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2007年9月 7日 (金)

淀工の西成「たそがれコンサート」

世間が「大阪クラシック」で浮かれているのを尻目に、9月4日火曜日、僕は南海線・萩ノ茶屋駅に降り立った。毎年、西成労働福祉センター主催であいりん(愛隣)地区の人々のために行われている「たそがれコンサート」に潜入するためである。演奏するのは丸谷明夫先生(丸ちゃん)指揮による大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部(淀工)の生徒たちである。

丸ちゃんは平成2年以来、毎年西成のコンサートを振ってきた。今年で実に18回目だそうである。

あいりん地区とは大阪市南部に位置し日雇い労働者が多い場所で、炊き出しも行われている。現場の労働者や近隣住人には"釜ヶ崎(かまがさき)"=略して"釜"という通称が定着している。

淀工が往き始めた平成2年には5日間にわたり「西成暴動(第22次暴動)」が発生している。近隣商店が破壊され、駅が放火で全焼した。これは現在のところ、日本で発生した最後の暴動である。

DVD「淀工吹奏楽日記 丸ちゃんと愉快な仲間たち」で西成のコンサートの模様が収録されており、僕は初めてこの行事のことを知った。兎に角カルチャーショックだったのは、「たそがれコンサート」の行われる三角公園(正式名称:萩之茶屋南公園)に沢山のござが敷いてあり、労働者の皆さんがそこで酒を引っ掛けながら、声援とも野次ともつかぬ声を張り上げていたことである。

丸ちゃんがDVDのインタビューで、「毎年洗礼を受けに往かせてもらっています」とコメントしていたのも非常に印象的だった。

さて、駅から5分ほど歩いて三角公園に着いた。開演までまだあと30分ほどある。公園の中は煙草と汗が混じりあい、独特な臭いが漂っている。そして野良犬が数匹歩き回っている。考えてみたら野良犬を見かけるのは30年ぶりくらいだろうか?

公園の角に両備バスがエンジンを掛けたまま停まっている。近付くと「淀川工科高等学校 御一行様」と書かれているのが見えた。全ての窓はカーテンで閉ざされ、中は息を潜めたようにひっそりと静まり返っている。

DVDで丸ちゃんが語っていたのだが、西成に往くようになった当初は「お前らだけクーラーの掛かった涼しいところにいやがって!こっちは暑いんじゃ!」とバスを揺らされる騒動があったそうである。

開演15分くらい前になり、バスから生徒たちが小走りに降りてきてステージのセッティングを始めた。淀工の出向井先生らしき背の高い男性が、ステージ下から生徒と何やら話しているのも見える。

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やがて丸ちゃん登場。盛大な拍手と歓声で迎えられる。ニコニコした表情で「こんばんは!今年もやって参りました」と丸ちゃんが言うやいな、再びやんややんやの大喝采。

まず北京市の招待公演で披露した「オリンピック・ファンファーレ」で華々しく始まり、淀工十八番の「カーペンターズ・フォーエバー」(真島 俊夫 編)に突入。そして「ジャパニーズ・グラフィティVI」(UFO〜魅せられて〜シクラメンのかほり〜襟裳岬)、「いずみたくヒット曲メドレー」(見上げてごらん夜の星を〜いい湯だな〜ふれあい)等が演奏された。

演奏中に「よっ、日本一!」などと掛け声が上がる。そうさ、淀工は文字通り日本一さと僕も心の中で呟く。立ち上がって踊りだす人もいる。

曲の合間に、8月26日京都会館で行われた関西吹奏楽コンクールで今年も代表に選ばれ、10月に普門館で行われる全国大会に出場することが紹介される。西成に来ているメンバーを見ると、サマーコンサートで「ダフニスとクロエ」を演奏していた生徒たちがちらほらいる。ということはコンクール・メンバーの星組も参加しているということだ。関西大会が終わってたった8日くらいで彼らはここまで仕上げてきた。僕は君たちの演奏を聴きに京都まで往ったのだけれど、結局会場には入れなかったんだ。想い出しただけで悔しさで胸が一杯になる。

恒例の楽器紹介もあった。「千の風になって」では歌詞が生徒たちによって掲げられ、観客は声を張り上げるようにして歌った。

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ここで小休憩。主催者側からござを提供してくれたお店への謝辞などが述べられた。後で知ったのだが、このござは持ち帰り自由だとのことで、演奏会が終わるとあっという間に消えてなくなった。

後半、まず「青い山脈」、そして真島 俊夫 編曲による「あの日聞いた歌」(故郷-浜辺の歌-椰子の実-赤とんぼ-春の小川-花)が軽快なテンポで続く。メロディと一緒に、愉しげに歌っている人々も多い。他にも「中村八大メドレー」(帰ろかな〜こんにちは赤ちゃん〜幼なじみ〜遠くに行きたい)「上を向いて歩こう」等が披露された。

丸ちゃんが夏の全国高校野球選手権大会に出場した唯一の県立高校の佐賀北が優勝したことに触れる。「うちも公立で、少ない予算でやりくりしていますので勇気をもらいました」そして淀工の生徒が甲子園でファンファーレや入場行進曲を演奏したことを紹介。割れんばかりの拍手を浴びた。そのファンファーレ、山田耕作 作曲の「大会行進曲」、そして「栄冠はきみに輝く」が続けて演奏される。

他に、「ジャパニーズ・グラフティIV」(お嫁においで〜サライ)、数名の生徒が前に出てパフォーマンスしながらの「明日があるさ」「幸せなら手を叩こう」などが披露された。丸ちゃんが「今は生きていること自体が幸せです」と言ったのが印象的だった。

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「最後に我々の国歌を演奏します」と始まったのは勿論「六甲おろし」。公園内は興奮の坩堝と化した。

演奏が終わり、人々が拍手をしながらステージ下へと駆け寄ってゆく。西成の人々と堅く握手をする丸ちゃん。「来年も、また来ます!」とにこやかに言う。

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「淀工の生徒さんたちが退場されますので道を空けてください」とのアナウンスに、観衆の群れは二手に分かれ、花道を作った。その間を淀工の生徒たちが通ってゆく。温かい拍手とともに「ありがとう!」の声があちらこちらから掛けられる。生徒たちは会釈し、笑顔でそれに応える。感動的な光景であった。音楽はひとの心に灯をともし、その表情を明るくする。そんなことを改めて考えさせられた。

ここにひとりの偉大な教育者がいる。18年……誰にでも出来ることではない。淀工の「たそがれコンサート」は、部活動というものが学校教育の一環であるという真の姿を示してくれた。全日本吹奏楽コンクールで20回金賞を受賞したという栄光だけが淀工の全てではない。この「たそがれコンサート」にこそ、その真髄があるのだと僕は確信して疑わない。

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コメント

おはようございます。
今日全国大会のチケット発売日でしたが、無事にとれましたでしょうか。
私は電子チケットぴあで中学前半、高校後半無事にとれました。
高校はやはり激戦でしたね。

投稿: ごいんきょ | 2007年9月23日 (日) 10時21分

ごいんきょ樣、ご心配お掛けしました。
お陰様で高校前半・後半共にチケットを無事確保しました。
本当に、瞬く間に完売してしまいましたね。
今回の顛末はまた後日、ブログの記事で書きたいと想っています。ありがとうございました。

投稿: 雅哉 | 2007年9月23日 (日) 10時46分

はじめまして。アンと申します。
テレビの特番で知って以来の淀工吹奏楽のファンで
こちらのHPは検索して知って、拝見させていただいてました。
京都大会の模様とか、たそがれ…等、九州に住んでいて全く分からず、知りたかった事が載っていてとても嬉しかったです。

無事、チケット取れたのですね。
私も全国大会、何とかチケット取れましたので、
高校午前の部見に行きます。
これからも淀工吹奏楽や色んな吹奏楽の記事楽しみにしていますね。どうぞよろしくお願いします。(長くなってスミマセン)

投稿: アン | 2007年9月23日 (日) 13時22分

アンさん、初めまして。コメントありがとうございます。
はるばる九州から普門館へ往かれるのですね。すごいなぁ。
前半の部、淀工も勿論期待していますし、福岡の精華女子が「宇宙の音楽」を演りますよね。これも凄く愉しみなんです。
それではこれからもどうぞ宜しくお願いします。

投稿: 雅哉 | 2007年9月23日 (日) 19時55分

2009.9.10たそがれコンサートに初参加。
大阪育ちなのに、知らなかった・・・。
my拙hpに、この記事を紹介させてもらっても良いですか?

投稿: えむうめ | 2009年9月13日 (日) 09時42分

えむうめさん、コメントありがとうございます。

リンクはご自由にお張り下さい。これからもどうぞ宜しく。

投稿: 雅哉 | 2009年9月13日 (日) 10時04分

初めまして・・2010年9/3、そう昨夜です。西成たそがれコンサートに行って参りました。
昨年偶然、こちらのブログやテレビで淀工のコンサートのことを知り・・・
『近くやん、淀工も子供の頃に住んでた地域にあったわ』とか思出だすと、絶対今年は行くで!とリキを入れておりました。
感動感動。感激~生演奏は素晴らしい。支援者・地域協力者・ボランティアも素晴らしい。
ほとんどの方は静かに感動しながら聴いたり子供さんは踊ったりしてましたが、
ひとりのオッサンの私語のうるさかったこと・・
途中休憩の後、寝てくれたんで後半は一層感動にひたれましたが、どうせなら、もうちょっと早よ寝てくれたらもっと良かったのに~
来年も感動と感激に浸りに行きたいです。

投稿: ふじちゃん | 2010年9月 4日 (土) 20時43分

コメントありがとうございます。拙ブログがお役に立ったようで、とても嬉しいです。これからもどうぞ宜しく。

投稿: 雅哉 | 2010年9月 4日 (土) 21時58分

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