番が作曲される間の時期に当たる。メルツェルがメトロノームを発明し特許を取ったのが1816年、その翌年のことである。20世紀にはこの指定が速すぎて演奏不可能であると見なされ、ベートーヴェン自身の間違いであると曲解された。だからフルトヴェングラー、ベーム、カラヤン、バーンスタイン、朝比奈ら嘗ての巨匠たちは、ことごとくこれを無視した演奏をしていた。

今回はこの作曲家の指示に忠実な演奏がなされ、それは些かも速過ぎることはなく、ましてや不自然な音楽でもなかった。むしろ勢いと生気に満ちたベートーヴェン像がそこにはあった。

鈴木秀美/OLCはアタック、アクセントを強調したその弾力性が特に魅力的だったが、延原武春/テレマン室内管弦楽団はそこに主眼は置かず、切れ味抜群で颯爽とした、小気味好い解釈だった。いずみホールは8割がた客席が埋まり、新鮮な魅力が一杯詰まった熱演に盛大な拍手が送られていた。

コンサートマスターはバロック・ヴァイオリンの巨匠サイモン・スタンデイジ(トレヴァー・ピノック率いるイングリッシュ・コンソート創立時のメンバー)が務めた。そしてヴィオラのトップが大阪フィルハーモニー交響楽団の上野博孝さん(嘗てはテレマン・アンサンブルのコンサートマスターでスタンデイジに師事)、チェロに上塚憲一さん(以前テレマン協会首席チェロ奏者で現在は大阪音楽大学講師。バロック・チェロをアンナー・ビルスマに師事)が参加されるなど優秀な音楽家が結集し、弦楽パートは文句なしに素晴らしかった。

ただ弦に比べると日本の奏者ばかりの管楽器が反応が鈍くミスも目立ち、延原さんの意図が十分に音として表現し切れていないもどかしさがあったのも確かである。

「弦の国」と呼ばれる日本はたくさんの優秀な弦楽奏者たちを輩出してきた。しかし管楽器・特に金管については従来より日本人は得意じゃない。まして古楽器は音を出すのがモダン楽器より難しく、熟達した奏者は極めて少ない。

例えばオーケストラ・リベラ・クラシカのメンバー一覧を見れば明らかであろう。こちらをクリック。弦楽奏者28名中、外国人は1名だけ。一方、管楽器は15名中、外国人奏者が8名と過半数を占めるのである。

極東の国・日本、さらにその地方都市である大阪で、西洋の古楽器だけ演奏して生活していける筈もなく、テレマン室内管弦楽団のメンバー大半はモダン楽器との兼用である。そんな経験も少ない音楽家たちがベートーヴェンの交響曲をオリジナル楽器で演奏をしようというのは大きな賭け、リスクの高い冒険だったと言わざるを得まい。今後の課題は色々残ったが、それでも厳しい条件の中よくぞここまで頑張ったと大いに讃えたい。今回の体験は間違いなく未来へと繋がっていくだろう。僕はそこに明るい希望の光を見た。

次回チクルスの日程は4月28日(月)、場所はいずみホール。演奏されるのは交響曲第二番と第五番「運命」である。詳細はこちら。ベートーヴェンが好きな人は絶対聴き逃すな!

関連blog記事:
バッハを歩く・バッハと歩く
虫籠日記

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