春野寿美礼サヨナラ公演〜秋のすみれ〜
春の野に
すみれ摘みにと
来しわれそ
野をなつかしみ
一夜寝にける (万葉集 巻8-1424)
これが宝塚花組のトップスター、春野 寿美礼(はるのすみれ)さんの芸名由来である。なんと古典的で美しい響きであろうか。かつてタカラジェンヌの芸名は総て百人一首から取ったそうである。春野 寿美礼とはそういう宝塚歌劇の伝統を受け継ぐ、凛々しい男役である。
僕が春野さんの舞台を初めて観たのは恐らく1999年の「タンゴ・アルゼンチーノ」(作・演出:小池修一郎)であったろう。まだ3番手だった当時から歌が抜群に上手かったし、背も高く、きりりと立ち姿の美しい男役として目立っていた。
トップ就任のお披露目公演は「エリザベート」(2002)。演じた役はエリザベートに恋した死神のトート。妖しいまでの美しさ・歌唱力・ダンス力・演技力。全てを兼ね備え、バランスが取れた端正なトートであった。
そしてロイド=ウェバーの「オペラ座の怪人」のせいでブロードウェイに行きそびれた、隠れた傑作「ファントム」。宙組の和央ようかさんが演じた主人公エリックも良かったが、歌に関しては春野さんが圧倒していた(この役は来年、梅田芸術劇場で大沢たかお が演じる)。
その春野さんの退団が決まった。サヨナラ公演である「アデュー・マルセイユ」(作・演出:小池修一郎)とレビュー「ラブ・シンフォニー」(作・演出:中村一徳)に往ってきた。
小池修一郎さんは「エリザベート」で一斉風靡し、菊田一夫演劇賞を何度も受賞している優れた演出家である。東の宮本亜門、西の小池修一郎と並び称される程の鬼才なのだが、こと自作のミュージカルについては当たり外れの落差が激しい。物語の前半で大風呂敷を広げて、後半で収集不能になるケースがしばしばある。
今回はコメディ・タッチで、なかなか小粋で上手くまとまった佳作に仕上がっていた。現在と過去が交差する場面、舞台転換の上手さに小池演出が光る。
物語の最後に主人公はヒロインと結ばれることもなく旅立ってゆくのだが、春野さんを花組の組子全員で見送る情景が「嗚呼、本当にさよならなんだなぁ」としみじみ実感させられて良かった。
しかしこの公演の白眉はなんと言っても「ラブ・シンフォニー」だろう。とにかく洗練されたショーで魅了された。舞台装置や衣装のセンスが素晴らしい。華やかな照明が織り成す壮大な交響楽。ジャズ・サンバ・フラメンコなど多彩な音楽・踊りで彩られた構成も良い。
宝塚のショーの歴代最高傑作は「ノバ・ボサ・ノバ」(作・演出:鴨川清作)、近年最大の収穫は雪組の「パッサージュ」(作・演出:荻田浩一)。それらに匹敵すると言ったら褒め過ぎだろうか?
また、宝塚の生徒たちのダンス力の向上には目を見張るものがある。回転に切れがあるし、跳躍は高い。例えばロケット(ラインダンス)ひとつをとっても、足が120度くらい上がり、全員がピタッと揃っている。鳳 蘭や麻美れいなどがトップを張っていた頃のVTRを見ると、確かに歌唱力は当時の方が上だと想うが、あの頃はダンスの動きが鈍くバラバラだし、ロケットもせいぜい足が90度くらいしか上がっていない。そして生徒のスタイルも断然現在の方が良くなっている。
かつて花組のトップスターだった大浦みずきは”ダンサー”として賞賛された。しかし、現在の生徒たちの平均水準から見ると、はっきり言って大したことはない。宝塚は着実に進化している。そのことを今回改めて実感した。
必見。
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