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2008年2月 1日 (金)

ペルセポリス

評価:B+

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フランスは今年、アカデミー外国語映画賞候補の代表として「潜水服は蝶の夢を見る」を推したいと考えていた。しかし監督のジュリアン・シュバーベルはアメリカ人、シナリオを書いたロナルド・ハーウッドは南アフリカ生まれのイギリス人で、撮影監督は「シンドラーのリスト」以降全てのスピルバーグ映画を撮ってきたヤヌス・カミンスキー(ポーランド出身)といった具合に多国籍スタッフであり、外国語映画賞の規定を満たさなかった(ベネチアで金獅子を攫ったアン・リー監督の「ラスト、コーション」を台湾が出品出来なかったのも同様の理由による)。そこでフランス代表に選ばれたのがカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「ペルセポリス」である。だが結局、外国語映画賞の最終ノミネート5作品の中には残れなかった。

ところが、「ペルセポリス」はアカデミー賞長編アニメーション部門のノミネート3作品のうちの1本として選ばれ、「潜水服は蝶の夢を見る」は監督賞・撮影賞・脚色賞・編集賞の4部門にノミネートされた。まことに奇妙な話である。今年の外国語映画賞候補の選出方法をめぐってはマスコミや映画評論家たちから非難の声が噴出している。

Persepolis

「ペルセポリス」はイラン出身のマルジャン・サトラピが書いた自伝的グラフィック・ノベルを彼女自身が監督しアニメーション化したものである。

まずこの映画を観ると、知っているようで実は全然知らないイラン近代史が主人公の少女マルジの成長を通して手に取るようによく分かる。そしてマルジを取り巻く家族のひとりひとりがとても魅力的に描かれている。

マルジのおばあちゃんの名台詞を紹介しよう。

「恐れが人に良心を失わせる、恐れが人を卑怯にもする」

「この先おまえはたくさんのバカに出会うだろう。そいつらに傷つけられたら、自分にこう言うんだ。こんなことをするのは愚かな奴だからって。そうすれば仕返しをしなくてすむ。恨みや復讐ほど最悪なことはないんだから」

含蓄のある言葉の宝石箱だ。映画終盤テヘランの国際空港で、パリに旅立とうとするマルジに対してママが贈る餞(はなむけ)の言葉がまた胸を打つのだが、これは是非映画館に足を運び貴方自身でしかと受け止めてください。親の愛は無償であり、ありがたいものである。

プロローグとエピローグのパリの場面のみカラーで、主人公が回想する本編になるとモノクロームになるという構成も実にスタイリッシュ。「ペルセポリス」は映画として紛れもない傑作である。

ただ仮に僕がアカデミー会員で長編アニメーション部門に投票権があったとして、これに一票を投じるかと問われたら残念ながら否と答えざるを得ない。「ペルセポリス」を観ていると、なんだか紙芝居かあるいはインドネシアのワヤン・クリ(影絵芝居)を観ているような気持ちになる。animationとは「絵に生気(動き)を与えること」が元々の意味であり、僕はもっと動的でイマジネーションが飛翔する「レミーのおいしいレストラン」を選ぶだろう。

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パリ在住のサトラピ監督にインタビュアーが「イランが恋しいですか?」という質問をぶつけた。それに対して彼女はこう答えている。

「もちろん。私の故郷だし、これからだってそう。(中略)でも今、私は自分が手に入れたいと思っていた人生を送ってるの」

この言葉を聞いて、これは正に古里の岡山を捨て大阪に飛び出してきた僕の人生そのものだなと感じた。そう、「ペルセポリス」は普遍的な我々自身の物語なのである。

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