大阪市音楽団〜青春の吹奏楽 70`s ヒットパレード
飯森範親/大阪市音楽団(市音)によるいずみホールでのコンサートに往ってきた。70年代にしばしば演奏された名曲(つまり吹奏楽の懐メロ)を集大成したプログラムである。
実際に今回演奏されたものの内、「吹奏楽のための民話」は僕が中学生の時、吹奏楽部で演奏した(その頃は嫌々ながらチューバを吹かされていた)し、「シンフォニア・ノビリッシマ」は社会人になってから参加したアマチュア・バンドで演奏した(高校よりフルートに華麗なる転向)。ホルストの「吹奏楽のための第1組曲」はないが、「第2組曲」は吹いたことがある。
ちなみに「70`s ヒットパレード」と銘打ちながら、演奏されたJ.スェアリンジェン/「インヴィクタ序曲」は1981年に作曲された曲である。スェアリンジェンは80年代、中学生の間で一世を風靡した作曲家。彼が流行りはじめた頃、僕は既に高校生になっており演ったことはない。しかし「インヴィクタ」のリズムって、バーンズの「アルヴァマー序曲」(名曲中の名曲!!)そっくりなんだよね。A-B-Aの三部形式というところも似ている。「アルヴァマー」は高校一年生の時、吹奏楽コンクールで吹いた。僕にいわせれば「インヴィクタ」は所詮、アルヴァマーもどきに過ぎない。
コンサートに先立って、リハーサルの見学会があったのでそちらも参加した。ブログ「シェフ飯森の窓」によると、飯森さんが吹奏楽の指揮をするには実に15年ぶりだそうである。
例えばマクベス/「マスク」の中間部、静かなコラール風のところで指揮者と奏者の間で以下のようなやり取りがあった。
「ここは和音の変化を聴かせたいので、カンマ(息を吸うこと)なしでお願いします」
「ではチェンジブレス(長いフレーズが一息で吹けないとき、2人以上の奏者が息継ぎをする位置を変えて、つながって聴こえるようにすること)でもいいですか?」
成る程、これがプロの仕事場なんだとワクワクした。このような指示も飛んだ。
「ここのmpは、もっと落としてpにして下さい。そしてその後のクレッシェンドをさらに強調して下さい。では〜小節目からもう一度お願いします」
つまり飯森さんの指揮の特徴は音の強弱やテンポの緩急に変化をつけた、非常にメリハリのある解釈であり、躍動感があった。
僕は1970年代に朝比奈隆が大阪市音楽団と録音した「マスク」を持っている。飯森さんはメトロノーム換算で朝比奈よりもテンポが30くらい速いんじゃないかという驚異的な体感速度で振り、全く別の曲に聴こえた。颯爽とした飯森さんの解釈を知ってしまうと朝比奈のそれはいささか鈍重に聴こえる。
正直に告白しよう。このメリハリがあってこそ、今回初めてチャンス/「朝鮮民謡の主題による変奏曲」が名曲だと理解出来た。
コーディル/「吹奏楽のための民話」は、リハーサルで飯森さんが「室内楽的に、コンパクトにいきたいのです」と仰っていた。その通りの小気味好い演奏で、曲の新たな側面に光が当てられた印象を受けた(この曲だけ、指揮棒なしというスタイルだった)。
ホルストの第1組曲は2005年にフレデリック・フェネルによる新しい校訂譜が出版されたそうで、飯森さんはありとあらゆる楽譜を比較検討した結果、フェネル版を採択されたそうだ。指揮者の真摯なこだわりを感じた。
ネリベル/「交響的断章」はズシリと腹にくる低音が重厚で、マクベス同様に巨大な音のピラミッドを堪能した。飯森さんは現代音楽のエキスパートだから、こういう曲をさせるとさすがに上手い。
さらに圧倒的名演だったのが吹奏楽の金字塔、リード/「アルメニアン・ダンス パートI」である。僕は今まで、フレデリック・フェネル、丸谷明夫(淀工の丸ちゃん)、佐渡 裕、山下一史、秋山和慶、そしてアルフレッド・リード自作自演など、錚々たる指揮者の演奏を聴いてきたが、今宵の飯森/市音コンビが最高だった。特に5曲目のアルメニア舞曲「行け、行け」が文字通りイケイケ!で大興奮。史上最速の演奏だった。市音の奏者たちのスーパー・プレイがあってこそのこのテンポであろう。いずみホールに集った観客もみな熱狂した。
アンコールは定番のスーザ/「星条旗よ永遠なれ」。これも誰よりも速いテンポで快調に飛ばし、驚くべきことにフィナーレでは飯森さんが腕をグルグル廻して、さらに加速した。こんな「星条旗」は聴いたことがない!!リハーサルでもこんなことしてなかったのに……。呆気にとられる内に、前代未聞のセンセーショナルな演奏会は終了した。
最後に市音の方々にお願いしたい。飯森さんを、今度は定期演奏会の指揮者として招聘して欲しい。それから少なくとも「マスク」と「アルメニアン・ダンス」は、是非とも飯森さんの指揮で再録音しようよ!とにかく圧巻だったんだから。
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