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エリザベートの想い出

20070515162945

先日、宝塚大劇場で「エリザベート」雪組公演を観て来た。その感想を書く前に、まず僕と「エリザベート」そして宝塚との出会いからお話してみたいと想う。

宝塚歌劇を観る男は少ない。大劇場の客席を見渡しても、観客の軽く9割以上は女性である。男子トイレもいつも閑散としている。

ご多分に漏れず、僕も昔は宝塚というのはおんなこどもが観るもとと馬鹿にしていた。正直に告白するが男役が好きな女性たちは、おおかた同性愛的嗜好があるのだろうという偏見もあった。

インターネットを始めた頃は既にミュージカルは大好きだったので、関連したサイトはちょくちょく覘いていた。すると、どうも宝塚エリザベートは凄いらしいという噂が耳に入ってきた。ミュージカル好きの女性4人の座談会(茶話会?)が掲載されていて、彼女たちは普段は宝塚を観ないのだが、エリザベートにはいたく感動したということが熱く語られていたのだ。どうもウイーンから輸入されたミュージカルらしく、ご当地でも大人気だということも分かった。

それなら是非観てみたい。しかし宝塚に足を運ぶにはまだ抵抗がある。どうしよう……。そうこうするうちに宝塚エリザベートのビデオが販売されていることを知った。しかし雪組版と星組版がある。どちらがいいのだろう?その頃ミュージカル系のメーリングリスト(ML)に参加していたので、宝塚をよく観劇している方にメールで問い合わせてみた。すると歌唱力など総合的に判断すると初演の雪組版がお勧めとの返事を頂いた。

ビデオが届き、わくわくして観た。そして打ちのめされたなんて素晴らしいんだ!音楽も優れているし、話も工夫されていて面白い。死神が人間に恋をするなんて洒落ているじゃないか。なにより宝塚の生徒たち(宝塚では役者のことをこう呼ぶ)の実力の高さに感銘を受けた。ダンス、歌、いずれをとっても劇団四季や東宝ミュージカルに引けをとらない。端役に到るまで出演者全員がそんじょそこらじゃ見かけない美人揃いというのもさすがだなと想った。特に印象に残ったのが狂言回しの役どころである暗殺者ルキーニを演じた轟 悠(とどろき ゆう)さんである。ギリシャ彫刻を思わせる彫の深い顔の造詣、狂気を秘めたその眼差し。そして有無を言わせぬ圧倒的歌唱力。結局僕はその後、轟さんを含めると宝塚で7人(含むガラ・コンサート)、さらに男が演じた3人のルキーニを観たが、いまだに轟さんを超えるルキーニに出会っていない。

結局、すぐさま星組版も買い求めた。麻路さきさんのトート(死神)は確かに評判どうり歌に相当難があったが、長い指先の動きが美しく耽美系で、雪組の一路真輝さんの端正なトートとは一味違った魅力があった。

そしてこれは大劇場で生で観ねばと決意して宝塚デビューしたのが宙(そら)組エリザベートである。やっぱり舞台はライブにかぎる。特に大階段が登場する華やかなフィナーレには目が眩んだ。こうして僕の宝塚通いの日々は始まったのである。1998年のことだった。

宙組は当時まだ出来たてのほやほやで、端からエリザベート公演を念頭に編制されたと噂されただけのことはある充実ぶりであった。トートを演じた姿月あさとさんは、天海祐希さんに匹敵するくらいの人気と観客動員力があったのでチケット争奪戦は激烈を極めた。

そしてエリザベートを演じた花總まりさん(馴れ馴れしいが以下「花ちゃん」と呼ばせてもらう)。花ちゃんは退団まで13年間、娘役トップとして君臨した。これは1914年の宝塚歌劇団創設以来、前人未踏の大記録である。八頭身とも表される抜群のプロポーション、軽やかなダンス力。そしてあふれ出る気品、「宝塚の女帝」とも呼びたくなるような威厳、その圧倒的存在感。彼女以上の大型娘役は今後永遠に現れないだろう。彼女は初演の雪組と宙組で2回エリザベートを演じた。これも宝塚としては異例の抜擢である。

花ちゃんのエリザベートが後に演じた他の娘役たちを一切寄せ付けないその最大の魅力は豪華絢爛な衣装である。どうも彼女は歌劇団が用意したドレスではなく、自費を投じて新調したものを着ていた節がある。シルクをふんだんに使ったその質感は、てらてらと安っぽく光る他の娘役のそれとは明らかに違う。まさにそこにハプスブルク家最後の王妃がいたのである!

エリザベートに魅了され、心底惚れ込んだ僕はその後も花組、月組と再演があるたびに宝塚に足を運んだ。版権を一次的に委譲された東宝での上演も初演・再演を東京や名古屋で観た。東宝版の演出も宝塚版を手がけた鬼才・小池修一郎さんだが、全くコンセプトの異なるものであった。清く正しく美しくを謳い文句に愛」夢」を売る宝塚での上演に際し、小池さんはかなり大胆なカットや潤色をしている。ウィーン版にはない新曲「愛と死のロンド」が追加されたのもそのためである。結局東宝版でも「愛と死のロンド」は残されたが、その他についてはオリジナル通りの台本に戻り、宝塚版では曖昧にされていた性的表現も大胆に取り入れられた。こちらはこちらで刺激的でエキサイティングな舞台であった。

宝塚雪組の初演時にトートを演じた一路真輝さんは東宝版ではエリザベート(シシィ)を演じた。僕は一路さんのシシィは全く評価しない。この役が要求する音域に一路さんは全く合っていない。そして皇后としての品格も花ちゃんの方がはるかに上である。

東宝版で出色だったのはなんと言ってもトートを演じた山口祐一郎さんである。特にこのステージはオレのものとばかりに朗々とあの美声で歌った「最後のダンス」なんかは痺れたなぁ。陶酔状態の聴衆はやまゆうさんが歌い終わるやいなや熱狂的な歓声を上げる。正にショーストッパーとはこの人のことを指すんだなとひとり納得したものだ。

そして2007年の今年、遂にウィーンからキャスト・オケ・舞台装置がそのままやって来て「エリザベート」引っ越し公演が梅田芸術劇場で実現した(東京では装置なしのコンサート形式になったと聞く)。日本版の小池演出は具体的で実にわかりやすい。一言で言えばエンターテイメント性の高いものであるのに対して、ウィーン版は前衛的である。舞台全体が遊園地に見立てられていて、大観覧車やゴーカートなどに出演者が乗って物語が展開していく。出演者が駒になって巨大なチェス版の上を動く場面もある(ヨーロッパの公園にチェス盤が予め設置されていることは珍しくないようである)。日本の演出とは全く異なるのでそれなりに目を楽しませてくれるが、何度も観たいとは想わなかった。やっぱり僕は小池演出、特に宝塚版の方が好きだなぁ。

その宝塚版だが、5組を一巡したので今年は振り出しに戻って雪組公演が行われている(宝塚大劇場は本日で終了。東京公演は7月6日より)。

中国公演で「楊貴妃の再来」とまで絶賛された檀れいさん退団後、現在の娘役で最強の美貌を誇るのは白羽ゆりさんだろう。その白羽さんが今回エリザベートという難役に挑んだ。もう感想は文句なし!とにかく見目麗しいし、歌も安心して聴ける。今回のシシィは自己主張が強く猛々しい。普段はおっとりした白羽さんがこのような役作りをしてきたことに驚かされた。特に第2幕で、重いドレスを着ているのにスタスタと凄まじいスピードで舞台を横切って入ったのには意表を突かれた。しかし、考えてみたらそれもシシィらしい。僕はハナちゃんに匹敵する出来だと想った。

雪組の新トップ、水 夏希さんは爬虫類系のトートだった。トカゲというか蛇というか体温を感じさせない役作りで、シシィににゅるにゅると絡み付いてくる。「男役の格好良さ」は感じられないけれど、これはこれでユニークで実に面白い。

今回特に目を惹いたのは皇太子ルドルフを演じた凰稀 かなめさんだ。何と言っても立ち姿が美しい。まるで絵の中から飛び出してきたみたいな貴公子ぶりである。宙組エリザベートのルドルフでセンセーショナルな話題を振りまき、一躍大スターとなった朝海ひかるさんのことを想い出した。

さて、大人気のエリザベート、お次は東宝の再演がそろそろ来るのではなかろうか?その時は是非とも、花ちゃんのエリザベート復活でお願いしたいものだ。

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