東京代表 東海大学付属高輪台高等学校 金賞 / 東京都立片倉高等学校 金賞
高輪台は今大会11番目の金賞だった。前半の部で5個金が出て、後半高輪台の直前に演奏した与野高が10個目の金を出した。
僕の坐っていた席の近くに高輪台の保護者の方がいらっしゃって、与野が金と発表された瞬間、「えーっ!」と悲鳴を上げられた。例年だと11個目はないからだ。しかし、引き続いて高輪台の金が読み上げられると、それは安堵のため息に替わった。高輪台は今年初めての3出3金を達成した。そのお母さんが「来年はコンクールに出られないなんて辛いはねぇ」としみじみと仰っていた。
高輪台は荒削りだけれどエネルギッシュな演奏にその特徴がある。そのスタイルは指揮の畠田貴生 先生の風貌によく似合っている。今年の自由曲は「ダフニスとクロエ」。繊細でデリケートな表現を要求される曲だ。ダフニスも勿論良かったが、僕は昨年のハチャトゥリアン/バレエ音楽「ガイーヌ」の方が高輪台というバンドに、より相応しいような気がした。
片倉の自由曲は三善晃/「交響曲三章」より第3楽章。非常に重厚で手堅い演奏で、当たり前のように金を攫っていった。
西関東代表 埼玉県立伊奈学園総合高等学校 金賞 / 埼玉栄高等学校 金賞 / 埼玉県立与野高等学校 金賞
伊奈学園の響きは柔らかく軽やかである。のび太みたいな風貌の(失礼!)宇畑知樹 先生の穏やかな笑顔にも心が和む。その特質と自由曲のR.シュトラウス/楽劇「ばらの騎士」組曲との相性がとても良かった。ウィンナ・ワルツのまろやかで優雅な音色に魅了された。課題曲「ブルースカイ」は中間部、弱音器を付けたトランペットの、抑えた音量が絶妙だった!
余談だが、宇畑先生は淀工の丸ちゃん(丸谷明夫 先生)からの招聘で、なにわ<<オーケストラル>>ウインズ2006の指揮台に立たれている。また今年1月、淀工のグリーンコンサートに伊奈学園吹奏楽部がゲストとして招かれ、ショスタコーヴィチ/祝典序曲のバンダを演奏した。
さて、前にも書いたが今年は課題曲IV「ブルースカイ」が大人気で、課題曲 I 「ピッコロ・マーチ」を演奏したのは29校中たった2校である。 僕も「ピッコロ・マーチ」を吹いたことがあるが、なんでこの可愛らしい曲が不人気なのか訳が分からない。埼玉栄はその数少ない課題曲 I を選んだ学校である。 肩の力が抜けた、プロ顔負けの演奏だった。
埼玉栄の魅力は「歌心」にあると僕は考える。しなやかに歌って、そのハーモニーはきわめて美しい。指揮の大滝実 先生は国立音楽大学声楽科を卒業されており、その経歴とバンドの特色は決して無関係ではあるまい。自由曲はマスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より。昨年が歌劇「トゥーランドット」で、かつて埼玉栄が初演して一世を風靡した「ミス・サイゴン」はミュージカル。いずれも歌に関係している。今回の「カヴァレリア・ルスティカーナ」は後半、生徒たちが本当に歌う場面もあった。その合唱がまた見事だったこと!以前、伊奈学園が「ダフニスとクロエ」を全日本で演奏したときも合唱付きだったが、今年歌ったのは埼玉栄だけだった。実際の歌劇ではテノールが歌うところを、トランペットのソロが舞台裏で演奏する演出も面白かった。全体を通じて、文句のつけようがない完璧な演奏だった。
与野高の自由曲はレスピーギ/交響詩「ローマの祭り」より十月祭、主顕祭。全日本吹奏楽コンクールの定番曲である。これで1982年から26年連続でこの曲を演奏した団体に金賞が出たことになる。正直この曲に僕は飽き飽きしており、与野の演奏は終盤近くだったので疲労困憊して殆ど印象に残らなかった。一生懸命演奏された生徒の皆さん、真摯な態度で聴いてなくて本当にごめんなさい。
東海代表 光ヶ丘女子高等学校(愛知県) 金賞 / 三重県立白子高等学校 銀賞 / 愛知工業大学名電高等学校 銀賞
光ヶ丘女子高はまるでスキップするように弾んだ演奏で、女の子らしい可愛らしさがあってとっても素敵だった。制服姿も○。自由曲は課題曲「饗応夫人」の作曲家としても有名な田村文生 編曲によるリスト/バッハの主題による幻想曲とフーガ。もともとはB-A-C-Hの音列を基にしたピアノ曲で、まず曲そのものが良かった。そして魔法に満ちた編曲を彼女たちは見事に音として再現した。
白子校がステージに上がったとき、一瞬ここは女子高か?とびっくりした。チューバの生徒は楽器に隠れて顔が見えなかったのだけれど、その他の楽器は女の子ばかりだった(吹奏楽部の公式サイトはこちら)。
昨年、埼玉栄が全国大会初演した後藤洋 編曲によるプッチーニ/歌劇「トゥーランドット」は今年も大流行で、実に6校もの中学・高校が演奏した。しかし白子高の「トゥーランドット」は珍しくも鈴木英史 編曲版だった。鈴木さんは「小鳥売り」「メリー・ウィドウ」「微笑みの国」「こうもり」などオペレッタの編曲シリーズで絶大な人気を誇る方だが、正直今回の「トゥーランドット」の編曲は流れが途切れ途切れで成功しているとは想えない。僕は断然、後藤版に軍配を上げる。
名電の自由曲は「中国の不思議な役人」。指はよく回っていたと想うが、同じ曲を磐城が圧倒的名演で披露した後だけに分が悪かった。名電は3年連続銀賞だったが、昨年の全日本マーチングコンテストでは金賞を受賞している。今年のマーチングにも期待したい。
中国代表 広島国際学院高等学校 銅賞 / 鈴峯女子中学・高等学校(広島県) 銅賞 / 出雲北稜高等学校(島根県) 銅賞
僕は岡山県岡山市生まれなのだが、中国地区代表校が全国区では全く太刀打ち出来ていない現状を目の当たりにして、大いに落胆した。今回初めて普門館に来て痛切に感じたのは、吹奏楽の実力に地域格差が大きいことである。やっぱり都会のレベルは高い。そんな中で、北海道地区や東北地区は非常に健闘していると想う。わが古里の高校生たちも頑張れ!
四国代表 愛媛県立北条高等学校 銀賞 / 高知県立高知西高等学校 銅賞
四国地区は昨年まで7年連続銅賞のみ受賞という不名誉な記録を更新していたが、今年はそれを払拭した。僕は高知西高の銅賞はミス・ジャッジだと断言したい。彼らが自由曲に選んだのはマッキー/レッドライン・タンゴ。ワルター・ビーラー記念作曲賞(2004年)、ABAオストワルド作曲賞(2005年)を受賞した現代アメリカを代表する曲で非常に面白かった。プログレッシブ(先鋭的)ジャズ・ロックみたいで格好良い。高知西高の演奏もアクセントが効いてリズムに乗っていた。想うにここが不当な評価をされたのは、審査員が殆どクラシック系の人達ばかりで、曲の面白さを理解してもらえなかったからではないだろうか?高知西高の生徒の皆さん、君達は輝いていた。結果は気にせず、普門館での自分たちの演奏に誇りを持って欲しい。
九州代表 精華女子高等学校(福岡県) 金賞 / 福岡工業大学付属城東高等学校 金賞 / 福岡県立嘉穂高等学校 銀賞
精華女子はマーチングの華。特に第25回マーチングバンド・バトントワリング大会で披露した「ムソルグスキーの風」のパフォーマンスは忘れがたい。今回、彼女たちが自由曲に選んだのは全国大会初お披露目となるスパークの傑作「宇宙の音楽」。関西地区大会では京都の名門・洛南高等学校もこれを取り上げたのだが、まさかの銀賞で敗退している。精華は若さ溢れる力強い演奏で、特にホルンの咆哮が凄まじかった!クライマックスでの打楽器の連打も大迫力。圧巻だった。また、準備が整ってステージが明るくなったとき生徒全員が笑顔だったのも好印象。淀工もそうだけれど、日頃からマーチングで鍛えているところは「自分たちの見せ方」をわきまえているなぁと感心した。また曲想に合わせて、体を揺らせるのがぴったり揃っていたのもお見事。良く歌っていました。
福工大付は昨年度まで屋比久勲 先生(中学校教諭時代、沖縄に初めて金賞をもたらした偉大な指導者。なにわ<<オーケストラル>>ウインズ2004にも登場)が率いていたが、その屋比久先生がこの3月で退官され、鹿児島情報高等学校に赴任されてしまった。これで福工大付の命運も尽きたかと想われたが、今年もキッチリと結果を残した。とにかく後任の武田邦彦 先生の指揮が素晴らしかった。テンポは早めで、音楽が滑らかに流れる。メリハリがあって非常に推進力のある演奏だった。お見事!ちなみに自由曲は後藤版「トゥーランドット」だった。
九州地区(沖縄県を含む)と言っても、代表三校は全て福岡県だった。ここでも都会集中型の傾向が伺われる。来年あたり、そろそろ鹿児島情報高が頭角を現してくるだろうか?そちらも非常に愉しみである。
最後に表彰式の話をしよう。結果発表の前に指揮者全員が順番に表彰されるセレモニーがある。この時に会場から生徒たちが、せーので「…先生、大好き!」と掛け声を上げたりして微笑ましかった。大阪桐蔭は「梅田先生、めっちゃ好き!」と地方色を出していた。宮城県泉館山高は「細倉先生、ありがとう!」だった。きっとそれは「私たちを普門館まで連れて来て下さってありがとう」という意味も含まれているんだろうな。しかし、淀工はこの掛け声はなかった。おそらく丸ちゃんが照れて、生徒にするなと事前に厳命していたんだろう。こんな所にも、それぞれの学校の特徴が出て面白かった。
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