これぞ新世紀の第九! 飯森範親/いずみシンフォニエッタ大阪
この記事は「ビブラートの悪魔」と併せてお読み頂きたい。
いずみシンフォニエッタ大阪によるベートーヴェン/第九交響曲の演奏会に往った。指揮は飯森範親さんである。
2006年11月にいずみホールで「ウィーン音楽祭 in OSAKA」という催しがあり、いずみシンフォニエッタ大阪(ISO)とウィーン・フィルの首席奏者たち(コンサートマスターのライナー・キュッヘル、クラリネットのペーター・シュミードルら)が合同でベートーヴェンの「田園」を演り、飯森さんが指揮をされた。その場に僕も居合わせたのだが、驚天動地の高水準で腰を抜かした。兎に角、天下のウィーン・フィルの団員がピリオド奏法(ノンビブラート)でベートーヴェンを演奏していること自体が凄かったし、その攻めの姿勢と豊穣な響きにノック・ダウンした。ISOのメンバーも鬼の形相でそれに食らい付き、熱気に満ちた演奏を繰り広げた。
今回の演奏会ではまず飯森さんとISOの音楽監督で作曲家の西村 朗さんのプレトークがあったのだが、その中で飯森さんがビブラート奏法は20世紀初頭から行われるようになった手法でベートーヴェンの時代にはなかったこと、ベートーヴェンは古典派の音楽からロマン派の音楽へと橋渡しをした作曲家であることなどを解説され、ベーレンライター版の楽譜を用い随所にピリオド奏法を取り入れ、古典派とロマン派の過渡期に位置する第九という交響曲をその新旧の葛藤の中から表現してみたいという旨のことを仰った。
前半は西村さんの新曲「ベートーヴェンの8つの交響曲による小交響曲」。12分くらいの小品で4楽章からなり、各々の楽章はベートーヴェンの「第一」から「第八」までの交響曲全ての対応楽章からフレーズやリズムが引用されているという面白い曲だった。引用と言ってもパッチワークみたいに単に継ぎ接ぎしただけではなく、大きく変形されたり不協和音が取り入れられたりして、ちゃんと現代音楽になっているところが流石であった。パロディ的要素もあり結構笑えた。
休憩を挟んでいよいよ第九である。飯森さんは暗譜で指揮をされ、オーケストラは40数名という小編成。チェロは3人、コントラバスは2人しかいない。合唱を併せても総勢80人程度。飯森さんの解説によるとベートーベンの時代もこれくらいの人数で演奏されたらしい。
第1と第2ヴァイオリンが左右で向かい合う対抗配置。コントラバスは舞台に向かって左方に陣取っていた。またバロック・ティンパニが用いられ固めのマレット(ばち)で強打される音が腹にズシリと響く。
小編成で聴くベートーヴェンは余分な贅肉がそぎ落とされ、引き締まった響きが耳に心地よい。細部が明快に聴こえるし、実に新鮮だ。合唱団は普段ソリストとして活躍する声楽家たちが集結した特別編成で、少人数ながら聴き応えがあった。
飯森さんの指揮は速めのテンポで小気味好い。1、2楽章はほぼ完全なノンビブラート(ピリオド・アプローチ)で、3楽章のアダージョ〜アンダンテから次第にビブラート奏法が出現し、たっぷりと歌う。4楽章、冒頭のプレストはそのままビブラートで突進するのだが、あの有名な「歓喜の旋律」になると突如ノンビブラートに戻る。そしてその後はノンビブラートとビブラート奏法のせめぎ合い。
成る程、これこそが21世の新しいベートーヴェン像なのだ!という興奮で身震いするような素晴らしい演奏会であった。
大阪シンフォニカー交響楽団の特別首席チェロ奏者でベテル室内アンサンブルではバロック・チェロも弾かれる金子鈴太郎さんが今回ISOのメンバーとして参加されており、またフルートにはテレマン室内管弦楽団の団員で、フラウト・トラヴェルソ(古楽器)を兼任される森本英希さんの姿があった。
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コメント
行きたかった演奏会ですが、体調不良でパス。良かったみたいですね、うらやましいなあ。
ホントは、これを聴いて、年末の大植・大フィルに備えるつもりだったんですけどねえ・・・・今年の大阪の、この2大プロジェクト、もうちょっと全国的に評価されても良いようにも思いますが。
投稿: ぐすたふ | 2007年12月17日 (月) 09時55分
ぐすたふさん、コメントありがとうございます。
いずみホールのプロジェクトは結局、鈴木秀美/オーケストラ・リベラ・クラシカの一、三番、ボッセ/紀尾井シンフォニエッタ東京の四、六番、そしていずみシンフォニエッタ大阪の第九と聴いたのですが、いずれも充実した演奏会でした。
今回は会場にたくさんマイクが立っており、ライブ・レコーディングされていましたからCDかFMか、いずれ何らかの形で聴く機会もあると想いますよ。
投稿: 雅哉 | 2007年12月17日 (月) 18時14分