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2007年11月30日 (金)

ダンス・ダンス・ダンス! ~ 大植/大フィル

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団によるベートーヴェン・チクルス第3夜に往った。今回演奏されたのは交響曲第七、八番。チクルス第1夜の感想はこちら、第2夜はこちらに書いた。

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僕は大植英次という男に惚れ込んで、大フィルの年間会員となった。数えてみると大阪城星空コンサート、大阪クラシックなどを含め大植さんが指揮する演奏会をこれまで20回聴いたことになる。例えば今年に限って言っても、ショスタコーヴィチの交響曲第五番、チャイコフスキーの「悲愴」、ドヴォルザークの「新世界から」は掛け値なしの名演で、特に「悲愴」はヴァレリー・ゲルギエフ/マリンスキー歌劇場管弦楽団を超えたのではないかという位、凄い演奏だった。

当然ベートーヴェン・チクルスも期待を持って臨んだのだが、回を重ねるごとにそれは落胆へと換わっていった。そして昨夜は今までで最も退屈な演奏会だった。逡巡した挙句たどり着いた結論を述べよう。僕は大植さんがベートーヴェンやブルックナーを指揮する演奏会にはもう往かない。

基本的に大植さんのベートーヴェンへのアプローチ法は、今回も変化なかった。

・楽譜はベーレンライター原典版を使用。そして例えば第七番の1,3,4楽章に指示された繰り返しは全て敢行する(ベームやカラヤンの時代までは省略するのが慣例だった)。

・オーケストラは対向配置。コントラバスは最後方で横一列にずらりと並ぶ。 

・指揮棒は持たない。

・特にアタックを強調し、弾みのある音楽作りをする。

・現在、特にヨーロッパでは主流になりつつあるピリオド・アプローチはせず、ビブラートを効かせた20世紀的奏法で演奏する。

・総勢80人にも及ぶ大編成。

・交響曲第一,二番あたりは速めだったが、「英雄」以降はベートーヴェンが指示したメトロノーム速度には従わずベーム、カラヤン、バーンスタイン、朝比奈が生きていた時代同様に比較的ゆったりとしたテンポで進める。

ピリオド・アプローチで絶賛を博している指揮者のパーヴォ・ヤルヴィは交響曲第七番をダンス・ミュージックであると断言している。リストはこの曲をリズムの神化と呼び、ワーグナーは舞踏の聖化と賞賛した。実際、映画「愛と悲しみのボレロ」の中で天才ダンサー、ジョルジュ・ドンがこの曲で踊る場面があった。振付はつい先日亡くなったモーリス・ベジャールである。

大植さんの指揮を見ながら想ったのは「この演奏で踊ったらダンサーは空中で失速し、墜落してしまうだろうな」ということである。1楽章から嫌な予感はあった。そして2楽章でそれが的中した。「英雄」2楽章のあの悪夢の再現である。引きずるような足取り。こんなベートーヴェンは時代遅れだ。

七番も八番も、全体的に鈍重な演奏であった。七番の4楽章には推進力があったが、如何せんテンポが重いので戦車か蒸気機関車の加速を連想させた。小交響曲とも呼ばれる八番にはメトロノームか時計の秒針のようなリズムが登場する。それが大植さんの解釈ではまるでハンマー投げの選手が腕をぶんぶん振り回しているかの様だった。これらは本来、飛魚のように軽やかに跳ねるべき曲だと想うのだが……。

現在ではウィーン・フィルやベルリン・フィルでさえ、モーツァルトやベートーヴェンを演奏するときはピリオド・アプローチに果敢に挑戦する時代である。日本ではNHK交響楽団もロジャー・ノリントンが指揮した際にノンビブラート奏法で弾いて多大な成果を挙げた。

大植/大フィルのベートーヴェンを聴きながら感じるのは、そこで試みられている新しい手法が全て中途半端だということだ。どうも大フィルは時代の趨勢に取り残されつつあるように想われて仕方がない。

考えるに大フィルの事務局、そしてファンも未だに故・朝比奈隆の音楽的記憶に囚われ続けているという側面はないだろうか?大フィルの音楽監督たる者はベートーヴェンとブルックナーが得意でなくてはならないという固定観念が。しかし、指揮者の資質というのは多様であり、誰にも得て不得手はある。朝比奈だって苦手とする作曲家は沢山いたわけだし、例えばNHK交響楽団の音楽監督だったシャルル・デュトワにブルックナーやブラームスの名演を求める人は誰もいないだろう。

ひとりの指揮者にオールマイティを求めるべきではない。だからもう大植さんに枷をはめ、ベートーヴェン・チクルスを無理強いするのは止めよう。明らかに向いていないのだから。もっと大植さんには得意な分野で、のびのびと羽ばたいてもらいたい。どうしてもベートーヴェンが外せないのなら客演指揮者を招聘すれば良い。ブルックナーだってそう。特に今後はブルックナー指揮者の児玉 宏さんが大阪シンフォニカー交響楽団の音楽監督に就任されることが決まったのだから、あちらに任せておけば良い。適材適所、役割分担も肝要である。それが大植さんにこれからも末永く大フィルの音楽監督をしていただくコツであるように僕には想われる。

参考までに、同じ演奏会を聴かれたぐすたふさんの感想が書かれた「不惑ワクワク日記」をご紹介しておく。

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帰り際に通りがかったスカイビルの巨大クリスマスツリーである。

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コメント

トラックバック&コメントありがとうございました。

同感です、ちょっと残念な演奏会となった今回でしたね。

でも、9番はいろんな意味で大きな演奏会となるでしょうし、気持ちを新に、臨みたいものであります。

投稿: ぐすたふ | 2007年12月 1日 (土) 00時18分

こんばんは。
ぐすたふさんのところから辿りついて来ました。

私は行けなかったのですが、どうも不満の残る内容だったようですね。
大植さんの体調が相変わらず良くなさそうだというのはアチコチで目にしましたが、そうでなくても古典派とブルックナーは私も彼にはやや不向きだと思ってますので、別にピリオド・アプローチ(個人的にはモダン楽器でこれをやってほしくはないのですが・・・やるなら古楽器でやった方が響きもすっきりしていいですし)を取らない演奏であっても、どこかしら満足のいかないという印象になるのでしょうね。

大フィルもぼちぼち来シーズンの定期のプログラムが発表されるのでしょうが、名曲コンサート+ベトチクから少しは脱却できるでしょうか?ハノーファーやバルセロナと比較して保守的に過ぎるというのは回避してほしいと思いますが、管楽器団員の補充もままならない現状では、攻めのプログラムというのは(朝比奈さんの代からの傾向として)あまり期待できなさそうですね。

実は京都市民的には京響の方に関心が向いているのですが、広上さん(客演に誰を呼ぶかも含めて)どないしはるかな~。

投稿: J.D. | 2007年12月 1日 (土) 03時36分

追伸:
今年の60周年企画ですが、私はてっきりフランツ・シュミットの『7つの封印の書』とかワーグナーを演奏会形式でとか、そういったのをやるもんだと想像していました。大植さんの希望で。
ですので、ベトチクだと発表された時は正直??でしたし、今年度の大植さんの定期とベトチクで(今のところ)全てにマイクが林立している、というのは、何のためにプログラムを組んだのだろうという疑念と腑に落ちない気持ちがあります。

投稿: J.D. | 2007年12月 1日 (土) 03時46分

ぐすたふさん、コメントありがとうございます。

僕は本文で、もう大植さんが指揮するベートーヴェンとブルックナーには往かないと書きましたが、年末の第九だけは既にチケットが手元にあるので足を運びます。これが最後です。

ただ、大植さんの推進力は戦車や蒸気機関車の歩みに似ていますので、その力強さが案外第九という交響曲の性格に合うかも知れないなという微かな期待は抱いています。

投稿: 雅哉 | 2007年12月 1日 (土) 08時58分

J.D.さん、コメントありがとうございます。

もうベートヴェン・チクルスはいいから、チクルスしたいなら例えば大植さんの得意なマーラーとかショスタコーヴィチでやってもらいたいですね。定期のプログラムもシュミットとかツェムリンスキーとかメシアンとか、そういう大阪で滅多に聴けないものを期待します。

それから確かにスチール弦でのピリオド・アプローチには問題点もありますが、例えばパーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルはなんとガット弦を張っているそうですし、トランペットとティンパニはオリジナル楽器を使用しています。最近ではライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団もガット弦を張ることがあるそうです。そろそろ日本のオーケストラもそういったピリオド・アプローチを「方法論のひとつ」として学ぶべき時期が来ているように想うのですが……。

投稿: 雅哉 | 2007年12月 1日 (土) 12時46分

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