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たまにはお昼にクラシック、そして大作曲家の知られざる素顔

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大阪市中央公会堂で行われた大阪フィルハーモニー交響楽団の「たまにはお昼にクラシック」に往ってきた。指揮とお話をされたのは船橋洋介さんである。コンサートマスターは梅沢和人さん。今回はオール・チャイコフスキー・プログラムであった。全席自由で入場料2,500円ということもあってか、大変盛況だった。

まず演奏されたのは弦楽セレナード、そして「くるみ割り人形」と続いた。アンコールは歌劇「エフゲニー・オネーギン」からポロネーズ。

チャイコフスキーの弦楽セレナードは先日いずみホールで行われた大フィルの「華麗なる弦楽の響き」でも聴いた(821席のいずみホールが半分も埋まっていなかった)。その時の解説文に、この曲は「モーツァルトに対する尊敬、彼の様式に対する意識的模倣である」と作曲者自身が語っていると書かれており、心底驚いた。この憂鬱な曲調がどうしてもモーツァルトに結びつかなかったのである。しかしそのつもりで聴いてみると、成る程とうなずける符丁を発見した。

曲はイ短調の序奏から始まる。人材派遣会社のCMでもおなじみの旋律だ。これを注意深く聴くと、実はドシラソファミレドと下行音階が基調となっていることが分かる。

僕がフルートのレッスンを受けた先生が、ある日こんなことを仰っていた。

「モーツァルトの音楽を特徴づけているのは、曲中に音階が何度も登場することなんだ」

例えば「フィガロの結婚」序曲。これは音階が上昇したり下降したりすることで曲が構成されている。

チャイコフスキーの弦楽セレナードに戻ると、例えば3楽章「エレジー=悲歌」。今度は上昇する音階が冒頭に登場する。4楽章のテーマはファミレドという音列が繰り返される。こういったところに、チャイコフスキーは密かにモーツァルトへのあこがれを忍ばせていたのである。

弦楽セレナードはチャイコフスキー40歳の作品。その数年前に彼は結婚し、その結婚生活はわずか3ヶ月で破綻。投身自殺を図る。だから曲を聴けば、彼がうつ状態の時に書かれたものだというのが分かる。逆に「くるみ割り人形」や「エフゲニー・オネーギン」の曲調は明るい。

チャイコフスキーは生涯12回のうつ病期を経験した。そしてそれは彼が同性愛者であったことと無関係ではあるまい。当時のロシアでは同性愛は許されないことであった。だから偽装結婚に踏み切ったのである。そのことを知っていれば何故、結婚が短期で破局したのか、そしてどうして自殺まで図らなければならなかったのかが理解できるだろう。彼の死についてもコレラが原因であることが疑問視され、砒素で自殺を強要されたという説さえある(現在この陰謀説に対しては否定的見解が主流らしいのだが)。

先日大阪クラシックで交響曲第六番「悲愴」を聴きながら、これはチャイコフスキーの遺書なのではなかろうかと僕には感じられた。彼は自ら「悲愴」初演の指揮をしたわずか9日後にコレラで亡くなっている。余りにも出来過ぎた話だ。陰謀説の真偽はともかく、やはり自殺だったのではなかろうか?そのように想えて仕方がない。

チャイコフスキー研究者の間では彼が同性愛者だったことはほぼ異論のない定説なのだが、その事実は滅多に言及されることはなく、プログラムの曲目解説にも書かれていない。今回のコンサートでも触れられなかった。いまだにタブー視されているのである。これと似たような事例が他にもある。

「モルダウ」で有名な交響詩「わが祖国」を作曲したスメタナはチェコの英雄的存在である。晩年のスメタナが聾唖になり、最後は正気を失って精神病院に入ったことは比較的知られている。しかし、その原因が梅毒であったことは余り語られない(梅毒第4期の典型的症状である)。

音詩「春初めてのカッコウを聞いて」や狂詩曲「ブリッグの定期市」を作曲したディーリアスは僕の大好きな作曲家だ。彼は晩年に全身麻痺となり失明するのだが、その原因がやはり梅毒だったという事実を初めて知ったのはケン・ラッセル監督の映画「夏の歌」だった。

これらの事実に一切触れず、大作曲家たちを神聖視することに果たして本当に意味があるのだろうか?僕はこれらのことを知った後にも、彼らに対する畏敬の念は些かも減じはしないし、むしろその人間的側面を知ることでより作品に対する理解を深めることが出来ると考えるのだが……。

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