「殯の森(もがりのもり)」と日本人の死生観
評価:D
「殯の森」はカンヌ国際映画祭でグランプリを獲った映画である。ここで誤解のないように書いておくが、カンヌの場合グランプリ=最高賞ではない。それに相当するのはパルム・ドール。つまりグランプリは二等賞、ベルリン国際映画祭の銀熊賞やベネチア国際映画祭の銀獅子賞に相当する。
河瀬直美 監督はフランスからの帰国報告会見で次のように述べた。「黒澤明、大島渚の次の世代が私だと確信している。将来、私がパルム・ドールを受賞する可能性は十分ある」
なんと思い上がった、品性下劣な発言だろう!心の中ではそう思っていても普通、口には出さないものである。そしてここに彼女の無教養ぶりが露呈している。
上の発言はかつてカンヌで黒澤明が「影武者」でパルム・ドールを、大島渚が「愛の亡霊」で監督賞を受賞したことを踏まえてのものであろう。でも河瀬さん、貴女が思い浮かぶ日本を代表する映画監督ってその2人くらいなの?例えば「楢山節考」と「うなぎ」で2度パルム・ドールに輝いた今村昌平 監督は無視ですか?あ、ひょっとすると今村映画を一度も観たことがないとか?そうか、それなら納得いく。
「殯の森」は普通につまらない映画である。気取ってつけられたタイトルの難しい漢字だけに独創性がある。一体、何人の日本人がこの字を読めるだろう。
物語は死に場所を求めて山に入る老人の話である。それだけだ。はっきり言うが、たかが38歳の小娘の語る死生観など聞きたくもないわ。
カンヌでこの作品が受けたのは、まず奈良の自然を捉えた中野英世による撮影が真に美しかったことと、日本人特有の死生観がヨーロッパ人に新鮮に映ったことがあるのではなかろうか?
一神教ではない日本人は山を神が宿る場所として奉ってきたという歴史がある。恐山、高野山、比叡山は日本三大霊場と呼ばれている。だから死ぬとき人は山に還るという観念が自然に生まれた。墓地が山にあるというのは普通の風景だし、「楢山節考」で描かれたようにかつては姥捨て山という風習もあった。
一方、欧米の墓は街中にあることが多い。彼らの山に対する観念は、例えばディズニーの「ファンタジア」に登場するムソルグスキー作曲「禿山の一夜」でも分かるように、悪魔の棲む所というイメージなのではなかろうか。バットマン(クリスチャン・ベール)がラーズ・アル・グール(渡辺 謙)率いる”影の軍団”から修行を受けるのもチベットの山奥だし。
ちなみに日本では水子を供養する賽の河原の場合、川や海であるというのも興味深い。賽の河原=三途川の観念は仏教と共に渡来したものだそうだ。死者の国が海や川の先にあるという観念は西洋にもある。ベックリン(スイス)の「死の島」という有名な絵もそうだし、フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」では黄泉の国トゥオネラ川には白鳥が漂っており、それを射止めようとして失敗したレンミンカイネンは殺されてしまう。仏教がシルクロードを通して伝播したように、案外根っこの部分では繋がっているのかも知れない。
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