ボッセ/紀尾井シンフォニエッタのベートーヴェン
いずみホール主催「日本を代表する室内オーケストラで聴くベートーヴェン交響曲全曲演奏会」第2弾に往った。第1弾オーケストラ・リベラ・クラシカの感想はここに書いた。
紀尾井シンフォニエッタ東京は紀尾井ホールの専属オーケストラとして1995年に設立された、いってみればいずみシンフォニエッタ大阪(2000年設立)の兄貴分である。命名の仕方もそっくりだ。ただ、いずみシンフォニエッタは現代音楽の紹介に心血を注いでいるが、紀尾井シンフォニエッタの方はプログラミングにそういった特徴はない。
紀尾井シンフォニエッタ東京は名手揃いの室内オーケストラである。メンバーの中には、宮川彬良とアンサンブル・ベガに参加している奏者がふたりいる。ヴィオラの馬渕昌子さんとクラリネットの鈴木豊人さん(NHK教育テレビ「クインテット」の”フラットさん”)だ。また馬渕さんはいずみシンフォニエッタ大阪のメンバーでもある。
今回タクトを振るのはゲルハルト・ボッセ。ベートーヴェンに定評ある指揮者だ。さすがにこの組み合わせは注目を浴びたようで、チケットは完売していた。
まずベートーヴェンの交響曲第四番が演奏された。冒頭からその音圧に圧倒された。43名という小編成で、これだけ迫力ある音が出るのは凄い。
ボッセさんは1922年生まれだから今年85歳。ご高齢にもかかわらず立ったまま、颯爽とした早いテンポでかくしゃくたる指揮ぶりだった。アクセントを強調した、勢いのあるベートーヴェン。淡水画ではなく原色を大胆に塗った油絵のような解釈。僕はこれを聴きながら疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドラング)という言葉を想い出した。
続く交響曲第六番「田園」は趣を変えて、小川のせせらぎのように滑らかに流れ、そよ風が吹くように晴れやかで伸び伸びとした、歓びに満ちた音楽であった。
今回、特に注目したのはビブラートの使い方である。徹頭徹尾ビブラートをかけるロマン派風ベートーヴェンはもう古い。それは20世紀の負の遺物である。ここで指揮者ロジャー・ノリントンがNew York Timesに寄稿した論文(日本語訳)を紹介しておく。こちらからどうぞ。
ノリントン/シュトゥットガルト放送交響楽団、ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、そしてパーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団らはビブラートを徹底的に排したピリオド奏法でベートーヴェンを演奏し、高い評価を得ている(ドイツ・カンマーフィルはスチール弦を捨てガット弦を張り、以前のスタイルに回帰している)。これが時代の潮流なのだ。
ボッセ/紀尾井シンフォニエッタは彼らほど徹底したものではないが、ビブラートを極力抑えた演奏だった。音はすーっと減衰し、不自然に引き伸ばされることはない。心地よく耳に響く。しかし例えば四番の2楽章アダージョ(カンタービレ)や「田園」の5楽章など、歌うべきところはビブラートをたっぷりかけるという風にいわば適材適所、メリハリを利かせた奏法で、なるほどこういうやり方もありだなと納得出来た。
音楽を聴くことの愉しさを再認識させてくれた、マエストロ・ボッセにブラボーの花束を。末永くお元気で!
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