それでもボクはやってない
評価:C
周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」が米アカデミー外国語映画賞にエントリーされる日本代表に選ばれたことが報道された。この映画は公開当時の1月に観ているのだが、日誌に感想を書いていないことに気がついた。意図的ではない、ただ単に失念していたのである。まあ、その程度の映画だったということなのだが。
オスカーの最終候補に残れるのは5作品である。去年の日本代表「フラガール」は如何なものかと想ったが、ぶっちゃけ、この映画も無理だろう。ただ、昨年は「ゆれる」という傑出した対立候補があったが、今年はこの代わりに何が良いかと問われると、頭を抱えてしまうのも事実である。
僕が周防正行監督の名前を初めて耳にしたのは彼のデビュー作「変態家族 兄貴の嫁さん」(1983)である。ポルノ映画で小津安二郎のパロディをやり、凄い才能の新人が現れたと大変話題になった。しかしその頃、僕は花も恥らう高校生であったので成人映画を観るわけにはいかなかった。
周防監督がピンク映画出身ということに驚かれる方も多いかもしれない。しかし当時、東宝・東映・大映・松竹といった映画撮影所のシステムが崩壊し、映画製作を志す若者たちの受け皿がピンク映画しかなかったのである。まもなく新作「サウスバウンド」が公開される森田芳光や「パッチギ!」の井筒和幸、「雪に願うこと」の根岸吉太郎、そして「セーラー服と機関銃」「台風クラブ」などを撮った故・相米慎二 監督などは、にっかつロマンポルノをはじめとするピンク映画出身者たちである。
周防監督の話に戻ろう。僕が周防映画を初めて観たのは「ファンシイダンス」(1989)である。少女漫画が原作で修行僧たちの青春を描いたこの作品は、実に楽しいコメディであった。まだ若かった鈴木保奈美がすごく可愛かったことが印象に残っている。
そして大学の弱小相撲部を描いた「シコふんじゃった」(1991)、社交ダンスブームを巻き起こし後にハリウッドでリメイクもされた「Shall we ダンス?」(1996)と連続してキネマ旬報ベストテン第1位を獲得し、周防監督は一気に日本映画界の頂点に登りつめる。
周防監督が不幸だったのは「Shall we ダンス?」が米アカデミー外国語映画賞の日本代表候補になれなかったことである。当然日本の選考委員はこれを代表に選ぼうと考えていた。ところが不測の事態が起こる。
アカデミー賞の候補になるためには、それまでにテレビ放送されていないという条件がつく。ところが、日本から出品される前に映画に出資していた日本テレビが国内で放送してしまったのである。これで「Shall we ダンス?」はその資格を剥奪された。
その代わりに出品されたのが山田洋次監督の「学校II」で、当然歯牙にもかけられなかった。もしあの時、「Shall we ダンス?」が出品されていれば受賞できたのではないかと僕は今でも信じて疑わない。本当に惜しいことをした。
あれから10年以上経った。長い沈黙を経て周防監督が世に問うたのが満員電車での痴漢冤罪を題材にした「それでもボクはやってない」である。
確かに題材としては面白いし、よく取材してあり情報量は多い。しかし、ジャーナリスティックな価値は認めるとして、エンターテイメントとして観た場合どうだろう?
今までの周防映画と比較してみて、今回の新作に一番欠如しているのはユーモアのセンスだと僕は想う。ユーモアこそが従来の周防映画の最大の武器であった筈だ。
冤罪事件に対する監督の怒りは十分伝わってくる。しかしそればかりが全編に満ち溢れていて、何だか映画が息苦しいものになってしまっている。切羽詰っていて余裕がないのだ。傍聴席の人に映画のテーマをストレートに語らせたりするなど、脚本も練が足りず白けてしまう。
そういう訳で僕はこの映画を評価しない。選考委員が日本代表に選んだのも「Shall we ダンス?」の一件で、監督に対する同情票が集まったからではなかろうか?
ところで大阪の地下鉄御堂筋線には終日、女性専用車両がある。痴漢を防止する目的だということは理解できるのだが、女性専用車両があるのなら是非男性専用車両も作って欲しい。自分が痴漢冤罪の被害者になるのではなかろうかと、日ごろから戦々恐々としている男性諸君もいるのだから。
御堂筋線は10車両ある。女性はそのそれぞれに分乗することが出来るが、男性が選べるのは9車両だけである。その分、男の方が込み合った車両に乗らなければならない羽目になる。これは明らかな性差別である。男女乗車機会均等法を!
ついでに言わせて貰うと、東京都や大阪府には映画の入場料が1000円になるレディースデイはあるが、男が割引になるメンズデイはない。ところが地方都市にはメンズデイがあるのである!松竹系シネコンのMOVIXを例に挙げよう。大阪府内のMOVIXではメンズデイがないが、お隣兵庫県のMOVIX 六甲では木曜日が男性1000円均一なのである。性差別反対!東京や大阪の哀れな男たちにもメンズデイを!
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