世界に羽ばたけ!〜新海誠監督「君の名は。」

評価:AAA

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ごめん、「シン・ゴジラ」。今年のベストワンは「君の名は。」で決まりだわ。公式サイトはこちら

僕は新海誠監督「秒速5センチメートル」が死ぬほど好きで、オールタイム・ベストでも第7位に挙げている。

それでも新海誠は所詮カルトであり、一部の熱狂的ファン(例えば僕)にしか支持されない【少数のための】アニメーション監督だと高をくくっていた。つい昨日まで。

ところが「君の名は。」を観て心底驚愕した。新海監督のjump upには眼を見張るものがある。軽く細田守を超えてしまった。はっきり言おう。本作のクオリティは「千と千尋の神隠し」のレベルに達している。つまり米アカデミー賞長編アニメーション部門を狙えるということ。東宝がこれから真剣に考えないといけないのは海外にどう売るか、つまり世界戦略だ。

想像を絶する体験だった。僕たちをこんな高みにまで連れて来てくれた新海監督に対して、心からありがとうと感謝したい。

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「君の名は。」の凄みは時間と空間の跳躍にある。平安時代に書かれた「とりかへばや物語」や日本神話(古事記)に登場するイザナミとイザナギの物語にまで繋がっている。そのスケールの大きさに頭がクラクラした。

処女作「ほしのこえ」から新海作品のテーマは距離感にある。遠くにいても心が繋がっている男女もいれば、物理的に近くでも、心は二十億光年離れている場合もある(秒速5センチメートル)。このテーマは「君の名は。」でも継承されている。

また電車鉄道)に対する執着(フェティシズム)も挙げなければならないだろう。新海作品には必ず電車が走る。例外はない。Z会のCM大成建設のCMもそう。「君の名は。」も執拗に電車が登場する。まるで山田太一か庵野秀明みたいに。電車は交差し、時に並走し、やがて離れる。それは人生を象徴している。

「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」「君の名は。」の共通項はNTTドコモ代々木ビルが繰り返し描写されること。

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「君の名は。」の主人公の自宅からは新宿御苑が一望出来る。僕は「言の葉の庭」のことを想い出し、ニヤッとした。

最後に。男女の入れ替わりが起こり、映画冒頭で三葉(みつは)が自分の胸を揉んだり、裸の上半身を鏡で見る場面は明らかに大林宣彦監督「転校生」へのオマージュである。またラストシーンはやはり大林映画「時をかける少女」のそれに密接に結びついてる。考えてみれば「秒速5センチメートル」踏切のラストシーンも「転校生」への愛が溢れていた。高校弓道部の場面は「時をかける少女」だし。Z会CMのフェリーもまた、尾道三部作・新三部作(「転校生」「さびしんぼう」「ふたり」「あした」など)を髣髴とさせる。是非大林監督に「君の名は。」の感想を訊いてみたいものである。

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後世に多大な影響を与えた映画〜イングマール・ベルイマン「仮面/ペルソナ」からミュージカル「エリザベート」へ

後世に多大な影響を与えた(追随者/信奉者を産んだ)映画がある。例えば1932年にアカデミー作品賞を受賞した映画から名付けられた「グランド・ホテル」形式は後の「ポセイドン・アドベンチャー」「タワーリング・インフェルノ」「大空港」「有頂天ホテル」「さよなら歌舞伎町」を産んだし、オーソン・ウェルズ「市民ケーン」(デヴィッド・フィンチャー「ソーシャル・ネットワーク」は21世紀の「市民ケーン」だ)、ウォルト・ディズニー「ピノキオ」(→スティーブン・スピルバーグ「未知との遭遇」「A.I.」)、ウォルト・ディズニー「ファンタジア」(スティーブン・スピルバーグ「ジュラシック・パーク」、コリン・トレボロウ「ジュラシック・ワールド」、ティム・バートン「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」)、黒澤明「七人の侍」「隠し砦の三悪人」「用心棒」(ジョン・スタージェス「荒野の七人」、ジョージ・ルーカス「スター・ウォーズ」、セルジオ・レオーネ「荒野の用心棒」、ジョン・ミリアス「風とライオン」、ウォルター・ヒル「ラスト・マン・スタンディング」、ピーター・ジャクソン「ロード・オブ・ザ・リング/2つの塔」)、黒澤明「天国と地獄」のパートカラー(スティーヴン・スピルバーグ「シンドラーのリスト」、アカデミー短編アニメーション映画賞を受賞したディズニーの「紙ひこうき」)、ビリー・ワイルダー「サンセット大通り」(デヴィッド・リンチ「マルホランド・ドライブ」、サム・メンデス「アメリカン・ビューティ」)、ビリー・ワイルダー「アパートの鍵貸します」(三谷幸喜脚本「今夜、宇宙の片隅で」、マーティン・スコセッシ「ウルフ・オブ・ウォールストリート」、ディズニー短編アニメ「紙ひこうき」)、スタンリー・ドーネン「恋愛準決勝戦」(スタンリー・キューブリック「2001年宇宙の旅」、デヴィッド・クローネンバーグ「ザ・フライ」、スティーヴン・スピルバーグ製作・原作・脚本「ポルターガイスト」)、アルフレッド・ヒッチコック「めまい」(ブライアン・デ・パルマ「愛のメモリー」、デヴィッド・フィンチャー「ゴーン・ガール」、大林宣彦「はるか、ノスタルジィ」)、スタンリー・キューブリック「2001年宇宙の旅」(庵野秀明「新世紀エヴァンゲリオン」、ピクサー・アニメ「ウォーリー」、クリストファー・ノーラン「インターステラー」ほか多数)、ジョン・ランディス「サボテン・ブラザース」(三谷幸喜脚本「合い言葉は勇気」、本広克行「踊る大捜査線」シリーズ)、大林宣彦「時をかける少女」(本広克行「幕が上がる」、細田守「時をかける少女」)、大林宣彦「HOUSE ハウス」(三木孝浩「陽だまりの彼女」、高橋栄樹【AKB48 MV】「永遠プレッシャー」)等が代表例だろう。

スウェーデンのイングマール・ベルイマン監督「仮面/ペルソナ」(1966)もそんな映画だ。長らく観ることが難しい作品だったが昨年HDリマスター版DVDが発売され、現在はTSUTAYA DISCASで借りることも可能となった。

Persona

舞台(古代ギリシャの仮面劇「エレクトラ」)出演中に失語症に陥った女優と、海に臨む島の別荘(サマーハウス)で彼女の治療のために共同生活を送る看護師の物語である。やがてふたりの人格は融合し始める。これは片方がもう一方のドッペルゲンガー(分身/二重身/自己像幻視)であるという解釈も可能だ。では女優と看護師のどちらが本体でどちらが分身かというのが問題になってくるが、看護師の名前がアルマであることから正解が判る。"alma"とは「魂」の意味で、ラテン語ではアニマ(女性名詞)/アニムス(男性名詞)となる。

キリスト教的価値観/倫理観(蜘蛛の糸=神が支配する手)に絡め取られ、失語症に陥った女優は自分の性的願望を抑制し、欲しくもない子供を堕胎することすら叶わなかった。一方、彼女の心の深層に形成された(=生きられなかった反面)であるアルマは奔放な女で、堕胎も厭わない。そして最終的に両者は同一化することに成功し、新たな自己を形成する。因みにベルイマンの父親は牧師であり、その厳格で冷たい人間性に反発した彼は「神の沈黙」三部作を撮った。

実はアニマアニムスはユング心理学の用語である。ペルソナ(仮面)もユングが用いた言葉で、私達は1人の人間でも実に様々な「顔」を持っている。会社での「顔」、家族と接するときの「顔」、幼なじみと酒を飲み交わす時の「顔」。その場その場に応じて別の「仮面」を付け、「役割を演じている」のである。僕が強く印象に残っているのは、上方落語の「爆笑王」こと故・桂枝雀が、よく「本来私は陰気な性格で、舞台では”笑いの仮面”を付けているのです」と語っていたことだ。

「難解」と言われるベルイマン映画だが、ユング心理学を抑えておくと理解し易い。興味がある方には臨床心理学者・河合隼雄の著書「無意識の構造(影/ペルソナ/アニマ/アニムスについての解説あり)」「コンプレックス(ドッペルゲンガーについて言及あり)」「昔話の深層」などを読まれることをお勧めしたい。平易な文章で書かれており、すらすら読める。

またシナリオ段階でベルイマンは「映画」というタイトルを考えていたという。全篇喋り通しのアルマは自己を語るベルイマン=映画であり、黙ってそれを聴く舞台女優=スクリーンを見つめる観客、と見立てることも可能だろう。つまり映画を観るという行為は、新たな仮面を得ることに等しいというわけだ。

本作はブラッド・ピット主演、デヴィッド・フィンチャー監督「ファイトクラブ」(1999)に多大な影響を与えた。物語の構造自体もそうだし、「ファイトクラブ」のラストシーンで勃起したペニスの映像がサブリミナル効果として挿入されるのは「仮面/ペルソナ」冒頭部の再現である。

また、デヴィッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」(2001)は明らかに「サンセット大通り」と「仮面/ペルソナ」を足して2で割ったようなものだ。ちなみにマルホランド・ドライブもサンセット・ブルーバードもロサンゼルスを並走する道路の名称である。

ウディ・アレン「私の中のもうひとりの私」(1988)はベルイマンに私淑する彼なりの「仮面/ペルソナ」であり、ご丁寧に同作の撮影監督スヴェン・ニクヴィストをスウェーデンから呼び寄せている。ダーレン・アロノフスキー「ブラック・スワン」(2010)にも本作が濃い影を落としている。

「仮面/ペルソナ」最初の6分間は非常にアヴァンギャルド(前衛的)なモンタージュが続く。1960年代はポップ・カルチャー、アンダーグラウンド映画が花盛りで、その気分を見事に反映している。フィルムが燃えるショットなどは後の大林映画「HOUSE ハウス」等に影響を与えたのではないかと推察される。

また本作の舞台女優と息子の、絆が「切れた」関係はウィーン・ミュージカル「エリザベート」のシシィとルドルフそっくりだなと想った。オマケに女優の名前はエリザベートだし。そこでハッとした。ミュージカルの作詞・台本を手掛けたミヒャエル・クンツェが「仮面/ペルソナ」を強く意識しているのは間違いない。やはりクンツェが台本を書いたミュージカル「モーツァルト!」には主人公ヴォルフガングとその分身アマデが登場する。アマデはドッペルゲンガーであり、「を逃れて」というナンバーもある。アマデがヴォルフガングの腕にペン先を刺して、そので譜面を書く場面が第1幕フィナーレだが、これも「仮面/ペルソナ」でエリザベートがアルマの腕から流れるに吸い付く場面(女吸血鬼を描くロジェ・バディム「とバラ」を彷彿とさせる)に呼応する。

「仮面/ペルソナ」ほど影響力を持った映画は滅多にない。未見の方は是非一度、ご覧になることをお勧めしたい。

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映画「ジャングル・ブック」と【野生の思考】

1962年にフランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースは【野生の思考】という著書を発表した。未開社会の【野生の思考】の中で最も重要なのは人間と動物がお互いに同胞のように付き合い、語り合い、渡り合い、結婚したり、命のやり取りをすること。かつて人間と動物は全く対等な存在だったし、神話は「動物たちはかつてみんな言葉を喋っていた」とも言っている。

でここまで書いてきてお気づきだろうが、【野生の思考】の解説はそっくりそのまま映画「ジャングル・ブック」にも当てはまるのである。

評価:A

Jb

ウォルト・ディズニーの死後完成した長編アニメーション「ジャングル・ブック」が公開されたのは1967年。今回は「アイアンマン」「アイアンマン2」のジョン・ファヴロー監督が実写映画化した。

アニメ版で主人公の少年モーグリは最後にジャングルに突如現れた少女の後を追い、人間世界に帰るのだが、今回はそうではない。これが新しかった。動物より人間のほうが上ーこれはユダヤ教徒やキリスト教徒が囚われている愚かな思想である。神は自分に模して人間(アダム)を造った。そしてアダムの鎖骨からイヴを生み出した、と旧約聖書(創世記)には書かれている。だから人間は他の動物より上位であり、男は女より上というのが彼等の根本的考え方である(神やイエス、その使徒も男)。「モーグリはジャングルより人間社会で暮らすほうが幸せだ」ー(全人口の半数以上がカトリック信徒である)アイルランド系移民の息子ウォルト・ディズニーは結局、キリスト教的価値観の範疇を逸脱することが出来なかった。しかし21世紀に創作された実写版は、ついに殻を打ち破った。このことを高く評価したい。

モーグリ以外の生物はフルCGだが、テクノロジーの進歩には目を見張るものがある。何という実体感だろう!言葉を喋っているから「偽物」だと辛うじて解るが、それがなかったら本物にしか見えない。恐れ入りました。

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AMY エイミー

評価:B

Amy

アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞。公式サイトはこちら

グラミー賞も受賞したシンガーソングライター、エイミー・ワインハウスのことは、この映画を観るまで全く知らなかった。

よくこれだけ、映像の素材が残っていたなと感心することしきり。結局彼女は男に対する依存心が強く、意志が弱く、ドラッグに溺れて死に至る典型的破滅型人生を歩むわけだが、とても哀れだ。

ただ欧米人にとっては切実なのだろうが、ドラッグが蔓延していない日本人にはいまいちピンとこないテーマだなと感じられた。

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シン・ゴジラとエヴァンゲリオン/あるいは、樋口真嗣監督の軌跡

評価:AA (当サイトの最高評価はAAA

Sin

映画公式サイトはこちら

文句なし今年の日本映画ベスト・ワン。冗談抜きで米アカデミー外国語映画賞の日本代表に選んでもいいんじゃないだろうか?

平成ガメラシリーズは画期的作品だった。脚本:伊藤和典、監督(本篇):金子修介、特技監督:樋口真嗣という3人の才能が結集した成果である。しかし「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」のあたりから3者の関係はおかしくなり、その後2度と一緒に仕事することはなくなった。

樋口真嗣【監督】の劇場長編映画第一作「ローレライ」(2005)には大いに期待したが、その分落胆も大きかった。シナリオが壊滅的にお粗末で、特撮もショボかった。福井晴敏の原作小説とは雲泥の差。その後、短編「巨神兵東京に現わる」が良かったので「こ、これは!」と胸が高ぶったが、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」で再び徹底的に裏切られることになる。AKB48「真夏のSounds good !」MVの演出も酷かった。こうして【監督】樋口真嗣には辛酸を嘗めさせられ続けてきたので、「シン・ゴジラ」に対しては懐疑的だった。

一方、庵野秀明は「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズ(日本SF大賞受賞)で名を馳せたが、エヴァを離れると全く駄目な奴で、一生これにしがみついて生きていくのかと看做していた。庵野が撮った実写映画「キューティーハニー」は劇場で観たが、惨憺たる出来だった。

ところが、だ。庵野【総監督・脚本・編集】×樋口【監督・特技監督】が組むと、途轍もない大傑作が生まれた!「何なんだこれは……」唖然とした僕は上映が終了してもしばらく放心状態だった。庵野と樋口は「ふしぎの海のナディア」やTV版「新世紀エヴァンゲリオン」時代から共同作業をしてきた朋友だが(エヴァの碇シンジという名前が樋口真嗣に由来することはあまりにも有名)、両者が相見えるとそこに化学反応(chemistry)が生じるのだろうか?「シン・ゴジラ」は本多猪四郎【監督】×円谷英二【特技監督】という伝説のコンビが生み出した元祖「ゴジラ」(1954)に匹敵する作品に仕上がった。

まず庵野が編集権を握ったのが功を奏した。短いカットの積み重ねで非常にテンポが良い。キャスト全員で328人。膨大な台詞の数だ。完成された台本は普通撮ったら3時間掛かる。しかし東宝は2時間以内に収めることを要望した。そこで庵野が選択した戦略は台詞をカットすることなく、役者に早口で喋らせる手法である。当然感情を排した口調になるが、風通しがよく清々しい。そして完成した作品は見事に上映時間119分に留まった。

圧倒的情報量で密度が濃く、一度観ただけでは耳から入る内容を脳が処理しきれない。「カイジ(海上自衛隊)」「ローテ(ローテーション)」「レク(レクチャー)」「キンキカライ(金帰火来:国会議員が金曜に自分の選挙区に帰り、火曜に東京に戻ること)」など耳慣れない略語・熟語が何の説明もなくバンバン出てくるが、多少判らなくても一向に構わない。

タイトルの「シン」は多義的である。「新」であり「神」であり、「true」や樋口真嗣の「真」でもある。

元祖「ゴジラ」は水爆実験(第五福竜丸事件)の申し子であり、「怒れる神」の雷(いかずち)だ。そして台風や津波など日本を襲う自然災害のメタファーでもある。「シン・ゴジラ」は明らかに3・11東日本大震災と福島原発事故を彷彿とさせる要素に満ちている。ここに現代に問う意義がある。

本作は平成ガメラシリーズの脚本を執筆した伊藤和典から多くを学んでいる。特に「もし東京でクーデターが発生したら?」というシュミレーションを描く押井守監督のアニメ「機動警察パトレイバー2 the movie」からの影響が顕著だ。それは怪獣以外のマスコミや政府の対応をドキュメンタリー・タッチで描く手法である。事前に官公庁や自衛隊に徹底的なリサーチを敢行したらしい。非常時の対応が実にリアルで、バーチャルな躍動感に満ちている。

また映画「激動の昭和史 沖縄決戦」を100回以上観たと豪語する庵野の岡本喜八監督(故人)へのオマージュも強烈だ。特にテロップの多用は「日本のいちばん長い日」のひそみに倣っている。

あとゴジラが第1から第4まで形態変化をしていくのが新鮮である。まるでエヴァの使徒みたい。またスサノオがヤマタノオロチを退治する神話に由来する「ヤシオリ(八塩折)作戦」で世界中の国々が協力するというアイディアはエヴァで葛城ミサトが立案した「ヤシマ作戦」を彷彿とさせる(その原点は庵野がこよなく愛する「宇宙戦艦ヤマト」発進シーンにある)。

伊福部昭が作曲したテーマ曲が、なんとオリジナルのモノラル音源のまま流れたのには驚かされた。他にも「キングコング対ゴジラ」「メカゴジラの逆襲」「三大怪獣 地球最大の決戦」「怪獣大戦争」「ゴジラVSメカゴジラ」「宇宙大戦争」などの楽曲が次々に登場する。伊福部への敬意が溢れ、胸熱である。鷺巣詩郎による新テーマも違和感なく溶け込んでいる。

樋口真嗣【特技監督】の功績も特筆に値する。平成ガメラシリーズと比較すると5倍以上進化しているのではないか?日本版初となるフルCGのゴジラには圧倒的な存在感があった。街並みにも安っぽいミニチュア感が全くなかったし、お世辞抜きでギャレス・エドワーズ監督によるレジェンダリー版「GODZILLA ゴジラ」と互角の勝負であった。日本映画はまだまだやれる!

「ローレライ」「日本沈没」「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」「進撃の巨人」と【ぼんくら監督】樋口真嗣に付き合ってきた國村隼が漸く報われた。「進撃の巨人」ではトホホだった長谷川博己も見違えるほど格好いい。石原さとみは色っぽくて最高!この落差には開いた口が塞がらない。

是非庵野&樋口コンビは、「平成の本多猪四郎&円谷英二」として、今後もコラボレーションを続けて欲しい。でも単体で仕事するのは、絶対ダメよ

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トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

評価:B+

Trumbo

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赤狩りのブラックリストに載り「ハリウッド・テン」として投獄され、職を奪われながらも匿名で「ローマの休日」「黒い牡牛」と2回アカデミー賞を受賞した不屈の脚本家ダルトン・トランボ。その一方、仲間を売ったことで後々まで非難されたエリア・カザン監督(「欲望という名の電車」「波止場」「エデンの東」「草原の輝き」)については何度かこのブログで取り上げた。

僕はトランボのことを格好いいと思うし、尊敬している。しかし「裏切り者」カザンのことも決して責めることは出来ない。トランボが戦えたのは匿名が許される仕事だからだ。監督はそうはいかないし、この映画に登場する俳優エドワード・G・ロビンソンもしかり。彼等は皆それぞれのやり方で必死に生きた。どちらが正義でどちらが悪とは誰も言えない。「(赤狩りに)英雄も敗者もいなかった。いたのは被害者だけだ」というトランボの言葉は正鵠を射ている。むしろ悪がいたとしたらそれはジョセフ・マッカーシー上院議員であり、積極的に共和党のスパイとして動いた映画俳優組合(SAG)代表ロナルド・レーガン(後の大統領)だろう。

本作でジェイ・ローチ監督は手堅い仕事をした。大変手応えのある映画に仕上がっている。ただし殆ど既に知っている内容だったので、評価がAにまで達さなかった。赤狩りについて詳しく知りたい方には積極的に観ることをお勧めしたい。アメリカ暗黒史のひとつである。

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朝夏まなと 主演/宝塚宙組「エリザベート」

8月12日(金)宝塚大劇場へ。宙組の「エリザベート」を観劇。

宝塚友の会一次、二次先行、ぴあ先行、e+先行、一般発売全てに玉砕しチケットが全く手に入らず、結局当日券に並んだ。

気合を入れて午前3時半に劇場前に到着すると、4番目だった。5時半に15人、6時に30人、6時半に60人となり、8時15分には150人を超過して係の人から「これ以上並ばれても立ち見券が手に入らない可能性があります」とアナウンスがあった。

2年前の感想は下記。

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宝塚版、東宝版、ウィーン版の来日公演(マヤ・ハクフォート、マテ・カマラス)と合わせて、僕が生で観るのはこれでエリザベート11人目、トート12人目となる。

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ルドルフ(青年期)は役代わりで、当日は蒼羽りく。イマイチ。

朝夏まなとはあまり好きな男役ではないのだが(かわいい系の顔立ちで格好いい系ではない)、トートは意外と良かった。なんだか包容力があった。

エリザベート役の実咲凜音は健闘した。 同役で僕が一番好きな花總まり(花ちゃん)をS級とすると、次のAランクが白羽ゆり白城あやかマヤ・ハクフォートなのだが、彼女はここに入れてもいいい。                       

フランツ・ヨーゼフ役の真風涼帆は凛々しく、豊かな低音に魅了された。稔幸北翔海莉と並ぶ歴代ベスト。

ルキーニの愛月ひかるについて。容姿は◯なのだが、男声(低音)を無理して出している感が否めない。発声が自然じゃない。

またマダム・ヴォルフ役の伶美うららが艶っぽくって良かった。

あとルドルフ(少年時代)の星風まどかがめっちゃ別嬪さんだと想ったら、なんと新人公演でエリザベートに大抜擢されたんだね。2014年4月入団だからまだ研3。正に期待の新人!

本作をユング心理学の手法で読み解くと、トート(死神)はエリザベートの無意識に棲む住人(アニムス)と言えるだろう。そしてオーストリア皇太后ゾフィーも無意識に潜むグレートマザー(太母)であり、魔女や山姥のごとく彼女を束縛し、飲み込もうとする。シシーはそれに対し必死に抵抗し、追い縋る魔の手を切断し、強い自我を確立する(”私だけに”)。しかし同時に夫フランツや息子ルドルフとの絆も切れて、孤独地獄に陥る。これが「エリザベート」の物語である。

ところで東宝「エリザベート」は2016年12月にDVDが発売されることが発表された。詳細はこちら。2バージョン用意されているのだが、驚いたことにどちらもエリザは花ちゃん!ダブルキャストの蘭乃はなは無視。よっぽど評判が悪いのかな。彼女では商品が売れないと判断されたんだろうね。花ちゃんは同役で今年の菊田一夫演劇大賞を受賞したのだから、当然といえば当然なのだが……。

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アカデミー歌曲賞 オールタイム・ベスト25/裏ベスト8

まず誤解している人が多いのだが、アカデミー「主題歌賞」ではなく「歌曲賞」である。例えば「ライオンキング」からは3曲が歌曲賞にノミネートされた。「主題歌」なら1曲しかない筈でしょ?つまり「挿入歌」も含まれるということ。

  1. 虹の彼方に(「オズの魔法使い」1939)
  2. Let It Go(「アナと雪の女王」2013)
  3. 星に願いを(「ピノキオ」1940)
  4. The Way We Were(「追憶」 1973)
  5. Lose Yourself(「8 Mile」 2002)
  6. Glory(「グローリー/明日への行進」 2014)
  7. Let the River Run(「ワーキング・ガール」 1988)
  8. White Christmas(「スイング・ホテル」1942)
  9. 風のささやき(「華麗なる賭け」1968)
  10. Moon River(「ティファニーで朝食を」1961)
  11. A Whole New World(「アラジン」 1992)
  12. モナ・リザ(「別働隊」1950)
  13. Skyfall(「007 スカイフォール」2012)
  14. My Heart Will Go On(「タイタニック」1997)
  15. 雨にぬれても(「明日に向って撃て!」 1969)
  16. ブロードウェイの子守唄(「ゴールド・ディガーズ36年」1935)
  17. Falling Slowly(「ONCE ダブリンの街角で」 2007)
  18. 今宵の君は(「有頂天時代」1936)
  19. Sooner or Later(「ディック・トレイシー」1990)
  20. Colors of the Wind(「ポカホンタス」 1995)
  21. The Shadow of Your Smile(「いそしぎ」 1965)
  22. チム・チム・チェリー(「メリー・ポピンズ」1964)
  23. What a Feeling(「フラッシュダンス」1983)
  24. 美女と野獣(「美女と野獣」 1991)
  25. ニューヨーク・シティ・セレナーデ(「ミスター・アーサー」 1981)

「裏ベスト」とは歌曲賞にノミネートされるも、惜しくも受賞を逃した楽曲から厳選した。

  1. アルフィー(「アルフィー」 1966)
  2. The Man That Got Away 去っていった彼(「スター誕生」1954)
  3. If We Were In Love(「イエス、ジョルジョ」 1982)
  4. Somewhere in my Memory(「ホーム・アローン」 1990)
  5. Papa,Can You Hear Me?(「愛のイエントル」 1983)
  6. Looking Through the Eyes of Love(「アイス・キャッスル」 1979)
  7. Somewhere Out There(「アメリカ物語」1986)
  8. Circle of Life(「ライオンキング」 1994)

「虹の彼方に」は「ストーミー・ウェザー」で有名なハロルド・アーレンの作曲。映画「オズの魔法使い」の編集段階になってスタジオの幹部から「14歳の少女が歌うには大人びていて相応しくない」と物言いがつきカットされかけた。しかしプロデューサーのアーサー・フリードはこの歌を気に入っておりカットに猛反対をし、何とか免れたという。曲は大ヒットし、ジュディ・ガーランドの代表曲になった。そして2001年に全米レコード協会の投票による「20世紀の名曲」では第1位に選ばれた。また僕が「裏ベスト」で取り上げたThe Man That Got Away(去っていった彼)もハロルド・アーレンが作曲し、ジュディが歌った。こちらは正に「大人の味わい」がしっかり染みこんだ夜の音楽だ。ジュディの絶唱を聴け。

「アナ雪」の「レリゴー」が世界中で巻き起こしたムーヴメントは凄まじかった。それは文字通り旋風だった。

「星に願いを」は映画「未知との遭遇」でも重要な役割を果す。

上記事では「ピノキオ」と旧約聖書との関わりについても触れた。

「追憶」の主題歌は何と言ってもバーブラ・ストライザンドの歌唱が素晴らしい。彼女以外の歌手は考えられない。

「8 Mile」はエミネムの半自伝的映画。ラップが格好いい。

キング牧師を主人公に据えた「グローリー/明日への行進」はラップとゴスペルの融合。新しい。胸熱。これぞ21世紀の音楽!

「ワーキング・ガール」の主題歌は颯爽と肩で風切って歩いている感じがいい。映画冒頭にバーン!と登場。

クリスマスの定番、アーヴィング・バーリンの「ホワイト・クリスマス」の初出が映画だったということを知らない人は多いのでは?「スイング・ホテル」の出来もいい。

「華麗なる賭け」はなんてったってスティーブ・マックィーンが格好いいんだよね。「風のささやき」は彼がエンジンのないグライダーを操縦している場面に流れる。

「ムーン・リヴァー」を知らない人はいないよね?ヘンリー・マンシーニの音楽は都会的でお洒落。ただ僕が一番好きなのは1967年の「いつも2人で(Two for the Road)」。村上春樹のお気に入りの映画だったりする。あと「ピンクパンサー2」の"The Greatest Gift"も素敵。関光夫がパーソナリティーを務め、NHK-FMで土曜日の午後10時20分から放送されていた「夜のスクリーンミュージック」のテーマ曲として使われていた。毎週耳を傾けていたなぁ。

「美女と野獣」「アラジン」「ノートルダムの鐘」の頃が、作曲家アラン・メンケンの全盛期だった。僕の友人の結婚式で、新婦側の友達がピアノで「美女と野獣」を弾くのを聴いて、「これじゃぁまるで新郎を野獣と言っているのと同じじゃない?失礼な」と感じたことを憶えている。もうあれから20年経った。

「モナ・リザ」を入れたのはナット・キング・コールの歌声が大好きだから。とっても優しくて、柔らかい感情に包まれる感じ。つまり包容力がある。癒されるんだ。

007の主題歌に名曲は多い。しかし驚くべきことに初期の「ロシアより愛をこめて」とか「ゴールドフィンガー」なんか、歌曲賞にノミネートすらされていないんだよね。多分イギリス映画だからだ。「女王陛下の007」の劇中にサッチモ(ルイ・アームストロング)が歌う、"We Have All The Time In The World( 愛はすべてをこえて)"なんかもグッと来るなぁ。ジョン・バリーによる傑作。

「タイタニック」におけるジェームズ・ホーナーの音楽はアイリッシュ・テイスト満載(エンヤもね)。ホーナーなら「アメリカ物語」の"Somewhere Out There"も好き。エッ、「虹の彼方に」に似てるって?【パクリのホーナー】だから許してあげて。

「雨にぬれても」は作詞ハル・デヴィッド、作曲バート・バカラックによる代表作。のんびりした田園風景に似合っている。でもこのコンビ作で僕がもっともっと好きなのは「アルフィー」と、カーペンターズが歌い「遙かなる影」の邦題で知られる"(They Long to Be) Close to You"だ。映画「アルフィー」(1966年版)はマイケル・ケイン演じるプレイボーイ(ヒモ男)の主人公が魅力的なんだ。付き合う女を取っ替え引っ替えしても心の虚空は埋まらない。ラストシーンで日がどっぷりと暮れたロンドンの川を眺めながら「一体俺は何をやっているんだ」と呆然と立ち尽くすアルフィー。そこに流れる主題歌の歌詞がグサッと胸を抉る。

What's it all about, Alfie?
Is it just for the moment we live?
What's it all about when you sort it out, Alfie?
Are we meant to take more than we give?
Or are we meant to be kind?

アルフィー、人生って何だろう?
私たちって刹那的に生きているだけってこと?
いろんなことを選り分けていく中で
人に与える以上に人から奪うのが私たちの宿命なの?
それとも親切にすることが人間本来の姿かしら?

And if only fools are kind, Alfie
Then I guess it is wise to be cruel
And if life belongs only to the strong, Alfie
What will you lend on an old golden rule?

もし親切にするのは愚か者だけだというのなら
残酷になる方が賢いよね、アルフィー
強い者のためだけに人生があるというのなら
「人からしてもらいたいことを、人にしてあげなさい」
という黄金律に則ると、あなたは何を人に与える?

As sure as I believe there's a heaven above, Alfie
I know there's something much more
Something even non-believers can believe in

私は天国が存在すると信じているけれど
たとえ無神論者でも信じることが出来る
もっともっと素晴らしいものがあるのよ、アルフィー

I believe in love, Aflie
Without true love we just exist, Alfie

私は愛を信じているわ、アルフィー
真実の愛がなかったら私達は単にこの世に「ある」だけじゃない

Until you find the love you've missed you're nothing, Alfie

あなたがいままで取り逃がしてきた愛を見つけなければ
あなたは「無」に過ぎないのよ、アルフィー

When you walk let your heart lead the way
And you'll find love any day, Alfie, Alfie

歩くときには心が趣くままに進んでごらんよ
そしたら愛を見つけられるんじゃないかな、いつの日かきっと
アルフィー、アルフィー

(日本語訳:雅哉/無断転載禁止)

「アルフィー」はディオンヌ・ワーウィックの歌でよく知られるが、映画のオリジナル(イギリス公開版)はシラ・ブラックが歌い、アメリカ公開時に配給元のユナイテッドの要請でシェールに変わった。僕が好きなのは1996年にTBSで放送されたテレビドラマ「協奏曲」(脚本:池端俊策、出演:田村正和、宮沢りえ、木村拓哉)で使用されたヴァネッサ・ウィリアムズによるバージョン。

「ブロードウェイの子守唄」は舞台ミュージカル「42nd Street」の第1幕フィナーレにも登場する。激しいタップの群舞が圧巻。なんか興奮する。

「ONCE ダブリンの街角で」はジョン・カーニー脚本・監督による音楽映画。カーニーが後に撮った「はじまりのうた」@ニューヨーク、「シング・ストリート」@ダブリンも素晴らしい。

「今宵の君は(The Way You Look Tonight )」のオリジナルを歌ったのはフレッド・アステア。僕がものすごく印象に残っているのはジュリア・ロバーツ主演の映画「ベスト・フレンズ・ウェディング」での使い方。とっても切なくなった。「ベスト・フレンズ・ウェディング」はハル・デヴィッド&バート・バカラックのコンビによる「小さな願い」(I Say a Little Prayer)が歌われる場面も感動する。

「ディック・トレイシー」の"Sooner or Later"はブロードウェイ・ミュージカルの巨匠スティーヴン・ソンドハイム節が堪能出来る。ソンドハイムは「スウィーニー・トッド」や「イントゥ・ザ・ウッズ」の作曲家としても知られる。洗練されて粋な楽曲。ハードボイルドな味わい。

「メリー・ポピンズ」は「イントゥ・ザ・ウッズ」のロブ・マーシャルが監督し、エミリー・ブラントやメリル・ストリープが出演する続編の製作が決定したと聞いて驚いている。オリジナル版の楽曲はシャーマン兄弟が作曲したが、兄は死去しているので多分別人が書くのだろう。「アナ雪」のクリスティン・アンダーソン & ロバート・ロペス夫妻あたりかな?

「フラッシュダンス」の主題歌"What a Feeling"は僕が高校生の時、すごく流行った。吹奏楽部でも演奏したな。前向きな主人公で、女の子たちから圧倒的な支持を受けた。明るい曲だ。

「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」Arther's Theme(The Best That You Can Do)はクリストファー・クロスとバート・バカラックの共作。クリストファー・クロスって絹のように滑らかで綺麗なハイトーン・ボイスの持ち主なんだ。

「裏ベスト」の"The Man That Got Away"(去っていった彼)と「アルフィー」については既に熱く語った。

"If We Were In Love"(「イエス、ジョルジョ」 1982)は日本未公開。「スター・ウォーズ」「ハリー・ポッター」の巨匠ジョン・ウィリアムズが作曲し、三大テノールの一人ルチアーノ・パヴァロッティが歌った(主演も務めた)。とってもロマンティックな佳曲。

"Somewhere in my Memory"(「ホーム・アローン」 1990)の作曲もジョン・ウィリアムズ。今やクリスマスには欠かせない。温かい気持ちになれる。

「愛のイエントル」については下記記事で縦横無尽に語り尽くした。作詞はアラン&マリリン・バーグマン夫妻、作曲は「華麗なる賭け」「シェルブールの雨傘」のミシェル・ルグラン。

"Looking Through the Eyes of Love"の作曲は「追憶」「コーラスライン」のマーヴィン・ハムリッシュ。知られざる名曲だ。映画「アイス・キャッスル」はフィギュアスケーターが主人公の物語。

「ライオンキング」といえば歌曲賞を受賞した「愛を感じて」じゃなくて、断然"Circle of Life"でしょう!歌詞の内容=映画の主題でもあるし。作詞はティム・ライス、作曲はエルトン・ジョン。

これから先の人生で、 どんなことがあるのか知らないけれど、いとしい歌の数々よ、どうぞぼくを守りたまえ。  
(芦原すなお 著「青春デンデケデケデケ」より)

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佐渡裕プロデュースオペラ「夏の夜の夢」

7月24日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。

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佐渡裕/兵庫芸術文化センター管弦楽団・ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団で、

  • ベンジャミン・ブリテン:歌劇「夏の夜の夢」

を観劇。演出・装置・衣装デザインは英国のアントニー・マクドナルド。出演者は以下の通り。

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歌手陣の中では朗々とした低音を響かせたボトム役アラン・ユーイング(バス)の上手さが際立っていた。他の外国人キャストも充実。日本人ではティターニアの森谷真理が良かった。ただし、(一般論として日本人は概して男声低音がダメで)シーシアスの森雅史(バス)はいただけない。

オーケストラの方は妖しさと、職人たちが登場する場面では滑稽さがあり、作品の魅力を十二分に伝えた。総論として極めて満足度の高いプロダクションであった。極東の国・日本でこれだけ質の高いオペラを観られることは希少であり、佐渡裕・芸術監督に賞賛の拍手を送りたい。

過去10年間の佐渡裕プロデュースオペラは「蝶々夫人」「トスカ」「魔笛」「こうもり」「カルメン」「椿姫」など誰でも知っている、興行的に手堅い作品ばかり並んでいたが、今回の「夏の夜の夢」は相当な冒険だった筈だ。ブリテンのオペラは(「ピーター・グライムズ」も含め)日本で滅多に上演されない。そもそも「夏の夜の夢」は国内盤DVDすらない。僕が所有しているピーター・ホール演出のグラインドボーン音楽祭のプロダクションは輸入盤で当然日本語字幕なし。しかし今回の6公演は平日を含め全日完売というのだから大したものだ。

続けて作品を論じるにあたり、まず下記記事を併せてお読みください。

今回の演出で驚いたのは妖精パックに大人のダンサー(26歳)が配されていたことである。グラインドボーン版ではパックを小学生くらいの男の子が演じていたし、オーストリア出身の著名な演出家マックス・ラインハルト(ドイツ演劇界では「皇帝」と呼ばれた)が監督した1935年のハリウッド映画版(メンデルスゾーンの音楽をエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトが編曲)のミッキー・ルーニーは撮影当時14歳だった。パックといえば「いたずら坊主」「天衣無縫」「無邪気(innocent)」という印象が強いので、成人というのは違和感があった。面白いなと思ったのはパックの顔が半分だけ白塗りになっていたこと。これは道化師の象徴である。中世の道化師は色鮮やかなまだら模様の衣装を着ており、善と悪、破壊と創造、賢者と愚者といった二面性を行き来する存在であることを表している。つまりトリックスターこちらに詳しく説明した)であり、妖精パックが担う役割と全く同じなのだ。

妖精たちは日本語、人間は英語歌唱だった。でティターニアが職人のボトムと絡む時だけ英語になる。妖精同士が会話するときは人間の言葉を使うはずもないので日本語=妖精語という見立ては秀逸だと想った。また人間たちは靴を履いているが妖精の王と王妃、パックは素足、子供の妖精はソックスで舞台を駆け回っていた。ティターニア付きの小妖精(豆の花・蜘蛛の巣・蛾・芥子の種)がロバに変身したボトムに対して鼻をつまんで嫌そうに仕える演出も成る程と想った(ピーター・ホール版ではなかった)。ティターニアは魔法で目が眩んでいるのでロバに恋するわけだが、他の妖精はそうではないのだから考えてみれば当然の反応である。またロバは精力絶倫を意味することは前の記事に書いたが、ピーター・ホール版でボトムの股間がモッコリ強調されていたのに対し、マクドナルドの演出ではボトムの腰に刺した芝居用の剣が、勃起したペニスのメタファーとして機能していた。

あと今回初めて気がついたのはシェイクスピアの戯曲は全5幕であるが、ブリテンと彼の生涯のパートナー、ピーター・ピアーズが執筆した台本はカットや順序の入れ替えなどを行い、全3幕で構成されている。そして全ての幕切れが眠りに就く場面で構成されているのだ(シェイクスピアの方はそうなっていない)。この創意工夫には唸った。

オーベロンはカウンターテナーが演じるわけだが、カウンターテナーのパートは19世紀以前、去勢歌手カストラートのレパートリーだった。つまりこの役は男声でもなく女声でもないわけで、ゲイを象徴しているのではないかという気がした。

それにしてもパック最後の口上、

影にすぎない私ども、もしご機嫌を損ねたなら
お口直しに、こう思っていただきましょう。
ここでご覧になったのは、
うたた寝の一場のまぼろし。
たわいない物語は
根も葉もない束の間の夢。
(中略)
野次やお叱り受けずにすめば
これぞ望外の幸せと、いっそう精進いたします。
パックは嘘をつきません。
では、どちらさまも、おやすみなさい。
ご贔屓のしるし、お手を頂戴できるなら
パックも励み、必ずお返しいたします。
       (松岡和子 訳、ちくま文庫)

を聴きながら、鳥肌が立った。演劇の醍醐味、ここにあり!Theatergoer(芝居好きの人)にとって、正に至福の瞬間(とき)であった。

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「エンターテイメント日誌」自選記事 ベスト30

早いもので、このブログを開設してから今年で10年目になる。途中から読者になられた方が殆どだろう。記事数も2100を超えた。つまり年間200以上書いている計算になる。膨大な量だ。そこで「どうしてもこれだけは読んで欲しい」というものを厳選した。

まずはBEST 10から。

続いてNEXT 10。

そしてMORE 10

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«シェイクスピア「夏の夜の夢」とブリテンのオペラ、その深層心理に迫る