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2008年3月11日 (火)

森 麻季&横山幸雄 Duo Concert

神戸文化ホールで森 麻季さんのソプラノ・リサイタルを聴いた。

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森さんの歌声を初めて聴いたのが今年のNHKニューイヤーオペラコンサートだった。そして日本人の歌唱も、遂にここまでのレベルに達したのかという深い感慨を覚えた。

森さんは2007年にドレスデン国立歌劇場に「ばらの騎士」ゾフィー役でデビューを果たした。ここはかつて、リヒャルト・ワーグナーが楽長を務め、その「タンホイザー」やR.シュトラウスの「サロメ」「ばらの騎士」等が初演された格式高いオペラハウス。ここで歌うということは世界が認めたということを意味する。

さらに彼女は美貌に恵まれ、スタイルも抜群である。オペラ歌手と言えばルチアーノ・パバロッティを筆頭に肥満体というイメージが強い。しかしマリア・カラス(ギリシャ)は痩せていたし、キャスリーン・バトル(アメリカ)、アンジェラ・ゲオルギュー(ルーマニア)、ステファニア・ボンファデッリ(イタリア)、アンナ・ネトレプコ(ロシア)ら、麗しき名ソプラノ歌手たちも痩身である。考えてみれば太ったからといって横隔膜が大きくなるわけではないし、胸郭が広がり肺活量が増えることもない。太っていないと声量が出ないと昔から言われてきたことは科学的根拠はなく、全くの迷信であると今、確信した。オペラ歌手が肥えるのは芸の為ではない。単なる不摂生だ。

さて、NHKニューイヤーオペラコンサートは森さんの衣装のセンスも素晴らしかった。今回のリサイタルでは3着用意されていた。まず赤紫のドレス、そして明るい緑のドレス、最後に華やかな花柄のドレス。その各々が素敵だった。

プログラムは横山さんのピアノ独奏を途中に挟みながら、まずイタリア語でヘンデル/「オンブラ・マイ・フ」「涙の流れるままに」、ラテン語で「アヴェ・マリア」(バッハ=グノー)、そして日本の「浜辺の歌」山田耕筰/「曼珠沙華」「からたちの花」。前半最後はショーソンデュパルクが作曲したフランス歌曲であった。後半はドイツ語でヨハン・シュトラウス/喜歌劇「こうもり」から”私の侯爵様”ワルツ「春の声」。アンコールはイタリア語に戻り、プッチーニ/「ジャンニ・スキッキ」から”私のお父さん”「ラ・ボエーム」から”ムゼッタのワルツ”。全体を通して歌で世界一周しているような気分になり、見事なプログラム構成だった。

森 麻季さんは雲雀のように軽やかで、透き通った歌声の持ち主である。その弱音の美しさは筆舌に尽くしがたい。特にデュパルク/「フィディレ」はうっとり聴き惚れた。僕が心酔する作家・福永武彦(「草の花」)デュパルク/「旅への誘い」を生涯愛し、そのレコードを折に触れ聴いていたという。「旅への誘い」は原詩がシャルル・ボードレールであり、フランス文学を専攻した福永による日本語訳詞もある。是非何時の日にか、森さんの歌う「旅への誘い」も聴いてみたいものだ。

リリック(優美で、叙情的)、かつコロラトゥーラ(技巧的で華やかに装飾された旋律を自在に歌いこなす)・ソプラノである彼女は全盛期のキャスリーン・バトルを思い起こさせる。最初に歌われた「オンブラ・マイ・フ」はバトルがニッカウヰスキーのCMで日本のお茶の間に登場し、一大センセーションを巻き起こした曲である。これを演出したのはクラシック音楽に造詣が深かった故・実相寺昭雄 監督(「怪奇大作戦/京都買います」「帝都物語」)だった。

Battle

そして森さんがプログラム最後に歌った「春の声」もバトルに縁が深い曲である。ヘルベルト・フォン・カラヤンはその生涯に、たった一度だけウィーン・フィル ニューイヤー・コンサートの指揮台に立った。1987年のことである。この時、バトルがゲストとして登場し、「春の声」一曲のみ歌った。何とも贅沢な話である。僕が知る限り、ニューイヤー・コンサートに歌手が登場したのは、後にも先にもこの年だけではないだろうか。

森さんにはこれからも世界中で活躍しもらって、是非バトルを超えるようなディーヴァになって頂きたいと想うし、それくらい桁外れの才能を持った女性だと僕は信じて疑わない。

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