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2008年2月12日 (火)

「蒼いくちづけ」と小池修一郎 論

宝塚バウホールに花組「蒼いくちづけ」を観に往った。初演は1987年2月(主演:紫苑ゆう)。実に21年ぶりの再演である。作・演出は小池修一郎さん。

Poster

小池さんが台本も執筆したミュージカルで僕が過去に観たことがあるのは「ヴァレンチノ」「PUCK」「ロスト・エンジェル」「失われた楽園」「ブルースワン」「JFK」「イコンの誘惑」「エクスカリバー」「タンゴ・アルゼンチーノ」「LUNA -月の遺言-」「カステル・ミラージュ-消えない蜃気楼-」「薔薇の封印 -ヴァンパイア・レクイエム- 」「NEVER SAY GOODBYE -ある愛の軌跡- 」「アデュー・マルセイユ」の14作品。面白かったのは「カステル・ミラージュ」までで、はっきり言って最近の3作品は駄作。僕が一番好きなのは「失われた楽園」かな。

小池作品の特徴。まずドラキュラが好き「蒼いくちづけ」「薔薇の封印」はドラキュラが登場する。未見だが「ローン・ウルフ」は狼男が主人公だったらしい。狼男はドラキュラの遠縁にあたり、フランケンシュタインらと共に「蒼いくちづけ」にも友情出演している。

そして小池さんはアメリカ文学が好き(特にロストジェネレーションの作家)。菊田一夫演劇賞を受賞した「華麗なるギャツビー」はスコット・フィッツジェラルド原作。「失われた楽園」はフィッツジェラルドの遺作「ザ・ラスト・タイクーン」へのオマージュ。「NEVER SAY GOODBYE」はヘミングウェイの小説「武器よさらば」「誰がために鐘は鳴る」を下敷きに、ロバート・キャパをモデルにしたカメラマンが主人公だ。

ハリウッド映画への愛着も強い。「失われた楽園」はハリウッドの撮影所が舞台で「ヴァレンチノ」とはハリウッド・スター、ルドルフ・ヴァレンチノのこと。「タンゴ・アルゼンチーノ」はヴァレンチノ主演の映画「黙示録の四騎士」と同じ原作に基づく。「JFK」にはマリリン・モンローが登場し、「カステル・ミラージュ」は映画「バグジー」の主人公、ベンジャミン・シーゲル(ラスベガスを作った男)をモデルにしている。

東の宮本亜門、西の小池修一郎と並び称されるくらい、小池さんは優れたミュージカル演出家である。しかし彼の台本については出来不出来のムラが烈しい。失敗作の顕著な特徴は1幕で大風呂敷を広げ、張った伏線を2幕で回収できずに尻すぼみで終わるパターンである。「薔薇の封印」はその典型であった。

だから「蒼いくちづけ」にも一抹の不安があったのだが、これは大当たりであった!「失われた楽園」と並ぶ小池さんの代表作と太鼓判を押せる。

第1幕は格調高いゴシック・ロマンとしての吸血鬼伝説が展開する。女吸血鬼カーミラまで登場させるこだわりには唸った。きっと小池さんは「吸血鬼カーミラ」を映画化したロジェ・バディム監督の「血とバラ」(1961、フランス)のファンに違いない。


Roses

また、ドラキュラの登場シーンでブラームス/交響曲第四番が流れてきたのには驚いた。これが意外にも吸血鬼に似合っていたのである!「イコンの誘惑」で小池さんはチャイコフスキー/弦楽セレナードを使用し、これも絶大な効果を上げたが、選曲のセンスが光る。

1幕の最後にドラキュラ伯爵は日の光を浴び、マントとペンダントを残して一瞬のうちに灰になってしまうのだが、ここの演出がまるでハロルド・プリンスの「オペラ座の怪人」みたいで鮮やかだった。

第2幕は打って変わって、IT'S SHOWTIME ! ! 舞台は21世紀に移り、ドラキュラのパロディがコメディ・タッチで展開される。この変わり身の早さには意表を突かれた。ドラキュラがシルクハットをかぶり歌って踊る場面は、メル・ブルックス監督の映画「ヤング・フランケンシュタイン」(1974)で怪物が正装し、"Puttin' on the Ritz"でタップを踏む場面を想い出した(これは舞台化され、現在ブロードウェイで上演中。振付・演出は「プロデューサーズ」のスーザン・ストローマン)。腹を抱えて笑った。写メールとか小道具の使い方の巧さも光る。

ドラキュラ伯爵を演じた真野すがたさんは歌はイマイチだが、背が高く見栄えがするし、ダンスが格好良かった。ドラキュラの耽美な雰囲気もよく出ていた。今後に期待したい。

ヒロインのルーシー/ヴィーナス(二役)を演じた華耀きらりさんはとても綺麗で瞠目した。華がある。間違いなく将来はトップ娘役になるだろう。

ジョニー・アイドルを演じた扇めぐむさんは歌が上手いのに感心した。

そうそう。可笑しかったのがクライマックス、コンクールの司会者が「次は、ヴィーナスの登場です!」と叫び、スポットライトが扉を照らすが、そこから誰も出てこない場面。司会者は同じことをもう一度繰り返す。これは明らかに映画「サウンド・オブ・ミュージック」へのオマージュ(トラップ・ファミリーがザルツブルクからスイスへ脱出する場面)である。実は小池修一郎さんは熱烈なジュリー・アンドリュースのファンで、ファンクラブにも入っていらっしゃった(その事実を裏付ける証言がこちらのブログに書かれている。中島梓さんのコラムにもこんな記事が)。なかなか微笑ましいエピソードである。

小池さんのドラキュラへの偏愛は今回よく分かった。是非お次は、萩尾望都の漫画「ポーの一族」をミュージカル化してください。期待しています。それから小池さんの最高傑作との呼び声の高い「グレート・ギャツビー(「華麗なるギャツビー」改題)」が遂に東京・日生劇場で再演(主演:瀬奈じゅん)されることが決定したのだが、勿論関西でもやってくれるんですよね!?宝塚歌劇団さん。

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コメント

え、!!!
あの「Luna」をご覧になっているのですか?!
うらやましい~~!!
僕がこの作品を知ったのは「トンデモ本」シリーズです。なんせあの華麗な宝塚の舞台に、「遺伝子組み換え」とか「オーパーツ」なんて言葉が出てくる、と読んだだけで是非みたくなってくるのです。
再演して欲しいのですけど、無理でしょうね~~

投稿: 最後のダンス | 2017年5月27日 (土) 09時24分

最後のダンスさん

「Luna」は大劇場で観て、市販のビデオも持っています。DVDでは発売されなかったのかな?確かに話はトンデモですが、出来はそこそこです。小池作品は現代〜未来を描くと駄目なんですね。SF「銀河英雄伝説」も惨憺たる出来でした。モダンなセンスがない。やはり小池さんの真骨頂はコスチーム・プレイ/ゴシック・ロマンです。「薔薇の封印」の大失敗を踏まえて、「ポーの一族」は完璧なものに仕上げてくれるでしょう。

投稿: 雅哉 | 2017年5月27日 (土) 09時37分

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