映画と旅
想えば今まで僕が旅してきたところの多くは映画と結びついた場所だった。
中学生の時「サウンド・オブ・ミュージック」を観て、どうしても映画がロケされたオーストリアのザルツブルクに往ってみたくなった。それが実現したのは10年後の大学卒業旅行だった。
ウィーンの共同墓地では「第三の男」のラストシーンを思い浮かべながら並木道を歩いた(このとき映画に登場するプラター遊園地の大観覧車に乗る時間がなかったことは今でも心残りだ)。
そのヨーロッパ旅行ではついでにローマを訪れ、オードリー・ヘップバーンの真似をしてアイスクリームを食べながらスペイン広場の階段を下りてみたり、「真実の口」に手を突っ込んだりもした。
ニューカレドニアでのバカンスはウベア島で過ごした。もちろん大林宣彦監督の「天国に一番近い島」の影響である。その時ホテル滞在客の9割は日本人だった。
国内に目を向けるとやはり旅に一番結びついているのは大林映画だ。「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の広島県尾道市は無論のこと、「廃市」の舞台となった福岡県柳川市。「なごり雪」の大分県臼杵市を訪ねたのは11月の竹宵の日で、それはそれは幻想的で美しかった。
でもやっぱり大林映画といえば我が最愛の映画「はるか、ノスタルジイ」の北海道小樽市にとどめを刺す。もう3度くらいは小樽を訪ねたが、映画で重要な役割を果たす”はるかの丘”詣でを欠かしたことは一度もない。
宮崎 駿さんのアニメーションも僕にとっては旅と結びついている。「もののけ姫」を観て、「シシ神の森」の原風景となった鹿児島県屋久島を旅した時の顛末は大昔のエッセイに書いた(HP「はるか、キネマ」に掲載)ので、ここでは繰り返さない。屋久島同様、宮崎さんがロケハンをした東北地方の白神山地も後に訪ねた(屋久島も白神山地も今では世界遺産に登録されている)。
「天空の城ラピュタ」を初めて観たのは映画公開当時だから1986年。もう20年も経ってしまった。ラピュタを観た直後くらいから、僕は無性に尾瀬湿原に旅したくなった。別に映画に尾瀬が出てくるわけではない。でも何故だか僕にとってはラピュタに広がる草原の原風景は尾瀬湿原であるように想えて仕方なかったのだ。僕は自分の心の赴くままに尾瀬へと旅立った。
後に「魔女の宅急便」製作中の宮崎さんの仕事机の前に尾瀬のポスターが貼ってあったという記事を読んで、あながち僕の直感も見当違いではなかったんだなという確信を抱いた。
黄色いニッコウキスゲが咲き乱れ、短い夏を謳歌する尾瀬で湿原に張りめぐらされた木道を歩いているとこんな情景に出会った。小学生くらいの女の子がお母さんと手を繋いで歩いてくる。女の子は〜あるこう あるこう わたしは元気 歩くの大好き どんどん行こう〜と「となりのトトロ」の歌を口ずさんでいた。すると木道を反対側から歩いてきた中年の女性が、突如女の子に和して一緒にその続きを歌いはじめたのである!なんとも麗しく、感動的な瞬間であった。
〜カントリー・ロード この道 ずっとゆけば あの街に 続いている 気がする カントリー・ロード〜これは「耳をすませば」のために宮崎 駿さんが書いた歌詞だが、僕が尾瀬の木道を歩いていて歌いたくなるのはこの曲である。
先日、新作映画「崖の上のポニョ」の製作準備をしている宮崎さんを追ったNHKのドキュメンタリー番組が放送された。宮崎さんは考想を練るために瀬戸内海の旅館に籠もるのだが、その映像を観た瞬間僕は「あっ、鞆の浦だ!」と想わず叫んだ。広島県福山市鞆の浦には僕が大学生の時に、大林監督の映画「おかしなふたり」のロケ見学で訪れたことがあったのである。大林さんの「野ゆき山ゆき海べゆき」もここが舞台になっている。調べてみると確かに宮崎さんが新作の霊感を得たのが鞆の浦だったことが判明した。宮崎さんが大林さんと一緒に鞆の浦の町並みを保存しようと運動しているという事実も知った。その記事はこちら。
東京都三鷹市のジブリ美術館を訪れた時の体験も触れたいのだが、それはまた別の話。
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