コンフィダント・絆
シアターBRAVA!で、三谷幸喜の新作「コンフィダント・絆」大阪公演を観劇。
僕にとっての三谷作品(舞台)ベスト5は 1. 笑の大学(映画版は駄作) 2. 彦馬がゆく 3. オケピ! 4. 君となら 5. 十二人の優しい日本人 である。「コンフィダント」はこの一角に食い込む傑作であった。実に幸福な気持ちで劇場を去ることが出来た。「笑の大学」は英語に翻訳され、(「The Last Laugh」というタイトルで)来年ロンドンの劇場街ウエストエンドでの上演が決まっているが、是非この新作も世界に持っていくべきである。三谷さんは将来必ずやブロードウェイに進出し、トニー賞を受賞すべき人であると僕は信じて疑わない。
コメディとして観客をただ笑わせるだけではなく、最後は生きることの困難さ・哀しみをしみじみと感じさせる構成は「笑の大学」を彷彿とさせる。しかしその中に仄かな希望の光を差し込ませることを忘れないのは喜劇作家・三谷幸喜の独壇場である。
「十二人の優しい日本人」「彦馬がゆく」「オケピ!」あるいはテレビ作品「王様のレストラン」「合言葉は勇気」「新選組!」などでも明らかなように、今まで三谷さんが描いてきたものは”みんなで一丸となって何事かを成し遂げる”というチーム・プレイであった。しかし、「コンフィダント・絆」ではチームの崩壊・別離を描いているという点で三谷さんの新境地と言えるだろう。
あるアトリエに集うスーラ、ゴーギャン、ゴッホという誰もが知っている画家の中に(ゴーギャンに妻を寝取られた男)シュフネッケルという今では忘れ去られた人物を加えたところにこの作劇の妙味がある。アトリエの窓から望むエッフェル塔が建設中というのも、東京タワーが建設中の時代を背景とした映画「三丁目の夕日」に対抗しているようで可笑しい。
スーラを演じた中井貴一さんは成城大学在学中に名優・佐田啓二(「君の名は」「喜びも悲しみも幾年月」)の息子として、親の七光りでデビューした。デビュー当時の彼は誠実なことだけが取り柄の平凡な役者にしかみえなかった。しかし今や彼のことを「佐田啓二の息子」と呼ぶ人は誰もいない。本当にいい役者になった。真面目そうに見えて、実は嫉妬深くて色々と秘密もあるという屈折したキャラクターを中井さんは見事に演じ切っていた。
生活力がなくてまるで駄々っ子みたいなゴッホを演じた生瀬勝久さんも流石だったが、なんと言っても出色だったのは一見粗野でありながら、ゴッホの面倒をみずにはいられないゴーギャンを演じた寺脇康文さんだろう。彼の役作りは明らかに「炎の人ゴッホ」でゴーギャンを演じた、アンソニー・クインを意識したものだった(三谷さんは朝日新聞のコラムで「炎の人ゴッホ」について言及している)。お茶目で憎めないゴーギャンがそこにいた。
この舞台で紅一点のヒロインを演じた堀内敬子さんも素晴らしかった。僕が彼女を最初に観たのは劇団四季のミュージカル「夢から醒めた夢」のマコ役である。当時から歌が上手で可愛い娘だった。ロイド=ウェバーの「アスペクツ・オブ・ラブ」のジェニー役も可憐で素敵だった。四季を退団した後、ミュージカル「I LOVE YOU 愛の果ては?」に出演している彼女を観て、今度はコメディエンヌとしての意外な才能を発見した。僕は三谷さんが「有頂天ホテル」や「十二人の優しい日本人」と立て続けに彼女を起用したのも、「I LOVE YOU 愛の果ては?」を観劇されたことが契機だったのではなかろうかと推測している。今回の役は彼女を念頭に置いた三谷さんの明らかな当て書きで、堀内さんの軽やかでチャーミングな個性が最大限に生かされていた。ご丁寧に歌まで用意されていて彼女の美声もたっぷり堪能できた。毎日同じ役で舞台に立っているのに、堀内さんはここぞというところで何度でも涙を流すことが出来る。女優としての天賦の才能をもった人なんだなぁと感心した。
音楽を担当した荻野清子さんによるピアノの生演奏があったのも良かった。ミュージカルをカラオケで上演して平然としている劇団四季には、三谷さんの爪の垢でも煎じて呑んでもらいたいものだ。
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コメント
コメントさせて頂きます。
はじめまして。
自分もコンフィダントにはまりまして、
3回観ました。
30日に、4回目を観ます。
堀内さん素晴らしいですよね。
僕も大好きな女優さんです。
I LOVE YOU愛の果ては?また観たいです。
プロフィールを拝見しました。
フルートを吹かれているのですね。
自分も昔、ピアノやトランペットをやっていたので、
演奏は生演奏が好きです。
突然、失礼致しました。
投稿: higashi | 2007年5月27日 (日) 23時32分
higashiさんこんにちは。
このブログで初めてのコメントを頂きました。
ありがとうございました。
僕は三谷さんの舞台は大好きなのですが、リピーターになることは余りありません。最近の作品の殆どがDVD化されたり、WOWOWで放送されたりするので。ただ、東京サンシャインボーイズ時代とか、「君となら」など昔の作品を映像で観ることが出来ないのが残念です。そうそう、「オケピ!」初演キャスト版も一時パルコから発売されると発表になったのに、諸般の事情で取り消しになってしまったのにはがっくりきました。
投稿: 雅哉 | 2007年5月28日 (月) 09時02分
度々すみません!
実はそのオケピのDVDの件は私も問い合わせしました。
ホント残念でしたよね…
初演の方々の映像見てみたいです!
他の記事も読ませて頂きました。
ハッキリと書かれていることが多く、
私もいくつか同意見のものがありました!
またブログ拝見させて頂きますね。
投稿: higashi | 2007年5月28日 (月) 22時38分
「オケピ!」初演は東京公演と大阪公演と一回ずつ観ました。初演と再演では
コンダクター:真田広之→白井 晃
サックス:白井 晃→相島一之
ハープ:松たか子→天海祐希
トランペット:伊原剛志→寺脇康文
等々
の変更がありました。真田さんは映画「ラスト・サムライ」の撮影が入って、どうしても再演に出演できなくなってしまったんですよね。
三谷さんはあて書きする人なので、やっぱり初演のキャストの方がはまり役だと想います。白井さんは大好きな役者さんなのですが、小心者のコンダクターよりも斜に構えたサックス奏者の方が似合っていたなぁ。もし「オケピ!」を映画化するようなことでもあれば、なるべく初演キャストでお願いしたいです。
投稿: 雅哉 | 2007年5月29日 (火) 11時23分
こんばんは~ おじゃまします。
コンフィダント、良かったですね!
四季も一部生オケですが、やはりステージ数が多いので、
一団体がオーケストラを何個も抱えるのは難しいんじゃないでしょうかね。
投稿: ゆみ | 2007年6月 6日 (水) 01時52分
ゆみさん、コメントありがとうございます。
確かに四季の専用劇場全て(東京・大阪・京都・名古屋・福岡)に専属オーケストラを持つのは難しいでしょうね。でも増やす努力はしてもらいたいものです。せめて東京の次は大阪だけでも。実際、宝塚歌劇は東京と宝塚に二つの専属オーケストラを持っているのですから。東宝も東京や大阪、名古屋などの公演全てにオーケストラがついています。東宝や宝塚に出来て四季に出来ないはずはないですよね。
投稿: 雅哉 | 2007年6月 6日 (水) 09時50分