ノーカントリー
評価:B
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まず邦題が酷い。原題は"No Country for Old Men" つまり、「老人に住む国なし」という意味だ。これが「ノーカントリー」だと全く意味不明。原作小説の邦題は「血と暴力の国」。内容に即しているだけ、そちらの方が幾分か好感が持てる。スピルバーグがアカデミー監督賞を受賞した映画"Saving Private Ryan"(ライアン二等兵を救出せよ)の邦題が「プライベート ライアン」となり、分けわかんなくなったあの醜態を想い出した。カタカナ英語にしたいのなら省略すべきではないし、映画宣伝部はもっと分かり易いタイトルを付ける努力をすべきである。職務怠慢以外の何ものでもない。
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の監督作品で僕が今まで観たことがあるのは「ミラーズ・クロシング」「バートン・フィンク」(カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞)「未来は今」「ファーゴ」(カンヌ国際映画祭監督賞受賞)「オー・ブラザー!」などである。そして一度たりとも彼らの映画を面白いと想ったことはない。
第80回アカデミー賞で作品賞・監督賞・助演男優賞・脚色賞を受賞した「ノーカントリー」はコーエン兄弟のフィルモグラフィの中ではマシな部類かなと想った。オスカーを受賞したハビエル・バルデム演じる殺し屋シガーの特異なキャラクターが滅法面白く彼から目が離せないので、その分見応えがあった。
シガーは自分で定めた勝手なルールに従って殺しをする。そのルールは殺される側の立場に立つと理不尽極まりない。彼の持つ攻撃性・凶暴さはある意味、アメリカという国家そのものの象徴である。アメリカは自分たちの「デモクラシー」が絶対正義だと信じ、それを他国に押し付けようとする。例えばイラク。ありもしない「大量破壊兵器」の存在を主張し、一方的に攻撃、占領した。ベトナム戦争では敗北したが、やろうとしたことは結局同じ。そして今度はその矛先をイランに向けようとしている。
「ノーカントリー」という作品全体を覆い尽くすのは虚無感である。トミー・リー・ジョーンズ演じる老保安官は「どうしてこの国はこんなことになってしまったんだろう?どこで我々は道を誤ったのか?」と嘆く(直截彼が言うわけではないが、ラストシーンの呟きは煎じ詰めればそういうことである)。これは一種の諦念である。
アメリカの暴力性に対する絶望は、その国民ならば切実なテーマに違いない。だから本作がアカデミー作品賞を受賞した理由は十分頷ける。僕がもしアメリカ人なら評価をAにしたかも知れない。しかしそれは銃社会であるアメリカ固有の問題であり、普遍性があるとは僕には想えない。だから日本人にとってこの作品は、琴線に触れることろの全くない映画だと断じて差し支えないだろう。
なお、アメリカ社会がどうして銃と決別できないかについては、その歴史と大いに関わる問題である。この点に興味のある方はアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したマイケル・ムーア監督の「ボーリング・フォー・コロンバイン」をご覧になることをお勧めする。
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