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ミュージカル映画「ヘアスプレー」

評価:A+

僕は通常、ブログ記事のタイトルに映画の題名だけ表記しているのだが、今回に限り何故ミュージカル映画と銘打ったのかというと、8月10日に舞台版「ヘアスプレー」のレビューも書いているからである。また、映画「ヘアスプレー」にしてしまうとジョン・ウォーターズ監督が1987年に撮ったオリジナル版と混同されるかも知れないので、このようにした。映画の公式サイトはこちら

いやはや、大傑作ミュージカル映画の登場だ。ロブ・マーシャル監督の「シカゴ」は舞台版を越えたと想ったが、あれ以来の感動である。「シカゴ」以降、「オペラ座の怪人」「プロデューサーズ」「RENT」などトニー賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカルが相次いで映画化されたが、いずれも舞台版には太刀打ち出来なかった(唯一の例外は「ドリームガールズ」である。ただ僕はこの舞台を観ていないので比較は出来ない)。「ヘアスプレー」のアダム・シャンクマン監督は元々はダンサー・振付師で、その経歴がロブ・マーシャルに似ていることも興味深い。

ミュージカル映画「ヘアスプレー」は港町ボルチモアの空撮から始まる。カメラが次第に地上に近付いてきて、汽笛や新聞配達の音、靴磨きの音など朝に満ち溢れる雑音が聴こえてくる。ちょっと「ウエストサイド物語」 + STOMP風だ。その音にリズム・セクションが重なり、一気に女子高生のヒロイン・トレーシーが元気一杯に歌うナンバー「グッドモーニング・ボルチモア」へとなだれ込む。なんて鮮やかなオープニングだろう!トレーシーがヒッチハイクしてトラックの屋根に乗り登校する場面も素敵だ。僕はたちまちこの映画に恋をした。

映画の編集とはリズムである。このことをアダム・シャンクマンはよく理解している。まるで音楽のように心地よく映画は流れてゆく。舞台版で些か冗長だった、トレーシーが投獄される場面をばっさりカットした判断も的確であった。上映時間116分にまとめ上げた手腕はお見事!

いつものパワフルな歌唱ではなく、しっとりと抑えて歌うクリーン・ラティファが素晴らしいし、久々に見たミシェル・ファイファーが実に愉しそうに悪役を演じているのも良い。ファイファーがアカデミー賞にノミネートされた「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」(1989)は彼女が全盛期の作品であるが、その時の「マイ・ファニー・バレンタイン」の名唱は忘れがたい。「ヘアスプレー」で見事にカムバックした彼女の元には現在、映画「グリース」リメイク版への出演オファーが来ているという。

しかし、この映画でなんと言っても特筆すべきはクリストファー・ウォーケンだろう。現在65歳。トレイシーの父親を演じるには少々老け過ぎている。むしろ、おじいちゃんの年齢だ。歌や踊りも決して上手くはない。でもね、何だかすごく味があるんだ。少年のように無邪気で、そして家族に対する優しい愛情がじんわりとスクリーンを通して伝わってくる。正に至芸である。アカデミー助演男優賞に輝いた「ディア・ハンター」(1978)や「デッドゾーン」(1983)、英国アカデミー賞を受賞した「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2002)の彼も大好きなんだけれど、「ヘアスプレー」のウォーケンは最高!不謹慎な話だが、将来ウォーケンの訃報が届いた日には、恐らく僕は真っ先に「ヘアスプレー」のことを想い出すだろう。

ただ、残念ながらトレーシーの母エドナ役のジョン・トラヴォルタだけは明らかなミス・キャストである。トラヴォルタは映画「シカゴ」の悪徳弁護士役のオファーを3度断り、結局その役はリチャード・ギアが演じた。そしてギアはゴールデン・グローブ賞で主演男優賞を受賞した。トラヴォルタは後々、そのことを非常に後悔していたという。どんな役でもいいからミュージカル映画に出たい。その彼の熱意は痛いほど伝わってきた。しかし、その捨て身の決意が空回りしている印象を映画から受けた。

エドナ役はジョン・ウォーターズ監督版、ブロードウェイ版そして今回のミュージカル映画版と全て男優が女装して演じている。僕はどうしてなんだろう?とず~っと疑問に想ってきた。そして最終的に導き出した結論は恐らくこの作品のテーマと結びついているのだろうということである。1960年代を舞台とした「ヘアスプレー」は黒人や肥満者に対する差別を描いている。そしてそこに男同士の夫婦という設定を持ち込むことで、1970年代以降の価値観である、ゲイ解放運動をも包括しようとしているのではないだろうか?

舞台版「ヘアスプレー」に主演し、トニー賞を受賞したハーヴェイ・ファイアスタインはゲイだし、ミュージカル楽曲賞を受賞した作詞・作曲のスコット・ウィットマンとマーク・シャイマンもゲイ・カップルである。ふたりは授賞式の壇上で 抱き合ってキスをした。このキス・シーンをNHKがカットして放送し、たちまちミュージカル・ファンから痛烈な批判を浴び、慌てて完全版を再放送した事件は記憶に新しい。

しかしトラヴォルタが演じたエドナは全くゲイっぽくなかった。それがないのであればエドナを男が演じる意味がない。僕はそう想う。

もしこの役を舞台同様ハーヴェイ・ファイアスタインが演じていたなら映画の評価はAAAだっただろう。トラヴォルタによる減点でA+に格下げとしたのである。

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