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2008年1月

工藤重典 フルート三昧!

兵庫県立芸術文化センターに工藤重典さんのフルートを聴きに往った。

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工藤重典さんはフランスに留学しピエール・ランパルに師事した。現在はソリストとして活躍する傍ら、サイトウ・キネン・オーケストラおよび水戸室内管弦楽団の首席フルート奏者でもある。パリ在住。公式サイトはこちら

今回のコンサートは工藤さんと兵庫芸術文化センター管弦楽団(芸術監督:佐渡 裕)メンバーとの共演だった。驚いたのがその中にクラリネット奏者の稲本 渡さんがいたことである。以前「淀工サマーコンサート」の記事にも書いたが、稲本さんは大阪府立淀川工業(現在は工科)高等学校吹奏楽部のOBなのだ。どうやらエキストラ・プレーヤーとして参加されたようである。淀工の凄さを改めて実感した。

とても盛りだくさんで、合計5曲。工藤さんがやりたいと出した企画がすべて通ったそうで、時間がオーヴァーしそうだから1曲削ろうかと後に申し出たところ、芸術文化センター側から「折角ですから全部演って下さい」とあっさり言われたそうである。フルート三昧!という看板に偽りなし。外国人を多数含むPACオケのメンバーも30人以上参加しており、A席4,000円の入場料で実に太っ腹な内容だった。

まず演奏されたのはクーラウ/三本のフルートによる三重奏曲。これがとてもかっちりした構造を持つ、古典的な良い曲だった。調べてみるとフリードリッヒ・クーラウというドイツの作曲家はベートーヴェンと同時代に生きた人で「フルートのベートーヴェン」と呼ばれることもあるそうである。

ルーセル/フルート、ヴィオラとチェロのための三重奏曲はフランスのエスプリ薫り立つ芳醇な響き。ルーセルはドビュッシーやラヴェルの影に隠れて余り聴く機会がないが、もっと演奏されていい曲だと想う。

そして超有名曲、モーツァルト/フルート四重奏曲第1番に続いてグノー/小交響曲。これはフルート1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2という九重奏曲。田園の風景が目の前に広がるような牧歌的な愉しい曲だった。ここで漸く休憩。

後半のモーツァルト/フルート協奏曲第1番では工藤さん以外に28名のオケ・メンバーが登場。指揮者なしで演奏した。

今回のコンサートで痛感したのは巧いプレイヤーというのは音もデカイ!ということだ。工藤さんもそうだし、グノーの小交響曲でもトップの人の紡ぎ出す音の方がセカンドより良く鳴っていた。

以前プロのフルート奏者にレッスンを受けたことがある。その先生が「たまにウィーン・フィルやベルリン・フィルの演奏を生で聴くと、その音圧に圧倒される」と仰っていた。彼らに比べると日本のオーケストラは「こぢんまりとまとまりすぎている」と。その意味が漸く理解できた気がする。

それからホルン奏者は二人とも日本人だったのだが、やっぱり関西のオケは金管が弱いなぁと改めて痛感した次第である。

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タブラトゥーラを知ってますか?

色々書くことが多すぎて後回しになってしまった。遅ればせながら1月5日に兵庫県立芸術文化センター 小ホールで聴いた「タブラトゥーラ 謹賀新年 初笑いライブ」について書こう。

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タブラトゥーラはリュート奏者・つのだたかしさんを中心に結成された古楽器バンドである。彼らの公式サイトはこちら。フィドル(fiddle=ヴァイオリン)を担当されている田崎瑞博さんはバッハ・コンチェルティーノ大阪のメンバーでもあり、そちらではなんとバロック・チェロを弾かれている。

タブラトゥーラは中世ヨーロッパの音楽をレパートリーとしているが、彼らの面白いところはそれだけに留まらず、プログラムには各々のメンバーが作曲した新曲もふんだんに盛り込まれていることろにある(むしろ今はそちらの方が多い)。そしてそのオリジナル曲が古楽と見事に溶け込み、ちっとも違和感がないのだから実に謎めいている。

彼らの衣装もなんだか異空間だ。だからタブラトゥーラのコンサートを聴いていると、まるで「ロード・オブ・ザ・リング」に登場するホビット族の演奏を、彼らの集う居酒屋で聴いているような錯覚に捕らわれるのである。

アンコール曲のタイトルからして可笑しい。「あれもだめこれもだめ」とか「海賊の唄」。ね、古楽のイメージが根底から覆されるでしょう?

演奏会終了後、サービス精神旺盛な彼らはロビーに出てきてさらに数曲演奏してくれた。聴衆も大喜びで手拍子し、盛り上がった。

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タブラトゥーラは愉しい。そしてえも言われぬ未知の世界へいざなってくれる。貴方も機会があれば是非、この摩訶不思議な体験をしてみて下さい。

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ジェシー・ジェイムズの暗殺(臆病者ロバート・フォードによる)

評価:B

映画公式サイトはこちら。原題は"The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford"である。

大阪府内のシネコンで夜9時からのレイトショーを観たのだが、上映開始から最後まで、映画館は僕たった一人きりだった。ブラッド・ピット製作・主演なのに……。やっぱり日本では西部劇は駄目だなぁ。結局、今週末で上映打ち切りのようである。

史実に基づく映画だが、とにかく物語が詰まらない。上映時間140分というのも冗長である。では退屈したか?と問われるとそうでもない。なぜならロジャー・ディーキンスの撮った映像が息を呑むくらい凄かったから。この感動は是非、大きなスクリーンで体験してもらいたい(映画自体の評価はC-。撮影の評価がAAで、相殺されて総合評価をBとした)。

ハリウッド映画史の中で最も美しい映像は「天国の日々」(1978年、テレンス・マリック監督)であることは衆目の一致するところだろう。撮影監督のネストール・アルメンドロスはこれでアカデミー撮影賞を受賞した。

「天国の日々」は全編マジック・アワーに撮影されたことでも有名である。マジック・アワーとは日没後、大地が完全に闇に包まれるまでの約20分ほどのことで、仄かな光がどこからともなく差し込み風景を柔らかく包む。それはまるで魔法にかけられたような、えも言われぬ映像が撮れる奇跡の時間なのだ。

マジック・アワーの詳しい話は「マスターズオブライト/アメリカン・シネマの撮影監督たち」という著書でアルメンドロス本人が語っているので、興味のある方は一読をお勧めする。これは映画のバイブルである。映画人にとってマジック・アワーを捉えることは正に夢である。三谷幸喜 脚本・監督の新作「ザ・マジックアワー」のタイトルも、勿論アルメンドロスに敬意を表したものである。

「ジェシー・ジェイムズの暗殺」を観ながら、これは「天国の日々」に匹敵する美しさだ!と驚嘆した。それはマジック・アワーに撮られた映像だけではなく、風景自体がテキサスを舞台とした「天国の日々」(実際の撮影はカナダのアルバータ州南部で行われた)を彷彿とさせたからだろう。話自体はしょーもないことも「天国の日々」と共通している。そして調べてみると、な、な、なんと「ジェシー・ジェイムズの暗殺」もカナダ・アルバータ州でロケされているではないか!!

本作は今年の米アカデミー賞で助演男優賞(ケイシー・アフレック)と撮影賞がノミネートされている。撮影監督のロジャー・ディーキンスは過去に5度ノミネートされているが、未だオスカーを受賞したことはない。僕は特に「ショーシャンクの空に」(フランク・ダラボン監督)の映像美が印象に残っている。ディーキンスは今回「ノーカントリー」でもダブルノミネートされており、これは37年ぶりの快挙だそうである。是非どちらかでの受賞を願う。

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大沢たかお主演、ミュージカル「ファントム」 

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舞台の公式サイトはこちらロイド=ウェバー版「オペラ座の怪人」にまつわる僕のエッセイはこちらからどうぞ。

ミュージカル「ファントム」は非常に気の毒な作品だ。作曲をしたモーリー・イェストンは「ナイン」「タイタニック」などでトニー賞を受賞、他にも「グランドホテル」などで知られているミュージカルの大御所である。「ファントム」も1983年のから入念な準備を始め、当然ブロードウェイ進出を目指してきた。

ところがそこに、同じ原作に基づくロイド=ウェバーの「オペラ座の怪人」という大傑作がロンドンから彗星の如く現われブロードウェイに上陸。瞬く間に先を越されてしまった。1988年のことである。同じ物語で勝負できる筈もなく、「ファントム」の方は軌道修正を余儀なくされ1991年にヒューストンで漸く初演された。あれから20年。「オペラ座の怪人」はロングラン記録を更新中であり、「ファントム」のブロードウェイ入りは未だ果たせていない。

しかし作品としての出来はすこぶる良く、アメリカ地方都市では好評であった。日本では2004年に宝塚歌劇が上演(宙組)。「エリザベート」に次ぐ人気演目となり、2006年には花組で再演された(DVD発売中)。

僕も宙組版を宝塚大劇場で観て感動し、東京公演まで追っかけて往った。チケットは全く手に入らず、当日券を確保するために日比谷の東京宝塚劇場に朝6時から並んだことを懐かしく想い出す(それでも僕より前に30人以上の人々がいた)。今や伝説の娘役となった花總まりの可憐なクリスティーヌ、そしてオペラ座の前支配人キャリエールを演じた男役・樹里咲穂の一世一代の名演技が忘れ難い。特にクライマックス、銀橋でのキャリエールと和央ようか演じるエリック(ファントム)との二重唱は圧巻。劇場は滂沱の涙と万雷の拍手に包まれ、ショー・ストッパーとはまさにこのことと感嘆した。勿論、花組公演も観に往った。

ただ小池修一郎の見事な潤色・演出による「エリザベート」と比較すると、中村一徳の演出はオーソドックスであり、些か面白みに欠ける印象を受けた。特にエリックの母親の少女漫画みたいな馬鹿でかいイラストが登場した場面で椅子からずり落ちたのは本当の話だ。

さて、大沢たかお版である。とにかく演出の鈴木勝秀が駄目。「ヘドウィグ&アングリー・インチ」も如何なものかと想ったが、「ファントム」はそれをはるかに凌駕する出来の悪さ。僕はかれこれ20年以上劇場通い(Theatergoer)を続けているが、これほど悲惨な演出は滅多にお目にかかれるものではない。

まず青い照明を主体にした舞台が暗すぎる。作品のオカルト性、怪奇趣味を強調し過ぎなのだ。これは本来「人間エリック」としての親子の情を描くものではなかったか?この演出法はむしろ「スウィーニー・トッド」向きであり、少なくとも「ファントム」じゃない。また、オペラ座の華やかさを描いてこそ、エリックが棲息する地下の暗闇が相対として生きるのに、オペラの場面やエリックがクリスティーヌを屋外に連れて行く場面でさえ暗いままではお話にならない。宝塚版ではこのコントラストは鮮明に表現されていた。

ロイド=ウェバー版の「オペラ座の怪人」はクリスティーヌがファントムに自分の父親を見出し、モーリー・イェストン版「ファントム」はエリックがクリスティーヌの歌に亡き母親を見る。ここが作品の核心なのに、この凡庸な演出家はそれさえ分かっていないようである。オリジナル台本では影絵でしか登場しない母親役に映像出演で姿月あさとがキャスティングされているが、彼女が朗々と歌うのがなんとその後のクライマックスでエリックとキャリエールが歌うデュエットのメロディなのである。何で母親が父と息子の絆の旋律を歌うんだよ!?そこで先に出しちゃったらぶち壊しじゃないか。さらに致命的なのが姿月あさとと、クリスティーヌを演じた徳永えりの声質が似ても似つかないことである。これでは「クリスティーヌの歌声はエリックの母親そっくりだ」という台詞が意味を成さない。

伊藤ヨタロウ演じるキャリエールは、エリックに対する親としての情愛が全く感じられなかったし、大西ユカリ演じるカルロッタの歌唱はこぶしの効いた演歌調である。おいおい、カルロッタってオペラのプリマドンナだろ!?……ただしこれは役者が悪いのではなく、彼らを配役した演出家にこそ、その責任がある。

折角オーケストラが生演奏なのに彼らは舞台の裏で弾き、スピーカーを通してそれを聴かせるのも余りにも勿体ない。これではちんけなカラオケ上演をしている劇団四季と大差ないじゃないか。宝の持ち腐れである。オペラ座が舞台なんだから楽団はオーケストラ・ピット(オケピ!)に入らなくちゃ。

これを観ると、「ファントム」という作品がブロードウェイまで到達できなかったのはむべなるかなという気がした。そして実は宝塚版の潤色は上手にしてあったんだなぁと改めて見直した次第である。今回の公演を企画制作をした梅田芸術劇場はもっとマシな人に頼めなかったのか?もし今後再演するつもりなら、演出・美術・衣装スタッフを総入れ替えする必要があるだろう。梅芸は阪急グループが運営をしているのだから次から小池修一郎荻田浩一ら宝塚歌劇の演出家に依頼したらどうだろうか?

結局、この公演の最大の見所はカーテンコールで大沢たかおがマスクを外し、長髪の王子様ルックで微笑んで会場に手を振った瞬間だった。さすが映画で主役を張っている芸能人だけのことはある。そのオーラは伊達じゃなかった。最後に彼が全てを浚っていった。大沢の笑顔に会場の女性客たちは総立ちで「キャー!!」と熱狂(前の人が立ち上がり大沢たかおが見えなくなったから、僕も不本意ながらスタンディング・オベーションせざるを得なかった)。2階・3階席の観客たちも興奮し、我を忘れて飛び跳ねていた。まあこの光景が可笑しかったからS席12,500円という高額なチケット代も許そう。希にみるトンデモ演出ではあったが、これも反面教師。かえって宝塚歌劇の舞台の素晴らしさを再認識させられた。お口直しとして久々に、宝塚版「ファントム」を観たくなってきた今日この頃である。

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大フィルによるエルガー未完の交響曲第3番、そしてデュ・プレのことなど

大阪フィルハーモニー交響楽団の定期を聴いた。指揮は尾高忠明さん。

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サラ・チャンが独奏したシベリウス/ヴァイオリン協奏曲については特に書くべきことはない。韓国系アメリカ人の彼女は黒髪が艶やかな美人である。ただ僕は、もっと力強く濁りのない音を奏でる神尾真由子さんのヴァイオリンの方が好きだ。

さてエルガーである。イギリス以外の国で、エルガーやディーリアスの音楽を演奏会で聴く機会は滅多にない。それは日本でも例外ではなく、たまに名曲コンサートで「威風堂々」や「愛の挨拶」「春初めてのカッコーを聴いて」「ブリッグの定期市」等の短い曲が演奏されるくらいであろう。

今回取り上げられたエルガーの交響曲第3番は、総譜が出来上がっていたのは1楽章冒頭部だけで、あとは若干のスケッチが残されたままエルガーは亡くなった。それを補完させたのはイギリスの作曲家アンソニー・ペインで初演されたのは1998年。日本では2004年に尾高忠明/札幌交響楽団が初披露し、今回が国内では2回目の演奏だそうである。

エルガーの曲を一言で表すとしたら?そう聞かれたら僕はnobility(気高さ)とconsolation(慰め)と答えるだろう。慈愛に満ちたその音楽は優しく心に染み渡り、滋味深い。

ペインが補作した交響曲第3番はそのエルガーの特徴がよく出ており、完成度が高かった。むしろ些か冗長な1番や2番よりも、簡潔で耳に馴染み易い印象さえ受けた。もっと演奏されてもいい作品だと想う。これを定期で取り上げる英断を下した大フィル(大植英次 音楽監督)は偉い!

1987年にBBCウェールズ交響楽団首席指揮者に就任した尾高さんは99年に英国エルガー協会から日本人初のエルガー・メダルを授与されたというイギリス音楽のスペシャリストである。オーケストラの機動力を十全に発揮した指揮ぶりで、鳴らすべきところはダイナミックに吼え、歌うべきところはたっぷりと歌うといった具合にメリハリのある解釈だった。オーケストラの健闘ぶりも特筆に価する。(同じ演奏会を聴かれた、ぐすたふさんの感想はこちら

僕がエルガーの作品中、愛して止まないのは弦楽四重奏と弦楽合奏のための「序奏とアレグロ」、そしてチェロ協奏曲である。「序奏とアレグロ」については大阪シンフォニカー交響楽団いずみホール定期の記事で触れた。今回はチェロ協奏曲について語ろう。

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エルガー/チェロ協奏曲の史上最高の名盤は夭折した天才チェリスト;ジャクリーヌ・デュ・プレ&バルビローリ/ロンドン交響楽団の演奏である。これに異を唱える人は誰もいまい。夕映えの美しさに満ちた奇蹟の記録である。これはデュ・プレが20歳の時の録音で、彼女は28歳の時に多発性硬化症という難病に罹りチェロが弾けない状態となってそのまま引退。42歳で死去した。ジャクリーヌ(ジャッキー)はムスティスラフ・ロストロポーヴィチら巨匠に師事したが、ロストロポーヴィチは生涯、エルガーの協奏曲をレコーディングすることは無かった。これは「エルガーを弾かせたらジャッキーには到底敵わない」という想いがあったからだと言われている。ジャッキーが愛用した名器ダヴィドフ・ストラディヴァリウスは彼女の死後、ヨーヨー・マに寄贈された。

ジャッキーはイギリス人だがユダヤ人であるピアニスト・指揮者のダニエル・バレンボイムを愛し、家族の猛反対を押し切ってユダヤ教に改宗してエルサレムで結婚した。彼女が21歳の時である。しかし彼女の発病後、音楽家としての自分のキャリアを守るためにバレンボイムはジャッキーを見捨てた。ジャッキーの最晩年にバレンボイムはパリでピアニストのエレーナ・バシュキロワと同棲生活に入り、既に二人の子をもうけていた(ジャッキーの死後、再婚)。

だから僕はゲオルグ・ショルティの後任としてシカゴ交響楽団の音楽監督にまで登り詰めたバレンボイムの演奏は聴かない。彼の音楽にはがない。

ナチス・ドイツの後遺症から、タブー視され一切演奏されることがなかったワーグナーのオペラをイスラエルで上演して物議を醸したり、パレスチナ人との連帯を表明してイスラエルとの融和を図ろうと運動するなど、最近のバレンボイムは政治的パフォーマンスが目立つ。そんな彼を僕は「胡散臭い野郎め」という白い目で見つめている。

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笑福亭鶴瓶 落語会

兵庫県立芸術文化センター 中ホールに笑福亭鶴瓶さんの落語を聴きに往った。

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鶴瓶さんの落語の前にまず桂 歌之助さんの前座があり、そして三増紋之助さんによる「曲独楽」があった。

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曲独楽は江戸の伝統演芸で、紋之助さんは「上方で受けるかどうか心配でした」と仰っていたが、独楽の刃渡りとか輪抜けとか見ていて愉しく、関西の観客からも拍手喝采を浴びた。特に傑作だったのが糸渡り。映画「となりのトトロ」に感動した三増さんは、その一場面を何とか再現したいと決意。独楽の軸にトトロ人形を乗せ主題歌が流れる中、トトロがクルクル回転しながら糸を渡っていくのである!これには場内大爆笑。この公演の出演者を全て自分で決めているという鶴瓶さんは、早稲田大学の学園祭でこの芸を初めて見て是非関西にも紹介したいと想われたそうである。なお紋之助さんは、北野武監督の映画「座頭市」にも出演されているとか。

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さて、いよいよ鶴瓶さんの登場。高座は紅白歌合戦を司会されたときの裏話などから始まった。映画「母べえ」にキャスティングされ、吉永小百合さんより7歳年下なのに彼女の叔父役を演じた話も可笑しかった。さすがは話術のプロフェッショナル。瞬く間に聴衆を自分の世界に引込み、魅了した。私落語の「青春グラフティ 松岡」は高校時代のユニークな同級生のエピソードである。想い出話でありながら単なる漫談ではなく、落ち(さげ)もあってちゃんと落語になっているのがお見事。

中入りをはさんでの「死神」は古典落語の新解釈。原話はグリム童話の「死神の名付親」で、それを元に明治時代に三遊亭 圓朝(さんゆうてい えんちょう)が翻案したとされている。鶴瓶さんはオリジナルの落語自体は全然面白いと想われなかったそうで、それを鶴瓶流にアレンジし喋っているうちにどんどん練り直していかれたそうである。聴き応えのある、完成度の高い噺だった。それにしてもお囃子の三味線は怪談によく似合う。

休憩を含み2時間40分の長丁場だったが、片時も退屈しなかった。これで3,500円の入場料は安いものだ。古典芸能を満喫した一日だった。

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スウィーニー・トッド/狂気のビブラート

ミュージカルなどで登場人物の狂気を表現したいときに、振幅の大きなビブラートで歌わせるという演出法がしばしば用いられる。烈しい音の揺れは耳障りであり、聴く人の神経を逆撫でするので効果的なのだ。

これは以前僕が「ビブラートの悪魔」という記事で書いたように、映画や芝居に悪魔が登場するとき、彼はヴァイオリンを弾きながら現れてビブラートを奏でるのとよく似ている。

宝塚歌劇の最も人気のある演目となったウィーン・ミュージカル「エリザベート」に、王妃エリザベートが精神病院に慰問する場面がある。そこでヴィンディッシュ嬢という、自分がエリザベートだと思いこんでいる患者が登場する。このヴィンディッシュの狂気を示すために、彼女は極端なビブラートで歌う。さらにご丁寧にもヴィンディッシュ登場シーンでソロ・ヴァイオリンがたっぷりビブラートを鳴らすのだ。宝塚星組と宙組でヴィンディッシュ嬢を演じた陵あきのさんの演技は絶品なので、興味のある方は是非DVDでご覧あれ。

今回映画化されたスティーブン・ソンドハイムのミュージカル「スウィーニー・トッド」であるが、主人公の娘ジョアンナは赤ん坊の時から悪役・ターピン判事に囚われ、無理矢理花嫁にされようとしている。昨年上演された宮本亜門 演出による舞台版でジョアンナを演じたのはソニンだったが、彼女は振幅の烈しいビブラートでこれを歌い観客を不安な気持ちにさせることに成功した。つまりこの歌唱法でジョアンナの精神的崩壊を表現していたのである。

ティム・バートンが監督した映画版でもジョアンナだけ極端なビブラートで歌っている。これを聴いた瞬間、僕は「嗚呼、この映画は大成功だ。バートンはソンドハイムの意図をよく分かっている」と確信した。

余談だが、よくオペラ歌手の歌は歌詞が聴き取り辛いということを耳にする。これは日本語に限らず、イタリア人がイタリアオペラを聴いても歌の内容はさっぱり分からないそうである。多分これもビブラートのせいではないかと最近僕は疑っている。

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スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師

評価:A+

映画公式サイトはこちら

けだし傑作である。はじめに断っておくが、これは血しぶきが飛ぶ怪奇映画(splatter movie)である。だから、お上品なミュージカルを期待する人には向かない。

ティム・バートンは白黒のユニバーサル怪奇映画が大好きな監督だ。処女作「ヴィンセント」は怪奇映画の名優ヴィンセント・プライス(「蝿男の恐怖」「アッシャー家の惨劇」「恐怖の振子」)への熱烈なラヴ・レターであった。続く「フランケン・ウィニー」はフランケンシュタインの怪物になった犬の話である。「エド・ウッド」ではドラキュラ役者ベラ・ルゴシを描き、「スリーピー・ホロウ」以降はクリストファー・リー(「吸血鬼ドラキュラ」)を何度も起用している。実は「スウィーニー・トッド」にもリーは出演したのだが、上映時間の関係でやむなくカットされたそうである。

ティム・バートンとミュージカルの組み合わせに一見違和感を覚える人があるかもしれない。しかし、カルト的名作「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」や「コープス・ブライド」は完全にミュージカルだったし、「チャーリーとチョコレート工場」だって5曲も歌がある。元々そういうのが大好きな人なのだ。

今回バートンは王道をゆくミュージカル映画を創ろうとしたのではない。むしろ彼が目指したのはグラン・ギニョール的世界である。グラン・ギニョール(Grand Guignol)とは、パリに19世紀末から20世紀半ばまで存在したグラン・ギニョール劇場のこと。また、同劇場で演じられた「荒唐無稽な」、「血なまぐさい」芝居のことをいう。そしてそれは舞台版「スウィーニー・トッド」の作詞・作曲でトニー賞を受賞したスティーブン・ソンドハイム自身の意思でもあった。

ソンドハイムは映画化にあたり、監督と主演ふたりのキャスティングの決定権を自分が持つことを契約条項として求めた。映画化が企画された初期段階からティム・バートンが監督を希望していたが、ミュージカル映画「シカゴ」でアカデミー作品賞を受賞したロブ・マーシャルが次回作として「スウィーニー・トッド」をやりたいと発言し、映画化権を取得していたドリームワークスSKGは「アメリカン・ビューティ」でオスカーを受賞したサム・メンデスを監督として考えていた(マーシャルとメンデスはミュージカル「キャバレー」ブロードウェイ再演版で共同演出をし、トニー賞最優秀リバイバル作品賞に輝いた)。しかし最終的にメンデスは降板し、バートンの元へ企画が舞い戻ってきたのである。そのあたりの事情はこちらに詳しい。

バートンは美術監督のダンテ・フェレッティ(祝!アカデミー賞ノミネート)に対して「フランケンシュタインの復活」のDVDを参考資料として送ったという。だから如何にも恐怖映画に相応しい、ゴシック調の舞台装置が出来上がった。コリーン・アトウッドの衣装デザイン(祝!アカデミー賞ノミネート)も素晴らしい。ダリウス・ウォルスキーによる撮影は色彩を落とし、あたかも白黒映画のような雰囲気を醸しだす。その抑制された画面に鮮血が飛び散ることにより、観客により際立った衝撃を与えることに成功している。また、ミセス・ラベットが将来の夢を歌う"By the Sea"の場面だけ人工的なまでに色彩豊かな映像となり、そのコントラストが鮮やか。

上映時間2時間以内に収めた手腕も特筆に値する。映画版の音楽監修に携わり、レコーディングにも立ち会ったソンドハイムは舞台と映画の違いを十分理解しており、大胆な曲のカットや歌詞の手直しなどの要請に快く協力したという。しかしオープニングとフィナーレを飾る、合唱が入る名曲"スウィーニー・トッドのバラード"が丸々カットされたのはショックだった。このミュージカルの芯であり、僕が一番好きなナンバーだったから。確かに歌なしでその旋律はタイトルロールに流れるのだが……。それから悪役・ターピン判事がキリストに懺悔しながら自分の体に鞭打つ場面がカットされたのも残念。あれは彼の狂気を示す面白いエピソードだったのに。

人前で一度も披露したことがなかったジョニー・デップ(祝!アカデミー賞ノミネート)の歌唱は蓋を開けてみれば想像以上に見事だった。歌うというよりも、主人公の感情をメロディに乗せることに彼は成功している。ミセス・ラベットを演じたヘレナ・ボナム=カーターはティム・バートンの私生活上のパートナーだが(結婚はしていないが2子をもうけている)、今回のキャスティングに当たってバートンは一切口出しをしなかったという。全てのオーディションテープに目を通し、彼女を選んだのはソンドハイムだった。そしてその目は正しかった。これ以上ないというくらいのはまり役であり、これは彼女の女優歴の中でも最高の演技であった。

ターピン判事を演じるアラン・リックマン(スネイプ先生)とティモシー・スポール(ピーター・ペティグリュー)の「ハリー・ポッター」コンビも文句ないし、「ボラット」で一躍人気者になったサシャ・バロン・コーエンもいい味出していていた。絶妙なキャスティングである。サシャはオーディションの時、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」を全曲歌ってみせたそうである。

今回映画を観て、改めて感心したのはこの作品に登場する人物たち全員が何処かに狂気を宿しているということだ。それはタービン判事に囚われたスウィーニーの娘や、ミートパイ店を手伝うことになる孤児の少年も決して例外ではない。舞台では大人が演じたそのトビー役(昨年の宮本亜門版では武田真治だった)を本物の少年が演じることで一層作品の怖さが増した。ソンドハイムの曲は一見美しいメロディが流れるときも、実は注意深く聴くと何処か調子が外れている。天才のみが創造できる、計算し尽くされた音楽なのだ。

このソンドハイムの最高傑作についてはまだまだ語り足りないのだが、そろそろ長くなってきたので今回はここまで。「スウィーニー・トッド/狂気のビブラート」という記事を近日中に披露出来るよう、現在鋭意執筆中である。乞うご期待!

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淀工「グリーンコンサート」2008

淀工(大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部)のグリーンコンサートを聴いた。関連記事→ 「グリコンへ行こう!」

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グリーンコンサート(グリコン)は毎年1月の土日に計4回開催される淀工の定期演奏会である。夏にはサマーコンサートがあるが、サマコンは淀工のおひざもと守口市市民会館(モリカン)で行われ、グリコンの舞台となるのはフェスティバルホール(2700席)である。言うまでもなく会場は満席。

僕の聴いた土曜日午後6時半からの公演ではゲストとして埼玉県の伊奈学園吹奏楽部が登場し、オープニングでショスタコーヴィチ「祝典序曲」のバンダを2階席中央で担当した。それとは別に2階両サイドと1階中央通路に淀工OBも配置され、同じくバンダとして演奏。フェスティバルホールは壮大な音響に包まれ、揺れた。

伊奈学園は昨年の全日本吹奏楽コンクールで淀工同様に金賞に輝いた。その時の僕のレポートはこちら伊奈学園を指導されている宇畑知樹 先生も会場に来られていた。

今まで「祝典序曲」を大植英次さん、佐渡 裕さんなど様々な指揮者で聴いてきたが、淀工を指揮する丸谷明夫 先生(丸ちゃん)の演奏は史上最速である。「祝典序曲」は昨年のグリコンでもプログラムにあったが、今回はそれをさらに上回るテンポであるように感じられた。丸ちゃんはこうして現役生たちをとことん追い詰め、鍛え上げる。生徒たちも厳しい指導に応え、必死でついて行く。その真摯な姿が聴いている人々に感動を呼び起こす。これこそが淀工マジックなのだ。(淀工の「祝典序曲」が試聴出来るサイトはこちら

2曲目は出向井 先生の指揮、二年生の演奏でホルスト/吹奏楽のための第一組曲が演奏された。

続いて三年生全員で「千の風になって」。再び登場した丸ちゃんは12月19日に関西吹奏楽連盟理事長の松平正守 先生が、そしてこの1月2日には天理高等学校吹奏楽部を率い一時代を築いた谷口 眞 先生がお亡くなりになったことにふれた。そして呉服(くれは)小学校吹奏楽団を指導されていた松平先生の「こどもに音楽の機関車を」という名言を紹介し、その追悼の意味を込めてこの曲を演奏しますと語った。パンフレットには歌詞が掲載されており、観客も一緒に歌った。演奏に歌が入るとき、淀工生はしっかり音量を落とす。実はこの抑制して吹くという技術がアマチュアにとってはなかか難しく、これがきっちり出来るバンドは全国的に見ても非常に少ない。

真島俊夫 編曲による「カーペンターズ・フォーエバー」が第一部の〆。これは丸ちゃんが「本家のカーペンターズよりうちの方が沢山演奏しているはず」と豪語する淀工の十八番。最後全員でする"HEY !"が高校生らしく爽やかだ。

休憩をはさみ第二部はまずOBの演奏で「アメリカン・グラフティXV 虹の彼方に〜ミセス・ロビンソン〜ローズ〜いそしぎ〜ダイヤが一番)大御所、岩井直溥さんによる映画音楽の名アレンジである。現役生に厳しい丸ちゃんも、OBにはその手綱を緩める。実はこの曲、昨年は現役生が演奏したのだが、それと比較して「ダイヤが一番」など明らかにテンポを落としていた。僕はホルストの「木星」も丸ちゃんが現役とOBを振った演奏をそれぞれ聴いているが、やはりOBの方が遅い。丸ちゃんが手加減して振っていることは一目瞭然。ソロなどひとりひとりの技術は確かにOBは巧いのだが、全体のアンサンブルの精度・質は間違いなく現役生の方が上回っている。つまりアマチュア・バンドの上手・下手を左右するのは楽器の経験年数ではなく、練習量の差なのだろう。勿論、そこに卓越した指導者がいることを前提にした話だ。

続く一年生のマーチングは生徒たちが客席に登場。「E.T.」オープニングの旋律から始まり、あちらこちらから「未知との遭遇」「スーパーマン」「ハリー・ポッター」などジョン・ウイリアムズが作曲した音楽が木霊する。舞台中央のせりが上がりそこからも生徒たちが登場。全員の合奏で「E.T.」のテーマ→「タイタニック」主題歌 "My Heart Will Go On"→「パイレーツ・オブ・カリビアン」→"We Are The World"へと繋がってゆく。これはマーチングを指導されている葦苅 先生の意欲作。短期間でここまで仕上げてきた一年生の演奏はなかなかのものだったし、フォーメーションも美しくきまっていた。

第三部はまずIntroduction to Soul Symphonyで楽器紹介の後、コンクールメンバー星組による「シバの女王ベルキス」が演奏された。

「ローマの松」「ローマの祭り」などで有名なレスピーギのバレエ音楽「シバの女王ベルキス」(1932年初演)は長い間忘れ去られていた曲で、1985年にジェフリー・サイモン/フィルハーモニア管弦楽団が世界初録音して漸くその名を知られることとなった。目ざとい日本の吹奏楽界は、直ぐさまこれに飛びつき88年には全日本吹奏楽コンクールの自由曲に登場。現在までに33団体が全国大会で演奏している(淀工がコンクールでベルキスをしたことはない)。原曲のオーケストラ版が演奏される機会は今だに少なく殆どのクラシック・ファンは聴いたことがないのに、吹奏楽をやっている中高生なら誰でも知っているという不思議な曲である。ちなみに大阪フィルハーモニー交響楽団は2008年度の定期演奏会でこれを取り上げる予定である。

淀工によるベルキスはこの日の白眉であった。テンポは引き締まり、一糸の乱れもなく磨き上げられた演奏。アインザッツの縦、ピッチの横も見事に揃っている。輝かしい金管の響きはこれぞ淀工サウンド!惚れ惚れと聴き入った。フィナーレではアイーダ・トランペットも登場し、色彩豊かな音楽に花を添えた。

そしていよいよフィナーレの「ザ・ヒットパレード」。お馴染み「パラダイス銀河」から始まり、「ヤングマン」「UFO」「ハレ晴レユカイ」「幸せなら手をたたこう」「ありがとう(SMAP)」「明日があるさ」、そして最後は三年生全員が舞台前に整列して歌う「乾杯」へと続く。「ハレ晴レユカイ」でハルヒダンスを披露したパーカッション三年T君の踊りが完璧で舌を巻いた。動きにキレがあったし、ターンも早かった!客席の高校生たちに大いに受けていた。T君が丸ちゃんと繰り広げた「マニアおたくの違いについて」のトークも可笑しかった。

ラジオ「おはようパーソナリティ 道上洋三です」の道上さんが会場にいらしていて、ここで丸ちゃんに呼ばれてステージへ。大阪城ホールで淀工をゲストに招き「一万人の六甲おろし」というイベントをしたこと、会場に入りきらないくらい人が集まってそのライブCDを発売したらなんと三万枚も売れたことなどをお話しされた。道上さんのたっての希望で再びT君が登場し、ふたりで肩を組んでアンコールの「六甲おろし」を絶唱した。そして16人のピッコロ演奏が壮観な「星条旗よ永遠慣れ」に続いて定番「バイエルン分裂行進曲」で幕を閉じた。

僕が淀工の演奏を生で聴いたのは昨年のグリコンが初めてであった。あれからちょうど一年。その間に沢山の演奏を聴かせてもらった。スプリングコンサート、ブラスエキスポ、3000人の吹奏楽サマーコンサート西成たそがれコンサート御堂筋パレード、普門館での全日本吹奏楽コンクール全日本マーチングコンテスト、そして年明けすぐのアマチュアトップコンサート……。三年生の皆さん、ご卒業おめでとう。そして沢山の感動をありがとう!

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ウィーン・フィル、驚愕の真実

僕の手元に一枚のCDがある。グスタフ・マーラーの弟子でもあったブルーノ・ワルターがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してマーラー/交響曲第九番を演奏したものだ。

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レコーディングされたのは1938年。ナチス・ドイツがオーストリアを併合した年である。ユダヤ人の父とドイツ人の母から生まれたワルターは身の危険を感じ、同年ウィーンからスイスのルガーノに逃れた。そして翌年の39年に第二次世界大戦が勃発すると彼はアメリカに亡命した(この経路はオーストリアのザルツブルクが舞台となった映画「サウオンド・オブ・ミュージック」のトラップ・ファミリーと似ている。あ、これは実話です)。これ以降ナチス滅亡まで、ドイツ・オーストリア圏では、マーラーやメンデルスゾーンが演奏されることはなくなった。彼らもユダヤ人だったからである。

さて、そのワルター/ウィーン・フィルを聴いて、何が驚いたってノン・ビブラートでマーラーを演奏していることである!いや、慎重に耳を傾ければ微かな音の揺らぎはある。しかし、のべつ幕なしにビブラートを掛け続ける現在のマーラー演奏とは一線を画すものであることは確かである。実はこの演奏、ウィーン・フィルがノン・ビブラートで弾いた最後の録音として有名なのだ。指揮者の金聖響さんもご自身のブログで言及されている。こちらとかこちらからどうぞ。結局、ナチスという暴風雨に曝されたヨーロッパは廃墟と化し、音楽家たちは散り散りとなってその伝統様式も崩壊してしまったということなのかも知れない。

この時ウィーン・フィルのコンサートマスターだったのはアルノルト・ロゼ(1863-1946)。その地位に57年間いたという彼の記録は未だ破られていない。マーラーの妹と結婚し、自身もユダヤ人だったロゼはナチスのオーストリア併合直後に国外追放となりロンドンへ逃れた。娘のアルマはゲシュタポに捕らえられアウシュビッツで亡くなったという。

ロゼの演奏スタイルは音色を汚さないためにビブラートを抑制し、(指揮者ロジャー・ノリントンの言うところの)"pure tone"で弾いた。そしてこれは当時のウィーン・フィル自体の奏法であった。

「愛の喜び」「愛の悲しみ」の作曲で有名なクライスラーはヴァイオリニストとしても名高いが(その録音も残っている)、彼の演奏はビブラートをかけまくって甘く歌うスタイルでロゼとは対極にあった。ウィーン・フィルの採用試験を受けたクライスラーに対して審査員の一人だったロゼは「そんなにヴァイオリンを啼かせるものではない」と言い、音楽的に粗野という理由でクライスラーを落としたそうである。

今月シュトゥットガルト放送交響楽団を率いて来日するノリントンが以前NHK交響楽団を振った演奏会で、モーツァルトやベートーヴェンをノン・ビブラートで演ったのは勿論だが、エルガーやヴォーン=ウィリアムズなど20世紀の音楽まで"pure tone"で押し通したのには仰天した。その時点ではやり過ぎではなかろうかと僕は想っていたのだが、このワルター/ウィーン・フィルの演奏を聴いてしまった今考え直すと、ノリントンの方法論はあながち的外れではないのかも知れないという気がしてきた。誤った方向に進んでしまったのは20世紀後半の音楽家たちだったのではないだろうか。

ビブラートかノン・ビブラートか?21世紀に生きる私たち聴衆はこの問題に真剣に向かい合う必要性に迫られている。

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のだめカンタービレと飯森範親さん

いずみシンフォニエッタ大阪の常任指揮者、飯森範親さんのことについては、「いずみシンフォニエッタ大阪 定期演奏会」、「大阪市音楽団~青春の吹奏楽70’ヒットパレード」、「日本を代表する室内オーケストラで聴く第九」の記事で各々語ってきた。才能溢れる若きマエストロである。

飯森さんは現代音楽のエキスパートであり、精力的に新作の初演に取り組んでこられたこられたことが評価され、中島健蔵音楽賞を受賞されている。またその一方で、バロックから古典派までの音楽はピリオド(ノン・ビブラート)奏法を取り入れ、鮮烈で瑞々しい演奏を聴かせてくれる。

さて、先日放送された「のだめカンタービレ 新春スペシャル in ヨーロッパ」 であるが、このドラマで指揮・オーケストラ指導をされているのが飯森さんなのだ。観て驚いた。バックでモーツァルトが流れるときはちゃんとノン・ビブラートだったのである。さすがだ。

1月3日に生放送された「NHKニューイヤー・オペラコンサート」でタクトを振っていたのも飯森さん。東京フィルハーモニー交響楽団はプッチーニなど近代のオペラではビブラートをかけて演奏していたが、森 麻季さんがモーツァルト/歌劇「羊飼いの王様」からのアリアを歌ったときはピリオド奏法という具合に見事に弾き分けていた。飯森さんはNHKの「名曲アルバム」でも沢山指揮をされているが、例えばペルゴレージ/「スターバト・マーテル」やバッハ/カンタータ「神は我がやぐら」などはノン・ビブラートで演奏されている。

天下のベルリン・フィルもサイモン・ラトルが芸術監督に就任して以降、ハイドンやベートーヴェンがプログラムに組まれたときはピリオド奏法で演奏するのが当たり前になってきた。

こういった時代の潮流から取り残されているのが現在の在阪オーケストラである。例えば大阪フィルハーモニー交響楽団も、飯森さんのような方法論がしっかり確立したマエストロと組んで古典に取り組むべき時期がそろそろ来ているのではないだろうか?

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ジョニー・デップの主演男優賞受賞とミュージカル映画新時代!

ゴールデングローブ賞が発表となり、コメディ/ミュージカル部門でスティーブン・ソンドハイム作詞作曲のミュージカル映画「スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師」が作品賞を受賞し、同作に出演したジョニー・デップが主演男優賞に輝いた。「スウィーニー・トッド」は今週末から日本公開も始まるので非常に愉しみである。僕は昨年、宮本亜門演出、市村正親・大竹しのぶ主演の舞台版を観ているのだが、非の打ち所のない完璧な作品である。ソンドハイムの音楽も「リトル・ナイト・ミュージック」「INTO THE WOODS」と並ぶ、最高傑作のひとつであろう。

今年の夏にはもうひとつ、どでかいミュージカル映画が登場する。日本では劇団四季が2月から名古屋で上演する「マンマ、ミーア!」である。なんと言っても最大の話題はドナ役を大女優メリル・ストリープが演じることだろう。メリルの歌は映画「今宵、フィッツジェラルド劇場で」で聴いたが、あれなら結構期待出来そうだ。それからドナのかつての恋人役としてジェームズ・ボンド役で有名なピアース・ブロスナン、そして「ブリジット・ジョーンズの日記」「真珠の首飾りの少女」のコリン・ファースも登場。彼らがどんな歌声を聴かせてくれるのか、今からドキドキ、ワクワクである。考えてもごらんよ、メリルがABBAの「ダンシング・クイーン」を歌って踊るんだぜ!?既に映画「マンマ、ミーア!」の予告編を観ることが出来る。こちらからどうぞ。

アメリカ脚本家組合の長期ストライキで撮影延期になっている話題作が「シカゴ」のロブ・マーシャル監督によるミュージカル映画「ナイン」である。82年ブロードウェイ初演時にトニー賞5部門を受賞した名作。これはフェデリコ・フェリーニ監督のイタリア映画「8 1/2」をミュージカル化したもので、映画→舞台ミュージカル→ミュージカル映画という経路は「プロデューサーズ」「ヘアスプレー」などと同様である。映画「ナイン」に予定されているキャストは、本日発表されたゴールデングローブ賞で助演男優賞を受賞したハビエル・バルデム(「ノーカントリー」)、ミュージカル/コメディ部門で主演女優賞を受賞したマリオン・コティヤール(「エディット・ピアフ/愛の讃歌」)をはじめ、ペネロペ・クルス、ソフィア・ローレンといった豪華キャストである。但し、スケジュールの変更で彼らがそのまま出演できるかどうかは雲行きが怪しくなっていた。

1980年代から90年代にかけて絶滅したに等しいくらい衰退したミュージカル映画が、近年にわかに活気を取り戻してきたことは喜ばしい限りである。あと映画化にまでなんとか漕ぎ着けて欲しいのがアンドリュー・ロイド=ウェバーの「サンセット・ブルーバード」。ノーマ・デズモンド役はグレン・クローズでもライザ・ミネリでもぶっちゃけ誰でもいいが、お相手役は何が何でも美声のヒュー・ジャックマンでお願いしたい(オーストラリア公演で実際に彼はこの役を演じている)。華やかな「42nd Street」や、ヴェトナム戦争を背景とした劇的な「ミス・サイゴン」も映画化してもらいたいものだ。宝塚歌劇団や東宝による上演で御馴染みのウィーン・ミュージカル「エリザベート」も、題材がすこぶる面白いし音楽も最高なんだからオーストリアかドイツあたりで是非。え?「レ・ミゼラブル」?う~ん、そうだなぁ……。

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ウィーンからの風~浪速のニューイヤー・コンサート

いずみホールでウィーン・リング・アンサンブルによるニューイヤー・コンサートに往った。

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ウィーン・リング・アンサンブルはウィーン・フィルのトップ・メンバーで構成される9人編成。コンサートマスターのライナー・キュッヘルを筆頭に、名指揮者カール・ベーム(1894-1981)存命の時代から活躍するウォルフガング・シュルツ(フルート)、ペーター・シュミードル(クラリネット)、ギュンター・ヘーグナー(ホルン)など腕利きの音楽家たちが名を連ねている。

ちなみにライナー・キュッヘルは昨年12月12日にNHK交響楽団の定期演奏会に初登場し、プフィッツナーのヴァイオリン協奏曲を披露した(指揮は下野竜也)。この模様は1月13日(日)のN響アワーで放送される(BS-hiでは1月30日、BS2は2月1日)。余談だがキュッヘル夫人は日本人である。

ウィーン・フィルの弦楽器奏者はなんと楽団所有の楽器を使用するそうである。コンサートマスターだけがストラディヴァリウスなど個人の楽器で演奏することが許されているとか。そうすることで初めて、あのウィーン特有の音を伝承していくことが出来るのだろう。

ウィーン・フィルがウィンナ・ワルツを演奏するとき、独特な訛りがあるのをご存知だろうか?彼らは3拍子を均一な3等分には刻まない。言葉で表現するとズン・チヤッ・チャという感じだろうか。2拍目が長めで、その分3拍目が短いのである。これは他のオーケストラでは真似できない、彼らの独壇場である。また、ウィーン楽友協会大ホール(黄金のホール)でのニューイヤー・コンサートは指揮者をはさんで第1、第2ヴァイオリンが左右で向かいあい、コントラバスがオーケストラ後方正面に陣取って演奏する古典的な対向配置をとる。大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団がベートーヴェンを演奏するときと同じである。

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NHKのテレビ中継で観ると楽友協会のニューイヤー・コンサートには和服姿の日本人が目立つが、いずみホールに集った聴衆の中にもちらほら和服姿が見られた。

演奏されたのはシュトラウス一家のワルツ・ポルカを中心にニコライ/「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲、ヘルメスベルガー/妖精の踊り、ツィラー/ポルカ「人生は喜び」、レハール/「メリー・ウィドウ」からワルツ・メドレー など。また第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスの4人だけでランナー/マリアのワルツを演奏してくれ、なんだかウィーン郊外のホイリゲ(居酒屋)でワインを一杯引っ掛けながら音楽を聴いているような愉しい気分を味わった。

ライナー・キュッヘルのヴァイオリンの特徴はウィーンらしく気品に溢れ、薔薇のように香り高い音色でありながら、同時に切れ味鋭く、畳み込むように迫力ある演奏を繰り広げることにある。ウィーン・フィル歴代のコンサートマスターで言えば、ヴィリー・ボスコフスキーやゲルハルト・ヘッツェル(ザルツブルクで登山中に滑落死。音楽家として本能的に手を庇ったため、頭部を強打したという)のような穏やかで優雅なタイプではなく、アルバン・ベルク弦楽四重奏団を結成したギュンター・ビヒラーに近い。非常にモダンなのだ。

今回特に感心したのはウォルフガング・シュルツのフルート。日本のフルート奏者のようにわざとらしいビブラートはかけず、殆どノン・ビブラートで軽やか。音を延ばしたときに微かに揺らいでるかな?程度の絶妙さ。これぞ匠の技!そしてシュミードルのクラリネットの音色は柔らかく円やか。とろけてしまいそう。

ヘーグナーの演奏するウィンナ・ホルンは朴訥で鄙びた音がするので心が和む。ウィンナ・ホルンは高音の倍音を奏でるのが難しくミスをしやすいそうなのだが、ウィーン・フィルだけの専売特許にしておくのは勿体ない気がするなぁ。

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アンコールも楽友協会のニューイヤー・コンサートのスタイルを踏襲していた。大阪の聴衆も心得たもので、「ラデッキー行進曲」が始まると手拍子が自然と湧き起こり、中間部の静かなところではピタリと止まった。

名手揃いのウィーン・リング・アンサンブルはウィーンから大阪に新年の薫り届けてくれた。こういう小編成によるウインナ・ワルツも各々のパートが鮮明に聴こえ、新鮮でとても良い。また来年も是非聴きたいと想える演奏会であった。

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アフター・ウェディング

評価:A

未見の読者にまず警告しておく。この映画は掛け値無しの傑作である。しかし、本作は様々な仕掛けが施されているので、なるべく予備知識なしで観た方が良い。映画公式サイトはこちらだが、ネタバレを多分に含む危険なサイトなので近寄らない方が無難だろう。特に予告編は絶対に観てはいけない

デンマークの恐るべき才女、スサンネ・ビア監督の最新作。2007年アカデミー外国語映画賞にノミネートされた(受賞したのはドイツの「善き人のためのソナタ」。メキシコ代表が「パンズ・ラビリンス」であり、近年稀にみるハイ・レベルの闘いだった)。

詳しいことは書けないが「ある愛の風景」同様に本作にもメロドラマでよく使われる設定が、幾つか施されている。ところがそれだけじゃ決して終わらないのがビア監督作品の凄いところ。ここでも人間の奥底に潜む真実が、一枚一枚ベールを剥ぐように明らかになってゆく。脚本(アナス・トーマス・イェンセン)が実に見事でアッ!と言った。

目・口・指先など人物の局部をクローズ・アップで撮る、ねちっこい手法も健在。ビア監督は独特の語り口を持った真の映像作家である。脱帽。

「ある愛の風景」と「アフター・ウェディング」は昨年からの公開作品なので2007年映画ベスト30選の記事内容を一部修正した。

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ある愛の風景

評価:B

映画公式サイトはこちら

デンマーク映画を観るのは久しぶりだ。多分、アカデミー外国語映画賞を受賞した「バベットの晩餐会」(1987)以来だろう。なんと20年ぶり!

監督はスサンネ・ビア。本作の後に彼女が撮った「アフター・ウェディング」はアカデミー外国語映画賞の候補になるなど高い評価を受けた。それ故彼女はハリウッドに招聘され、既にハル・ベリー、ベニチオ・デル・トロ主演で1本撮り終えたそうである。また「ある愛の風景」もハリウッドでのリメイクが決定しているとか。

「ある愛の風景」の基本プロットはすれ違いのメロドラマである。デンマーク軍に所属する夫がアフガニスタンに派兵され、戦死したという誤報が妻の下へ届く。暫くして捕虜になっていた夫は救出され家族の元に戻るのだが、その間にふたりの間には埋めがたい溝が出来ていて……。

骨格はジャック・ドゥミ監督のフランス映画「シェルブールの雨傘」(1964、カンヌ映画祭グランプリ)を彷彿とさせるのだが、そこから物語りは大きく逸脱して観客の安易な予想を裏切っていく。スサンネ・ビア監督は執拗なクローズ・アップで登場人物たちの内面に迫り、人間の深淵をえぐり出す。彼女の撮り方の特徴は目や口、指先など肉体の局部への拘りである。女性らしいその繊細な心理描写、そして秋の紅葉を背景に展開していく手法などから僕はドゥミ未亡人であるアニエス・ヴァルダの名作「幸福」(1965、ベルリン国際映画祭銀熊賞・審査員特別賞受賞、キネマ旬報第3位)を想い出した。

つまり「ある愛の風景」はある意味ドゥミとヴァルダの精神的申し子なのだ。映画は国境を越える。そのことを僕は今回改めて感じ入った。

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十日えびす

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福の神・えびすゑびす)の総本社である西宮神社(兵庫県西宮市)に往った。

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十日えびすは商売繁盛を祈願する祭典である。えべっさんはいかにも関西らしいユニークな神様だ。1月9日には有馬温泉献湯式という行事もあるそうだ。

十日えびす

今回、開門神事福男選び(1月10日午前6時、表大門の開門とともに人々が一斉に駆け出し本殿に3着までにゴールした人が福男となる)で二番福となった方の職業が宣教師だそうで、なんだか可笑しかった。

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さらば!白川郷

さらば!白川郷

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掌(てのひら)を合わせて

掌(てのひら)を合わせて
今宵は合掌づくりの民宿に宿泊している。囲炉裏を囲んでの夕飯。ゆったりと時は過ぎてゆく。

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白川郷便り

白川郷便り
世界遺産・白川郷にやって来た。集落は深い雪に包まれて、静かに佇んでいる。

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露天風呂から槍ヶ岳を望む

露天風呂から槍ヶ岳を望む
本日の宿は槍見舘。ここも日本秘湯を守る会に加盟している。夜は満天の星空で、オリオン座が鮮やかに見えた。

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神々の山嶺(いただき)

神々の山嶺(いただき)
今回のタイトルは夢枕獏の傑作山岳小説から拝借した。写真は新穂高ロープウェイ終着駅からの風景だ。鳥の声も川のせせらぎも、木々の葉擦れの音も全く聴こえない無音の世界。厳粛で、人々がそこに神を見い出した心情が初めて理解出来た気がした。

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雪の宿

雪の宿
露天風呂からの眺めは辺り一面雪景色。空気は澄み、深閑としている。都会の喧騒から遠く離れ、身も心も洗われた。

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奥飛騨・福地温泉にて

奥飛騨・福地温泉にて
岐阜県の奥飛騨温泉郷にやって来た。宿の「かつら木の郷」は日本秘湯を守る会に認定されており、桧の香りに満ちた内風呂がとても気持ち良い。山の幸や飛騨牛の食事も最高!

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ミュージカル「テイクフライト」

天海祐希が主演した新作ミュージカル「テイクフライト」を梅田芸術劇場で観た。

テイクフライト

この作品の公式サイトはこちら

ブロードウェイでスティーブン・ソンドハイムのミュージカル「太平洋序曲」を手掛けた宮本亜門が本作の演出を担当し、台本が「太平洋序曲」「コンタクト」のジョン・ワイドマン、音楽がミュージカル「ビッグ」のデイビッド・シャイア、オーケストラ・ピットで指揮するのがデイビッド・チャールズ・アベルといった具合に国際的に才能あるスタッフが集結している。

ブロードウェイで興行的に失敗すると投資家たちは多大な損害を被るので、通常オン・ブロードウェイにかける予定の作品は、事前にトライアウトと呼ばれる地方公演で観客の反応を見ながら手直しを行う。ディズニーの「ライオンキング」のように、トライアウトの評判が芳しくないと演出・舞台装置・衣装などのスタッフを総入れ替えしたりすることもある。地方で淘汰され、ブロードウェイまで這い上がって来れない作品も当然ある。

つまり「テイクフライト」の日本公演は世界規模でのトライアウトなのだ。ロンドンでも別の演出家による「テイクフライト」のプロダクションが上演されており、両者でブロードウェイ行きの切符を競い合うという趣向である。

実はこの作品には余り期待していなかったのだが、蓋を開けてみるとその完成度の高さに仰天した。将来ブロードウェイで上演されることは間違いないし、亜門版が行く可能性は十分にある。是非そうであって欲しいと心から願う。

まず音楽が素晴らしい!劇的で起伏に富み、親しみやすい旋律に満ちている。1幕の幕切れで三者三様の心情を歌うナンバーは重層的で「レ・ミゼラブル」のOne Day Moreを想い出した。これならトニー賞で楽曲賞受賞も夢じゃない。

女性飛行士・アメリア・エアハートの人生にシンクロして、ライト兄弟やリンドバーグの空に賭ける夢も同時進行する台本の構成も見事。3つの物語がバッハの対位法のように絡み合い、壮大なハーモニーを奏でる。まるで映画「めぐりあう時間たち」(The Hours)みたいだ。

目まぐるしい舞台転換を、映像を駆使して小気味よく展開していく亜門さんの演出の鮮やかさにも感嘆した。特にフィナーレの高揚感は天晴れ!

ただ、少々残念だったのは狂言回し役のラサール石井がミスキャストだったこと。演技はともかく歌が全く駄目だった。しかしまあそれは些細な瑕に過ぎず、再演があれば是非また観たいと想える傑作ミュージカルであった。ブラボー!

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アマチュアトップコンサートへ!

1月3日に続いて、4日も宝塚大劇場に足を運んだ。しかし今回は宝塚歌劇ではなく、アマチュアトップコンサート(アマトップ)を聴くためである。

アマトッブ

これは毎年1月に開催され、今回で実に46回目という歴史あるイベントである。関西圏の小・中・高校の吹奏楽部、合唱団、チアリーディングでトップレベルの実力を有する学校が参加し、パフォーマンスを展開するのである。

アマトップのチケットはなかなか手に入りにくいということで昨年より1日2回公演に増えたのだが、今回も即日完売したようである。ちなみに宝塚大劇場のキャパシティは2550席である。僕は発売日当日、朝10時15分にアクセス出来たのだが、その時点で既にS席は完売しており、結局2階A席で聴くこととなった。

宝塚の舞台スタッフも協力しているので盆(舞台中央の円形の床)は回転するし銀橋(ぎんきょう。舞台前のオーケストラボックスよりもさらに前面に円弧を描くように張り出した幅1.2mの花道での演奏もあり、フィナーレでは大階段(おおかいだん)も登場するなど劇場の機構がフルに活用されていて、実に見応えがあった。

印象に残った幾つかの出場団体について書こう。

大阪すみよし少年少女合唱団
「スターライト・エキスプレス」「キャッツ」「アニー」といったミュージカルからの歌を聴かせてくれた。素直な歌唱が心地よかった。

少年少女はしばしば「天使の歌声」に喩えられる。どうしてその声が天使のように澄んで聴こえるのか僕は最近その理由を発見した。それは彼らがノン・ビブラートで歌うからだ。大人への成長の過程でビブラートの発声法を学び天使は悪魔へと豹変する。つまり、弦楽奏者と同じことが言えるのである(参考:「ビブラートの悪魔」)。

兵庫県立長田高等学校音楽部
ここも見事な合唱を聴かせてくれた。特に印象的だったのが「青空の彼方へ」。現役の三年生が作詞・作曲した曲だそうだ。歌うことの歓びを素直に書いた詩が心に響いた。昨日聴いた宝塚歌劇の新作「君を愛してる」の楽曲より断然いい。無限の可能性を秘めた高校生諸君が心底羨ましくなった。

伊丹市立天王寺川中学校吹奏楽部
ベニーグッドマンメドレーを演ってくれたのだが、ちゃんとスウィングしてるし、中学生とは想えないくらい上手くてびっくりした!調べてみるとここは2007年の関西吹奏楽コンクールにおいて自由曲で「大阪俗謡による幻想曲」を演奏し、金賞を受賞していた(残念ながら全国大会代表の選からは漏れたようだ)。そして2004年には全日本吹奏楽コンクールでも金賞を受賞している実力校だということも分かった。指揮をされる椋尾 豊 先生の御指導が素晴らしいのだろう。

明浄学院高等学校吹奏楽部 Queenstar
女子校の明浄は今年、全日本吹奏楽コンクールおよびマーチングバンド・バトントワーリング全国大会で金賞を受賞した。まず演奏されたのはディズニー・アニメ「美女と野獣」より。カラーガード隊も登場し、実に華やかだった。「ブギウギ・ビューグル・ガールズ!?」では楽器を吹いている生徒達もノリノリで踊り出し、会場を盛り上げた。ちなみに彼女達の合い言葉は"You'll never walk alone !"であるが、これはミュージカル「回転木馬」(作詞:オスカー・ハマースタイン2世、作曲:リチャード・ロジャース)のナンバーである。僕が大好きな曲だ。

武庫川女子大学付属中学校・高等学校
武庫女(むこじょ)はまずコーラス部がミュージカル「マンマ・ミーア!」の"Super Trouper"と「RENT」の"SEASONS OF LOVE"を美しく歌い上げた後、マーチングバンド部がアース・ウィンド&ファイヤーのヒット曲をメドレーで演ってくれた。明浄同様に華麗なカラーガード隊が大活躍!一糸乱れぬ見事なパフォーマンスだった。只、彼女達が着るユニホームの赤・黄・黒という色彩センスは……。

滝川第二高等学校吹奏楽部、向陽台高等学校ウィンドバンド
滝二は今年、全日本マーチング・コンテストで金賞を受賞したのだが、今回はそれとは別の曲、「ボレロ」と「グラナダ」のマーチングで臨んで来た。その意欲は買いたいが演奏ミスは多いし隊列も乱れ、練習不足の感は否めなかった。

一方の向陽台はマーチング・コンテストと同じ内容で完璧だった。やはりアマチュアなんだから無理はせず、少ないレパートリーを徹底的にこなすことが重要なんだなぁと実感した次第である。

箕面自由学園高等学校チアリーダー部・ゴールデンベアーズ
ゴールデンベアーズは「ジャパンカップ日本チアリーディング選手権大会」で7年連続優勝した日本一の団体であり、昨年はテレビ「学校へ行こう!」でも特集され話題になった。やっぱ、凄いわ。圧巻。今回も彼女達は空高く宙を舞い、アクロバティックな演技で観客を魅了した。

大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部
淀工はまずお得意の「カーペンターズ・フォーエバー」。これは昨年、西成「たそがれコンサート」全日本マーチング・コンテストで聴いているのだが、それらは短縮バージョンであり、今回は"Top of the World"や"Close to You"(遥かなる影)を含む、全長版が聴けたのが嬉しかった。続いてウィーン・フィル「ニュー・イヤー・コンサート」でもお馴染みの「ラデッキー行進曲」。丸谷明夫 先生(丸ちゃん)の合図により、観客も手拍子で演奏に参加した。

そして丸ちゃん指揮/淀工の伴奏に、アマトップに参加した様々な団体の合唱団が加わって盛大なフィナーレとなった。今回のテーマは夢をあなたに!だったので、それにちなんで「いつでも夢を」「夢の中で」「夢で会いましょう」などが演奏された(編曲は淀工OBの立田浩介さん)。最後は「今日の日はさようなら」。

さらにロビーでは淀工の別働隊が出向井誉之 先生の指揮で、ショパンの「別れの曲」を演奏し、帰途に着く聴衆を見送ってくれた。

出向井先生
別れの曲

大変盛りだくさんの内容で大満足の一夜だった。

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宝塚雪組「君を愛してる」「ミロワール」

宝塚大劇場で雪組公演を観た。

雪組

「君を愛してる−Je t'aime−」(作・演出/木村信司)

ラブ・ロマンスと銘打たれているが、出来損ないのコメディ。笑えもしなければウットリとも出来ない酷い代物。優れたミュージカルは歌で物語を推進させる力があるが、この作品は歌が始まると芝居が停滞する。これでは駄目だ。

オペラ「アイーダ」を基にした「王家に捧ぐ歌」(芸術祭優秀賞受賞)は確かに優れた作品だったが、それ以外のキムシン(木村信司)作品はさっぱり頂けない。「スサノオ」は結局「王家…」の焼き直しに過ぎず戦いは新たな戦いをうむだけという安っぽい説教に終始し、「愛のソナタ」や「明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴」も全く面白くなかった。「君を愛してる−Je t'aime−」の台詞は陳腐だし、まさか愛とは何か?を今更説教されようとは想ってもみなかった。もうウンザリ!

それから檀れいさん退団後、僕は白羽ゆりさんこそ現役のジェンヌで一番美貌の娘役だと想っているのだが、彼女が最も美しく映えるのは「エリザベート」などコスチューム・プレイの時である。その彼女に空中ブランコ乗りの娘を配役するとは何事か!?座付き作家として失格である。結局彼女が輝いていたのはラストシーンのウエディング・ドレス姿だけというトホホな悲しさだった。

キムシンは1997年から1998年にかけて、文化庁の派遣研修員としてニューヨークへ留学していたのだが、再留学して勉強し直した方がいい。そうだなぁ、あと200年くらい。

90年以上の歴史を誇る宝塚歌劇の伝統は素晴らしいし、常に新作ミュージカルを創作し続ける努力には敬意を表し たい。しかし宝塚の駄目なところは演出家に台本を兼任させるところにあると僕は想う。だからオリジナル作品の大半が詰まらないのだ。演出の才能と戯曲を書く才能は全く別物であり、ここはきちんと分業し て歌劇団はもっと優れた劇作家を育てる必要があるだろう。あるいは例えば三谷幸喜(ミュージカル「オケピ!」)、松尾スズキ(ミュージカル「キレイ〜神様 と待ち合わせした女〜」)など外部の才能ある人に執筆を依頼してもいいんじゃないかな?

新年

『ミロワール』−鏡のエンドレス・ドリームズ−(作・演出/中村暁)

休憩後の後半は打って変わって、宝塚らしく華やかでとても良かった。鏡や水の反映をテーマに展開される洗練されたショー。冒頭、金色の煌びやかな衣装による群舞から一気に魅了され、ゴージャスな夢のひと時を愉しませてもらった。

雪組のトップスター、水 夏希さんは背が高く格好いいし、現在の雪組は音月 桂さんや鳳稀かなめさんなど美形(どちらかというと可愛い系)の男役が揃っており見目麗しい。

ショーのクライマックスは何といっても大階段(おおかいだん)が登場して黒燕尾服でキメた男役の群舞であろう。く〜ッ、痺れる。正にThat's TAKARAZUKA ! ! 出るのは只、ため息ばかりなり。いくら前半の芝居が悲惨だろうが、これを観てしまうと結局満足して帰宅の途につく羽目になる。宝塚マジックである。

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俺たちフィギュアスケーター

評価:B

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正に新年初笑いに相応しい、おバカ映画。いやはや笑わせてもらいました。もうこういう映画は、頭を空っぽにして理屈抜きで愉しもう。

ウィンター・スポーツの世界を舞台にペアの話だから「スキージャンプ・ペア」を想い出した。あれも下らなくて、死にそうなぐらい可笑しい快作(怪作)だった。特に”ジーザス”という技には悶絶した。

そこで今の時期にこそ観たい、おバカ映画をご紹介したい。まずはスティーブ・マーティン主演映画を4連発!「オール・オブ・ミー/突然下半身が女に!」(劇場未公開、DVDあり)「サボテン・ブラザース」「ペテン師と詐欺師 だまされてリビエラ」そして「ピンクパンサー」。「ピンクパンサー」はピーター・セラーズのオリジナルよりもリメイク版の方が僕は好き。

他に「マルクス兄弟オペラは踊る」「鴛鴦歌合戦」「プラン9・フロム・アウタースペース」「ヤング・フランケンシュタイン」「トップ・シークレット」「奇人たちの晩餐会」「マーズ・アタック!」「ギャラクシー★クエスト」「少林サッカー」「ズーランダー」などをお勧めしたい。特に「ズーランダー」、ベン・スティーラーの演技を観たら抱腹絶倒すること請け合い!

ちなみにメル・ブルックス監督の「ヤング・フランケンシュタイン」は舞台ミュージカルに生まれ変わり、現在ブロードウェイで上演中。演出・振付は「プロデューサーズ」のスーザン・ストローマンである。

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