厳選!ミュージカル(舞台)のオールタイム・ベスト40
僕は今年、還暦を迎えた。初めて舞台ミュージカルを鑑賞してから40年以上になる。劇団四季(『ウエストサイド物語』@倉敷市民会館)を出発点として東宝ミュージカル、宝塚歌劇、三谷幸喜(『オケピ!』『新宿発8時15分』)、松尾スズキ&大人計画(『キレイ〜神様と待ち合わせした女』『キャバレー』)、音楽座ミュージカル(『リトルプリンス (星の王子さま) 』)、ホリプロステージ(『ピーター・パン』『DEATH NOTE The Musical』『生きる』『メリー・ポピンズ』)、劇団ひまわり(『銀河鉄道の夜』)、そしてブロードウェイやラスベガス(『オペラ座の怪人』)@アメリカ、ウエストエンド@イギリスなどでも観劇した。海外からの来日ツアー公演では『キャバレー』『コーラスライン』『エリザベート』『ロミオ&ジュリエット』『ヘアスプレー』『TOP HAT』に足を運んだ。またコルム・ウィルキンソン(『レ・ミゼラブル』初代バルジャン)、シンシア・エリヴォ(『カラーパープル』でトニー賞ミュージカル主演女優賞を受賞、映画『ウィキッド ふたりの魔女』で主人公エルファバを演じた)、ラミン・カリムルー(『オペラ座の怪人』ファントム/『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャン)、そして『RENT』オリジナル・キャストであるアンソニー・ラップ(マーク役)とアダム・パスカル(ロジャー役)らは来日コンサートで生歌を聴いた。
こうした経験から今までの自分の人生の集大成として当記事を書こうと思った。もしこれから新たにミュージカルを観たいと思っている若い人たちにとって何らかの羅針盤として役立つのなら幸いである。
ただし、僕の観劇歴には1つ留保すべき事項がある。それは今まで殆んど韓国産ミュージカルを無視してきたことだ。韓国が舞台ミュージカルに真剣に取り組み始めたのは、26年に及ぶ軍事政権が終わり文民政権が始まった1988年以降だから歴史が浅い。ちなみに正式なライセンス契約を結び、韓国人キャストによって初めてブロードウェイ・ミュージカルが上演されたのは1996年の"42nd Street"からである。
一方、日本における東宝ミュージカルの歴史は1963年帝国劇場における『マイ・フェア・レディ』が出発点なので実に四半世紀先んじている。さらに宝塚歌劇には110年以上の歴史がある(宝塚でブロードウェイ・ミュージカルが初めて上演されたのは1967年『オクラホマ!』から)。正直、韓国ミュージカルの実力を僕は舐めていた。故に2025年のトニー賞で韓国生まれの『メイビー、ハッピーエンディング』がミュージカル作品賞を受賞したことに衝撃を受けた。ストレート・プレイを含め日本の劇作家が手掛けた作品がブロードウェイの劇場で上演されたことは未だかつてない、皆無だ。我が国の演劇界の敗北を認めざるを得ない。不甲斐ない。今後は積極的に韓国産ミュージカルを観ていきたい。
前置きはこれくらいにしてまず【リスト】から。続いて【ひとつひとつ作品の解説】を書く。なお〈トップスリー〉に挙げた作品は、上から1,2,3位ではなく〈全部1位〉と解釈してもらって構わない。このレベルになると順位をつけ難い。以下5作品ごとに区切っているが、それぞれの枠内は昇順でなく、順不同と受け取って頂きたい。
原則1作曲家1作品に絞った。よってロイド=ウェバーの『キャッツ』も『ジーザス・クライスト・スーパースター』も『エビータ』も入っていない。またタイトル横の括弧()内は同じ作曲家、あるいは劇作家で代替可能な作品がある場合に示した。
【リスト(お品書き)】
〈トップスリー!:第1位〜第3位〉
オペラ座の怪人
エリザベート(↔ モーツァルト!)
ロミオ&ジュリエット
〈第4位〜第5位〉
ファン・ホーム
ファンタスティックス
〈第6位〜第10位〉
Merrily We Roll Along(↔ スウィーニー・トッド)
ポーの一族
キャバレー(↔ 蜘蛛女のキス)
ミス・サイゴン
ハミルトン
〈第11位〜第15位〉
ラグタイム(↔ アナスタシア)
ゴースト&レディ
パレード
シー・ラヴズ・ミー(↔ 屋根の上のヴァイオリン弾き)
銀河鉄道の夜
〈第16位〜第20位〉
ライオンキング
デスノート(↔ ジキル&ハイド)
プロデューサーズ
ラ・カージュ・オ・フォール
ジェーン・エア
〈第21位〜第25位〉
RENT
ノバ・ボサ・ノバ
回転木馬
コーラスライン
ガイズ&ドールズ
〈第26位〜第30位〉
42nd Street
春のめざめ
カン・カン
翼ある人びと-ブラームスとクララ・シューマン-
壁抜け男
〈第31位〜第35位〉
ジャージー・ボーイズ
ミー&マイ・ガール
ピーター・パン
ファントム
ウエスト・サイド物語
〈第36位〜第40位〉
クレイジー・フォー・ユー
オケピ!(↔ 新宿発8時15分)
ザ・ミュージック・マン
ある男
マイ・フェア・レディ
〈次点〉
ジプシー
ノートルダムの鐘
カム フロム アウェイ
【各論:作品ひとつひとつ紹介】
〈オペラ座の怪人〉
イギリスの作曲家アンドルー・ロイド・ウェバーには『ジーザス・クライスト・スーパースター』『エビータ』『キャッツ』『サンセット大通り』など秀作が綺羅星のごとくある(ただし1996年『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』以降は才能が枯渇し、駄作ばかり)。中でも突出した傑作が『オペラ座の怪人』である。ちょっと信じ難い完成度である。ジョエル・シューマッカーが監督した映画版もあるのだが、こちらはB級。ジェラルド・バトラー演じる怪人もイマイチ(当初はヒュー・ジャックマンがキャスティングされていたのだが、ミュージカル『ボーイ・フロム・オズ』ブロードウェイ出演と撮影時期が重なり降板した)。やはりハロルド・プリンスが演出した舞台版を観て欲しい。
〈エリザベート〉
本作と『モーツァルト!』はオーストリア・ウィーン発のミュージカルである。どちらも作詞・台本:ミヒャエル・クンツェ、作曲:シルヴェスター・リーヴァイ。ただしこのコンビによるミュージカル『ベートーヴェン』は救いようのない駄作。『レベッカ』と『マリー・アントワネット』は、まぁ◯。『エリザベート』というとんでもない傑作を見つけてきて輸入した宝塚歌劇団は本当にエライ!宝塚版も東宝版も演出は小池修一郎だが、全く中身は違う。曲も一部異なっている。ウィーンからの引っ越し公演も観たが、日本版の方が優れていると断言出来る。因みに『モーツァルト!』の演出も小池だ。
〈ロミオ&ジュリエット〉
シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』はオペラ化されたものとしてグノーやベッリーニの作品(『カプレーティ家とモンテッキ家』)が有名だが、これまで少なくとも40作品以上あると言われている(50作品近くという説もある)。他にもベルリオーズの劇的交響曲やプロコフィエフのバレエ音楽、チャイコフスキーの幻想序曲(管弦楽曲)もある。
因みにシェイクスピアの戯曲を基に作られたオペラは200作品以上あり、最も多いのが『ロミオとジュリエット』、次が『ハムレット』で30作品以上あるらしい。
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』はジェラール・プレスギュルヴィックが作詞・作曲し、2001年フランスのパリで初演された。日本では小池修一郎が潤色・演出し、2010年宝塚星組が梅田芸術劇場で初演した。後に東宝版が上演され、後者も小池修一郎が演出。パリからの引っ越公演も観たが日本版は遜色なし。
〈ファン・ホーム〉
2015年のトニー賞でミュージカル作品賞・台本賞・楽曲賞・主演男優賞・演出賞の5部門を受賞した。アリソン・ベクダルが書いた自伝的漫画(グラフィックノベル)を原作とし、レズビアンの女性を主人公とするミュージカルはこれがブロードウェイ史上初。作詞・台本・作曲を全て女性が手掛けた。主人公アリソンを3人の女優が演じる(社会人・大学生・小学生)。単なる回想形式ではなく、彼女らは同時に舞台に存在する。僕はこの手法にとても感銘を受けた。過ぎ去り死に向かう現在と、保存され、生の核を保持する過去は絶えず干渉しあい、交差しあう。アリソンはこの空間=記憶の中を自由に飛翔し、また戻ってくるのである。
〈ファンタスティックス〉1960年5月3日の初演以来、実に40年以上の長きに渡りオフ・ブロードウェイでロングランされていた(ロンドンの「ねずみとり」みたいなもの)。 ところが2001年9月11日にニューヨークで同時多発テロが勃発。観光客が激減し、そのあおりを受けて翌年の2002年1月13日に閉幕してしまう。本作を観て毎回思うのは「これぞミュージカルの原点!」ということ。落下してくるシャンデリアとか、左右舞台袖から登場し中央で合体する巨大バリケードとか、天井から舞い降りてくる実物大ヘリコプターとか、ド派手でスペクタクルな仕掛けはミュージカルに必ずしも必要ではなく、簡素な装置で美しい歌があり達者な演者さえいたらそれでいいんだ、ということ。宮本亜門の演出が素晴らしかった。後に彼はウエストエンド@ロンドンでも『ファンタスティックス』の演出を手掛けることになる。
〈Merrily We Roll Along〉
泣く子も黙る大御所スティーヴン・ソンドハイムが作詞・作曲を手掛けた名作である。ソンドハイムの傑作といえば『ア・リトル・ナイト・ミュージック』『カンパニー』『スウィーニー・トッド』『太平洋序曲』『イントゥ・ザ・ウッズ』『パッション』『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ(日曜日にジョージと公園で)』など枚挙にいとまがないが(以上全て鑑賞済)、中でも衝撃を受けたのは『Merrily We Roll Along』だった。舞台の進行と共に物語は時間を遡っていく。こんなの観たことない!!『オペラ座の怪人』のハロルド・プリンスが演出した初演は52回のプレビュー、そしてたった16回の本公演で幕を閉じた。惨敗だった。しかし仕方がない、中身が前代未聞、斬新すぎたのだ。現在、リチャード・リンクレーターがポール・メスカル主演で映画を製作中なのだが、なにしろ『6才のボクが、大人になるまで。』と同様の方法で20年間かけて撮影中で、公開予定が2040年頃ということだから気が遠くなる話だ。それまで出演者やリンクレーター本人が生きているのかすら定かではない。
『スウィーニー・トッド』も凄い作品だ。こちらはジョニー・デップ主演でティム・バートンが監督した映画の出来も上々なのでお勧め。基本的にソンドハイムの舞台ミュージカルは宮本亜門の演出がいずれも出来が良い。日本で上演されていた『太平洋序曲』をたまたま来日中だったソンドハイムが観て、ブロードウェイでのリバイバル上演時に宮本を推薦したというエピソードはあまりにも有名。
〈ポーの一族〉
宝塚歌劇が生み出したミュージカルの最高傑作。台本・演出は歌劇団のエース・小池修一郎。小池は歌劇団の演出家になって間もない頃に、原作漫画を書いた萩尾望都とミュージカル化の約束を交わしていて、正にライフワーク/集大成的作品となった。初演でエドガーを演じた明日海りおは、まるで漫画の中から飛び出してきたかのようだった。幽玄、かつ耽美。とにかく観ろ!観ればわかる。以上。
〈キャバレー〉1929年、ナチス・ドイツが台頭する前夜のベルリン。「キット・カット・クラブ」が舞台となる。ちなみにアドルフ・ヒトラーが首相に就任するのは1933年1月30日。『キャバレー』はベルトルト・ブレヒトが戯曲を書き、クルト・ヴァイルが作曲した音楽劇『三文オペラ』を踏まえた作品であり、鑑賞の手引きとしてそちらの方もぜひ抑えておきたい。両者の関係性を示す動かしがたい証拠として、1966年の『キャバレー』初演時にロッテ・レーニャがキャスティングされていたことが挙げられる。『三文オペラ』は1928年にベルリンの劇場で初演され、ロッテ・レーニャは娼婦のジェニーを演じた。彼女はクルト・ヴァイルの妻でもあった。
『キャバレー』は映画化され、アカデミー賞でライザ・ミネリが主演女優賞、ボブ・フォッシーが監督賞を受賞しており、確かに優れてはいるのだがロッテ・レーニャが演じた下宿屋の主人フロウライン・シュナイダーとユダヤ人果物店店主シュルツとの老いらくの恋のエピソードとか、ふたりの歌がばっさりカットされており映画しか知らない人は是非舞台版も観て欲しい。ちなみにクルト・ヴァイルはユダヤ人でナチスの台頭とともにアメリカに亡命、ブロードウェイの作曲家に転身した。
ジョン・カンダー(作曲)とフレッド・エブ(作詞)のコンビ作なら『蜘蛛女のキス』もお勧め。『シカゴ』も彼らの作品だよ。
〈ミス・サイゴン〉クロード=ミシェル・シェーンベルク(作曲)とアラン・ブーブリル(台本・作詞)のコンビは何と言っても『レ・ミゼラブル』が有名だが、僕は断然『ミス・サイゴン』を推す。ベトナムを舞台にプッチーニの歌劇『蝶々夫人』を下敷きにしている。プッチーニといえば『ラ・ボエーム』を基に『RENT』が生まれるなど、ミュージカルと縁が深い。
・ 僕とミュージカル「レ・ミゼラブル」、愛憎の20年 (+オールタイム・ベスト・キャスト選出あり) 2012.11.23
〈ハミルトン〉作詞・台本・作曲・主演はリン=マニュエル・ミランダ。トニー賞で史上最多16ノミネートを獲得し、11部門受賞。さらにピューリッツァー賞(戯曲部門)に輝いた。因みにピューリッツァー賞を受賞したミュージカルは『南太平洋』『努力しないで出世する方法』『コーラスライン』、『RENT』、そしてソンドハイムの『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』などがある。現時点で『ハミルトン』がヒップホップ・ミュージカルの最高傑作であるのは間違いない。
アメリカ建国史が手によるように分かるし、ジョージ・ワシントンなど建国の父は全員白人で、その多くが荘園(プランテーション)を持ち黒人奴隷を使役していた。その彼らを全員〈非白人〉が演じるというコンセプトが面白い。故に白人至上主義者であるドナルド・トランプが本作を気に入らないのは当然のことであり、首都ワシントンにあるケネディ・センターで上演される予定だった『ハミルトン』を彼が阻止したのはこういう事情があったのである。なお本作はオジリナル・キャストで上演された公演を完全収録した映像をディズニープラスで観ることが出来る(日本語字幕付き)。
〈ラグタイム〉
本作が不幸だったのは、初演が『ライオンキング』の年と重なり、トニー賞のミュージカル作品賞や演出賞などをあちらに攫われてしまったことである(『ラグタイム』は台本・楽曲賞などを受賞)。しかし2026年のトニー賞ではミュージカル・リヴァイヴァル作品賞・主演女優賞・主演男優賞に輝いて気を吐いた。
日本での上演までになんと25年もかかってしまった。最大の難問は民族の衝突を主題にしているから。つまりWASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)、ラトビアなど北欧や東欧から舶来したユダヤ系移民、そして黒人(アフリカ系アメリカ人)の3つのグループが登場する。しかし、これを軽々とクリアした藤田俊太郎の演出(発想)は素晴らしかった!
・ 石丸幹二・安蘭けい・井上芳雄 /ミュージカル「ラグタイム」待望の日本初演! 2023.10.15
〈ゴースト&レディ〉劇団四季オリジナル・ミュージカル『ゴースト&レディ』は隔月誌「ミュージカル」において18名の評論家やジャーナリストの選考による2024年ミュージカル・ベストテンで【作品部門】第1位、【演出家部門】でスコット・シュワルツが第2位(第1位は『この世界の片隅に』の上田一豪)、主演の谷原志音が【女優部門】第3位、萩原隆匡が【男優部門】第6位に選出された。またMusical Awards TOKYO 2024 プレシーズンでは大賞・脚本賞・作曲賞・音楽監督(編曲)賞を受賞している。
紛れもなく本作は劇団四季オリジナル・ミュージカルの最高傑作である。台本も音楽も文句なし!世界で勝負出来る作品に仕上がった。
浅利慶太時代の『李香蘭』『ドリーミング(青い鳥)』などは箸にも棒にもかからないお粗末な代物だった。比較的『夢から醒めた夢』は鑑賞に耐えうるものだったが、戦争、災害、飢餓などで亡くなった子供たちの幽霊が沢山いる霊界空港の場面には鼻白んだ。こんな取ってつけたようなエピソード要る??ー浅利は作劇の才能が皆無だった、と心底思う。演歌・歌謡曲が専門の三木たかし(津軽海峡・冬景色/夜桜お七)に作曲を依頼するというセンスもいただけない。
『ゴースト&レディ』の成功は2018年4月に劇団内に新設された企画開発室の功績が大きいだろう(浅利は2014年に退任した)。ここから他に『バケモノの子』『ロボット・イン・ザ・ガーデン』等が生み出されている。
〈パレード〉1913年アメリカ南部のアトランタを舞台にユダヤ人差別を背景にした冤罪事件(実話)を描いているが、非常に似た話で映画「死刑台のメロディ」(1971)がある。これは1920年アメリカ北部マサチューセッツ州で実際に起こったイタリア移民サッコとヴァンゼッティ冤罪事件を扱っている。救いのない、陰惨な物語で、よくぞこれをミュージカルにしたな!と思った。トニー賞では最優秀台本賞、楽曲(作詞・作曲)賞を受賞。森新太郎の日本版演出が鮮烈で心に突き刺さった。
・ 石丸幹二&堀内敬子(久々の)共演、そして衝撃的傑作!〜ミュージカル「パレード」 2017.06.14
〈シー・ラヴズ・ミー〉本作は1963年にブロードウェイで初演され、僕は涼風真世、市村正親の主演で何度か観た。その後、新演出/別キャストで再演されている。作詞:シェルドン・ハーニック、作曲:ジェリー・ボックのコンビは1964年に初演された『屋根の上のヴァイオリン弾き』を生み出したことでも世界中にその名を轟かせている。20世紀初頭、帝政ロシアの圧政下、ウクライナ地方に生きるユダヤ人一家の運命を追う(ポグロムも描かれる)不朽の名作『屋根の上のヴァイオリン弾き』は大好きなミュージカルで、市村正親主演で再演される度に観劇しているのだが、ここは涙を呑んで『屋根〜』ほど知られていない『シー・ラヴズ・ミー』を紹介したい。
本作はクリスマスを舞台に展開される心温まるロマンティック・コメディで、元になったのは1940年エルンスト・ルビッチ監督の映画『The Shop Around the Corner』。日本未公開で、ビデオ発売時の邦題は『街角 桃色の店』。この映画の原作はハンガリーの劇作家ミクローシュ・ラーズローが執筆し、1937年ブタペストで初演された戯曲 "Illatszertár(英題 Parfumerie)" である。
映画『恋人たちの予感』で脚本を書き、『めぐり逢えたら』で監督にも進出したノーラ・エフロンの両親は二人とも脚本家で、ミュージカル映画『回転木馬』『足ながおじさん』『ショウほど素敵な商売はない』のシナリオを共同で執筆している。ノーラは少女時代、クリスマスの時期になると両親に連れられ劇場で『シー・ラヴズ・ミー』を観て幸福感に包まれた思い出があり、その記憶を元にメグ・ライアンとトム・ハンクス主演で『ユー・ガット・メール』の脚本・監督をした。文通というガジェット(小道具)がメールに翻案された、というわけ。
〈銀河鉄道の夜〉
これは劇団ひまわりが創り上げたミュージカルで、僕は大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の定期演奏会で初めて出会った。
・ 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演/ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜宮沢賢治の深層心理にダイブする。 2017.02.21
劇団ひまわり版はDVDを購入して鑑賞。主人公が石川由依だったのでびっくり仰天した。後に彼女は声優となり、『進撃の巨人』のミカサ・アッカーマンや『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の主人公(タイトルロール)で名を馳せた。
西村友の音楽がしみじみ良い。
〈ライオンキング〉『美女と野獣』の舞台ミュージカル版を観たときは、「所詮子供だまし。つまらん」と思った。しかしトニー賞授賞式における『ライオンキング』のパフォーマンス(冒頭部)は息を呑んだ。アニメとは全く別物。凄い。女性として初めてトニー賞でミュージカル演出賞を受賞したジュリー・テイモアの手腕にただひれ伏すのみ。インドネシアのワヤン・クリット(影絵芝居)、バリ島の仮面舞踊劇トペン、文楽人形(パペット)など様々な手法を駆使し、圧巻である。
しかしその後、ジュリー・テイモアはブロードウェイ・ミュージカル「Spider-Man Turn Off The Dark」の演出に起用されるも制作が遅れ度重なる公演の延期、膨れ上がった予算、相次ぐキャストの負傷、散々な前評判で本公演前に解雇された。ブロードウェイの長い歴史のなかでも最も多くのトラブルに見舞われた作品として今では知られている。
〈デスノート〉本作はそもそも物語自体がむっちゃ面白いし、ミュージカルの台本の完成度も高く、フランク・ワイルドホーンの音楽も極上。ワイルドホーン作品としては初期の『ジキル&ハイド』も捨てがたい魅力がある。人格が分裂して歌うソロ・ナンバーなんか最高!
〈プロデューサーズ〉1968年にメル・ブルックスが監督した映画『プロデューサーズ』はコメディの傑作として名高い。それをメル・ブルックス自身が製作・脚本・作詞・作曲を務めたミュージカル『プロデューサーズ』は2001年に初演され、トニー賞で12部門をかっさらった。僕はこの年にブロードウェイで全オリジナル・キャストが揃った公演を観劇しており、抱腹絶倒の面白さだった(9・11同時多発テロの約2週間前の話だ)。後に演出を担当したスーザン・ストローマンが監督を務め、ネイサン・レインやマシュー・ブロデリックなどオリジナルキャストも多数出演した映画版が2005年に公開されたのだが、こちらは救いようがない駄作(flop)。スーザン・ストローマンには全く映像センスがなく、その後再び彼女が映画を撮ることもなかった。今にして思えば『ハミルトン』みたいに劇場でのパフォーマンスをそのまま映像に記録した方が良かったのではないだろうか?
〈ラ・カージュ・オ・フォール〉1973年に上演されたフランスの舞台劇をミュージカル化。その前に映画化もされており、原題はそのままなのだが、日本では『Mr.レディ Mr.マダム』というとんでもない邦題で公開された。ゲイのカップルが養子を迎えている設定なのだが、実は『マイ・フェア・レディ』も同様な構造なのではないかということに最近気が付いた!つまりヒギンズ教授とピカリング大佐というゲイカップルがイライザを養子として迎えるという物語。そう考えればヒギンズ最後の台詞「私のスリッパはどこだい?(Where the devil are my slippers? )」に納得がいく。どう見ても喧嘩した恋愛中の男女の会話とは思えないし。
〈ジェーン・エア〉僕は激情に駆られたようなブロンテ姉妹の小説『嵐が丘』と『ジェーン・エア』が大好きだ。そしてミュージカル『ジェーン・エア』は脚色が上手くよくまとめてあるしポール・ゴードンの音楽も◯。ジョン・ケアード(台本・作詞・演出)がお見事であった。日本のダブル・キャスト上白石萌音/屋比久知奈 のどちらも良い。
〈RENT〉山本耕史が主演した日本語版初演を僕は観ているのだが、当時はどうも本作の良さが理解不能だった。その後オリジナル・ブロードウェイ・キャストが多数出演した映画版(『ホーム・アローン』『ハリー・ポッター』シリーズのクリス・コロンバス監督)や、Blu-ray『レント・ライヴ・オン・ブロードウェイ』を観て、初めて真価が分かった。ストレートやゲイなどの性指向の違い、白人・黒人・ヒスパニックといった人種の違いなど多様性(diversity)が重大なモチーフとなっているので、日本人キャストだけだとそのニュアンスが十分に描き切れないのだ。それは『ウエスト・サイド物語』や『イン・ザ・ハイツ』でも同様だろう。そういう意味でとてもアメリカ的なミュージカルである。
〈ノバ・ボサ・ノバ〉宝塚歌劇はしばしば〈芝居(ミュージカル)〉+〈ショー(レビュー)〉という二本立てで興行するのだが、芝居の代表作が『ポーの一族』なら、ショー(レビュー)の最高傑作は間違いなく鴨川清作(作)『ノバ・ボサ・ノバ』である。異論は認めない。ショーで次にお勧めなのは荻田浩一(作)『パッサージュー硝子の空の記憶ー』かな?『ノバ』は宝塚歌劇にしか成し得ない、途轍もない作品である!観ていてその迫力に圧倒されること間違いなし。
〈回転木馬〉ロジャース&ハマースタイン2世のコンビで1つ選ぶなら、やはりこれかな?『サウンド・オブ・ミュージック』は映画の出来が良すぎるのであって、舞台版はそれほどじゃない。ただ『回転木馬』は父親が娘をひっぱたく場面があったり(しかも肯定的に描かれる)、現代人の価値観から言って「それはどうなの?」という複雑な気持ちになることも確かである。それは白人しか出てこない『オクラホマ!』も同じだ。
劇中のナンバー"You'll never walk alone"は感動的な名曲で今ではサッカー・ファンにとってのアンセムになっている。
〈コーラスライン〉泣く子も黙る名作中の名作。パンチが効いたマーヴィン・ハムリッシュの音楽は文句なし。ただ、複数の登場人物がバレエ映画『赤い靴』の話をするので、予めそちらの方も観ておいた方が感動が増すかも。リチャード・アッテンボロー監督による映画版の出来も良く、舞台版にはない新曲がある。
〈ガイズ&ドールズ〉僕は三度、宝塚歌劇版(2002年月組/2015年星組/2025年月組)を楽しんで来たのだが、『野郎どもと女たち』という邦題で公開された映画版(マーロン・ブランド、フランク・シナトラ主演)もすこぶる出来が良い。ニューヨークを舞台に粋で洒脱な作品である。
〈42nd Street〉兎に角、タップ・タップ・タップ!! (←言うまでもなくtap danceのことね)
〈春のめざめ〉トニー賞でミュージカル作品賞を筆頭に8部門受賞。青春の爆発する、暴走するエネルギーが溢れんばかりに描かれる。僕はこれを東京の劇団四季・自由劇場で観たのだが、主人公メルヒオールを演じた柿澤勇人に「スターを見つけた!」と一目惚れした。彼の演技は突出していた。カッキーはご承知の通り、その後まもなく劇団四季を辞め、今や『ジキル&ハイド』や「ディア・エヴァン・ハンセン』などで大活躍している。
・ 「春のめざめ」と現代ブロードウェイ・ミュージカル論 (2009年9月@東京)
〈カン・カン〉コール・ポーターが作曲した傑作。1996年宝塚月組が久世星佳と風花舞主演で上演したのだが、その後全く再演されていない。大好きなミュージカルなのでとても残念だ。兎に角、クルクル舞う風花を観ているだけで気持ちよく、幸福感に浸った。
〈翼ある人びと-ブラームスとクララ・シューマン-〉宝塚歌劇団がシアター・ドラマシティで上演した作品。作・演出:上田久美子の才能に心底惚れた。彼女が早期退団してしまったのが残念でならない(理不尽な言いがかりをつけられ歌劇団を去らねばならなかった原田諒も!!)。
〈壁抜け男〉劇団四季が福岡シティ劇場で日本初演したフランス産ミュージカル。初日に僕は劇場にいた。作曲は『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』で有名なミシェル・ルグラン。四季の地方公演としては珍しく生演奏(通常はカラオケ)だったのだが、これは奏者が3人という少人数だから実現したのだろう。地味だけど滋味深い愛すべき小品。
〈ジャージー・ボーイズ〉ジャンルとしては『マンマ・ミーア!』同様、ジュークボックス・ミュージカルである。トニー賞でミュージカル作品賞受賞。日本版は『ラグタイム』の藤田俊太郎による演出が隙がなく、そしてアッキーこと中川晃教のパフォーマンスに打ちのめされること間違いなし。いやもう言葉を失う⋯⋯。クリント・イーストウッド監督が手掛けた映画版も極上の出来。
〈ミー&マイ・ガール〉よく『マイ・フェア・レディ』の男性版と言われるのだが、初演は本作の方が先(1937年)。但し、『マイ・フェア・レディ』の原作であるジョージ・バーナード・ショーの戯曲『ピグマリオン』は1913年初演なので、そちらを参考にした可能性は否めない。能天気で底抜けに明るいハッピー・ミュージカルである。
〈ピーター・パン〉何と言っても本作の魅力はフライングである。日本ではホリプロが昔から上演しており、そこから笹本玲奈・高畑充希・唯月ふうかといったスターたちが羽ばたいて行った。
〈ファントム〉もう一つの『オペラ座の怪人』。どちらもガストン・ルルーの同じ小説を原作としている。本作の出来は優れているのに、アンドルー・ロイド・ウェバー版が先行したために、気の毒なことにオン・ブロードウェイに進出出来なかった。アメリカよりもむしろ日本の方で愛されている作品ではないだろうか?ロイド・ウェバー版がファーザー・コンプレックスの話であることに対し、本作はマザー・コンプレックスの物語になっているという点が実に興味深い。作曲したモーリー・イェストンの作品としては『グランド・ホテル』や『タイタニック』もお勧め。
〈ウエスト・サイド物語〉僕は劇団四季版も宝塚歌劇版も生で観ているのだが、正直作品が既に古すぎると思う。民族対立の話なのに日本人だけで演じることにも無理がある。映画はロバート・ワイズ監督とスティーヴン・スピルバーグ監督の2つのバージョンが有り、どちらも傑作なのでそれで十分だろう。舞台版は必要なし!!
〈クレイジー・フォー・ユー〉ガーシュウィンの名曲の数々が堪能出来る。正直プロットには無理があると思うが、ハッピーな気持ちになれる作品なので大目に見ようではないか⋯⋯だってタップ・ダンスが大好きだから。
〈オケピ!〉三谷幸喜が台本を書いたミュージカルとしては2026年に初演された『新宿発8時15分』も緻密に伏線が張り巡らされた作品で感銘を受けたが、音楽に関しては服部隆之が作曲した『オケピ!』に軍配を上げる。初演時に指揮者(主人公)を演じた真田広之が素晴らしく、DVD/Blu-rayとして発売されなかったことがとても残念だ(市販されなかったが映像は残っている筈)。三谷は本作で第45回岸田國士戯曲賞を受賞した。
〈ザ・ミュージック・マン〉僕は2001年にブロードウェイでスーザン・ストローマンが振付・演出したリヴァイヴァル版を観劇したのだが、正直今一つだった。しかし2023年坂本昌行主演で観た公演は凄く良かった(演出:ダニエル・ゴールドスタイン/振付:エミリー・モルトビー)。1957年に初演され、トニー賞でミュージカル作品賞・演出賞・主演男優賞(ロバート・プレストン)など5部門受賞。同じ年に初演された『ウエスト・サイド物語』を抑えての快挙だった。ロバート・プレストンは62年の映画版にも出演、そちらの出来もすこぶる良い。
〈ある男〉映画にもなっているが、よくぞこれだけ難しいテーマ(社会問題)の小説をミュージカルにしたもんだと感心した。ホリプロ偉い!ジェイソン・ハウランドはミュージカル『若草物語』などブロードウェイでも活躍する作曲家であり質が高い。
〈マイ・フェア・レディ〉
イライザを大地真央が演じている間は「絶対観に行かない!」と誓いを立てていた。漸く神田沙也加になり若返ったと喜んでいた最中⋯⋯。彼女が投身自殺をしたのは『マイ・フェア・レディ』札幌公演中に宿泊していたホテルだった。その後、大阪公演が予定されており僕はそのチケットを持っていた。ダブルキャストの朝夏まなとが代演すると発表があったものの到底劇場に足を運ぶ気にもなれず払い戻しをした。考えてみれば僕は神田沙也加がミュージカル女優としてデビューした『イントゥ・ザ・ウッズ』(宮本亜門演出)も東京で観ていた。可憐で素敵な赤ずきんちゃんだった。
〈ジプシー〉究極のステージ・ママ(stage mother)を主人公とする実話である。毒親の物語とも言える(マイケル・ジャクソンの父親を彷彿とさせる)。このローズというキャラクターが強烈であり、今まで沢山の大女優が演じてきた。初演のエセル・マーマンを筆頭にアンジェラ・ランズベリー、バーナデット・ピーターズ、パティ・ルポーン、オードラ・マクドナルドなど錚々たるメンツである。TV版のベット・ミドラーも良かった。日本では現在、大竹しのぶが演じており見応えあり。
〈ノートルダムの鐘〉僕は本作がアラン・メンケンの最高傑作だと確信している。特にクワイヤ(聖歌隊)によるコラール(讃美歌)の美しさが素筆舌に尽くしがたい!ディズニー・アニメでは無理やりハッピー・エンドに改変されてしまい「なんだかなぁ」だったが、舞台版はヴィクトル・ユーゴーの原作通り、悲劇的な幕切れとなっている。
〈カム フロム アウェイ〉2001年9月11日、アメリカ同時多発テロが発生し、全米の領空が閉鎖された。その日、カナダの小さな町に何が起こったか?を描く実話。目の付け所が素晴らしく、これは企画の勝利である。舞台を丸ごと収録した映像作品がアップルTVから配信されている。












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