きみにしか聞こえない
評価:F
乙一は好きな作家だ。「このミステリーがすごい!」で1位に輝いた「GOTHリストカット事件」も面白かったし、今回映画の原作になっている短編「Calling You」の収録されている単行本「失はれる物語」は初版が手元にある。これを元に乙一自身が脚本を書いたドラマCD「きみにしか聞こえない」も持っている。
しかし、あの清冽で美しくも哀しい乙一の小説が、どうしてこんな出来損ないの韓国メロドラマみたいな救いようのない映画になり得るのかなぁ??映画館で頭を抱えた。映画が始まって1時間くらいで席を立とうか真剣に悩んだ程である。いままで何千本という映画を観てきたが、こんな体験は初めてである。しかし、最後まで観ずに本作を批判したら、まるで石原慎太郎の特攻隊映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」を観もしないで誹謗中傷した井筒和幸(反日映画「パッチギ!」の監督)と変わらないではないか?と思い留まり、身悶えしながら拷問のような残り時間を耐えた。
乙一の小説の主人公の多くはひきこもりである。生き方が不器用で他者とのコミュニケーションが上手くとれず、自分だけの世界に閉じこもる。そしてここが一番重要なところだが、作者は基本的にそういう生き方を肯定している。
「きみにしか聞こえない」の一番駄目なところは、そういう乙一らしさの片鱗もうかがえないことである。頭の中の携帯電話で見知らぬ人と交信できるようになった主人公の女子高生がそれを契機に心を開き、彼女を苛めたり無視していたクラスメイトたちとの関係も改善されていく。過去のトラウマで触れることも出来なくなっていたピアノも弾けるようになる。……こんなお話は乙一じゃない。
無論、映画は原作に忠実でないといけないと言っているのではない。原作より面白い映画なんてこの世にはいくらでもある。しかし、「きみにしか聞こえない」の場合は改悪でしかない。だから許し難いのだ。
ヒロインを演じた成海璃子(なるみりこ)は演技が拙い。そして最悪なのはその声!
若い頃の森田健作を思わせる小出恵介の押し付けがましい笑顔も実に不愉快だった。善意の押し売りは勘弁してくれ。
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