大阪天満宮は梅が満開だった。春はもう、すぐそこだ。
2005年にTBS系で放送された「タイガー&ドラゴン」(脚本:宮藤 官九郎、出演:長瀬智也・岡田准一・伊東美咲ほか)や2007年度「キネマ旬報」誌の日本映画ベストテンで堂々第3位に輝いた「しゃべれどもしゃべれども」(出演:国分太一、香里奈ほか)そして、現在NHKで放映中の「ちりとてちん」等の影響もあって今、空前の落語ブームである。
そんな最中、昭和の「上方落語四天王」と呼ばれた桂 文枝を偲び、その弟子たちによって開催された落語会の二日目を聴きに繁昌亭に往った。一日目の感想はこちら。

まず、桂 あやめさんが「師匠への手紙」。あやめさんは文枝直弟子の中で唯一の女性。男社会である落語の世界でもがき苦しみながら、やがてあやめさんは創作落語という活路を見出されるのだが、それを温かく見守ってくれた師匠への想いが溢れ、後半は涙ぐみながら手紙を朗読された。あやめさんが落語家を志したのが18歳の時。入門の許可を得るために慌てて運転免許を取ったこと、師匠のクラウンを初めて運転した際、阪神高速の環状線に入れなくて立ち往生したエピソードなどを面白おかしく話された。またあやめという名跡(みょうせき)はかつて文枝自身が名乗っていたもので、入門当初からその襲名を希望されていたこと、小枝さんの口ぞえで12年目にして漸くその願いが叶ったことなど興味深いお話も聴くことが出来た。そして最後は三味線を弾きながら都々逸(どどいつ)を披露された。
桂 阿か枝(あかし)さんは明石(あかし)市出身で文枝最後のお弟子さんだそうである。演目は「ん廻し」。「ん」という言葉をひとつ言えば、たこ焼きがひとつ貰えるという言葉遊び。
桂 小軽さんは文枝師匠がなんば花月(現:NGK)だけで披露していたという僅か2分程度の小噺をされた。
桂 枝曾丸(しそまる)さんは「おばちゃん鬘」を被って「和歌山弁落語」を披露。
桂 文也さんは「宿替え」(江戸落語では「粗忽の釘」)。長屋の壁に打った釘の先が隣に飛び出して大騒動に。
桂 こけ枝さんは「手水(ちょうず)廻し」。朝、顔を洗うことを大阪では「手水(ちょうず)を使う」というのだが、大阪の商人が丹波国に旅をして宿屋で「手水を廻してくれ」と言ったことから誤解が雪だるま式に膨れていく噺。
そして桂 小枝さんが「文枝想い出噺」。僕は朝日放送の「探偵!ナイトスクープ」を観た時から小枝さんの大ファンで、特に小ネタ集とパラダイス・シリーズは毎回わらかしてもろうた。だから関西に棲むようになって一度は生の小枝さんを観たいという願望が強かったのだが、漸くその夢が叶った
。もう小枝さんが登場しただけで場内大爆笑!こんなキャラクターも珍しい。最初から最後までハイ・テンションで突っ走り、噺の中身も抱腹絶倒で涙が出た。今月もう一度、小枝さんの落語を聴かせて貰う予定である。
桂 枝女太(しめた)さんは「四人ぐせ」。四人各々の個性の違いを際立たせるジェスチャーの使い分けが面白かった。
桂 文太さんが登場するやいなや、場内のあちらこちらから「待ってました!」と声が掛かったのには驚いた。新聞記事によると、文太さんは繁昌亭のこけら落とし公演から毎回必ず高座で違う演目をかけ続けてこられたそうだ。その数は1年間で33回にのぼるとか。文太さんは持ちネタの数が非常に豊富な噺家で、他の落語家からの問い合わせもあるらしい。今回演じられたのは「七段目」。芝居好きの若旦那と番頭が繰り広げるてんやわんや。語り口の上手さが光った。
桂 三枝さんは前日に九州の別府で落語会があり、この日は小倉から新幹線に乗り継いで来られたそうである。前回聴いた「桂 三枝 話の世界」の日は鹿児島から繁昌亭まで駆けつけてこられたから、相変わらずお忙しいご様子。今回のことを書かれた三枝さんのブログはこちら。
まず文枝師匠とアメリカ旅行をされた逸話をまくら(導入部)に、その想い出が盛り込まれた創作落語「お忘れ物預かり所」を披露された。三枝さんの創作落語はやっぱり桁外れに面白い。その幾つかは間違いなく古典として残り、今から百年後、二百年後でも高座にかかることだろう。こうして落語の新しい歴史が刻まれていくのだ。
二日間、とても愉しいひと時だった。また来年、僕は同じ日に同じ繁昌亭の椅子に坐り、皆さんの落語を聴かせて頂きたいと想う。
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