天然コケッコー
評価:B+
大阪の凱旋門(!?)こと、スカイビル内にある梅田ガーデンシネマにて鑑賞。ガーデンシネマでは現在「天然コケッコー」特別エキシビジョンを開催中。撮影で実際に使った小道具を使って「天然コケッコー」の教室を再現。またヒロインを演じた夏帆が映画で着用した制服や、撮影に使用された小物なども展示されていた。
黒板にはスタッフ、キャストからの直筆のメッセージが貼られていた。
画面左上が山下監督、その右隣が夏帆からのメッセージ。映画の台詞、「イケメンさんじゃぁ」と書かれている。画面左下がその「イケメンさん」こと岡田将生、そして右下が脚本の渡辺あやからのもの。
渡辺あやは「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」といった優れた作品を世に送り出して来た名脚本家である。1996年に講談社漫画賞を受賞した、くらもちふさこ原作「天然コケッコー」は彼女の熱意で映画化にまで漕ぎ着けた。映画の舞台となるのは島根県浜田市。渡辺も現在、島根県在住だそうである。2002年に島根でくらもちふさこ原画展が開催された時、その帰り道に彼女は神社で「どうかこの作品が映画化されますように」と祈願したそうだ。その神社は映画でも祭りの場面に登場する。渡辺は原作に対する思い入れを自らくらもちふさこに直談判し、台詞は全てコミックから抜き出して一切手を加えず脚色した。さらに映画のメイキング・ディレクターまでこなしたという。
僕はこのエピソードに甚く感銘を受けた。そして大林宣彦監督の次の言葉を想い出した。
映画作りとは、命に限りのあるもの(人間)が、永遠の命を有するもの(映画)に、その想いを託すことである。
というわけで渡辺あやに敬意を示し、評価にプラスをおまけだ。
瑞々しい青春映画「リンダ リンダ リンダ」を撮った山下敦弘監督の演出は今回も冴えていた。冒頭の青い稲穂が画面いっぱいに映された瞬間から、「天然コケッコー」の世界に魅了された。のんびりした田舎の風景が四季を通じて丁寧に撮られた贅沢な作品である。
話は他愛もないものだ。小中学校合わせて6人しかいない学校に東京からイケメンの転校生がやってくる。そして主人公の右田そよは次第にその男の子が好きになる…ただそれだけ。でも、その何気ない日常が実は最も愛しい時間なのであるというテーマが、見事に浮かび上がってくる。
僕が特に気に入ったのは映画の終盤、高校に合格したヒロインがそっと学校の教室に別れを告げる場面である。彼女が教室を立ち去った後、カメラがゆっくりと教室を移動する。開け放たれた窓から木洩れ日がやさしく差し込み、カーテンがそよ風で揺れている。そしてハラハラと桜の花びらが舞い込んでくる。ゆったりとした時が流れ、何時までもその情景を見ていたいという衝動に駆られる名演出だ。
中学生の女の子が石見弁で自分の事を「わし」と言うのが実に新鮮だった。また、「行って帰ります」という言い回しがすごく気に入った。
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