淀工(大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部)のグリーンコンサートを聴いた。関連記事→ 「グリコンへ行こう!」
グリーンコンサート(グリコン)は毎年1月の土日に計4回開催される淀工の定期演奏会である。夏にはサマーコンサートがあるが、サマコンは淀工のおひざもと守口市市民会館(モリカン)で行われ、グリコンの舞台となるのはフェスティバルホール(2700席)である。言うまでもなく会場は満席。
僕の聴いた土曜日午後6時半からの公演ではゲストとして埼玉県の伊奈学園吹奏楽部が登場し、オープニングでショスタコーヴィチ「祝典序曲」のバンダを2階席中央で担当した。それとは別に2階両サイドと1階中央通路に淀工OBも配置され、同じくバンダとして演奏。フェスティバルホールは壮大な音響に包まれ、揺れた。
伊奈学園は昨年の全日本吹奏楽コンクールで淀工同様に金賞に輝いた。その時の僕のレポートはこちら。伊奈学園を指導されている宇畑知樹 先生も会場に来られていた。
今まで「祝典序曲」を大植英次さん、佐渡 裕さんなど様々な指揮者で聴いてきたが、淀工を指揮する丸谷明夫 先生(丸ちゃん)の演奏は史上最速である。「祝典序曲」は昨年のグリコンでもプログラムにあったが、今回はそれをさらに上回るテンポであるように感じられた。丸ちゃんはこうして現役生たちをとことん追い詰め、鍛え上げる。生徒たちも厳しい指導に応え、必死でついて行く。その真摯な姿が聴いている人々に感動を呼び起こす。これこそが淀工マジックなのだ。(淀工の「祝典序曲」が試聴出来るサイトはこちら)
2曲目は出向井 先生の指揮、二年生の演奏でホルスト/吹奏楽のための第一組曲が演奏された。
続いて三年生全員で「千の風になって」。再び登場した丸ちゃんは12月19日に関西吹奏楽連盟理事長の松平正守 先生が、そしてこの1月2日には天理高等学校吹奏楽部を率い一時代を築いた谷口 眞 先生がお亡くなりになったことにふれた。そして呉服(くれは)小学校吹奏楽団を指導されていた松平先生の「こどもに音楽の機関車を」という名言を紹介し、その追悼の意味を込めてこの曲を演奏しますと語った。パンフレットには歌詞が掲載されており、観客も一緒に歌った。演奏に歌が入るとき、淀工生はしっかり音量を落とす。実はこの抑制して吹くという技術がアマチュアにとってはなかか難しく、これがきっちり出来るバンドは全国的に見ても非常に少ない。
真島俊夫 編曲による「カーペンターズ・フォーエバー」が第一部の〆。これは丸ちゃんが「本家のカーペンターズよりうちの方が沢山演奏しているはず」と豪語する淀工の十八番。最後全員でする"HEY !"が高校生らしく爽やかだ。
休憩をはさみ第二部はまずOBの演奏で「アメリカン・グラフティXV (虹の彼方に〜ミセス・ロビンソン〜ローズ〜いそしぎ〜ダイヤが一番)」。大御所、岩井直溥さんによる映画音楽の名アレンジである。現役生に厳しい丸ちゃんも、OBにはその手綱を緩める。実はこの曲、昨年は現役生が演奏したのだが、それと比較して「ダイヤが一番」など明らかにテンポを落としていた。僕はホルストの「木星」も丸ちゃんが現役とOBを振った演奏をそれぞれ聴いているが、やはりOBの方が遅い。丸ちゃんが手加減して振っていることは一目瞭然。ソロなどひとりひとりの技術は確かにOBは巧いのだが、全体のアンサンブルの精度・質は間違いなく現役生の方が上回っている。つまりアマチュア・バンドの上手・下手を左右するのは楽器の経験年数ではなく、練習量の差なのだろう。勿論、そこに卓越した指導者がいることを前提にした話だ。
続く一年生のマーチングは生徒たちが客席に登場。「E.T.」オープニングの旋律から始まり、あちらこちらから「未知との遭遇」「スーパーマン」「ハリー・ポッター」などジョン・ウイリアムズが作曲した音楽が木霊する。舞台中央のせりが上がりそこからも生徒たちが登場。全員の合奏で「E.T.」のテーマ→「タイタニック」主題歌 "My Heart Will Go On"→「パイレーツ・オブ・カリビアン」→"We Are The World"へと繋がってゆく。これはマーチングを指導されている葦苅 先生の意欲作。短期間でここまで仕上げてきた一年生の演奏はなかなかのものだったし、フォーメーションも美しくきまっていた。
第三部はまずIntroduction to Soul Symphonyで楽器紹介の後、コンクールメンバー星組による「シバの女王ベルキス」が演奏された。
「ローマの松」「ローマの祭り」などで有名なレスピーギのバレエ音楽「シバの女王ベルキス」(1932年初演)は長い間忘れ去られていた曲で、1985年にジェフリー・サイモン/フィルハーモニア管弦楽団が世界初録音して漸くその名を知られることとなった。目ざとい日本の吹奏楽界は、直ぐさまこれに飛びつき88年には全日本吹奏楽コンクールの自由曲に登場。現在までに33団体が全国大会で演奏している(淀工がコンクールでベルキスをしたことはない)。原曲のオーケストラ版が演奏される機会は今だに少なく殆どのクラシック・ファンは聴いたことがないのに、吹奏楽をやっている中高生なら誰でも知っているという不思議な曲である。ちなみに大阪フィルハーモニー交響楽団は2008年度の定期演奏会でこれを取り上げる予定である。
淀工によるベルキスはこの日の白眉であった。テンポは引き締まり、一糸の乱れもなく磨き上げられた演奏。アインザッツの縦、ピッチの横も見事に揃っている。輝かしい金管の響きはこれぞ淀工サウンド!惚れ惚れと聴き入った。フィナーレではアイーダ・トランペットも登場し、色彩豊かな音楽に花を添えた。
そしていよいよフィナーレの「ザ・ヒットパレード」。お馴染み「パラダイス銀河」から始まり、「ヤングマン」「UFO」「ハレ晴レユカイ」「幸せなら手をたたこう」「ありがとう(SMAP)」「明日があるさ」、そして最後は三年生全員が舞台前に整列して歌う「乾杯」へと続く。「ハレ晴レユカイ」でハルヒダンスを披露したパーカッション三年T君の踊りが完璧で舌を巻いた。動きにキレがあったし、ターンも早かった!客席の高校生たちに大いに受けていた。T君が丸ちゃんと繰り広げた「マニアとおたくの違いについて」のトークも可笑しかった。
ラジオ「おはようパーソナリティ 道上洋三です」の道上さんが会場にいらしていて、ここで丸ちゃんに呼ばれてステージへ。大阪城ホールで淀工をゲストに招き「一万人の六甲おろし」というイベントをしたこと、会場に入りきらないくらい人が集まってそのライブCDを発売したらなんと三万枚も売れたことなどをお話しされた。道上さんのたっての希望で再びT君が登場し、ふたりで肩を組んでアンコールの「六甲おろし」を絶唱した。そして16人のピッコロ演奏が壮観な「星条旗よ永遠慣れ」に続いて定番「バイエルン分裂行進曲」で幕を閉じた。
僕が淀工の演奏を生で聴いたのは昨年のグリコンが初めてであった。あれからちょうど一年。その間に沢山の演奏を聴かせてもらった。スプリングコンサート、ブラスエキスポ、3000人の吹奏楽、サマーコンサート、西成たそがれコンサート、御堂筋パレード、普門館での全日本吹奏楽コンクール、全日本マーチングコンテスト、そして年明けすぐのアマチュアトップコンサート……。三年生の皆さん、ご卒業おめでとう。そして沢山の感動をありがとう!
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