大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会 2026(思い出の「アナと雪の女王」「ライオンキング」)
3月15日(日)フェスティバルホールへ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部定期演奏会(最終公演)を聴く。指揮は監督の梅田隆司先生。
I部
・ミュージカル「アナと雪の女王」
・ミュージカル「ライオン・キング」
II部
・ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」より
・吹奏楽部21年間の歩み(郷間幹男 編曲「嵐メドレー」)
・甲子園応援コーナー〜リクエストコーナー
・卒業生を送る歌(ゆず「友 〜旅立ちの時〜」)
・Superfly「愛をこめて花束を」
・フィナーレ(「銀河鉄道999」「星に願いを」「Sing Sing Sing」)
今年の1月10日まで定演でミュージカル『キャッツ』をする予定だったが、梅田先生が姪っ子に訊ねると「それ知らない。『ライオンキング』ならよく知ってる」と反応があり、急遽演目を変更したそう。学校は今回の演目のために4台の3Dプリンターを購入した。それにより、『アナと雪の女王』のオラフ(雪だるま)や『ライオンキング』に登場するライオンのお面、キリン、プンバァ(イボイノシシ)などの造形が素晴らしく、ブロードウェイ版と比べても遜色ないと思った。またアナとエルサが着る、青と緑のドレスが洗練されたデザインでとても美しく、息を呑んだ。
『アナ雪』のナンバー〈雪だるまつくろう〉〈生まれてはじめて〉を久しぶりに聴きながら、いろいろなことが頭の中を走馬灯のように駆けめぐった。真っ先に目に浮かんだのがアニメの日本語吹替版を担当した神田沙也加だ。彼女が18歳で舞台デビューしたミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』(スティーヴン・ソンドハイム作詞・作曲)の赤ずきんちゃん役を僕は東京で観ており(可憐だった!)、最後に出演したミュージカル『マイ・フェア・レディ』大阪公演のチケットも持っていた。しかし大阪に来る前の札幌公演で彼女は宿泊していたホテルから飛び降り自殺してしまった。痛ましいことだ。愛着障害が原因と考えられ(共演していた前山剛久の言動はトリガーでしかなく、根はもっと深い)、幼少期に受けた心の傷(両親の不在)は大人になっても癒やされないのだということを思い知らされた。彼女が14歳の頃から大地真央のことを「ママ」と呼び慕っていたというエピソードが胸に刺さる。『アナと雪の女王3』は2027年に公開予定だが、アナの吹替は誰がするのだろう?考えただけでも胸がキュッとなる。
『アナ雪』が2014年3月に日本で公開された当時僕は劇場で3D上映を観たと記憶している。雪が立体的に降り落ちてくるのが印象的だった。あの頃は3Dがブームだったが、3D眼鏡が煩わしいからなのか現在は完全に下火になった。特にアニメの3D上映って皆無なのでは?
また映画が公開された年、紅白歌合戦で『アナ雪』コーナーがあり神田も出演したが〈ありのままで〉を歌ったのはMay J.であり、エルサ役の松たか子はこの曲を一度もTVの歌番組で披露していない。あくまで声優としての契約であり、どうやら生歌を披露するにはディズニーからの許可が必要らしい(それを一手に引き受けているのがMay J.というわけ)。
『アナ雪』は一応アンデルセンが原作ということになっているが、映画『ウィキッド ふたりの魔女』を観てむしろミュージカル『ウィキッド』を徹底的に研究し作劇しているのだな、ということにはたと気付いた。『ウィキッド』のエルファバとグリンダの友情=シスターフッドが、エルサとアナという文字通り姉妹の関係に置き換えられており(アンデルセン童話に姉妹は登場しない)、『ウィキッド』第一幕のクライマックスで歌われる"Defying Gravity"を基に『アナ雪』の名曲"Let It Go"〈ありのままで〉が生まれた。歌詞の内容は殆んど同じである。両者の繋がりの決定的証拠は舞台版『ウィキッド』のエルファバ初演キャストであるイディナ・メンゼルが『アナ雪』英語版でもエルサのアフレコを担当し、"Let It Go"〈ありのままで〉を歌っていること。因みにイディナ・メンゼルは伝説的傑作ミュージカル『レント』モーリーン役のオリジナル・キャストであり、映画『ウィキッド ふたりの魔女』でもエメラルド・シティの場面でグリンダ役だったクリスティン・チェノウェスと一緒にカメオ出演している。
というわけで梅田先生、いつか大阪桐蔭の定演でも『ウィキッド』を取り上げてください!
それからオラフの日本語吹替は元々ピエール瀧だったのだが、2019年に麻薬取締法違反容疑で逮捕された後はオラフの声を差し替えたものが配信・販売されている。よってピエール瀧バージョンは今や幻となってしまった。なおテレビ出演も出来なくなった彼はその後『全裸監督』『地面師たち』『新幹線大爆破』などNetflix専属俳優として大活躍している。こうしたキャンセル・カルチャーは本当に愚かなこと。ディズニーには猛省を促したい。
『ライオン・キング』演奏前に梅田先生が「先日劇団四季の公演を家族と観てきましたが、うちの方が優れているという自信があります」と仰った。その根拠の一つとして劇団四季はオーケストラが録音音源であり、大阪桐蔭は迫力のある生演奏であることを挙げておられた。
ここで少し補足説明をしておきたい。1998年12月20日(日曜日)『ライオンキング』東京公演初日、僕は四季劇場[春]の客席にいた。これがこけら落としだった。その時はブロードウェイと同様、全てが生演奏だった。
調べてみると劇団四季『ライオン・キング』が東京限定で生オーケストラ演奏を実施していたのは2011年までだっようだ。つまりその年の3月11日に東日本大震災があり公演を一時休止。再開にあたり節電への協力や公演維持の安定性を考慮する形で、現在のスタイル〈(管弦楽器は)カラオケ+客席左右のバルコニー等で演奏する生パーカッション〉へと移行したらしい。
現在劇団四季が東京公演で生オーケストラを起用しているのは『オペラ座の怪人』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のみ。ただしこれらの演目も東京以外の劇場では全てカラオケである。
過去に遡ってみよう。ミュージカル『キャッツ』1983年の東京初演(新宿・西口の特設テント劇場「キャッツ・シアター」)は生演奏だったが、85年に大阪(梅田「キャッツ・シアター」)へ移る際、以下のような理由で録音音源に切り替わったと言われている。
劇団四季を創設した演出家・浅利慶太は「生オーケストラだと、その日の指揮者や奏者のコンディションでテンポが微妙にズレる」「ダンサーは(ジャンプしたあと)空中で止まることができない。重力に従って必ず決まった時間に着地する。だから完璧に計算されたダンスを見せるためには、テンポが不変のテープ(当時)でなければならない」 という屁理屈を展開した。また劇団四季は最新の音響設備を導入しており、「生演奏よりも録音の方が、劇場内のどこにいてもクリアで迫力のある理想的なバランスで音楽を届けられる」とも主張した。もしこの言い分がまかり通るのであれば『白鳥の湖』『ジゼル』『ロメオとジュリエット(プロコフィエフ)』などすべてのバレエ演目は生演奏ではなく、録音音源に切り替えなければならないことになる……んなアホな!!
また1989年10月1日近鉄劇場(天王寺区上本町)で開幕した『オペラ座の怪人』大阪初演は生オーケストラによる演奏だったが、1995年MBS劇場(大阪市北区堂島)での再演はカラオケになった。
まぁ要するに真の目的は経費、特に人件費を削減したかったのだろうと僕は推測する。劇団の仕事だけで役者が食っていけるようにするということが一番重要で、浅利にミュージカルに対する愛はそもそもなかったのだ。
では何故東京だけ(一部劇場は)生オーケストラなのか?おそらくそれは演劇評論家などマスコミ対策なのだろうと僕は邪推する。「どうして生の舞台なのに音楽はカラオケなの?」と問い詰められたり、記事に書き立てられたら都合が悪いでしょ?再演とか地方公演なら口うるさいライターは来ない。
ただ劇団四季の名誉のために言い添えておくと、1999年11月14日に福岡シティ劇場(福岡県福岡市博多区)で幕を開けたミッシェル・ルグラン作曲のミュージカル『壁抜け男』は地方公演としては珍しく生演奏だった(僕は初日に観た)。実はこれ、たった3人の奏者でピアノ・木管楽器・パーカッションを演奏するという小編成なので、人件費がかからないから実現したのだろう。しかし後の全国ツアーでは従来のカラオケ上演になってしまったのだけれど……閑話休題。
大阪桐蔭定演の感想に戻ろう。全日本吹奏楽コンクールで銀賞に終わった自由曲『火の鳥』は精彩を欠いた(指揮者と曲目との相性の問題だろう)。
・ 史上初の快挙「オペラ座の怪人」全日本吹奏楽コンクールへ!〜梅田隆司/大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 (2024年はこの自由曲で全国大会金賞受賞)
〈リクエストコーナー〉で客席から要望があったのは『ハウルの動く城』から〈人生のメリーゴーランド(JAZZ Ver.)〉と〈カリスマックス(Snow Man)〉。〈カリスマックス〉ではサングラスをした9人の男子生徒が歌った。特に〈人生のメリーゴーランド(JAZZ Ver.)〉に痺れた!『ウエスト・サイド物語』やミシェル・ルグラン作曲の〈キャラバンの到着(映画『ロシュフォールの恋人たち』より)〉でも感じるのだが、梅田先生のタクトって『火の鳥』のような生真面目なクラシック音楽ではなく、こういったJAZZYな曲でその真価を最大限に発揮するんだよね。グルーヴがある。
そしてアンコール。大阪桐蔭の魅力爆発、真骨頂の『銀河鉄道999』を聴きながら、アニメでメーテルの声を当てた池田昌子に思いを馳せた。彼女は今年3月3日に亡くなった。享年87歳。原作者の松本零士はメーテルのモデルの一人としてジュリアン・デュヴィヴィエ監督のフランス映画『わが青春のマリアンヌ』のヒロインを挙げており、実はテレビ放映時にマリアンヌの吹替を担当したのが池田昌子だったのである。松本零士には『わが青春のアルカディア』という作品もあり、タイトルの類似は決して偶然ではない。『わが青春のマリアンヌ』はとっても素敵な映画なので機会があればぜひ観てみてください。
・ 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演/ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜宮沢賢治の深層心理にダイブする。 2017.02.21
で通常は『銀河鉄道999』の後に『星に願いを』で〆なのだが、曲が終わると梅田先生が「もうあと2分ある」と無茶ぶりで疾風怒濤の『Sing Sing Sing』に突入!えっ、えっ、えっ!!前代未聞のアンコールに大興奮。ノリノリで最高!!!場内が熱気で包まれたことは言うまでもない。いいものを聴かせてもらった。来年もまた来ます。
・ 第55回全日本吹奏楽コンクール高校の部を聴いて 前編 2007.10.25 (大阪桐蔭の演奏をこの日初めて聴いた)
・ 第57回全日本吹奏楽コンクール高校の部を聴いて 2009 《後編》 2009.10.31 (大阪桐蔭がこの年初めて全国大会金賞に輝く)





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