今、飛躍の時。〜児玉 宏/大阪シンフォニカー交響楽団 定期
クラシック音楽に長年親しんできて、気がついた法則がある。
それはブルックナー指揮者はマーラーが苦手で、またその逆も真なりということである。
ブルックナーを得意とした指揮者、フルトベングラー・クナッパーツブッシュ・シューリヒト・ベーム・ヨッフム・チェリビダッケ・ヴァント・朝比奈らはマーラーのレコーディングを余り残していない。またマーラーを心底愛した、ワルター・クレンペラー・バルビローリ・バーンスタイン・シノーポリらもブルックナーには無関心であった(現役ではラトルも)。ブルックナーとマーラーの交響曲全集を両方レコーディングした指揮者はショルティとハイティンク、そしてインバルくらいだろう。これは極めてまれなケースだ。
マーラーは誇大妄想の癖があり、また躁鬱を繰り返しながらその感情のゆれを原動力に作曲した。いわば主観的音楽である。ここでアーノンクールの名言を引用しよう。
マーラーの場合は、どうも「自分だけのこと」を語ろうとしているように思えてならない。「僕は、僕は、僕は……!」とね。
一方、ブルックナーは人間的情感を排した客観的音楽である。聖フローリアン教会のオルガン奏者でもあった彼は神に奉仕する為に作曲した(教会のパイプオルガンの下に彼は今でも埋葬されている)。ブルックナーの交響曲の特徴である全休止(ゼネラル・パウゼ)は、教会の残響効果を計算したものであった。
大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽監督である大植英次さんは師のバーンスタイン同様にマーラーを得意とし、熱い演奏を繰り広げる。しかしことブルックナーに関しては、朝比奈のオーケストラであった大フィルが十八番とするので大植さんも定期で取り上げてはいるが、どうも苦手のように見受けられる。
昨年、大植さんのブルックナー/交響曲第七番を聴いた直後に、大阪シンフォニカー交響楽団定期演奏会の招待券を職場の上司から戴いた。
「え〜、またブルックナーの七番かぁ。それに指揮者の児玉 宏って誰?クイズ番組『アタック25』の司会者?あ、あれは児玉 清か」と全く乗り気では無かった。しかしまあタダだし、感想を報告しないと悪いからとしぶしぶザ・シンフォニーホールに足を運んだ。
聴いて腰を抜かした。す、すごい!天の高みへとひたすら昇っていく崇高なるブルックナー。鳥肌が立った。朝比奈・ヴァント亡き後、スクロヴァチェフスキーに勝るとも劣らない天才的ブルックナー指揮者がここにいた。
児玉 宏さんはミュンヘン在住でドイツで四半世紀以上活躍されている指揮者だそうである。コンサート指揮者としての日本デビューは2004年。だから日本では殆ど知られていない。大植さんが大フィルの音楽監督に決まったとき「大植英次って誰、それ?」と多くの人が疑問を抱いたのと同じ状況である。
その児玉 宏さんが今月シンフォニカーの定期でブルックナー/交響曲第五番を取り上げるということで、今回は自腹を切って喜び勇んで駆けつけた。
まず演奏されたのはラインベルガー/オルガン協奏曲第一番である。全く聞いたことのない作曲家であるが、解説を読むと19世紀ドイツで活躍した教会のオルガン奏者だそうである。成る程、ブルックナーと似た経歴だ。まあ曲そのものは、知られてないのは致し方ないという印象だったが、ラインベルガーからブルックナーへというプログラム構成の巧みさには感心した。そこには物語が感じられた。
ブルックナーの五番は素晴らしいの一言。繊細な弦の弱音から強烈な金管の咆哮へ。ダイナミックスの変化が壮絶で、緊張感を保ちながらも音楽は豊かに、悠久の時を流れてゆく。
ほぼ完璧な演奏だったのだが、ただ一言だけ苦言を呈するとするならばシンフォニカーの金管セクションにやや粗が目立ったことか。所々アインザッツ(音の出始めの瞬間)に乱れが見受けられた。翌日大フィルの定期を続けて聴いたのだが、金管の上手さに関しては現時点で大フィルに軍配が上がるかな。
まあ、それよりなにより狂喜乱舞したのは2008年4月より児玉 宏さんがシンフォニカーの音楽監督・首席指揮者に就任することが発表されたのだ。楽団事務局が楽員にアンケートで新しい指揮者の希望を尋ねたところ、一番多くの支持を集めたのが児玉さんだったらしい。
そして来年度の定期演奏会のラインアップが凄い!こちらをクリックして欲しい。なんと魅力的で変化に富んだ内容だろう。新音楽監督の意気込みがひしひしと伝わってくるではないか。さらに児玉さんの所信表明を読んで涙が出るくらい感動した。シンフォニカーに革命が起こる…そんな予感さえする。翌日、迷うことなく僕は来年度のシンフォニカー定期会員を申し込んだ。
最後に、大阪シンフォニカー交響楽団ファゴット奏者の方のブログを紹介しておく。児玉語録が面白い。こちらからどうぞ。
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コメント
私もこの場にいました。久々にすごい感動しました。
朝比奈先生を思い出して、涙ぐみました。
こういう真摯な気持ちで音楽に向き合う指揮者が
創る音楽ほど人に感動を与えるものはありません。
そして多分、上記の写真をとっている雅哉さんを
お見かけしました。
ひょっとしたら?と思っていたんですけど。
来年のシンフォニカーのプログラムもすごいですね。
音楽監督がいかにこのオケを飛躍させいようかという意図も伝わってくるし。間違いなくこの3年でシンフォニカーは素晴らしいオケになるでしょうね。
投稿: ぐーたら | 2007年9月15日 (土) 14時05分
ぐーたらさん、コメントをありがとうございます。またご訪問頂いて嬉しいです。
来年のシンフォニカーのプログラム、新音楽監督の強い意思がそこに感じられて、驚異的ですよね。
是非児玉さんにはいつか「ブルックナー・チクルス」をして頂きたいです。大フィルの大植さんに同時期に「マーラー・チクルス」をやってもらって、競合するという企画も面白いかも。
投稿: 雅哉 | 2007年9月15日 (土) 17時14分