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2008年2月 7日 (木)

色|戒 (ラスト、コーション) 

評価:A+

映画公式サイトはこちら。本作のレイティングはR-18。つまり18歳未満の入場は禁止である。だから高校生以下の健全な少年少女たちはこれ以上このレビューを読まないように

台湾・中国・アメリカの合作。英語タイトルの「ラスト」はLastではなくLust、つまり「情欲」のこと。「ブロークバック・マウンテン」で米アカデミー監督賞を受賞したアン・リーがメガホンを取り、ヴェネツィア映画祭グランプリ(金獅子賞)に輝いた。金オゼッラ賞(撮影賞)も受賞。

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台湾は米アカデミー外国語映画賞の代表としてこれを推そうとした。しかし、その資格は得られなかった。アン・リーは台湾人であるが撮影監督のロドリゴ・プリエトはメキシコ人、編集のトム・スキアーズは米国人、音楽のアレクサンドル・デプラはフランス人(間もなく日本で公開される「ライラの冒険/黄金の羅針盤」も担当)といった具合にスタッフが多国籍にわたっていたからである。

アン・リーみたいに変幻自在な監督である。台湾時代に撮った「恋人たちの食卓」は料理人を主人公にしたホームドラマであり、アメリカ・イギリス合作の「いつか晴れた日に」はジェーン・オースティン原作の文芸もの。「楽園をください」ではアメリカ南北戦争を描き、「グリーン・デスティニー(臥虎蔵龍)」はワイヤーアクションを駆使した武侠映画。そしてアメコミ「超人ハルク」の映画化を経て同性愛のカウボーイを主人公にした「ブロークバック・マウンテン」に至る。今回の「ラスト、コーション」は男女の性愛を大胆に描きながら、それにスパイ・サスペンスの調味料を絶妙に配合している。上映時間158分の間、1秒たりとも退屈することはなかった。

「ラスト、コーション」の官能的でデカダンスに満ちた雰囲気は、例えばルキノ・ヴィスコンティ監督の「イノセント」(1975)やリリアーナ・カヴァーニの「愛の嵐」(1973)あるいはベルナルド・ベルトルッチの「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972)など往年のイタリア映画を彷彿とさせる。特に劇中でタンゴを踊る場面はベルトルッチ作品との親和性を強く感じた。改めてアン・リーの力量、その引き出しの多さに舌を巻き、これだけの演出力を持つ映画監督は黒澤 明亡き後、残念ながら日本にはいないなと臍をかむ想いがした。

ヒロインを演じるタン・ウェイ(湯唯)が素晴らしい。匂い立つ色香。特に電車の窓から顔を出し、雨に濡れそぼる夜の場面の神々しいまでの輝きは筆舌に尽くしがたい。これは役者・演出・映像が三位一体となった奇跡の瞬間である。

僕は現代日本を代表する美人女優は檀れい(武士の一分)、韓国がイ・ヨンエ(JSA、チャングムの誓い)、中国がチャン・ツィイー(初恋の来た道、グリーン・デスティニー、SAYURI )だと想っているが、新たなるアジアン・ビューティの出現に快哉を叫びたい。ちなみにタン・ウェイは中国浙江省楽清 出身だそうである。

そして「真珠の耳飾の少女」がとても美しく印象的だったアレクサンドル・デプラの音楽は今回まるで、ヒッチコックとのコンビで有名なバーナード・ハーマン(「めまい」「サイコ」「北北西に進路をとれ」)か、あるいは「氷の微笑」「L.A.コンフィデンシャル」におけるジェリー・ゴールドスミスのように何処か不安で、緊張感に満ちた仕上がり。その完成度の高さに息を呑んだ。

ただこの映画で唯一残念だったのは鬱陶しいボカシである。前述した「ラストタンゴ・イン・パリ」「愛の嵐」「イノセント」も映画公開当時は映倫の検閲で画面に沢山ボカシを入れられ公開されが、現在では3作品とも<オリジナル無修正版>のDVDが発売されている。猥褻とは何か?時代と共にその観念は変化する。どうせ30年後には「ラスト、コーション」<オリジナル無修正版>が日本でも観られるようになるだろう。どうしてこのような愚かな行為が繰り返されるのだろう?

誤解のないようにここではっきりさせておくが、映倫(映倫管理委員会)は自主規制組織であり、政府が検閲しているわけではない。「ラスト、コーション」では6カ所修正されているが、性器が見える/見えないという議論はあまりにも下らない。ボカシを入れるということは芸術作品を傷つける行為である。ミケランジェロダビデ像ゴヤ裸のマハ前貼りするようなものだ。

大体、インターネットの普及した現代ではアメリカのamazon.comから購入すれば、ボカシなしのDVDが簡単に入手出来るのだからこんな規制は無意味である。もう止めた方がいい。

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