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クワイエットルームにようこそ

評価:A+

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芥川賞候補になった松尾スズキの小説を原作者自身が脚色・監督した映画。

精神病院の閉鎖病棟を舞台にした作品といえば、真っ先に想い出されるのは「カッコーの巣の上で」だろう。元々は舞台劇で1975年に映画化され作品賞・監督賞などアカデミー賞5部門を受賞した。看護婦長を演じたルイーズ・フレッチャーも主演女優賞を受賞したが、「クワイエットルームにようこそ」で冷酷ナース江口を演じたりょうは、「カッコー…」の婦長を彷彿とさせる役作りだった。

「カッコーの巣の上で」は米ソ冷戦時代に産声を上げた作品であり、そこで描かれる精神病院は明らかに共産主義政権による恐怖政治のメタファーである。映画を監督したミロシュ・フォアマン(「アマデウス」)はチェコスロヴァキア出身で、1968年の「プラハの春」事件を契機にアメリカに亡命した。だから精神病院=チェコに軍事介入したソヴィエト連邦と見なして演出している。そして、そこから脱出しようとするマクマーフィー(ジャック・ニコルソン)はフォアマン自身が投影されている。

一方「クワイエットルームにようこそ」で描かれる世界は、現代日本社会の縮図となっている。映画を観ている観客は、登場する患者たちは本当に「異常」なのか?それとも実は自分たちが「異常」なのではないか?とその境界線が次第に曖昧になってくる。僕は夢野久作の奇書「ドグラ・マグラ」に通じるものをこの作品に感じた。

登場人物たちに向けられる松尾スズキの眼差しは、あくまでも温かい。映画の最後、退院した主人公の明日香はタクシーの中で笑う。哀しみに満ちた人生を歩んできた彼女の笑顔で映画は救われ、その先には希望が見えるのだ。鮮やかな幕切れだった。

その明日香を演じた内田有紀が抜群にいい。彼女は「北の国から」で結ばれた純くん(吉岡隆秀)と別れて本当に良かった!それに尽きる。吹っ切れた彼女の表情は雲ひとつない青空のように爽やかだ。

内田が初めて松尾スズキに会った時、「何故(明日香役が)私だったんですか?」と訊ねたそうである。松尾の答えは「内田さんの人生そのものが面白そうだったから」。そのエピソードをさらりと言ってのけ、笑い飛ばせる今の内田は最高に素敵だ。本当にいい女になった。

拒食症の女を演じる蒼井優は相変わらず美しく輝いている。そして映画「黒い家」で演じた役柄を想い出させる大竹しのぶも強烈で恐い。さすが大女優の貫禄。

それにしても松尾スズキが主宰する「大人計画」というのは恐るべき才能が集まった劇団だ。演出をし台本を書けるのが松尾だけではなく、映画やテレビで大活躍の宮藤官九郎(クドカン)もいるというのが凄いし、クドカンは今回の映画で役者としても存在感があることを証明した。またナース山岸を演じた平岩紙は、ほんわかしたキャラクターで独特の雰囲気を醸し出す女優だなぁと注目して観ていたのだが、帰宅して調べてみると彼女も「大人計画」の劇団員だった。

劇中で入院患者たちがザ・ピーナッツの「恋のフーガ」を踊る場面があるのだが、それがまるでミュージカルの一場面を観ているような高揚感があった。なんとその振り付けは松尾スズキ自身がやっているという。素晴らしい。伊達に「キャバレー」や「キレイ〜神様と待ち合わせた女」など、舞台ミュージカルを手掛けて来たわけではないなと感心した次第である。

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