大阪センチュリー交響楽団のこれから
これは「在阪オケ問題を考える」(←未読の方はクリックしてお読み下さい)という記事の続きである。
公的援助が縮小され、企業からの支援も次々に打ち切りとなり崖っぷちに追い込まれた在阪の4つのオーケストラ。今後どういう姿であるべきなのか、地元に密着した文化的貢献とは具体的に何なのか?それについて大阪センチュリー交響楽団を例に私見を述べたいと想う。
センチュリーは大阪府文化振興財団が運営している。その予算のうち約4億5000万円を府の文化振興基金からの補助金で賄っている。つまりセンチュリーは大阪市ではなく大阪府全体に対して貢献しなければならない使命があるのである。
だったら、ザ・シンフォニーホールばかりで演奏会をしていたのでは駄目だ。京都特別演奏会とか東京特別演奏会もむしろ要らない。そんなことする暇があったら、大阪府内の様々なホール(例えば、枚方市民会館・八尾市文化会館・河内長野ラブリーホール・狭山市SAYAKAホール・岸和田市波切ホール など)でもっと演奏会をしたらどうだろう?各々少なくとも年1回は行うべきだろう。
そしてその際に、さらにオケ内でいくつかの小編成アンサンブル・チームを作り、手分けして地元の小中学校の体育館でミニ・コンサートを開くのである。これは、実際に札幌交響楽団が数年前から始めた手法である。
小中学校でのコンサートでは、予め希望者を募り、地元の人々も招待したら良いだろう。そうすれば、大植英次さんが御堂筋で始めた大阪クラシックに対抗しうる企画をもっと大きな規模で展開出来るだろう。これこそが府民に対する真の貢献である。
もうひとつ、一風変わった思いつきがある。
劇団四季は大阪や京都の専用劇場におけるミュージカル公演を、生演奏ではなく録音によるカラオケ上演で今まで行ってきた。現在、大阪四季劇場で上演中の「オペラ座の怪人」も勿論カラオケである。ところが、「オペラ座の怪人」を四季が東京で上演するときはオーケストラ・ピットにオケが入り生演奏をするのである。現在東京で上演中の「ライオンキング」や「ウィキッド」も当然生オケである。
大阪でミュージカル「アイーダ」が日本初演された時、僕は「そろそろ大阪でも生演奏を導入して欲しい。日本初演がカラオケ上演なんて恥ずかしいではないか」という旨のメールを劇団宛に送った。劇団からの返信内容をそのまま掲載する。
『アイーダ』大阪公演の演奏はテープで行います。
これは、ディズニーとの協議の上で決定したことであり、その理由としましては、大阪での長期公演においては、ディズニーの求めるオーケストラの水準を保つことが難しいことが挙げられ、高水準の録音テープでの上演がその水準をクリアするものであると認められているからです。
長期公演の演奏を高水準に保つためには、オーケストラ団員の確保、その住居の維持など様々な問題が発生します。地域によって、その問題の大小が大きく違ってまいりますために、地域差が生じることは避けられないものです。これらを鑑み、版権元との合議の上で、これまでのすべての公演も行われてきています。
つまり「大阪では東京レベルのミュージシャンの確保は難しい」という話だ。大阪の文化水準が侮辱されたのである。
まあ、これが現実に即していない話であることは大阪在住の音楽家なら誰でも分かることだろう。要するにコスト削減のための苦し紛れのエクスキューズに過ぎない。
だから関西に住むミュージカル・ファンは(東京まで往かない限り)ロイド=ウェバーの大傑作「オペラ座の怪人」を一度も生演奏で観劇したことがないという事態が、初演以来20年近くも続いている。これは文化的に非常に不幸なことではないだろうか?
そこでセンチュリーに提案したい。月に一回程度でもいいから、ボランティアで大阪四季劇場のオーケストラ・ピットに入り、生演奏で「オペラ座の怪人」を観劇することの醍醐味を市民に味わってもらうという企画はどうだろう?センチュリーの技量ならば東京の四季オーケストラよりもはるかに高水準の演奏を披露できるだろう。そして劇団四季に大阪の文化力を見せつけてやろうではないか。生演奏で大好きな「オペラ座の怪人」が観られるのならば、僕は何度でも劇場に足を運ぶだろう。
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コメント
はじめまして。「wicked」検索からこちらに来ました。
前半に書かれている大阪府全体に貢献や小中学校でのコンサートは、私も積極的にして行くべきだと思います。
小さな頃(大きくなってからでも!)から、演奏に触れる機会をつくることは子どもにとってはもちろん、オケにとっても大変良い事だと思います。
TVで、はやりのj-popも悪くはないのですがオケを聴く機会が増えるとそれも文化の発展になり、またオケの発展にもなっていくと思います。
これはもちろんオーケストラだけではなく、その他の芸術や伝統にもいえることだと思います。
後半の劇団四季の事は私は賛成できません。
四季の回答メールにほぼ納得します。
しかし、大阪の文化水準がすべて侮辱されたわけではないと思います。
センチュリーが生演奏をするという案ですがこれは難しいと思います。
なぜならセンチュリー(他のオケでも)の演奏者の多くはクラシックの練習、研究に多くの時間をかけそれを何年もして来ています。ポップス、スタジオミュージシャンも彼らの分野にこれまた同じように研鑽を積んでいます。
「餅は餅屋」というのでしょうか。
例えばパーカッションの人にスネアが叩けるから、能囃子の太鼓を叩いて下さい。というようなものだと思います。(例は極端ですが。。。)
やってできないことはないでしょうが、完成度はどうでしょう?
中には器用な人や、その分野の研究もしている人もいると思います。しかし全員とは考えにくいです。
そして、センチュリーに月一程度、ボランティアとして四季のピットに入ってもらうというのは横着だと思います。
月一、そしてボランティアというのは、センチュリーにも四季のオケにも失礼ではないでしょうか?
多くの演奏者はプライドや責任をもって自分の音楽に取り組んでいます。そうであればあるほど、その他の音楽に対して好き嫌いは別にして尊敬の気持ちを持っており、おいそれと「できるよ、簡単簡単。」とは言わないでしょう。
クラシックのオケにおいて関西が東京に劣っているとは全く思いません。
しかし、東京より大阪のほうが、ポップス、スタジオミュージシャンの数が圧倒的に少ないのは事実です。
大阪や京都の録音テープは大変残念だと思います。
音楽、芸術全体の底上げをしていくの為に、して行かなければならないことがたくさんあります。
そんな中、雅哉さんのような考えやアイデアを持っている方はすばらしいと思います。それらを取り上げ、検討してくれるような機関や場があれば、もっと発展して行くでしょうね。
勝手ですが自分の思う所を書かせて頂きました。
雅哉さんのブログで私も色々気付かされる所がありよい機会になりました。長々とすみません。
投稿: プリン | 2007年9月24日 (月) 14時16分
プリンさん、コメントありがとうございます。嬉しく拝読しました。
実は僕は、センチュリーの楽団員の方に「オペラ座の怪人」を生演奏してもらうというアイディアが暴論だということは百も承知です。
では何故このような事を書いたかというと、劇団四季が大阪で未だにカラオケ上演を続けている事に業を煮やし、何とか現状を改善してほしい、そういう気持ちの発露です。
ただ、大阪はスタジオミュージシャンが少ないからカラオケでも仕方がないというご意見には賛同しかねます。宝塚歌劇は宝塚でも東京でも生オーケストラですし、東宝ミュージカルも大阪公演は生オケなのですから。
投稿: 雅哉 | 2007年9月24日 (月) 23時00分
宝塚は専属の東宝オーケストラがあるからこそ出来る芸当であって、劇団四季で同じことをするのは財政的に困難ではないでしょうか?
投稿: オペラ座の怪人ファン | 2008年6月12日 (木) 08時16分
コメントありがとうございます。
まず誤解があるようなので、宝塚歌劇は専属オケを宝塚と東京に持っており、これは東宝オケとは別物です。
劇団四季で問題なのはダブル・スタンダードだからです。財政的に困難ならば全国一律で東京もカラオケにすべきです。なぜ東京の「ライオンキング」や「ウィキッド」は生演奏なのに大阪は常にカラオケなのか。おかしな話だと思いませんか?そして、そういった情報はちゃんとポスターやホームページに明記すべきです。
投稿: 雅哉 | 2008年6月12日 (木) 10時57分
今更ながらコメントさせていただきます。
私は劇団四季からの返答内容は至極妥当なものだと感じます。
東宝を引き合いにだされていますが、例えば今年東宝が上演しているミスサイゴンは、東京の帝国劇場においては13500円ですが、博多で上演する際は14500円に値上げされます。
これにはオケの都合も反映されています。
たしかに、値段をあげてでも、上質なものをという気持ちはわかります。
しかし、現実に日本ではまだそれほど観客自身のレベルが高くはありません。
ならば、できる限りコストを落として、よりたくさん方々に観劇してもらおうとする四季の姿勢は私は正しいと思います。
実際に、今年さらに値下げをする事を発表してますし。
ただ、私もいずれ日本でも金額よりも質という、また、有名であることより、実力があるということを重視するお客さんが増えることを期待しています。
投稿: | 2008年9月 8日 (月) 14時28分
コメントありがとうございます。ただ僕の主張は、プロのオーケストラが4つもある大阪ではカラオケから生演奏に切り替えて欲しいと書いているのであって、九州交響楽団しかない(プロの音楽家が少ない)博多とは話が違います。実際に東宝「エリザベート」は東京・帝劇も大阪・梅田芸術劇場も同額です。
劇団四季がファミレス方式で地方に専用劇場を増やし、ミュージカルの普及に貢献してきたという成果は僕も評価しています。しかしこれからは、貴方が書かれているように質の向上に向かうべき時期に来ているのではないかと想うのです。
投稿: 雅哉 | 2008年9月 8日 (月) 15時20分
ずいぶん時間がたってからのコメントでごめんなさい。
私も四季のダブルスタンダードに疑問を抱く一人です。
ただ、別のページで述べられている、「四季の生オケが必ずしもいいものとは限らない」というのにはオーケストラの良し悪しのわからない私にはそんなものなのかと思いました。
ライオンキングなどで、時々指揮者がピットからはえてきて舞台を遮るのもうっとうしいと言えばうっとうしいですし。
チケットの値下げも行なわれたことだし、となれば、四季にはマクドナルド戦略でいってもらったらいいのかなとも思います。
聞くに堪えない、見るに堪えない出来の舞台を提供しているわけでもなし、なるべく安く、たくさんの人に見てもらう。
それで日本中に観劇文化がもっと根付けば、それはそれでいいのかもしれません。
投稿: ぐりふぉん | 2009年2月 1日 (日) 23時53分
ぐりふぉんさん、コメントありがとうございます。
仰る通りです。四季の事業展開はファーストフードやファミレスの手法に似ています。それで全国に同じ質の演劇文化を広めた功績は確かに大きい。それは認めます。
ただ、納得いかないのは東京だけ生演奏ということです。どこでも同じものを提供するというのなら東京もカラオケにすべきでしょう。そこにこの問題の核心があります。
そしてその事実を情報開示していないことも問題です。ポスターや会報誌「ラ・アルプ」に、東京では生演奏だが地方都市ではテープで上演している旨、明記すべきでしょう。宝塚歌劇はかつて東京1000days劇場でテープ上演した時、そのことはちゃんとアナウンスしていました。
投稿: 雅哉 | 2009年2月 2日 (月) 01時00分
大阪での公演に生演奏を!とのご意見、私も大賛成です。同じ料金を払っているのに 東京だけ 生オケなんて…。すごく損した気分です。若いころ イギリスに住んでいたことがあり、私のミュージカル初体験はロンドンでした。日本では地方に生まれ育ったせいもあり ミュージカルとは無縁でしたが ロンドンで初めて オペラ座の怪人を観た時は その素晴らしさに衝撃をうけ 以来ミュージカルが大好きになり 何度も劇場に足を運ぶようになりました。学生だったので かなりお得なチケットが入手できたり、チケット自体が日本と比べて安いので 頻繁にミュージカルを楽しむことができました。劇場も由緒ある 重厚な建物が多いので まずその雰囲気に 酔ってしまいます。演奏はもちろん生です。鳥肌が立つくらい 興奮します。 あれほど 通いつめたミュージカルですが 日本に帰ってきてから 長い間 一度も ミュージカルを観たことがありませんでした。 何故か? ズバリ 金銭的な事、それと 日本でのミュージカルに期待が持てないから。地方に住んでいると 大阪、京都、名古屋に行くだけで 交通費がかかる、おまけにチケットは高い! 加えて演奏はテープを流すだけ! 生演奏じゃないなんて 信じられません!! おまけに 歌詞はメロディラインにのらない変な日本語…。というわけで 長い間 日本のミュージカルは敬遠してきましたが 先日 ついに ウィキッド大阪を観にいってきました。感想は…、まあそれなりに 良かったです。ただ ブロードウェイ版 ロンドン版を観ていないので…。
次回は オペラ座の怪人を名古屋に 美女と野獣を京都に見に行きます。オペラ座の怪人は ロンドンで何度も観た演目です。幻滅しない事を願うばかりです。せめて 東京へ行けば 生演奏でミュージカルを観れるようですが…。でも 同じ劇団四季の演目で 東京以外はテープなんて これには納得いきませんよね!? ならば 生オケを使っている分 チケットの金額に差をつけてもらいたいです。テープ演奏を聴かされて 高額な料金を払うなんて 馬鹿にしてます。 テープで本物の臨場感は味わえません。クラシックやオペラ バレエだってテープ演奏だったらがっかりしますよね? テープ演奏を続ける限り 私は 劇団四季を本物とは認めません。
投稿: | 2010年1月21日 (木) 21時25分